54:切り抜けたピンチ
「亜稀鑼、機材のほう、直ったって。〈インマイストマック〉からライブリスタートで」
「おう、案外早かったな」
「配線が抜けただけらしい」
「ならよかったわ。オッケー。とりあえず俺も準備する」
「私は場内に全部説明するね」
こうやって、ボーカル陣だけで物事が決まり、ダンサーには、私からの説明で理解させる。
「毎度お待たせして申し訳ございません。えっと、機材トラブルのほうですが、無事に解消いたしまして、この先は、ミアシスのアクロバットなパオフォーマンスが再度お届けできます。私としても一安心です。それじゃあ、ステージチェンジしますので、もう少しだけお待ちください」
こうやってダンサー陣も内容を知って、やっぱり、私に詰め寄ってくる。
「やから、俺らにも観客に伝える前に教えろって。なんのこっちゃかわからんねんから不安やねんで、言うとくけど」
翔稀には、地声でごめんって。とだけ言って、亜稀鑼の片づけが終わるまでもう少し待つ。
「本当にね、心の中ではほっとしています。というのも、このセッション、練習でたまにふざけたときにするんですけど、こうやってパフォーマンスで披露することになるとは思ってなかったんでね。うまく言ってよかったなぁって思ってます。さて、亜稀鑼はもう少し時間がかかりそうなんで、翔稀、さっきの異色なパフォーマンスはどうだった?」
「いきなり俺に振るんかい。まぁ、ちょっと新しい形で俺らも驚いたのが正直な話やねんけど、なんか、ボーカル陣だけでもパフォーマンスができそうで、ちょっと悔しいっていうのが本音かな。まぁ、何はともあれ、亜稀鑼のギターにも美桜のギターにも大きな拍手でさっきのパフォーマンスを褒めたたえましょう!」
なんだろう。翔稀がこういうと、キャラに合わないと思ってしまうのはなぜ?
そんなことを思いつつも、送られる賛辞の拍手にちょっと優越感に浸ってしまう。その中で、亜稀鑼が片づけを終わらせて、戻ってくる。
「はい。なんかめっちゃうれしいんやけど。軽音楽やっててよかった~」
「なんか、ちょっと亜稀鑼がむかつくな。このまま次の曲に行くか」
「そうだね。なんか、亜稀鑼が目立つのはずるいよね。ってことで、ここからはミアシスのマジックライブ、リスタートです!続いての曲は〈君のハートはインマイストマック〉」
亜稀鑼が私がしゃべっている途中に「なんでやねん!」と久々に関西らしい突っ込みが入って場内は笑いに包まれた。だけど、ここからは少し笑えなくなるほど、気分を落とす。
曲調は、今までと違って少し怪しくなる。これがミアシスの中で一番扱いにくい曲だなとダンサーたちとも認識が一致している曲。
君の熱く燃え盛るただひとつの 胸の中にあるもの
僕が奪うから いつしか絶対に
サビの言おうとしていることは、「君の心臓は僕がもらうからね」と言っているところ。
これが田村さんの机に出っぱなしになっていた資料から見つけたんだけど、どうやら、人食いみたいなミュージックビデオを撮ろうとしていたよう。だけど、さすがに、由佳も亜稀鑼もいるということで見送ることになった。らしい。
まぁ、文武両道の田村さんは、学校の成績を落とすと、親御さんと相談するというような話をしているくらいだしね……。
この曲のせいで悪影響を与えたくないというのが本音だったんだろう。と今でも思っている。
曲は2サビに入り、また亜稀鑼とのデュエットで歌を進めていく。
君の血を吸って骨に付いた身をはがしておいしくしゃぶって
何もかも無駄なくいただこう
足の先から手の先を伝って頭の先まで全部
むさぼりつくすように食い尽くす
君のすべてを無駄なく食い尽くして
新しい人を探しに行く
甘いマスクをかぶって
ここまでくると、ようやく暗い雰囲気から解放される。
そして、テンションがジェットコースターのように乱高下するけど、ここからは、ダンサーのパフォーマンスタイム。
湿気た雰囲気を盛り返すのには、これが一番だよね。今のミアシスには。
「オーライ!次は、俺たちの番やで!湿気てんとぶっ飛ばしてくぞ!〈ムービングシャイン!〉」
一瞬の水分補給を終えた沙良と由佳と入れ替わるようにしてボーカルの2人は、袖に引く。
その沙良由佳は、連続側転でステージインすると、またこちらも腕が絡みそうなコンビネーション技でステージを見せていく。
やっぱり、ミアシスにはこれが必要よね。なんて思いながら、またバーカウンターの中でダンサーのパフォーマンスを鑑賞中。
マジックホールの中で、私はここが一番落ち着くな。なんて思いながら、自分で作ったマジックジュースを注いで、ゆったりと飲む。
動のダンサー、静のボーカル。落ち着いてみると、ちょっとシュールだな。
約5分のパフォーマンスは、知らんぷりをしている人でも首根っこをつかまれるような感覚になるダンサーの魅せ具合で、ものすごくあっという間に感じる。
正直、私も毎回どのライブでも振り合わせでも引き込まれてしまう。
ミアシスのダンサーには、それだけの力があるということだろう。と信じたい。
さて。そろそろ戻らないと。ダンサーの振り付けが小さくなっている今のうちに。
このあとは、大きく爆発するように踊りだすからまた、目が釘付けになっちゃう。そうなってしまったら、完全に次が遅れる。それは振り合わせのときに何回もしたことがあるからわかっている。
そして、ちょうど下手袖に身体を移動させた瞬間、場内から『カモン、ミアシス!』と、低くいじった私の声が響き渡った。そのすぐあと、私が言った、『大きく爆発するように踊りだす』というのが始まり、案の定、目が釘付けになるよね。
そして、最後まで目の離させないパフォーマンスをやりきったダンサーはさすがに肩で息をしていた。
ここからは、入れ替わるようにして、ボーカルオンリーの曲になる。
曲は〈ウィンター・ドリーム〉という冬らしい曲。ちなみにいうと、CDではカップリングという形でリリースしたけど、どのライブでもパフォーマンスしてこなかった曲。
理由は単純で、ライブの熱量に合わなかったというくらい、しっとりした冬らしい曲だから。そんなのをダンサーのパフォーマンス後に持ってくることはできない。今までのミアシスなら。
だから、今回は試験的にダンサーパフォーマンスすぐあとに持ってきていて、これで反応を見てみることにしている。
ただ、事前告知なしの中、いきなりしっとりした曲が流れてきて、場内は少しざわついている。
ましてや、ミアシスとして初披露の曲になるから、ざわざわ感がいつもよりも強いというような印象。まぁ、最初はこんな感じよね。なんて思いながらも、静かに歌いはじめる。




