15.洗脳
さて、サクッと終わらせましょうか。
「あなたはもう帰っていいのだけど?」
「せっかくお呼ばれしたのだからご相伴に預からせてもらうよ」
今からソカルに頼んでガルンシアを洗脳しに行くから元勇者と食卓を囲むつもりなんてないのだけど。
第一、命を奪い合った者同士で食事などできるわけがない。
「婚約者同士、交流は深めるべきだろう」
「必要な時はこちらが呼ぶので、それまで下がっていたらどうだ?」
「それは交流とは呼ばないだろう」
ソカルの殺気を笑いながら受け流すエルディル。このメンバーで向かうのが戦場ではなく食堂であり、手に持つのが武器ではなくカトラリーだと言っても誰も信じないだろうな。
それぐらい殺伐としていた。
「ソカル、さっさと終わらせましょう」
「はい、お嬢様」
ようやく食堂に着いた。いつも以上に廊下が長く感じた。
食堂にはすでにガルンシアがいた。
強い者には巻かれるタイプなので公爵であるエルディルの前では情けないほど媚び諂っていた。実に情けない姿である。
魔王である私の父親とは到底思えないし、認めたくもない。
だが、これが弱者の生き方なのだ。なので仕方がないのだろう。
でも、勇者に、勇者だからこそ見せたくない姿だな。いくら、前世と今世は違うのだから仕方がないという言い訳が使えたとしてもだ。私のプライドが許せない。
「ソカル、さっさと初めてちょうだい」
「畏まりました」
「な、なんだ!使用人風情が下がれっ!」
機嫌良くエルディルに話しかけていたガルンシアはズカズカと遠慮なく近づいてきたソカルに目くじらを立てる。
彼の目にはきっと目の前にいるソカルが羊にでも見えているのだろう。
ただ使用人というその立場だけを見て。
ああ、なんと愚かしいことか。
己が虎や狼だとでも思っているのか?
少なくとも肉食獣たちは己の力量を知り、他者の力量を推し量る術を持っている。
ガルンシアが本当に肉食獣ならば、目の前に現れたのが捕食される草食動物だとは思わない。
「終わったか?」
「はい、オルテンシア様」
ソカルは立派な肉食獣だよ、ガルンシア。
お前を喰らう、な。
「ガルンシア、私はこれから好きに動く。お前は干渉するな。ただ、己の責務のみを全うせよ。良いな」
「ああ、わかったよ。オルテンシア」
ソカルの洗脳は完璧だ。ガルンシアは見た目も口調も変わらない。
けれど、私に逆らうことはない。
私の意見に全て賛同する木偶人形の出来上がりだ。
「これで一つ片付いたな」
とはいえ、まだまだやることは多い。
「ソカル、魔王城には何も残っていなかった。根こそぎ人間共が荒らしたのだろう。他の根城も探ってくれ」
人間に知られていない根城はいくつかある。
そこに私のお金や使える武器、道具などが残っている可能性もある。
「私はまだガルンシアに聞かなければならないことがあるから、ここに残る」
「畏まりました」
「じゃあ、俺は」
「「お前は帰れ」」
いつまで、いるつもりだ。
私とソカルの拒絶にエルディルは苦笑するだけだった。帰る気はないようだ。




