11.二人の男
正直、勇者と聖女が人によって造られた存在だということも、魔王(私)を殺した勇者は殺され、王子が勇者になり代わり英雄王になったことも、どれも衝撃的でどう判断していいか分からない。
だって、問いただそうにも当事者は全員死んでいるのだから。
「そんな作り話、信用できるかっ!」
ソカルの反応も当然だろう。突拍子もなさすぎる。でも、だからこそ嘘ではないのだろう。
嘘ならもっとまともな話を持ち出すはずだ。それはソカルも気づいているはず。それに・・・・。
「その話が事実だったとして、あなたが私を殺さない理由にはならない」
「どうして?」
「どうしてって」
物凄く不思議そうにされた。
私たち、前世で殺し合った仲でしょう。
・・・・・えっ?私の記憶がどこかおかしいのかな?いや、勇者と魔王ってそういう存在でしょう。
「憎しみ合ったわけじゃない」
まぁ、そうだけど。
「こちらには憎しみしかない」とソカルはつかさず返した。
「お前たち人間は我らを魔物だと呼び、命ある存在として扱わなかった」
それは今でも同じ。どこまで行っても私たちは人間の武具を作るための材料、道具でしかない。
「最初に戦いを始めたのはお前たち人間だ。自分たちの欲望のままに我々の同胞を殺し尽くした。生きながら羽を毟られ、絶命した者の苦痛がお前に分かるか?皮を剥がれ、人間のコートや絨毯にされる屈辱が分かるか?」
人間に転生しても、私の心はやはり魔王のままだった。ソカルの言葉に怒りと憎しみが絶えず湧き上がっていく。
それを勇者にぶつけるのは間違いなのかもしれないけど。
「分からないな」とあっさり言った後勇者は「ただ」と続けた。そして今までに感じたことがないぐらいの怒りと殺気が勇者、エルディルからもたらされた。
「俺を人間どもと一緒にするな」
人に造られ、人の都合で戦わされ、殺された彼もまた人に対する憎しみを抱えているのか。
「それでも、俺がお前たちの同胞を殺したことに変わりはない。差し出せと言うのなら命でも何でも差し出す。でも、それは今じゃない。シアは今の現状を変えたいんだろう。変えられなくても、魔物たちを救いたいと思っている」
随分と分かったような口を聞く。
「どうして、そう思う?」
「あなたはそういう人だから。あの時、自分よりも弱い魔物を守ために俺たちの前に姿を現したように」
いつの話だ?全然、記憶にない。
「俺には公爵位という地位も、権力も、財力もある。一応、王家とも繋がりがある。俺を拒絶するよりも利用した方があなたには得なはずだ」
確かに。そのどちらもオルテンシアにはないものだ。当然だけど、封印されていたソカルにも。あるのは人を制圧するだけの武力のみ。それだってソカル頼み。
この軟弱な体ではどこまで戦えるか分からない。下手をすればソカルの邪魔になる。
勇者の提案には一考の余地がある。あとはどこまで信用できるかだ。
「信用できないというのなら魂の盟約を結んでもいい」
魂の盟約。文字通り、自身の魂を賭けた近い。破れば、死は免れないだろう。ハッタリではないことは彼を見れば分かる。そこまで言わせて、信じないのは臆病が過ぎるな。
「必要ない。お前の提案を受け入れる」
「陛下っ!」
「ソカル、大丈夫だ。ただし、魔物を助けるまでだ。言わば契約婚約だ」
「それで構わない・・・・・今の所は」
ソカルはまだ勇者が信じられないのだろう。いまだに彼を睨みつけている。仕方がない。元とは言え、敵だったのから。そう簡単に受け入れられるわけがない。それでも、どこかで折り合いはつけてもらわないと困る。
「伯爵家に関してはどうする?」
「それはこちらで片付ける。終わる頃にまた連絡する」
あまり借りを作りたくはないしな。
「分かった。連絡、待ってる」
***
エルディルは帰り、私はソカルと部屋に戻った。
精神的にかなり疲れた。というか、怒涛すぎるだろう。まさかの勇者登場な上、勇者誕生秘話は勇者に憧れる子供の夢を壊すには十分過ぎるほどグロかった。
自分のクローンって、変態の域だろ。
「陛下」
「ソカル、私はもう魔王ではないよ。今の私はオルテンシアだ」
「オルテンシア様、勇者なんかと本気で婚約するつもりですか?」
「言っただろう、契約だ。本気じゃない」
「あなたは、でしょう。向こうは違う」
「魔王と勇者の婚約なんてあり得ない」
「あなたはもう魔王じゃない。そうご自分で言ったでしょう」
そうだった。どうも、前世の記憶や感情に引っ張られるな。
「何のつもりだ?」
ベッドの上で寛いでいた私の上にソカルが覆い被さり、私の手首を掴む。痛めないよう配慮してはいるけど、振り解けないように力は込められている。
「この程度も振り解けないほど今のあなたは弱い」
「そうだな」
どうして、私はこんな軟弱な存在に転生してしまったのだろう。せめて、勇者のように強ければ、せめてあの時殺されていなければ、そう思ったところでどうしようもないのだけど。それでも、以前と比べ物にならないぐらい弱い己の体が憎い。
今だって、そのせいでソカルに不安な顔をさせている。魔王時代ではさせたことのない顔だ。
「怖いのです」
ソカルは私の肩に顔を埋めた。まるで弱い自分を隠すように。
「駆けつけた時、あなたは殺されていた。何度も、その光景が脳裏を過ぎる。今のあなたはどんな些細なことで命を落とすか分からないのに。私はもう、あなたを失いたくはない。愛しています、魔王陛下。愛しています、オルテンシア」
ソカルは軽く触れる程度のキスをして「お茶の準備をしてきます」と言って出て行った。
「・・・・・・私に、どうしろって言うの」
考えることが山積みだ。山積みすぎる。
・・・・・・とりあえず
「もう、寝よう」
疲れた頭では碌なことも思い浮かばない。




