53:特殊演出
「えぇ……。ここからはミアシスの楽曲をアコースティックバージョンでお届けいたします」
場内からは驚きの声が、ダンサー陣からは不安そうな表情が飛んでくる。
「おい、美桜、それ、マジで言ってんのか?」
「亜稀鑼ができるって言ってるんだから。それともなに?ずっとしゃべって退屈なまま終わりたい?」
「いや、それもそれやけど……」
翔稀は少し根負けした感じを出した。
「実はね、亜稀鑼は、まだ中学生なんですけど、学校で軽音楽をやっていて、ギターを弾くのがものすごく上手いんですよ。なんでね、今回が初披露ということになりますが、退屈になるより、新しいミアシスを見ていただこうかなと思います」
「おぉ……。それはわかってんけど、なんでギターが2本も?」
いいところに気づいてくれた。翔稀もお目が高いね。
「私も弾くからだけど。一応、亜稀鑼には簡単に教えてもらったから、プロには劣るけど弾くことはできるよ」
翔稀は私の答えを聞くと「どないなっとんねん」とだけ言って、呆れた表情を見せた。
「はい、それではお待たせしました。ここからミアシスのアコースティックライブにきり変えてスタートしていきます!」
調子よく亜稀鑼が言うと、ギターを派手に鳴らしだした。
さすがに私はそんな技術はないけど、亜稀鑼の邪魔にならないくらいなら弾くことはできる。
亜稀鑼が弦を鳴らす横で、私は何となくで低い音が出る弦を弾く。
これだけでなんとなく弾けそうな雰囲気は出るよね。まぁ、亜稀鑼みたいに弾けるわけじゃないんだけどね。
「とりあえず、フラトゥを頭から行くか。ダンサーも行けるよな?」
「いや、行けるよな?やないねん。俺ら、一回もお前のギターなんか聞いたこと無いで!?そんななかでやろうとしてることわかってる?」
ボーカル陣の準備ができたとき、翔稀はちょっと否定ぎみに口を挟む。
「もう。ほんならサビから一回弾くからそれで感覚つかんでや。美桜姉、行けるよな?」
私は、もちろん。とだけ返して、セッションに移る。
亜稀鑼は、私にも見せなかった変な弾き方で観客やダンサーだけでなく、私をもカッコよさで驚かせる。
しかも、私を驚かせたのにもわけがある。
さっきの発声練習では見せなかった弾き方を今はしている。
「あ、亜稀鑼さん?その弾き方は?」
サビを弾き切ったものの、私が驚いて思わず亜稀鑼に声をかけていた。
「あっ?これ?スラム奏法って言うて、かなり難しい弾き方やねん。そのなかでもまだ簡単なパームって呼ばれる演奏でやってみてんけど……。なんか、メンバーがドン引いてる気がするんやけど……。気のせいか?」
「えっと~。気のせいじゃないね。亜稀鑼がこんな弾き方をするなら、もっと最初からしてほしかったって言うのが本音かな」
まぁ、こうなった以上、私はとりあえず練習のときと同じようにするしかないよね。なんて考えながらも、亜稀鑼が話す姿を見ていた。
正直、あれを見せられた後は、心臓がバクバクしている。まぎれもない事実だ。
そんな心を落ち着かせて、亜稀鑼とのセッションに移ろうとする。
「それじゃあ、今度こそ〈フライ・トゥ・ブルー・バード〉」
亜稀鑼がそういうと、ギターのボディを軽くたたいて音を出す。それを合図に、私もこの曲のベースラインを弾き始める。そして、繰り返しに入ったところで亜稀鑼が少し高い域からかぶせてくる。
さすがにここはいつものセッションと同じか。だけど、歌い始めると、さっきのスラム奏法?だっけ。それに変わるんだろうな。
なんてじっと見ていると、危うく私の歌いだしを忘れるところだった。
歌いだしを忘れなかったのは、ダンサーが後ろで振り付けをしていたからだった。そこは本当に助かった。
そして、亜稀鑼は、サビまでいつもの弾き方で変わらなかったんだけど、サビに入った瞬間、いきなり弾き方を変えてきて私が焦った。
ただ、事前に聞いていただけあって、なんとか対応できたってところ。
今日の亜稀鑼はよく目立つだろうな。ダンサーより視線を独り占めしている気がする。
視線がみんな亜稀鑼に移っているもんな。
私のパートがひと段落した後、ベースラインを弾きながらそんなことを考えていた。
曲は2サビも抜け、曲調はいったん落ち着く。2フレーズだけ落ち着いた後は、亜稀鑼がまただんだんとギターを弾く強さが強くなっていく。
そして、ラストサビに入ったとき、一番大きな音を鳴らして、爆発感を演出した。
こんなリハーサルをしていないから、全部亜稀鑼が独断で演出するパフォーマンスになっている。
激しく鳴らすラストサビに私もついていくように、ギターをはじく強さを変える。というか、私もよく亜稀鑼の勝手なパフォーマンスについていけているよな……。
ただ、私も何とかという形で亜稀鑼のパフォーマンスについていき、曲が終わる。
ちょっと必死すぎて、観客の反応を見れなかったというのが本音。
「はい。ということで、ちょっと新しい形でパフォーマンスをさせていただきました。亜稀鑼が新しいこと突然したので、なんとか私もついていったという形になってしまいまして、ダンサーもね、なんとか亜稀鑼に合わせてくれたという方が強いと思うんですけど、皆さんいかがでしたでしょうか?」
そう聞いても、観客からは歓声しか上がらないことはわかりきっている。それも亜稀鑼のおかげだろう。まぁ、亜稀鑼に目が行き過ぎて、ダンサーの一番苦しいサビの部分は誰も見てないと思うくらいなんだけど……。
「さて。そんなね、パフォーマンスもしちゃって、亜稀鑼ばかりが目立ってしまっているところなんですけど、次の曲は、少し確認させてもらいますので、みんなの声を聴いて楽しんでいただきたいと思います」
そう無茶ぶりをしたところで、田村さんが○印を掲げているのが見えたから、一度下手袖に向かって状況を聞くことにする。
「下手袖から美桜です。田村さん、取れますか?」
『あぁ、美桜か。悪かったな。配線が外れただけやったわ。つなぎなおして、曲が終わったと同時にBGMを入れたらちゃんと流れたから次からは通常通りで頼むわ』
私は、機材がまた使えることにほっとした。あのまま亜稀鑼とセッションを続けていけば、絶対にどこかで歌詞が飛んだり、ギターを間違えたりと、ミスが出るところだった。
「了解です。とりあえず、ダンサーを休憩させたいんで、『インマイストマック』からお願いします」
『了解。迷惑かけました』
それだけかわすと、私は、ギターを壁に立てかけて、亜稀鑼と話をしに行く。




