74:リバイバルライブ
秋の風がすっかり季節に馴染んだ頃。皆様、いかがお過ごしでしょうか?
私はリバイバルライブが近づいてきた中で振り合わせをする日々が続き、いよいよライブ当日。今日の出来事しだいでこのライブの明暗が分かれる。といっても過言ではないはず。
5日前から萌奈ちゃんの家にお世話になっていて、今日は、朝から本番と同じステージで踊り歌うリハーサル。それが終わって、本番の2時間前まではほぼ自由時間。そこからメークアップして本番を迎える。
「いよいよ今日だね」
支度をしていると、同じように支度している萌奈ちゃんがボソッと行った。
そういわれると、こちらも少し力が入る。
「どれくらいの年齢層が集まるかだよね。それによって、トークとかフリースタイルは変わると思うし」
「そうだね。でも、それって、私しか関係ない気がするんだけど」
「そんなことはないでしょ。確かに、美桜ちゃんのほうがパフォーマンス時間は長いとしても、ライブはムーンライトスターとサンシャインの2グループで作り上げるんだから。美桜ちゃんひとりの問題じゃないよ」
でも、私の性格上、誰にも相談せずに突っ込みそうな気がするんだよね。
ちょっと前の話だけど、翔稀が足首に違和感を持っていて、アクロバットな技ができないって時に、独断でミアシスの〈フライ・トゥ・ブルー・バード〉という曲の振り付けを、ボーカル限定で開放したことがある。あの時以来、そういったことはないけど、何かあれば、すぐに対応できるのが私の強みかな。
「美桜ちゃん、バッグの中に何が入ってるの?」
不思議そうな目で私を見てくる萌奈ちゃん。そりゃそうなるか。萌奈ちゃんは手提げかばんがひとつ。それに対して、私はポケットポーチがひとつと、少し大きめの手提げかばんがひとつ。
ただ、私のライブの持ち物はいつもこれくらいになる。
というのも、いつも自分でメークアップするから、その道具と、ムーンライトスターで書き留めたノート、筆記用具、膝を痛めてるから、そのためのサポーターと湿布、衣装に合わせるカチューシャが十数個。そして、競泳で同年代のスーパースターの大神遊菜ちゃんと対談したときに教えてもらった疲労回復用の酸素ボンベとタオルが入っている。
というか、これだけのものが私のバックには入るんだ。意外に大きかったな。
まぁ、疲労回復用の酸素ボンベとタオルは、遊菜ちゃん自身が実際にしている疲労回復法だそう。実際に私もライブ後にやると、スーッと疲労感が抜けて、翌日が軽く感じたことから続けている。
ただ、ちょっと多いか。ミアシスや、ハイアスのメンバーの持ち物を見たことがないからなんとも言えないけど。
「まっ、とりあえず行こうよ」
話題を変えるようにいう私。答えなかった分、少し不自然に映ったかもしれないけど、そのあたりはまったく気にしない。
東京ドームへは、萌奈ちゃんの家から小1時間。朝ラッシュを嫌って、2人で先に着たけど、さすがに早すぎたのかもしれない。だってまだ7時にもなってないんだから。
まだ集合時間まで1時間ほどある。
「やっぱり速く来すぎちゃったね」
「遅刻するよりはましだけどね。ちょっと朝ごはん買ってこようか。まだ食べてないしおなかすいちゃった」
「そうだったね。今日はご飯食べてないんだった。なんかいつもと違うなぁなんて思ってたけど」
やっぱり、萌奈ちゃんは疎いよね。いろんな意味で。
まぁ、今日に関しては、いつもより緊張しているって言うのがあるかもしれないけど。
少しだけ歩いて、すぐ近くにあるコンビニへ。そこでご飯を少しだけ買って、並んで歩きながら食べる。
「なんだか、こういうのは新鮮だね。いつもはスタジオで一緒に食べてたのに」
「そうだね。私もこういうことはあまりしないし、そもそも朝は若干余裕があるからいつも作って家で食べてるかな」
「やっぱり、自炊できる女子は違うよね~。萌奈なんか、時間がなさ過ぎてそういうのができないもん。美桜ちゃんがうらやましい」
「その代わり、毎日事務員の仕事が待ってるからね。休憩時間はしっかりとあるけど、10時から22時までみっちりと、5時まで事務員で、そこからミアシス。今はもうなれたけど、4月はやばかったかな。毎日がしんどすぎたもん」
今思い出しても、とんでもない日常だったなって思う。
「まぁ、オリエンタルライムさん特有の事情よね」
「まぁね。仕方ないところなんだけど。事務員もマネージャーも雇わないって言う。まぁ、今入ってきたところで、飽和状態になるしね。雇うのは、新しいグループを作るときのマネージャー参加、マジックホールのアルバイトだけよね」
「そうだよ。オリエンタルライムさんは自前のライブ会場持ってるもんね。リバイバルライブもそこでやればいいのに」
「いやいや、それはさすがに無理があるよ。マジックホールのキャパは入ったとしても500人くらいだし、それ以上は無理。いろいろ削らないといけないと思うし。それに、田村さんがオッケーしないと思う。ミアシスとハイアスの専用のライブハウスだし」
「だよね~。でも、あそこでライブをしてみたいんだよね。絶対楽しいじゃん。ミアシスさんとライブとか。絶対に楽しいって」
「……完全にコラボする気満々だよね?」
「だって、そうしないとライブをさせてくれないんでしょ?ライブをするなら絶対にコラボなわけだし」
もう、萌奈ちゃんにはかなわないや。発想が自由すぎる。
私もプライベートでこれくらい自由にできたらな。苦労はしないと思うんだけど……。
とりあえず、朝ごはん食べたらムーンライトスターに集中しよう。今は、役の『香川奈緒美』にキャラを移さないと、いいパフォーマンスができない気がする。
ハムサンドを食べた後、しっかりとエネルギー補給でパウチのドリンクを一気飲み。話さず、ここまでいけば、私もキャラ変完了。気分も周りもムーンライトスターとサンシャインのメンバーだ。
「由香里さん、いよいよ本番ですね。がんばりましょう」
「出た~!奈緒美さんだ!こちらこそよろしくお願いします!」
「それでは、集合場所まで参りましょうか。あともう少しですね」
「あっ、ほんとだ。ちょっとだけ急ぎましょうよ」
どうやら、由香里さんも本調子になられたご様子。いいパフォーマンスが期待できそうです。
実年齢では、私のほうが下なのですが、私が手を引かれているところを見ると、由香里さんのほうが年下に見えてしまいます。そういったところも愛らしいのですが……。
本日の集合場所は、関係者入り口付近と、まぁあいまいなことを。なんて思いながら、ドームライブの経験者である由香里さんの後ろをペンギンの飼育員のようについていき、なんとか到着した。というような感じでしょうか。
集合場所には、すでにる気満々の薫さんがいらっしゃいます。
やはり、薫さんをライブ前に見ると、最初のころにおっしゃられていた『罪滅ぼし』とは別に、ご自身が楽しんでいらっしゃる。そういう風に見えますね。
「橋爪さん、おはようございます。いよいよ今日ですね。全力で楽しみましょう!」
「萌奈ちゃんにそう言われると、こっちも俄然やる気が出るわね。よろしくね。逆に美桜ちゃんはクールね。緊張かしら?」
「多少ございますが、楽しみな気持ちですよ」
「あら、すでに奈緒美さんモードなのね。私も接し方に気をつけないと、かみ合わなくなるわね」
「お気遣いなさらず。少しキャラを変えるのが早かっただけですので」
「あらそう?それならいいんだけど、無理はしないでね。美桜ちゃんにとってもそうだし、奈緒美さんにとってもはじめてのドーム公演なはずだし、今までの規模とは比べ物にならないから。だからといって、ひるむことはないし、奈緒美さんはいつもの奈緒美さんでお願いね」
「はい、私は私らしく全力で行きます」
「よし、あとは市原さんとみさだけね。竹田さんはすでに会場入りしてもらって、先に控え室で待ってもらってるわ。ちょっと緊張しすぎたみたいで、夜が眠れなかったみたい。ちょっと目の下にクマができていたから、先にメークして、目の下のクマを消してると思うわ」
珍しいですね。ユウタさんが緊張なんて。こういった場には強いとばかり思っていましたが、意外にもそうではなかったのですね。




