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黒薔薇の牙 ―忠義を纏うメイド―  作者: 櫻木サヱ
霧に潜む影

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22/46

午後の香り、影の予感

午後の館内は、柔らかな光に包まれていた。

暖炉の残り火がかすかに揺れ、静かな空気に温もりを加える。

リリアーナは絹のカーテン越しに外の庭園を眺め、

「今日は空が高くて、気持ちいいわね」と穏やかに呟く。


レアはその背後で、細心の注意を払いながらお茶を用意する。

銀のポットから湯気が立ち上る。

湯気の向こうで、犬面の瞳が微かに庭の影を追う。

──昼間の光に紛れても、影は消えない。


「レア、この花瓶の薔薇、昨日と少し違う気がする」

リリアーナは指先で花びらに触れ、香りを嗅ぐ。

「風や温度の影響かもしれません。自然の変化でございます」

レアは落ち着いた声で答えるが、耳はぴくりと動き、気配を嗅ぎ分ける。


窓の外、庭園の茂みで何かが揺れる。

──黒手袋の冷たい存在。

レアは目で追うが、ただの風のようにも見える。

それでも、犬の感覚は、微妙に異常な気配を告げていた。


リリアーナは微笑んで、手元の刺繍を続ける。

「最近、なんだか空気が変わった気がするの……気のせいかしら」

「いえ、お嬢様。大きな変化はございません」

レアは静かに答える。

表向きは平穏を保つ。しかし心は、影の存在をじっと観察している。


午後の静けさの中、館の奥で扉がわずかに軋む音がした。

使用人たちは誰も気に留めない。

だが、レアはその音の方向に体を向け、微かに耳を傾ける。

──何もいない。

しかし、確かに気配は残っている。


窓から差し込む光の中で、レアは心の中で誓う。

「お嬢様……どんな影が忍び寄ろうとも、私は必ず守ります」


リリアーナは無邪気に微笑み、穏やかな時間を楽しむ。

レアはその笑顔を守るため、昼の光と夜の影の間に立ち続ける。

館の静けさは変わらず、しかし犬面メイドの瞳は、微かに揺れる黒手袋の気配を追っていた。


午後の空気に混じる微かな香り。

薔薇の甘い香りの奥に、かすかに金属の冷たい匂いが漂う。

その匂いに、レアの心が微かに緊張する。

──影はまだ遠く、事件ではない。

だが、存在を知らせるには十分な波紋だった。


窓際のレアの影は長く伸び、柔らかな光に溶ける。

犬面の表情は変わらない。

しかしその内側には、冷静で鋭い警戒心が光を帯びていた。

──これが、日常の静けさの中で生まれる小さな戦いの始まりであることを、誰も知らない。


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