37:美桜さん、告白される
文化祭が終わり、しばらく平和な日々がまた動き出した。相変わらず私は月末にあるワンマンライブのセットリストを作り、振りを合わせ、新しい曲の振り付けを覚えて、併せてみたいな日々が続く。
やっと次のシングルの表題曲を覚えてきたかなって頃、私の中での事件が起きた。
「中川、ちょっといいか?」
えっと、誰だっけ?……あっ、そうだ。思い出した。同じクラスの福島くんだ。
何か用?いつものように素っ気ない声が出て、いつものように威嚇する。
「い、いや、放課後、時間があるかなって思って」
放課後か。部活も引退したし、特に今日はいつも通りだから大丈夫か。
「急ぎじゃないから、少しだけならいいけど」
「ほんなら、体育館の横の階段あるやん。そこの一番上で待っとってくれへんか?」
「わかった。でも、私にも用事があるから、時間になったらすぐに帰らせてもらうから」
それだけ言うと、また顔を伏せた。
不機嫌な顔をしながら、頭の中では「なんの話だろう」と勘繰っている。もし、告白なら速攻断る。そういうのに興味はないし、今はミアシスのことで精いっぱい。前までは水泳ラブだったけどね。
もしかしたら、今回も告白かも。告白だったら速攻断ってミアシスの練習に行こう。
そして、そのまま朝にあったことをすっかり忘れ、放課後になり、帰る準備をしていた。そこに菜乃葉が寄ってきた。
「美桜、今日も用事?」
「うん。まぁね。ライブも近いし、話し合いも全く詰まってないし。できるだけ早く揃って長く話そうって話出てるし」
「なかなか決まらへんねんな。来週やろ?ライブ」
菜乃葉には詳しく話していないものの、難航しているのは事実で、どのような内容になるか決まりきってない。そのせいもあって、ライブのコンセプトも決まらないから、なかなか告知ができない。
「そうなんだけど、文化祭で滑ったから、もう一回考え直そうって」
「滑った?そんな感覚はうちにはないけどなぁ」
菜乃葉の言葉で、一瞬、菜乃葉は菜乃葉だからって言いそうになったけど、口から出てきそうになった言葉を飲み込んだ。
「菜乃葉はいつもミアシスのライブを楽しんでくれてるけど、全体的にダダ滑りだったし。それがショックでミアシスのライブ、少し変えようって話になったのよ」
「新しいミアシスか。はよ見てみたいわ。楽しみ」
こうやって楽しみにしてくれている人がいるのも事実。その人たちをガッカリさせないように、しっかりと考えないと。
「まっ、そういうことだから。菜乃葉は私が用事無ければ何するつもりだったの?」
「休みとかやねんやったらカラオケに誘うかなって思ったんやけど、しゃあないわな。また休みの時いつも言ってよ。いつでも行ける準備しとくから」
「はいはい。わかったよ」
カラオケか。そういえば、ミアシスにというか、オリエンタルライムに所属してからカラオケに言った記憶が無い。
今度休みが入ったらメンバーを誘ってみようかな。あんまり乗り気じゃないかもしれないけど。というか、ミアシスで散々歌って踊ってるから行きたくないかもしれない。
それにしても、何か忘れてる気がするけど、何だろう?誰かに呼ばれていた気がするけど。……なんだろう?誰かがこっちを見てくる。誰だ?……あそこだ。福島くん?何でこっちも見てるんだろう?気持ちが悪い。
関わらない……よう、に?あっ、思い出した。話があるから体育館の一番上の階段で待って手って言われてたんだった。
まぁいいか。仕方ないし行ってやろう。
帰り間際のホームルームが終わり、ゆっくりと階段を昇っていった。
階段を昇りきると、あえて何もない真っ暗な場所で待ってみる。別に驚かそうとは思わない。正直なことを言うと、早くスタジオに行って振り付けの確認とかしたいと思ってる。
そう思っていると、下から誰かが上がってくる音が聞こえた。
「あっ、すまねぇ。遅くなったわ」
上がってきたのは福島くんだった。私が階段の陰に隠れてるのを見て少しびっくりしていた。
そんなことはお構いなしに、冷めた声で威嚇する。
「で、話って何?」
あぁ、だめだ。拒否反応が出てる。何でこんなタイミングで出るかな。
「中川って、卒業したらどうするんだ?」
「急に何?私の進路を知ってどうしようとしたいの?」
「別に大したことはないけど、進学してアイドル続けるんかなぁって思って」
「進学ねぇ。大学行ってアイドル続けるのも悪くないけど、今の事務所に事務員として内定もらってるから、そこで事務員しながらミアシスって感じ」
そうか。それだけ言って福島くんは黙り込んだ。
「何?それだけ?それだけのために私を呼び止めたの?」
「い、いや、そんなわけじゃねぇ。俺、お前のことが好きなんや!」
やっぱりね。そんな気はしてた。ただ、あれから私の気持ちは揺るがない。
「ごめん。私、そういうのに興味ないから。今はミアシスのことで精いっぱい。恋愛よりもミアシスのほうが愛してるから。悪いけど諦めてくれる?」
ここで引いてくれるかなと思ったけど、階段に響くような声で、降りようとしている私に向かって福島くんが叫んだ。
「何があかんねん?なぁ!」
せっかくだし、もっとダメージを与えてやろうかな。
「よくこんな響くところでそんな大きな声を出せるよね。恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいとかあったら、告白なんかしてへん!」
「そうね。それだけ勇気持って行ってくれたことは褒めてあげるけど、そんないきなり言われても困る。話しかけられた記憶もないし、名前を思い出すのに精いっぱいな相手と一緒になろうとは思わない。もっと話しかけてくれてたなら私も答えが変わったかもしれない。ただそれだけ。もっと言うと、あなたに興味が無い。それで十分?」
完全に強気に言い返す私。言い返すだけ言い返して、そのまま階段を下っていく。
ただ、この後の彼の行動によっては、どうしようか考えてもよかったけど、全く追いかけてくる素振りが無い。「興味が無い」と言われて完全に砕け散ったんだと思う。
小さな男。そう呟いて、階段の最後の一段を下りた。




