39:美桜さん、嘘に振り回される
次の日。わけもわからないウワサがクラスの中で一人歩き回った。
『中川が福島に告った』
真逆な話なのに、その噂が一人歩きした。
それを知ったのは、ちょうど新しい曲を覚えているとき、曲が終わってから、重点を置いていたところをアカペラで確認していた時に隣にいた女子たちのひそひそ話がちょっとだけ耳に入った。
その瞬間はびっくりしたけど、何かの間違いと思い込むようにして、否定しなかった。
ただ、それがまずかったのかもしれない。噂だけが独り歩きするだけで、消えることなく逆に広がっていった。
すれ違うクラスメートは冷たい視線で私を見てくる。
まぁ、直接言われた時の対抗策は持ってるから問題ないと思うけど。
「美桜、噂はウソやんな?うちは信じてへんけど」
放課後、いつものように菜乃葉が私の席の近くに来た。
「当たり前じゃない。根も葉もない噂。ましてや、福島が情報源だと思う。彼はウソつきで真逆のことを言ってる。何がしたいのか全く分からない。たぶん、フラれた腹いせだと思うけど」
「あいつ、うちは興味ないけど、女子から人気あるからなぁ。女子から告るやつはおるみたいやけど、あいつからは珍しいな。なんか企んどったんちゃう?」
「そうなんだ。女子から人気ねぇ。でも、確かに常に女子といる気がする。まぁ、告白の話も向こうからしてきたし、話がしたいって言われたことを思い出した時から気持ち悪い予感がしてたから、告白の時の会話は録音してるんだけど」
対抗策とは、昨日、嫌な予感がしていて、放課後から学校の門を出るまで起動していたスマホの録音機能。しっかり取れていて、良かったと思う。ただ、録音していたこと自体忘れていて、階段をおりてから、私の暴言も含まれてるけど。
「さすが美桜。抜かりないなぁ」
「ちなみに菜乃葉はされたことがあるの?」
「あるわけないやん。あんなやつから。だってうちやで」
「あぁ。納得。彼氏より水泳ね」
納得というのは失礼かもしれないけど、菜乃葉はそういうタイプの人だもんね。
「それは言わんでええやん。美桜にはわかりきってることやねんから。でも、どうやって誤解を解くかやな」
「放送部に頼んで、私の持ってるデータを流してもらうとか?」
「それはさすがに美桜自身も危なくない?」
「私はどうでもいいんだよね。高校を卒業できたら。たった1年でちょっとしか友だちができないならいらないかなって正直思ってたし」
「『思ってた』ってことは、過去形なんや」
「菜乃葉がバカみたいに喋るからね」
「バカ見たいって。そんなうちに心開いたんは美桜やろ?」
菜乃葉がそういうと、私にも笑みが浮かぶのがわかった。
「中川さん、ちょっといい?」
菜乃葉との楽しい会話を邪魔する女子四人組。
全く名前が思い出せない。たぶん、話しかけられた記憶もない。
「菜乃葉、誰?」
私の横にいた菜乃葉に小さな声で聞く。
「えっとね、隣のクラスの右から桧山さん、馬淵さん、樽井さん、赤坂さん。熱狂的な福島くんのファン」
隣のクラスか。知らないはずだ。
「で、私に何か用?」
何故か分からないけど、声色が変わって、冷たく威嚇していた。
それでも怯まない彼女たちは相当なものだろう。
「ここではなんだから移動しない?」
嫌な予感しかしない。動いたらスタジオに行けない可能性がある。むやみについていくのはやめよう。
「悪いけど、どこかに連れていくなら、私はここから動かない。用事に遅れたら困るから。それとも、ここだとなにか都合が悪いの?」
「別にそうじゃないけど、うちらはあんたと話がしたいわけ」
「だって。悪いけど、菜乃葉には聞かれたくない内容みたい。ちょっと外してくれる?」
「まぁ、美桜が言うんやったらしゃあないか。ほんなら先に帰るわ。バイバイ」
そう言って菜乃葉は教室から出ていった。教室の中には私と、隣のクラスの四人。
「で、私に何の用?」
菜乃葉には出すことのないさらに低い声で先に威嚇する。まるで、何も話すことはないと言わんばかりに。
「私たちの福島くんに告白したってほんまやんな」
向こうも負けじと低い声で返してくる。ただ、残念だけど、私はそれに怯むことなんてない。
「その話、あのバカから聞いたんだ。あのうそつきの話なんて信じないほうがいいよ。そうやって今まで告白してきた女の子を苦しめたんでしょ?あなたたちも」
聞いたこともない話をでっち上げて先に牽制を入れる。不意を突かれた女子4人はびっくりしたような表情を一瞬見せる。どうやらビンゴのよう。私自身もちょっとびっくりしてる。
「な、何のことなん?うちらがそんなことすると思うん?」
「たいていそういうことをいう人たちってするよね。犯罪者でもそうじゃん。自分がしたことを目撃者のように装って証言する人。それと今の言い方一緒だよ」
間髪を入れずにくぎを刺して、話題を狭める。
「入ってきて半年しかたってへんのにようそんなん聞いたな。うちらそんなことしたん今日が初めてやのに」
「あら?ばれた?言っておくけど、私、何も聞いたことはないよ。正直に言わせてもらうけど、あなたたちの存在も知らなかったから。こんな学校なんて卒業できたらいいだけと思ってるし、あなたたちと仲良くなろうとは思ってないから」
ちょっと挑発しすぎたかもしれない。もう後戻りはできない。たぶん、この人たちと今後ぎくしゃくするんだろうな。
「残念やなぁ。うちらは仲ようしたいと思ってるんやけどなぁ。アイドルさんやから、そんな可愛ないうちらは興味ないとか?」
「うん。そうだね。あなたたちみたいな可愛くもない人と友達になったら私の周りがドン引いちゃうかも」
ダメだ~。そろそろ止めないと、彼女たちの逆鱗に触れるのに、挑発が止まらない。でも、心のどこかで、彼女たちを本気で怒らせたいっていう欲望がある。
「てめぇ、ふざけんのもいい加減にせぇよ!」
「ブスに怒鳴られる覚えはないんですけど。厚化粧してアラフォーのOLみたい。そんなので福島が振り向くとでも考えたの?バカみたい」
「アイドルやのに性格悪っ!」
「アイドルだけど性格悪いよ。私は昔からそうだし。なんだったら今日のこともペラペラしゃべっていいのよ。そうね。次のライブが月末だから、そこのフリートークで全部喋ろうかしら」
ダメだ。もう収拾がつかない。また私の悪い癖が出てしまっている。もう、こうなったら、行けるところまで行ってやろう。
「どうぞ思う存分に喋ったら?その話おもろいやん。それに、あんた自体がおもろいわ。うちらがエントリーしてあげてたミストーモリ、出たらよかったのに」
一瞬聞き逃しそうになったけど、ちゃんと録音しておいてよかった。
「へぇ。犯人はあなたたちだったんだ。これを校内に知られたらどうなるんでしょうね」
「別に単なるうわさにしかならへんやろ?そんなん、あんただけの話やったら誰も信じへんで」
「へぇ。福島に知られてもいいんだ。まぁ、あいつのことだから、信じないと思うし、まずはあなたたちのクラスの女子からかな。あっ、そっか。校内放送でこの音源と昨日の音源を流したらいいのか。そしたらあなたたちの居場所もなくなるんじゃない?」
そういうと、一番右にいた桧山さんだっけ?机を思い切り叩いて一言放った。
「もう我慢できひん!マジでむかつく。自分から告っといてなんなんその態度?調子乗ってんの?自分がアイドルやならってうぬぼれんのもいい加減にせぇよ!」
「じゃあ、最後に面白いものを残してあげる。これが昨日の現実よ」
そういうと、ケータイの画面を指でスライドして昨日の音声を再生させる。
『何?それだけ?それだけのために私を呼び止めたの?』
『い、いや、そんなわけじゃねぇ。俺、お前のことが好きなんや!』
『ごめん。私、そういうのに興味ないから。今はミアシスのことで十分。恋愛よりもミアシスのほうが愛してるから。悪いけど諦めてくれる?』
『何があかんねん?なぁ!』
『よくこんな響くところでそんな大きな声を出せるよね。恥ずかしくないの?』
『恥ずかしいとかあったら、告白なんかしてへん!』
『そうね。それだけ勇気持って行ってくれたことは褒めてあげるけど、そんないきなり言われても困る。話しかけられた記憶もないし、名前を思い出すのに精いっぱいな相手と一緒になろうとは思わない。もっと話しかけてくれてたなら私も答えが変わったかもしれない。ただそれだけ。それで十分?』
流し終わった教室はやけにシーンとしている。
「どうしたの?さっきの威勢は。もしかして、やっと気づいたの?どうやら、うぬぼれていたのはあなたたちのほうね。かっこよくもない福島のことをいつまでも追いかけてるからこういうことになるの。かわいそうな仔羊たち」
言うだけ言って席を立ち、用事があるから。と言って、教室を後にした。
少女漫画の流れだと、明日から彼女たちによるいじめを受けるはず。これが卒業までの半年か。思ったよりしんどいかもしれない
明日は金曜日。朝からライブの打ち合わせがあって、学校を休んで打ち合わせに参加。田村さんが学校よりもこちらを優先してほしいと珍しく言ってきてこうなった。
田村さんも明日、別の場所で別の打ち合わせがあるらしい。どういった内容かは聞いてないけど。まぁ、そんなことで明日は朝から田村さん抜きで打ち合わせ。うまく行く自信はあまりないけど……。
そういえば、まだセットリストができてない。早く作らないと、明日の打ち合わせができない。
そう思うと、足をスタジオに向けて歩き出した
更新をかけている時に思い出しました。
登場人物の更新を忘れてる、、、
年内には更新するつもりでいます




