52:機材トラブル
この曲は、ミアシスの専用曲で、どこのグループもカバーできないようになっている。なんせ、歌詞のなかに『ミアシス』という単語が入っているから。
そして、ミアシスが6時からスタートしたかった理由は、この曲の冒頭に『夜の6時 周りが薄暗くなる頃に』と入っているため。
この歌詞がミアシスの出番を6時にしている理由。
そんな曲を沙良と2人でメインを歌い、亜稀羅のバックコーラスで進んでいった〈サンキュー・フォー・ビジッティング〉は、冒頭に沙良が歌い出したことで少しざわついたけど、それ以外は無事に曲が終わる。
「ということで、改めましてミアシスです!よろしくお願いします!」
これを言って歓声を受けると、改めて、ライブをしているんだな。と実感する。
「さて、今宵のマジックライブは楽しんでいただけていますでしょうか!」
ここで大きく歓声が上がると、お世辞だとしてもホッとするよね。
「それじゃあ、ここからさらにぶち上げていくんでよろしく!〈フライ・トゥ・ブルー・バード〉」
なんで、こういう大事なときに限って翔稀に盗られるのかな。っていつも思っちゃうよね。
そんなことを思いながらも、流れてきた前奏に振り付けを乗せていく。
当初、セットリストを決めるとき、この曲を茶々パレードさんとのコラボ曲に振りありでやろうとダンサーが提案してきた。
ただ、ボーカルのどちらかは入らないといけないんだけど、そうなると、サビの振り付けもしないといけない。それなのにボーカルが不完全のままパフォーマンスをするわけには行かない。
ということで、ボーカル陣が振り付けを変えて、ミアシス単体でパフォーマンスするセットリストに入れることになった。
スタミナ切れを気にしなくていいんだったら、コラボ曲のセットリストに組み込んでいたんだろうけど。
そんなことを思っていると、唐突に音楽が途切れた。
もちろん、みんな困惑して顔を見合わせているし、場内もざわつき始めている。
なんだろうと思い、音響室を見ると、田村さんが慌ただしく動いていて、目があった私に頭の上で×印を掲げた。
「えっと、すいません。少しだけ確認してくるのでお待ちください」
そう言って、一度下手袖に向かい、無線機で田村さんとコンタクトを取ろうとする。
「美桜です。田村さん、どうしました?どうぞ」
『美桜か?わりぃ。機材トラブルやわ。もしかしたら時間かかるかもしれへん。行けそうやったらまた○印作るし、あかんかったら、×作るわ。ちょっと場から繋いでくれへんか』
「了解です。とりあえず繋ぎます」
とりあえず、ちょっと嫌な雰囲気になりつつあるな。それに、ここからどうにかしないといけない。……どうするか。
ちらっとステージを見ると、ミアシスのメンバーが急に音が切れたことにたいしてそれぞれが話していた。
そして亜稀羅と目が合う。
……それだ。
とあることを思い付くと、目が合ったままの亜稀羅を手招きで呼ぶ。
不思議そうな亜稀羅は首をかしげたまま下手袖にやってくる。
「どないしたんや?」
「機材トラブルだって。続けられるかはやってみないとって田村さんが」
「まじかよ。ほんならどないすんねん」
ここで思い付いた案を亜稀羅に伝える。
「うまく行くかわかんないし、亜稀羅にそれだけのことができるかわからないけど」
「それくらいできる。っていうかやるしかないやろ」
そういうと亜稀羅は、下手袖においてあるアコースティックギターを手に取ると、チューニングを始める。
その姿を見て、私はギターを立てるやつを2つ手に取り、ステージに戻る。
そんな姿を見ると、やっぱりメンバーも観客もポカンとしている。
そして、場内に状況を伝えようとして気づく。
マイク忘れた。
「沙良、ごめん、ちょっとマイクかして」
「その前に、この状況はどういうことなん?」
「それも全部説明するから」
そういうと、沙良は不満そうな顔をして、マイクを口元からイヤモニとともに耳からはずして、私に差し出してくれる。
私は、ありがと。とだけ返して、場内を向く。
「えっと、ご案内いたします。先程、〈フライ・トゥ・ブルー・バード〉の途中で音源が切れてしまいました。どうも、音源を流す機材にトラブルが発生してしまったようです。申し訳ありません。今、復旧作業を急いでいますが、ずっと話し続けるというのは、トークが苦手なダンサー陣に負担をかけることになるので、少しばかり新しいことにチャレンジしたいと思います!」
私がそういったと同時に亜稀羅がイス2脚と私のマイクを持ってきてくれた。
どうやら、チューニングを終わらせてくれたみたいだ。
またしれっと下手袖に戻る亜稀羅を横目に、さらにハンドレスマイクを返し、自分のマイクで話を続ける。




