100:萌奈が怖がった理由
「ホワイトマーガレットってね、昔から子供向けの曲を歌っていたみたいなの。もちろん、それ以外にも、ポップな曲とか、クールな曲も歌っていたわ。だけど、リリースイベントのとき、ヒステリックな曲をライブパフォーマンスとして披露していたわ。だけど、その子供向けの曲を歌っている印象だけを持ってきていた小さな子に『思っていたのと違う。怖い』って面と向かって言われちゃったらしくて、自信を無くしちゃったみたいなのよ。さすがに、そのときは、プロ意識で笑顔は絶やさなかったみたいだけど、終わってから、かなりへこんじゃったらしくてね。まぁ、もともと悩んでいたみたいだけどね。周りに対して人気が落ちてきたとか言っていたみたいだし。でも、脱退の決意をした大きな出来事だったといいうわけ。まぁ、そりゃ、私だって凹むわ。そんなこと言われちゃったら」
橋爪さんも話をしながら、少し顔をしかめながら言う。それに、萌奈ちゃんの性格から、そういうことはないと思っていた。もし、この話が本当なら、萌奈ちゃんは相当無理をしているんじゃないかってちょっと心配になる。
「本人は、かなりトラウマになっているから、いろんな人に話して広まるのも避けたいから、私の口からみんなに言わなかったの。はぁ、ムーンライトスターの年齢層が上だからと言って安心した私がいけなかったかな。まさか、こういう形になるなんて」
「橋爪さん、まだ何も起こってないですよ。むしろ、まだここでよかったです。とりあえず、萌奈ちゃんは私がどうにかするんで、いつものように楽しみましょうよ。生放送だから、楽しくしてないと、問題じゃないですか?あと、ほかの3人には言わないほうがいいかもしれないですね。この話はここまでにしましょう」
「そ、そうね。私も何とかするわ」
いったん話が終わり、私は萌奈ちゃんを探しに行こうとする。
「待って。美桜ちゃんで行くより、奈緒美さんで行ってほしい。そのほうが、萌奈ちゃんも安心してくれると思うの」
……それもそうか。私で行って、変に感情を持たれるより、奈緒美さんで行って、何もかもを吐き出してもらったほうがいい。
「わかりました。そうしましょうか」
それだけ言うと、私は、気持ちを入れ替えて、最近、奈緒美さんにブームが来ているデコだしスタイルで出迎えてみようか。どんな反応するんだろう。
……さぁ、それでは、由香里さんのお迎えに上がりましょうか。
「それじゃあ、奈緒美さん、お願いね」
橋爪さんから授かったこのご用命、必ず完遂させて見せましょう。
うーん、なぜ、メイドではなく執事気取りなのでしょうか。謎なところです。
とりあえず、電話を掛けながら探していきましょうか。そのほうが早く見つかりそうな気がします。
すでに電話のコール音は私の右耳に届いております。あとは、由香里さんが出るのを待つだけなのですが……。
『はい、矢島です』
「あっ、おはようございます。香川です」
『美桜ちゃん、どうしたの?』
「それはこちらのセリフですよ。今どちらにいらっしゃるのですか?お迎えに上がります」
『いいよ、そんなの。すぐに戻るし』
「ダメです。しっかりとお話が聞きたいのです。二人で」
『……わかった。建物の裏にいてるよ』
「かしこまりました。そこから動かないでくださいね。私が追いかけられなくなりますので」
歩いてたったの1分。建物の裏で壁に寄りかかってしゃがみこんでいる人影が。間違いなく由香里さんですね。
「急にどうしちゃったんですか。由香里さんらしくないですよ」
「美桜ちゃん……。萌奈ね、小さい子が怖いの。心無いことをズバズバと言ってくるから。善悪がつかないから仕方ないっていうのはわかってるんだけど、脱退する前のシングルのイベントのときに、小学生にならないくらいの子に『お姉ちゃん、好きだったのに怖い』って言われちゃって。『何が?』って聞いても『全部』って言われてさ。そのときは、意味が分からなくて、笑顔でごまかしたんだけど、時間が経つにつれてさ、意味を深読みするようになっちゃって、表面上は笑顔でいなきゃいけないんだけど、考え出したら、笑顔でいられなくなって……。ホワイトマーガレットにいても、そんなことしか考えられなくなって、来てもらったファンの人を楽しませられないのが苦になってきちゃって、どんどんとファンが離れて行ってしまう感覚で、つらくて。こんなことになっちゃえば、アイドルも失格だなって思うようになっちゃって。だんだん悪いほうに考えちゃって……」
すでに泣き出しそうな由香里さん。そんな彼女を私のほうに抱き寄せ、頭を優しくなでる。
「大丈夫ですよ。気にすることなど何もありません。由香里さんは由香里さんのままでパフォーマンスをするだけです。悪いのは由香里さんではありませんよ。そんな印象を与えてしまった曲なのですから。それに、子どもはその時の印象でしかものを言わないので、深く考える必要はないんですよ」
「美桜ちゃん……」
「さぁ、いっぱい泣いて、つらかったことも全部、涙と一緒に流してしまいましょう。せっかくのお顔が台無しですよ」
「やっぱり、萌奈はまだ子供のままだね。美桜ちゃんにはかなわないや」
そういうと、由香里さんは私の胸に顔をうずめて声を殺しながら泣いてしまいました。その間はずっと優しく背中と頭を優しくなでることしかできませんでした。変に声をかけると、強がりそうな気がしましたから。
たぶん、5分ほど経ちましたでしょうか。由香里さんの呼吸と鼓動が落ち着いてきたように感じます。私としては、ひと安心ですが、いつまでこのままいればいいのでしょうか……。
ようやく私の元から離れてくれたころには、由香里さんのお顔は少しばかり晴れやかになっていました。これでミッションは完遂でしょうかね。
「ごめんね、美桜ちゃん。生放送前なのにこんなみっともない姿を見せてしまって」
「私は何も気にしていませんよ。皆さんが笑顔でいられるのであれば、私はそれだけで十分ですから」
「……ふふっ、なんだかメイドさんみたい。このあとご飯でも作ってもらおうかな。なんて言ってみたり」
やっぱり、私のキャラクターは由香里さんのお気に入りのようですね。しばらくの間は、雰囲気を壊さずに行きましょうか。
「それでは、本日は私がお仕事でキッチンに立つ予定ですので、とびっきりのお料理を由香里さんにお出しいたしましょう」
はい。本日は、生放送のコーナーで『学生時代のチカラメシ』というコーナーがあるらしいのですが、そこで料理を一つ作ることになったのです。ただ、思い入れのある学生時代のチカラメシと言えば、美桜さんが大阪に本拠を置いてから2年弱しかありませんが、やはり、『よっちゃん』のチャーハンくらいしか思いつかないとおっしゃられておりました。
作り方はおそわったので、再現をすることはできるでしょうけど、どうでしょう。嫌われたりしませんでしょうか……。なんせ、美桜さんが悩んだりイライラしているときに暴食される料理ですので……。
それにしても、私の経歴はどうしましょう。美桜さんのままで行ってしまえば、怪しまれますし、似たような経歴にして美桜さんと偽りの人物を演じることにしましょうか。
「さぁ、落ち着いたようですね。それではお仕事ですよ。本日も笑顔で頑張りましょう」
「そうだね。今日も頑張ろっか」
完全復調の由香里さん。私のミッションは完遂ですね。あとは、生放送をこなしてオールオーバーと行きましょう。
昨日は、設定のミスにより、14:00更新予定でしたこのお話が更新されていませんでした。申し訳ありません。




