14.平和的解決は大事だ
取り敢えず、難は去ったと考えていいだろう。
もうこれ以上の難は御免だ。
オルテンシアの家族や地下にいる人間を何とかしなくてはいけないし、救った魔物の居住区だって考えないといけない。やることは多いのだ。
人間の入れない、魔物だけの居住区、可能であれば孤島がいい。魔物だけの島、人間が入れないようにしてしまいたい。
記憶を辿るにオルテンシアの教育はかなり偏っている。
嫁入りの道具としてしか期待されていなかったからだろう。
だから今の魔法や人間事情、それからこの世界の地理に関しての知識を仕入れなければならない。
必要な知識を仕入れるための情報はオルテンシアの父親が持っているだろう。
なので、ソカルに命じてサクッと洗脳をしてもらうことにした。
今日は疲れたから取り敢えず、明日からだ。と、思っていたけどエルディルと一緒に夕食をするように使用人を通して命令が下された。
「早く準備してください」と居丈高に言う侍女にはその場にいた私もそうだけど私の世話を焼くソカルもまだ帰っていなかったエルディルも殺意を抱いた。
私たちを異端扱いして滅ぼした人間に命令されるのはどうしようもなく不快だ。
だが、それだけではない。
使用人に侮られる主人というのを他者に見られるのはその者に恥をかかせることだ。
魔王時代、そんな馬鹿な臣下はいなかった。
臣下だけではない。魔王城には使用人も当然、たくさんいた。誰一人として、そんな者はいなかった。
「準備ぐらい、お一人でできますよね」と侍女は続ける。
オルテンシアには専用の侍女がいない。だから日替わりで当番が回ってくるのだが、何を勘違いしたのか侍女たちの中でオルテンシアの侍女になる日は余暇扱いになっている。
だから彼女の部屋に侍女が来ることは滅多にないし、オルテンシア関連でガルンシアから何らかの命令がくださると不機嫌を隠さないのだろう。
まるで、せっかくの休みを潰されたように。
休みだと思っていたのに急に仕事が入る不満さやガッカリ感は魔王(私)には分かる。
休暇を満喫していたらまさかの問題発生で駆り出されることがあったからだ。主に人間関係で。
何度も殺してやろうと思った。
だが、これは違うだろう。
少なくともこの侍女は今日、オルテンシアの世話をするという仕事を持っているのであって、余暇ではない。
早急に邸の人員整理が必要だ。
その為にはやはり、一番邪魔で、けれど邸の中で最高権力を持っているガルンシアの洗脳が不可欠だろう。
奴を思うままに動かせれば、色々とやり易くなる。
「オルテンシア様、お手伝いします」
侍女を殺したいのは山々だけど、優先すべきは私の世話だと判断したソカルが笑顔で私に言う。笑顔だけど殺意が見え隠れてしているぞ、ソカル。
「ソカル様、オルテンシア様を甘やかさないでください。自分の世話ぐらい一人でできますよ。何せ、使用人の娘ですから」
怖いもの知らずな侍女だ。
ソカルの怒りに気づかないどころか、彼に秋波を送っている。
魔物中で底辺であったとしても人型の魔物は人間の中で最上の容姿を持っている。
ましてやソカルの容姿は魔物の中でも魔王に並ぶ上位の美しさがあるので侍女が頬を染めて気をひきたがるのは当然か。
ソカルにはそれが逆効果になっているが。
それにすら気づかないとは。鈍感って素晴らしいな。
「誰の血を引いていようが関係ありません。オルテンシア様は貴族の令嬢であることに変わりありませんから。当然、あなたよりも立場は上になります」
「そうだな。加えて、俺の婚約者になった。お前は未来の公爵夫人に無礼を働いても許されるほどご立派な身分を持っているのか?」
ここで初めてソカルとエルディルの怒りを感じ取ったのだろう。
侍女は顔を真っ青にし、震えている。
「いえ、あの、そんなつもりは」としろどもどろになる侍女は視線を忙しなく動かし、なんとかこの場を切り抜けようと無い脳みそをフル回転させている。
「その辺にしてあげなさい、二人とも。理解する頭がなかったのだ。仕方がないさ」
まさかの私の助け舟にホッとしたのも束の間。気のあったソカルの前で「馬鹿」だと格下扱いしていた相手に言われ、恥を欠かされて顔を真っ赤にしている。先ほどの恐怖を忘れて、拳を握り締め怒りで震えている姿を見るに彼女はやはり愚かなようだ。
その握り締めている拳で何をするつもりだ?
まさか、この私を殴るつもりでは無いだろうな?
「いつまで、そこにいるつもりだ?用が済んだのならさっさと出て行け」
「・・・・・ご準備はよろしいのですか?」
一応、ソカルの前だからだろう。エルディルもいることだし。それでも今更取り繕ったところで手遅れだけど。
「お前にまともな準備ができるとは思わない。仕事のできない侍女に仕事を任せて恥をかかされるのは御免だ」
実際、前の婚約者の時は何度もあった。
彼女たちの無能さを訴えることもできずにオルテンシアはいつも婚約者に呆れられ、怒られていた。
婚約者を出迎えるまともな準備もできないのかと。
「ソカル」
「はい、オルテンシア様」
これ以上は相手にする価値もない。
ソカルによって侍女は無理やり追い出された。そのあとで「始末しましょうか?」と笑顔で聞いてくる。
心なしか、封印される前よりも我慢ができなくなっている気がする。
まぁ、封印されていた分の鬱憤が溜まっていると思えば仕方がないのかもしれない。
どこかで落ち着くだろう。
「必要ない。それよりもガルンシアの所へ行こう」
「はい。さっさと排除してしまいましょう」
「物騒だな。洗脳するだけだ。殺しはしない。平和的な解決は大事だぞ、ソカル。今後の私たちが生きる上では特に」
「かしこまりました」




