12.奪う者と奪われる者
side.ソカル
あの人は生まれた時から別格の存在だった。
我々、魔物を導いてくださる方
魔王陛下
誰よりも強く、誰よりも優しい方
力に溺れることもなく、どんなに弱い者でも手を差し伸べてくださる。
誰もが敬い、敬愛した。
愛していた。
誰よりも深く、深く、愛していた。
側に居られるだけで良かった。
お仕えできるだけで良かった。
誰よりも信頼され、誰よりも頼られる臣下
あの人にとってはそういう存在
ただ、それだけで良かったのに。
人間は我々から、私からあの人を奪った。
どうして奪う?
なぜ奪う?
まだ足りないのか、人間
あと、どれだけの者を私たちから奪うつもりだ?
あと、どれだけ奪ったらお前たちは満足する?
どれだけの者を差し出したら、私たちは守りたいと思う全てを守れるのだろうか?
そんなことを考えたって、もう意味がない。
あの人は失われてしまった。
奪われた。だから、私も全てを奪ってやろうと思った。
同じ苦しみを、痛みを人間にも。
「どれだけ、奪えば気がすむ?」
私に心臓を貫かれた人間が絶命する前に吐き捨てた。
「俺たちが何をした?あんたらさえ、あんたらさえいなければ」
そう言って涙を流しながら立ち向かって来た人間を殺した。
『どれだけ奪えば気がすむ』だと?
『俺たちが何をした』だと?
『あんたらさえいなければ』だと?
ふざけるなっ!
これは、お前たちが始めた戦いじゃないか。
お前たちが、奪うから、殺すから始まった戦いじゃないか。
私たちの方こそ聞きたい
人間よ、我々がお前たちに何をした?
何もしていない。
ただ、お前たちと同じように生まれ、生きてきただけだ。
けれど、姿形が異なるというだけで、人よりも優れているというだけで、ただそれだけでお前たちは私たちを排除する。
武器の素材になると知り、その傾向を強めた。
どうして奪う?
なぜ奪う?
奪われないために奪って何が悪い?
「お前の提案を受け入れる」
陛下・・・・・オルテンシア様と勇者が婚約?
殺しておいて何を言っている?
確かにあんたも被害者なのかもしれない。でも、私たちの敵であったことに変わりはない。
陛下を殺した人間だ。信用などできない。できるはずがない。
目を閉じれば今でも鮮明に思い出される。
陛下の腹部に深々と刺さった忌々しい聖剣
真っ赤に染まり、目を閉じた陛下の姿が。
もう二度とその目で私を見てはくれない。
もう二度と「ソカル」と呼んではくれない。
もう二度と優しく微笑んではくれない、愛しい人。
あなたは失われてはいけなかった。
あなただけは失ってはいけない。もう二度と。
「来ると思っていた」
邸の外に行くとそこには勇者、転生してエルディル・オーウェンとなった男がいた。
私が自分を殺しに来ると分かっており、待ち伏せていたようだ。その気概は褒めてやろう。だが容赦はしない。
「なぜ、私が来ると?」
「俺ならそうするからだ」とエルディル・オーウェンは薄く微笑んだ。
「そうか」
自分も被害者だから受け入れられて当然、許してもらって当然などというくだらない考えの持ち主でなくて残念だ。
「封印されてかなり経つので、準備運動が必要だと思っていたところです。元とはいえ勇者。準備運動にはちょうど良い相手です」
「そうか。それは良かった」
「安心してください。せめてもの慈悲です。痛みを感じる間も無く逝かせて差し上げますよ」
「気遣い無用だ」
肩慣らしに無数の氷の刃を作り、放った。普通の人間ならば串刺しになって死ぬだろう。
だが、さすがは元勇者。転生して尚その強さは健在のようだ。腰に下げていた大剣で何なく捌く。
そうでなくては困る。仮にも陛下の隣に経つことを決めた人間が、陛下を守れない軟弱さでは。
まぁ、婚姻を認めるつもりなんてさらさらないけど。
「考え事とは余裕だな」
「余裕ですから」
「いつまで続くかな、その余裕」
無限に生成される氷の刃を捌きながら勇者は何の躊躇いもなく突っ込んできた。そして私を殺そうと大剣を振り下ろす。
「一度勝っているからと調子に乗るなよ、小僧」
大剣を素手で鷲掴みにした。力を込めるとわずかだがヒビが入った。
この程度のヒビしか入れられないとは。やはり体がだいぶ鈍っているな。早急に勇者を殺し、感覚を取り戻さなくては。
大剣を掴むことによって勇者の動きは封じられている。ならば、空いている片手に魔力を込める。勇者を貫くために。
今度は肩慣らしでも何でもない。勇者、本気でお前を殺す。




