79:新キャラ
「いっちー、美桜ちゃんのセリフが終わった後にプレーヤーを再生してくれるか」
「はいよ。いつでもオッケー」
「そしたら美桜ちゃん、最後のセリフをどうぞ」
勧められるように行ってくる竹田さん。ちょっとだけ鬼のように感じた。
だってさ、急に言われても、まだ私自身がアッセでもなく、奈緒美でもなければ、いつもの中川美桜なのに、アッセの演技ができない。
まぁ、やるだけやってやろうか。
「あの子を返してほしければ、アタイの言うことはひとつ。アタイと決闘しな!……ごめんなさい。ダメだ。ぜんぜんアッセになんない」
声からして、思ったより高い声が出て、まったく気持ちが入んない。
そして、迫力のない声でアッセのセリフを言って謝る私に、竹田さんと市村さんがツッコミを入れる。
「ちょっと、こっちはやる気満々なのに、ちょっと笑っちゃったじゃないか」
「いや、急に言われても、やっぱり、準備というか、皆さんみたいにさっと入れないんで……」
「まぁ、僕とか萌奈ちゃんは舞台とかお芝居は慣れてるけど、美桜ちゃんは初めてだもんね。しょうがないか。それじゃあ、しっかりとキャラを作ってからもう一回やってみようか」
「すいません。すぐに作り直しますんで」
たぶん、髪を振りほどいて、前髪を落として、バンドで頭を覆っちゃえば大丈夫なはず。それでキャラは変えられるはず。
スーツを着てるか着てないかで変わるくらいなんだから。
先にカチューシャをはずして、首を左右に思いっきり振り、ちょっとだけ貞子状態に。そのまま適当に分け目をつけて、たまたま腕に巻いていたヘアバンドで髪を止めれば、それだけでヘアスタイルはアッセに。ここさえ変えれば、あとは気分だけ。これもほんの少しで何とかなるだろう。
「美桜ちゃん、行けるかい?」
エルベに声をかけられて反応するアタイはすでにアッセ。ここから演技でもしておくか。
「アタイを誰だと思ってんだい。なめられちゃ困るよ」
「ほんとに一瞬。美桜ちゃん、怖すぎだから」
「誰かアタイに何か行ったかい?」
ダメだ。抜け出すのに時間がかかるかもしんないね。
「はいはい。それじゃあ早くやるよ。時間がないんだから」
「すまないな、エルベ。早速やって行こうじゃないか。アタイのセリフからだったかい?」
「そうだね。最後のセリフからお願いするよ」
「あいよ、任せな。 あの子を返してほしければ、アタイの言うことはひとつ。アタイと決闘しな!」
セリフを言った後、タイミングよくオサムさんが音楽を流した。
アタイとエルベは曲に合わせて刀を振る。まぁ、ちゃんとしたリハーサルということもあって、アタイはそれほどヒートアップしていない。これが本番だったと考えると……。演技を通り過ごして本気で勝ちに行きそうだね。アタイが乗っ取ってるこの体がそういってる。
曲の途中で動きを緩めたエルベにつられ、アタイも動きを緩める。
「ふぅ。こんなものか。アッセ、調子はどうだい?リハーサルだったからまだ緊張したかい?」
「アタイが緊張すると思うかい?威力が弱いのはまだリハーサルだからだよ。こんなところで全力は出さないよ」
「ほんと、アッセのキャラはそのままだな。そのまま舞台デビューしても問題ないんじゃないか?」
そんなことを言いながらオサムさんは少し笑う。
「さぁ、奈緒美さんと変わってきてくれないか。アッセの出番は今は終わり。また本番でよろしく頼むよ」
エルベはアタイの扱い方をもうわかったみたいだ。相変わらず、物覚えだけは早いやつだ。
それだけ思うと、ヘアバンドをはずして髪を振り乱す。そして、おでこ丸出しのオールバックにして、カチューシャでヘアスタイルを固める。そして、その場で軽くジャンプ。
……うん。大丈夫そうですね。
「はい、お待たせしました奈緒美です。次はどこからですか?」
「ほんっと、切り替えが早いよね。台本さえ覚えちゃ、舞台でも十分に活躍できると思うけどなぁ」
「ただ、私も美桜ちゃんもボーカリストなんでね。それはちょっと難しいと思いますね。それに、お芝居はやったことないですし」
「それでも奈緒美さんを演じててもしっくりきてるよね。何にも違和感ないし、美桜ちゃんのときと印象はまったく違うしさ。十分通じると思うなぁ」
萌奈ちゃんがうらやましそうに見てきて素直に言う。私はもともとそんなつもりはないんですけどね。
「さぁ、このまま後の曲も確認していこうか。とりあえず美桜ちゃん、大丈夫?アッセのときはだいぶハードな動きだったけど」
「ユウタさん、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですよ。まだまだ元気です」
「そしたら、セトリ順に行って〈Stand up〉に移ろうか。気になったところがあったらすぐにとめていいから」
そんな調子でリハーサルというか、最終確認が進む。
まるっきり1時間くらいだと思う。しっかりと踊って歌って確認は終了。あとは自由時間だ。戻ってゆっくりしようと。いろいろ膝を使いすぎだ。
「よっこいしょ」
控え室に戻り、いすに座る私。座ると同時に声が漏れる。たぶん、それほど疲れているのかもしれない。とりあえず、体を休めよう。




