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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
159/211

159_アタシと田辺とクリスマスの続き


アタシの名前は戸矢崎環。大学4年生、22歳、女、独身、許嫁あり。




12月25日――


クリスマス、田辺と二人で食事をする。


「あなたはブリを目指しているイナダですものね?」


「えぇ…そうでしたね…ブリになるためにお嬢様からのエサが大量に必要でした」


「覚えているわ!釣り上げたのはアタシですもの。だからアタシ考えたの…イナダが何を欲しがっているか」


「私が何を欲しがっているか…お分かりになるのですか…?」


「もちろんよ!ジャーン!」


アタシは白い箱を取り出す。


「…これは?」


「クリスマスプレゼント、開けてみて」


「…ありがとうございます。お嬢様からいただけるとは思っていませんでした。なにが入っているのでしょう」


箱をゆっくりと開けて中を見た田辺は、そのまま固まってしまった。


「これは…?」


「ブリのキーホルダーよ」


「お嬢様…お嬢様はこの変なキーホルダーを私が欲しがると思ったのでしょうか?」


「そうよ!どう…?気に入った…?」


「そうですね…まぁ…うーん…」


キーホルダーを手に持って考え込んでいる。その姿に笑えてきた。


「ふふふ…一本取ったわ、私の勝ちよ!」


「何を言っているのやら…面白いですね、お嬢様は本当に…」


田辺もうっすらと笑っている。


「ねぇ田辺…もうお嬢様なんて呼ばないでよ…一応…婚約してるんだし…」


「それでは何とお呼びしましょうか?」


「普通に名前で呼んでよ…環って…」


「環…?環…分かりました。それでは私のことも名前で呼んで下さいませんか?」


「名前で…?名前ってなんだっけ?」


酷いですね、という言葉が聞こえてきそうだった。


「私の名前をご存じない…?」


「…知ってるわよ、ちょっとド忘れしただけじゃない!」


アタシはシャンパンを飲もうとグラスを取ったら中は空だった。


「…名前はモトキです。元気と書いてモトキと読みます」


田辺はシャンパンを注いでくれる。


「あぁ…そうだったわね、モトキ!言われなくてもちゃんと覚えていたわ!」


アタシはシャンパンを飲む。


「だけど…アタシ…田辺のことは田辺って呼びたい…。結婚したら名前で呼ぶから…それまでは田辺って呼んでいい?」


「…まぁいいでしょう。結婚したら名前で呼んで下さいね」


「分かってるわよ!」


「環…私からもプレゼントがあります」


テーブルに長細い箱が置かれる。箱でブランドが分かる…それぐらい有名だし、アタシが好きなブランドだった。


「…アタシに…?」


中を開けたらネックレスが入っていた。


「可愛い」


立ち上がって鏡の前に立つ。ネックレスを付けてみた。


「どうですか?気に入りましたか?」


「えぇ…すごく…」


控えめで主張してないデザインなのにキラキラ光って存在感がある。


「この勝負、私の勝ちではないでしょうか?一本取られたでしょう、環?」


田辺の瞳が…いつもと違う気がして…なんだかドキドキする。


「アタシ…お酒が飲みたい…」


「良いですね、私も飲みたいです」


田辺は立ち上がってお酒が並んでいるカウンターに向かう。アタシはネックレスを付けたままカウンター席に座る。


「…甘いお酒を作りましょうか?」


「作ってくれるの?」


「えぇ…ディナーのお礼に」


田辺がカシスオレンジを作ってくれた。乾杯して飲む。甘くて美味しい。オレンジジュースの割合が強いから飲んでいても酔うことはなさそうと感じる。


「今日はこちらにお泊りになるのですか?」


「そうね、お姉ちゃんから一晩使っていいって言われてる…酔ってもベッドに寝ちゃえばいいし気分は楽だわ」


「そうですか…では私はそろそろ帰りますね」


田辺は部屋の時計を見る。22時前だった。


「そう…分かったわ…」


もう少し話していたと感じた。田辺ともう少し一緒にいたい…なんて感じたのは初めてのことだった。


「環…」


「…なに?」


「今日は一緒に過ごすことができて楽しかったです。会いに来てくれてありがとうございました。料理も美味しかったです」


「アタシも…楽しかった…ありがとう」


田辺は頷いて上着を取る。


「あぁ、それと…もうそろそろ愛さんがこちらに来るそうです」


「…お姉ちゃんが?」


「はい、22時過ぎに仕事が終わるので遊びに来ると仰ってました」


田辺はドアを開ける。


「また明日…お迎えに上がります。それでは、おやすみなさいませ」


「おやすみなさい…」




田辺が出て行ったあと、アタシはクッションを抱えてソファに座る。


「田辺は…良く笑うようになったわね…」


初めて会った時の不満顔を今でも鮮明に覚えている。どうして自分が運転手をしなくちゃいけないんだ、と言うような顔だった。


晴れた日とは対照的な暗い顔…バカなお嬢さんだとアタシを見下すような顔をしていた田辺の印象が随分と変わった。


「アタシに心を許すようになった…とか…?」


一瞬で否定した。


「婚約者になったから…仕方なくアタシと仲良くするフリをしているとか…?」


しっくりくる。


田辺は自他共に認める野心家だ。そのためにアタシを利用しているだけ、この婚約もその一つだ。田辺はアタシに気持ちがない。そのことをちゃんと覚えておかないと痛い目を見る気がする。




ピンポーン…部屋のインターフォンがなって、お姉ちゃんが遊びに来る。


「あらっ、そのネックレス可愛い…どうしたの?」


田辺にもらったと伝える。


「そうなの?あれっ…これって…」


お姉ちゃんはネックレスを凝視している。


「なに…?何か意味があるネックレスなの?」


「意味があるというか…これって…ペアのネックレスじゃない?」


「ペアの…ネックレス?」


お姉ちゃんが携帯で調べてくれた。


「やっぱり…有名なブランドのペアネックレスだから…田辺さんとお揃いなの?」


(お揃い…?田辺と…?)


アタシはソファに座って考える。田辺はネックレスをしていなかった。仮にネックレスをしていたとしても…田辺には似合わないと思う。アタシは思っていることをそのままお姉ちゃんに話す。


「確かに…似合わなそうね…」


「そうでしょう?」


なんとなく二人で笑う。


「お姉ちゃんは芹沢さんと一緒に過ごさなくてもいいの?今日はクリスマスでしょ?好きな人と過ごした方がいいわ。アタシは大丈夫だから…」


「いいえ、今日はここに泊るつもりだったから…芹沢君にも伝えてある」


「…いいの?」


「もちろんよ。久しぶりなんだし色々と話しましょう。それで…環も田辺さんにプレゼントを渡したんでしょう?何を渡したの?」


アタシが答えるとお姉ちゃんは不可解な顔をする。


「…意味分かんない。っていうか、田辺さんが可哀想…」


「だってアタシ、田辺からクリスマスプレゼントをもらえると思ってなかったし…しかもアタシが好きなブランドの欲しかったネックレス…」


アタシはネックレスを触る。


「環…田辺さんは環の好みをリサーチして買ってくれたってことでしょう?」


お姉ちゃんが呆れている。


「明日、田辺さんに会ったら、もう一度お礼を言ってネックレスのお返しをしたいから何か欲しい物はあるか田辺さんに聞くのよ?」


「分かったわ…」


(ネックレスのお礼か…確かにこんな高価な物をもらってお返ししない、なんてダメよね…?)


「環が作ったケーキ食べていい?美味しそう」


ダイニングテーブルに置いてあるケーキを取ってお姉ちゃんはバーカウンターに向かう。


「シャンパンのお共にケーキって合うのよね~」


お姉ちゃんにシャンパンを注ぎながら色々と話しをした。




次の日――


10時にチェックアウトするつもりで準備していた。お姉ちゃんは仕事があると言って朝早く部屋を出た。


部屋のチャイムが鳴る。


「おはようございます、お迎えに上がりました」


田辺が部屋に入って来る。


「おはよう…。なんだか懐かしいセリフね…」


田辺がアタシの運転手をしている頃、いつも言われていた。


「そうですねぇ、懐かしいですね」


田辺はアタシの荷物を持ってくれる。


「車までお持ちします」


「ありがとう…」


アタシは田辺の後ろを歩きながらつぶやく。


「あの…昨日はネックレスを…ありがとう」


「いいえ…私もキーホルダーをありがとうございました」


「あの…そのことなんだけど…」


「…はい」


田辺が立ち止まって振り返るから目が合う。


「…ネックレスのお返しをしたいのだけど…何か欲しい物はあるかしら…?」


「欲しいもの…?そうですね…」


田辺は正面を向いて歩き出す。


「…私が何を欲しているか、釣り上げた環が考えるのが筋ってものでしょう?」


「えーヒントはないわけ?」


「ノーヒントで」


「えー」


「それより車の運転には十分に気を付けて下さい。家に着いたら必ず連絡をして下さいね。私の心臓が持ちません」


「はいはい…」




2008年12月26日、田辺が何を欲しがっているか、そんなのアタシに分かるわけないわ




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