151_俺と写真と広瀬さんのお見舞い
俺の名前は小林匡宏。27歳、男、独身、彼女なし。
12月7日――
ノンノン雑誌の懸賞応募のため、ハガキに必要事項を記入していた。
(20枚で足りるだろうか…?絶対に欲しいんだけど…)
懸賞ページを見る。
ライア君と優斗がイラストになったキーホルダーが100名様に当たると書いてある。
(1000名様に当たる…とかなら余裕も出るけど…100名様は厳しいよな…)
追加のハガキを買うか迷っているとメールの着信が響く。
プースカ・プー、プースカ・プー♪
『10日の水曜日、お仕事終わった後に会えますか?』
優斗からだった。すぐに返信する。
『10日、大丈夫です。寒いから俺の家で待ってる?』
『その日はバイトが入っているので仲野駅で待ち合わせしたいんですけど、どうでしょうか?』
いいよ、と送る。
『良かった…よろしくお願いします』
どんな用事か教えてくれなかった。当日に教える、とのことだ。
(彼女ができました…とかだったらどうしよう…?)
俺はニヤニヤしながら、懸賞の応募ハガキに記入していくと、今度は電話の着信が鳴り響く。
プルルルー♪
花崎から電話だ。
『…小鳥の交流会が終わったんだけど…少しだけ聞いてくれる?』
「大丈夫です。コーヒーも用意して待ってました」
『ホント?私もコーヒー用意したんだ~。缶コーヒーだけど美味しいよ』
ゴクゴク飲んでいる音が聞こえる。
「お疲れ様…今日は本選大会に向けての打ち合わせだったんだろう?」
『そうそう…大会に出場するチームの情報を収集して分析しているメンバーというかグループがあって…そこだけ統制が取れてたんだけど…あのね…』
花崎は機密情報に触れない程度に小鳥チームの話を始める。俺は聞いていて面白いな、と思う。
「情報収集か…俺達もいつかはそういうことをしたいな、と思うよ」
『…情報収集してる子いなかった?ほらっ…目の下のほくろが特徴的な…派手な頭の男の子…たしか…うーん…なんて言ったっけ?』
「あぁ…谷村渉君?」
『そうそう…そんな感じ…だっけ…?』
(谷村君か…情報収集に向いてる子だよな…頭もいいし、マメな子だし…)
「花崎、ありがとう!谷村君と今度話してみるよ、助かった」
『…そう?役に立てて良かったよ~』
その後、トレバトとは関係ない話も少しして電話を切る。
10日――
仕事が終わって、仲野駅を出ると、待ち合わせ場所に優斗が立っていた。
「お仕事お疲れ様です」
案内します、と言って優斗が先陣を切って大通りを歩く。
(遠藤さんや広瀬さんに会う…とかじゃないよな…?)
どんな要件か聞けなかったので持っているスーツの中で一番ちゃんとした物を選んできた。
「あの…驚かないで聞いてほしいんですけど…父さんが倒れて入院してるんです」
「にゅ、入院…?広瀬さんが…?…いつ…?」
「えっと…11月の頭ぐらいです。僕が小林さんの家に泊まった日で…」
「11月の頭……あぁ…ロボット優斗の日か…」
(そうか…お父さんが倒れたから仲野の病院前にいたのか…?)
あの日を思い出す。お父さんが倒れたから正常じゃなかったんだな、と思い返す。
「あの…ロボット優斗ってなんですか…?」
ロボット優斗について説明していると病院が見えた。
「優斗、面会時間って19時30分までだろう…?急ごう?」
「でも…まだ30分もありますよ…?」
「いやいや30分しかないだろう…?早く、早く…!!」
俺は広瀬さんの病状が気になっていた。
(せっかく優斗が広瀬さんに会わせてくれるなら俺は少しでもお話ししたい…!)
病院に到着し、すぐに受付を済ませて、広瀬さんの病室に案内してもらう。
「あっ、しまった!お見舞いの品とか持って来てない…!」
ドアを開ける前に大切なことに気づいてしまった。
「大丈夫ですよ…むしろお見舞いの品がいっぱいで…何か持って帰って下さい」
そう言って優斗はドアを開けて病室に入って行く。
(待ってくれ、俺を置いて行かないでくれ…!!)
俺は遅れながら、一歩一歩と部屋に入る。部屋の中は温かい。
「小林君…久しぶりだね…」
広瀬さんは枕を背にして、座っていた。
「待ってたよ。さぁ、こっちの椅子に座って…」
「こ、こんばんは、あの…広瀬さんが入院していると、先ほど優斗君に聞いて…驚きました。体調はいかがですか?」
一礼して、俺は椅子に座る。
「おかげ様で…順調に回復してもうすぐ退院できるんだ。ただの過労だから入院しているのが申し訳ないというか…もう仕事に復帰できるのに年内は療養しろって会社にも言われちゃって有給休暇も消化しなくちゃいけないし…ちょうどいいって話しで…」
「そうですか、退院できるんですね…!安心しました」
相変わらずガリガリだけど、顔色も良さそうだし、なんだか、スッキリしているように見える。
「小林さん、リンゴ食べますか?柿や洋ナシもありますけど…」
部屋の中をよく見ると、お花やフルーツがたくさん置いてあった。
「じゃあ…いただこ…」
そこまで言って、あるものが目に飛び込んでくる。
「あれっ?優斗の…写真?」
お花とフルーツの他に優斗の写真が飾ってある。よく見ると俺が撮って広瀬さんに贈ったものだった。
「僕の写真…父さんの会社の人が持って来てくれたんです。父さんのデスクにたくさん置いてあるからって…」
広瀬さんに写真を何枚か送ってほしいと頼まれたことがあった。写真だけ渡すのも味気ないと思って勝手に写真立てに入れて渡していた。
「会社の机に…飾ってくれてたんですか…?」
「あぁ…どれも良く撮れてる。また撮ったものがあれば送ってほしい」
「はい…この前、山梨に一泊した時に撮影したものがあります。すぐにお渡しできると思います」
「そうなの?楽しみにしてるよ」
「はい…ぜひ…」
俺は優斗を見る。優斗は状態の良さそうなフルーツを選んで紙袋に入れていた。
館内放送が流れる。
『まもなく面会時間の終了です。お早めにお帰りの準備をお願いします』
「小林君、また良かったら優斗と来てよ。やることなくて暇なんだ…」
「ありがとうございます。またすぐにでもご挨拶に伺います」
広瀬さんにお礼を言って、俺は優斗と共に病院を出る。
「今日は広瀬さんに会わせてくれてありがとう」
俺と優斗の間で広瀬さんはデリケートな話題…というか気まずい話題だった。
「小林さんには父さんのこと…やっぱり伝えた方がいいかなって思って…遅くなりましたけど…」
「問題ないよ…教えてくれて嬉しかった。お礼にメシおごります。吉川さんのところに食べに行かない?」
「そうですね…軽く食べて帰りたいです」
俺はすぐに吉川さんのお店に電話する。
「混んでるけど、カウンターが空いてるからって言われた」
「カウンターがいいです。吉川さんとも話せますし…」
「そうだな…」
並んで歩きながら俺は口を開く。
「あのさ…病院に飾ってあった写真のことだけど…優斗に黙って広瀬さんに渡してた。本当は言わなきゃいけないと思ってたけど話すタイミングを見失っていたというか…言い訳がましく聞こえるけど…どう切り出せばいいのか分からなくて…」
「大丈夫です…別に怒ってません」
チラッと見た感じ、プンスカしてない。
「むしろ色々と考えて渡してくれたんだなと思って嬉しかったです。写真立ても素敵でした」
「そっか…良かった…。俺…広瀬さんに喜んでもらいたいなって考えながら贈るの楽しかった。渡す時はドキドキしたけど…飾ってくれてるって言われて…時間をかけて選んだものだったから…嬉しかった」
「…いつから父さんに送ってたんですか?」
「えっと…昨年…俺と広瀬さんがアドレス交換をした後かな…?」
「そんなに前からですか…?言ってくれれば良かったのに…」
「そうだよな…。言おう、言おう、と思っていつの間にか月日が経過してて…」
「それって…言うつもりなかったですよね?」
(ヤバイ、お腹がすいたユウ君がプンスカしそう…)
俺は話題を変える。
「えっと……今度の勉強会は14日でいいんだな?」
「…はい」
「何か食べたいものがあれば買って行くけど…」
「あっ…じゃあ…食べ物じゃないんですけど…お願いが…」
優斗の提案を聞く。
14日――
今日は勉強会、優斗の家に到着しインターフォンを鳴らす。
「こんにちは」
「お邪魔します。これ…つまらないものですが…」
俺はベトナムコーヒーとフルーツ大福を渡す。
「わぁ~美味しそう…大福は佐藤のきな粉モチ君が喜ぶと思います」
今日の勉強会、佐藤のきな粉モチ君も一緒に教えてくれますかと言われ引き受けた。
リビングでは、佐藤のきな粉モチ君がコタツに入って勉強している。
「あっ、広瀬のお兄さん~。今日は俺も勉強教えて下さい!」
「久しぶりだね。俺で良ければ何でも聞いて」
2008年12月14日、優斗ときな粉モチ君に勉強を教える…二人とも素直で教えていて楽しかった
お昼ごはんの会話――
「優斗…前回のテストはどうだった?返却された答案を見たいんだけど…」
「答案……どこにしまったかな…?探しておきます」
「うん…まぁ…優斗のことだし、ちゃんと点数も良かったんだろう…?」
「まぁまぁ…ですね…」
「…まぁまぁじゃないよな?」
「きな粉モチ君…どういうこと?」
「広瀬は前回のテスト、点数が悪くて担任に呼び出し食らってました」
「…それ本当?」
「きな粉モチ君の裏切り者…」
「ちゃんとお兄さんに真実を伝えた方がいいと思うぞ?」
「きな粉モチ君の言うとおりだな…答案…本当はあるんだろう…?後で見せて?」
「………はい」
「素直でよろしい」
「ははは、おもしれ~」




