第14話 悪くない
久しぶりに見るレオルド王子の隙のない笑み。でも私はどんな顔を向ければいいかわからない。
会いたかったような、会いたくなかったような。
「シエルはここにいると思った」
「どうして、ですか」
「あの頃だって、いつもここにいたじゃない」
変わらないとか、あの頃とか、いったいどういうことだろう。
「あの、何のこと――」
「約束、したでしょ」
拗ねたように言う王子は、手元のシロツメクサを一本摘んで差し出してくる。
そして、目を細めて笑った。
「……レ、オン?」
「遅いよ。僕のこと、忘れないでって言ったのに」
「え?! で、でも、レオンは黒髪で、家出少年で、実は泣き虫で……」
物知りで、この国が好きで……
『シエルの手は温かいね。優しくて安心する手だ』
私の手を温かいと言った――
ああそうだ……なんで、気づかなかったのだろう。
「シエルは本当に鈍いよね」
「髪の色が違いますよ」
「変装してたに決まってるじゃない」
それもそうか。王子がそのままの姿で一人で街をウロウロできるはずない。
「でも、またねって言ったのにあれから一度も来なかった」
「撒いていた護衛騎士にこの場所がバレそうになって来るのをやめたんだ。ここは、シエルと二人だけの場所にしたかったから」
「だったら、そう言えばよかったじゃないですか」
また、すぐに会えると思っていた。
急に会えなくなった私の気持ちを考えはしなかったのだろうか。
待っていたのに。心配したのに。
「実は王子で、護衛にバレるからもう会えないとか言えるわけないよ。それに、そのうち必ず会えるとわかっていたから」
「それは、どういうことですか?」
「シエルの手からは微かに光の魔力が感じられた。ちゃんと発現すれば治癒師として王宮に来るだろうと思ってた」
私の手が温かいと言ったのは、魔力を感じていたからだったんだ。
そして王子のことだから、寂しがる私の反応も、レオンが王子だとわかった時の反応も楽しもうとしていたのかもしれない。
そういうところ、昔から同じだったんだ。
「今の今まで黙っているなんて、意地悪ですね」
冗談で言ったつもりだったけど、レオルド王子は困った表情をする。
けれどフッと笑うと、私の顔を真っ直ぐに見つめる。
「ねえシエル、僕と結婚しない?」
「え、嫌です。突然なんですか」
「言うと思ったよ」
「そもそも、婚約者がいるじゃないですか」
この国の情勢を左右する、隣国のお姫様が。
私なんかと結婚できるわけない。
「婚約は、解消したんだ」
「え……?」
解消? いつ? なんで? どうやって?
驚き過ぎて何も言えないでいると、レオルド王子が説明してくれた。
討伐から帰ってきた後、隣国との会談で正式に婚約の解消が決まったそうだ。
冷戦状態だった国交問題も、解決に向けて動き出したそう。
「ずっと、先延ばしにしてきた。でも、それじゃいけないって思ったんだ。このままだと、大切なものを失ってしまうって」
そうなんだ。まあ、望まない政略結婚だったし両国の関係が解決できるなら良かったのかな。
というか、婚約を解消したからといって私と結婚なんて話が飛躍し過ぎてない?
「私とレオルド王子では身分が全くつり合いません」
「身分なんて関係ないよ。それにシエルはこの国を支える立派な聖女じゃない」
聖女? 立派? 私が?
討伐で迷惑をかけて、すぐに引退させたくせに。
何も言わずに出て行かせたくせに。
隣にいるレオルド王子を思わず睨み付ける。
「私、もう聖女ではないですよね。医療所でも働かなくていいって。というか、今の状況なんなんですか? これって解雇ってことですか? 私はもう用済みってことですか?! あれだけずっと聖女でいてとか言ってたのに!」
「ちょっと落ち着いてよ」
落ち着いてなんていられない。
ずっとモヤモヤしていた。
お休みにしては長すぎるし、勝手に治癒魔法を使っていても何も言われないし、私はもう必要ない人間なんだと言われているようだった。
それなのに、婚約を解消したから結婚しようなんて。
「レオルド王子の考えていることがわかりません!」
「今の、聖女制度を変えようと思っていたんだ。いろいろと動いていたら迎えに来るのが遅くなってしまって」
「……制度を変える?」
現在の、治癒師の中から条件を満たした純潔の者を聖女とし、様々な役割を負担する制度を撤廃し、全ての光属性の魔力を持つ者を聖女とする制度に変えることになったそうだ。
聖女一人の負担を減らし、全員でこれまでの仕事を分担して担っていく。
「それと、一般市民のための医療所の開設も決まったよ。シエルにもしっかり働いてもらうからね」
「本当ですか?」
「開設までにはまだ少し時間がかかるだろうけど」
「それでも、街の人にとってはとても嬉しいことだと思います」
治療費はかかるものの、資産や収入に応じて金額を決めるそうで、大きな負担にはならないようにするという。
身分なんて関係なく行ける医療所がある。それだけで街の人は安心して暮らせるだろう。
私も嬉しい。
「やっと笑っている顔が見られた」
いけない。医療所の話が嬉しくて顔が緩んでしまったけど、流されてはダメだ。
「というか、それと結婚は関係ないじゃないですか」
「僕のこと好きだって言ってくれたよね」
あの時、たしかに好きかと聞かれて、好きだと答えはしたけど。
「それは、友達としてと言う意味で……」
「まあ、わかってたけどね。僕はあの頃からずっとシエルと結婚するつもりでいたよ」
そんなことを考えていたなんで全然知らなかった。
レオルド王子と結婚なんて想像がつかない。
だってそれって、私がいつか王妃になるってことだよね。
無理だ。絶対に無理。
それでも、この腹黒で何を考えいるかわからない王子を聖女として支えることにやりがいを感じていることは否定できない。
彼のむちゃぶりについていけるのは私くらいしかいないでしょう。
「王子のそばで働くのは悪くないです」
「いつか、結婚するのも悪くないって言わせるよ」
「言いませんよ」
完全に否定する私に、レオルド王子はフッと余裕のある声を漏らす。
いつかは私が了承すると思っているのだろうか。本当にいけ好かない。
でも、この隙のない笑みも案外嫌いじゃないと思った。
最後までお読みいただきありがとうございました!
評価☆☆☆☆☆、ブックマーク・コメントいただけると大変嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたします!




