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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
160/211

160_僕と特訓と不快な足音


僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生




12月23日――


サリエルの写真撮影が終わった後、小林さんの家に遊びに行く。


「はい、コピー終わったよ」


3枚のDVDを受け取る。僕がトレバトで対戦している時、小林さんは後ろから動画を撮影することがあった。そのデータが欲しいとお願いしたのだ。


「3枚目のDVDはライア君からもらったトレバト夏季大会本選のコピーだよ」


「ありがとうございます…もう一度見たかったんです」


「そうなの…?どうして…?」


トレバトの特訓をしているから、と答えたら、「何で?どうして…?」とまた小林さんから質問攻めにされそうだ。


「あの…大会に出場している人のプレーを見ると勉強になりますし…動画が見やすいので発見もあります」


無難に答えたつもりが、結果的にライアさんを褒めることになってしまった。


「そっか…それ、分かる気がする。それにしてもライア君って撮影技術も編集技術もレベル高いよな。俺、驚いたよ。やっぱりプロのカメラマンさんから撮り方のコツを聞くのかな?」


「…どうでしょう」


ライアさんの話はしたくない。




夜ごはんを食べ終わって、お皿を洗う。


「そろそろ帰る…?駅まで送ろうか…?」


20時過ぎ…どうしようかな、と考えて僕は大丈夫と告げる。


「分かった。今日は明地さんと俺の撮影会に付き合ってくれてありがとう」


「いえ…僕も楽しかったです」


「そっか…良かった…。あのさ、今日撮影したサリエルの写真いる?何枚か印刷しようと思うけど優斗が欲しかったら一緒にプリントアウトしようと思って…いらないか…」


「ッ…欲しいです」


食い気味に答えてしまった。小林さんはへんてこりんな顔をしている…いつもの顔だけど。


「それじゃあ…お邪魔しました」


家に着いたら連絡します、と言おうとして言えなかった。今は家に父さんがいる。僕が家に帰らなかったら分かる人がいるんだ。


「気を付けてな…また連絡します」


僕は頷いて、玄関ドアを開ける。





帰宅し、玄関で靴を脱いでいると、父さんに「おかえり」と言われた。


「夕飯は食べてきたんだろう?お風呂わいてるぞ」


「うん…ありがとう…」


なんだかくすぐったい。僕はリュックを置きながら小林さんにもらったDVDを父さんに渡す。


「これ…トレバトのDVD。小林さんからもらってきた」


「おぉ…さっそく見るか」


「僕も一緒に観たいから待ってて…すぐにお風呂に入るから」


「分かったよ…お茶の準備でもしてるか…」


お風呂上りはココアがいいと告げて僕は急いでお風呂に入る。



僕がトレバトをもっと強くなりたい、と父さんに言ったら協力すると言ってくれた。


――優斗がプレーしている動画はないの?


――う~ん…小林さんなら持ってるかな…?たまに後ろで撮影してるから


――じゃあ、今度小林君から撮影データをもらってきてほしい。対戦の様子を見てアドバイスしたいんだ


父さんに言われて、さっそく小林さんにデータをもらってきたのだ。




お風呂上り、二人でテレビの前に移動しDVDを観る。


「上手いじゃないか…紗希ちゃんに負けた対戦も改善できるところがあるよ」


「本当?」


2枚目のDVDに紗希さんと対戦しているデータが入っていた。


「明日色々と教えられると思う」


トレバトを誰かに教えてもらうのは初めてのことで、僕はワクワクしてたけど、父さんは憂鬱そうだった。


「なに…?なんで急に不景気な顔してるの…?」


「不景気か…ははは…はぁ…。年明け…すぐに…お母さんの話をしたい。今は借金のことを優先に考えたいんだ。なんとか父さんの方で処理できそうだから…」


「うん、分かった…」


「あと今度、アルバイトがある時に父さんも一緒に行くよ。遠藤君に挨拶に行きたいんだ。優斗がお世話になってるし、お礼をしないと…」


「バイト…?明日あるけど、予定は空いてる?」


「ちょっと確かめる…」


父さんは鞄からスケジュール帳を出そうとする。


「…父さん、そのハガキなに?年賀状?年賀状なら早く出した方がいいよ?」


鞄の隙間からハガキの束が見えた。


「あぁ、これか…これは懸賞用の応募ハガキだよ」


父さんはハガキを見せながら説明する。


「…僕とライアさんがイラストになったキーホルダーが欲しい?あんなものが欲しいの?」


メンズノンノン雑誌の懸賞企画で作ったキーホルダー。誰が欲しいんだろう、と疑問に思うようなイラストだった。


「よくできたキーホルダーだと思うけど…。しかも夜道だと光るんだって…小林君に教えてもらったよ」


「…小林さんと連絡取り合ってるの?」


「メールでやり取りしてる。小林君、50枚の応募ハガキを用意したって言ってたよ。どうしても欲しいって言っててね…お互い当たるといいよね、なんて話しているところで…」


「…信じられない」


(兄さん…どうしてあんなものが欲しいなんて…やっぱりライアさんに夢中になってきてるってこと?)


「優斗…どうしたんだ…不景気顔が移ったか?」


「もう…意味分かんない…どうして…?」


「…なにが??」


もう寝る、と言って自分の部屋に移動した。こういう時は寝るのが一番だと思う。




次の日――


トレバトの特訓のためにゲームセンターに行くのかと思ったら父さんは会社に行こうと言う。


「会社に同じ機械があるし、会社で遊べばタダだし…」


父さんはゲームセンターでお金を出すのをケチっている。


「しかもトレバトで遊んだ後は、一緒に遠藤君に会いに行けるだろう?効率が良い」


「…部外者の僕が会社に入ってもいいの?」


「それは大丈夫。昨日、部長にも確認しておいた」


父さんと何気ない会話をしながらサガの会社に到着する。受付で来客用のカードをもらって首にかける。


「…ここのセキュリティゲートを通ることがあるなんて思ってなかった」


毎月、生活費の袋を握りながらゲートの中に入って行く父さんを見送っていた。


「優斗がウチに就職してくれたら毎日ここを通ることになると思うけど…」


「…僕はここじゃ働かないよ」


「どうして…?ウチは良い職場だよ?無料の飲み物がいつでも飲めるし、食堂も安くて美味しい。福利厚生もしっかりあって…」


「そういうのいいから…早く案内してよ…」


セキュリティゲートを通ってエレベーターに乗る。一般人が入っても問題ないフロアがあるらしい。その場所に案内された。


「ここはプレイルームと言って一般人も入れるんだ。商談や広報の場にもなっている」


フロアは遊び場と言うような感じだ。話し合いができるような個室もたくさんある。


「あっちにトレバトがあるだろう…?無料だし、オンラインにも繋がってるから。さっそくやってみようか?」


「うん…その前に父さんの実力を知りたい…お手本を見せてよ」


「いいよ」


父さんは強かった。圧倒的な強さだったし、とにかく命中率が段違いだった。


「…すごい」


「すごくないよ、コツがあるんだ。今からそれを伝えるから…」


僕はワクワクする。コツさえ掴めばもっと強くなれる、と父さんが後ろで笑うから。



夢中になってプレーしてたら、あっという間にバイトの時間になった。アルバイト先に父さんと向かう。


「遠藤君に挨拶してくるから…今日の夕飯は家で食べるか?」


「うん、食べる…だけど僕が作るよ。父さん料理ができないでしょ?買い物だけお願い」


分かった、と言ってエレベーターを降りていく。



撮影は順調だった。今日もライアさんと一緒だったけど、特に問題なかった。


(ハプニングがあったとしたら途中で父さんが見学に来たぐらいかな…?)


見学に来た父さんが僕に手を振っていて…無視していたら隣にいたライアさんがおかしくなったのだ。


急に休憩したいとスタジオを飛び出していった。当然、遠藤さんがライアさんを迎えに行くことになったけど…。


(ライアさん…どうしたんだろう…?早く撮影を終わらせて帰りたいのに…)


僕はお茶を飲みつつ、父さんに買い物リストを渡した。


「…今の飛び出して行った子が鈴木來亜君?」


「うん、そうだよ…どうして…?」


「ほらっ、懸賞のキーホルダーだよ。優斗とライア君のツーショットが良いって小林君も遠藤君も言ってた」


「…僕とライアさんのツーショットの何が良いの?」


僕は嫌なんだけど…という顔をする。


「すごくいいよ。二人は正反対のように見える…優斗は黒髪で真面目な優等生って感じで、ライア君は金髪で人気者、明るくて楽しそう…」


「…どうせ僕は暗いよ」


父さんに「見学は終わりにして帰って」と言った。



ライアさんが帰って来て撮影は再開した。だけど帰ってきたライアさんは僕の方をチラチラと気にしている。何か言いたそうだった。


(関わりたくない…早く帰りたいし…)


バイトは年内で終わりだ。平穏に終わりたいと考えている。


撮影が終わったらすぐに帰ろうと思ったのに、カツカツと靴を鳴らして歩く音が近づいてくる。



2008年12月24日、サンタさんが来てくれたらいいのに…と思うけど、実際は青筋立てたライアさんが僕のところにやって来た




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