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<ティフェレト編>38.ドワーフの王と司祭

38.ドワーフの王と司祭



 「そうですか。スノウさんはスメラギ氏の言葉を信じたということですね」


 「はい」


 「なんとなく予想はしていました‥‥」


 ユーダはソニアから状況を聞き、少し悲しそうな表情を浮かべていた。


 「この私の願いが届かなかったとはとても残念です。そしてソニア、それとソニックあなた達もまた何か思い悩んでいるようですね」


 「!」


 「私をみくびってもらっては困りますよ」


 ユーダは優しい笑みを浮かべてソニアに話しかける。

 何故分かったとばかりの困惑した表情を浮かべるソニア。

 だが、心の音の波動を読み取ったのだと分かりすぐに納得した表情に変わった。


 「あなた方の今後の進む道を見出(みいだ)した‥‥と言うことですね?」


 「は、はい‥‥なんと申し上げて良いか分からないのですが、不安定だった心の音の形が‥‥あの方‥‥スノウに会った事でとてもしっかりとした音色を奏で始めたのです。あ、いえ、決して大司教様に付き従うことに不満があるわけではないのですが‥‥」


 「いえ、いいのですよ。人には宿命というものがあります。それは生まれる前の記憶と使命によるものです。あなた方は前世以前でスノウさんと何か縁があったのかもしれませんね。そこで何かを背負っていた‥‥もしくは背負い続けているのかもしれません。それに反して行動するということは心の音に不協和音を奏でることに他なりません。私もね、このような業を背負っている手前、それがよく分かるのです」


 「大司教様‥‥」


 「いいでしょう。あなたを私の守護リュラーの任から解き放ちましょう。ですが、最後に一度だけ、私のお願いを聞いていただけないだろうか?」


 「も、もちろんです!どのようなご指示でしょう?!」


 「あるものを取ってきてほしいのです。この世界を救う大切なものなのですが‥‥」



・・・・・


・・・



―――ドワーフの里へ向かうEV車内―――


 「‥‥‥‥」


 「うかない顔だな。やっぱり無理矢理飛び出してきた故郷に戻るのは気が引けるか?」


 「ん?まぁな。一生帰ることのない所に突然行けと言われたわけだからな。そりゃぁ戸惑うわな」


 スノウは憂鬱そうな表情を浮かべているゴーザに話しかけた。


 「やめてもいいんだぜ?ドワーフの里へ入るための王の書状もあるわけだから、無理に一緒に行かなくたっていいんだ。何なら居心地悪いかもしれないが少しの間グコンレンに滞在してもらっててもいいと思うがどうだ?」


 「ドワーフはな、受けた恩に命懸けで報いるものなんだ。今回の王の依頼は大罪を犯した俺を寛容にも生かしてくれたいわゆる王から受けた大恩なんだよ。逃げ出したらそれこそ自分まで裏切っちまう。それについこの間攻めてきたグコンレン軍をボッコボコにしてやったばっかりだぜ?そんな敵陣に滞在するなんてよくもそんな酷いこと言えるなスノウ!わっはっは!」


 スノウは無理矢理明るく振る舞うゴーザに少し複雑な表情の笑顔を向けた。


 「まぁ、なんだ!別に俺は自分のやったことを恥じてねぇんだ。だからよ、堂々と里帰りしてやるさ。そこで何言われても何されても苦じゃねぇ。俺にはスノウやエスティ達仲間がいるんだ。俺はお前達のためにこの命を使う。俺はレヴルストラの一員だ。お前達の役に立つならいつどこで死んでも悔いはねぇ!なんつってな!わっはっは」


 自分の判断力の無さ、リーダーシップ不足から無理をさせてしまっているのだと思い、ゴーザの無理矢理捻り出すかのような空元気がさらにスノウの心を締め付けた。


 (おれがしっかりしないと‥‥‥‥)


 気負ってばかりで空回りしていると自分を責めるスノウだった。

 この世界に来て移動の大半は馬車であったため、その速度の遅さから少しのんびりした旅気分を味わっていたのだが、EVが登場してからは移動時間が極度に短くなったため、車内では次のミッションの準備で追われ移動を楽しむ旅気分などは一切無かった。

 スノウは自分の不甲斐なさを痛感していたが、そんな自分についてきてくれているエスティやゴーザ、今は離れているがソニア、ソニックたちのことを考えていた。

 一体彼らは自分の何を評価しているのだろうか?

 強さか。

 越界者というステータスか。

 強さはそこそこ自信はある。

 だが、三足烏(サンズウー)のような強敵が現れると途端にその評価は崩れるだろう。

 越界者というステータス。

 それもまやかしだ。

 越界したい人はどれだけいるのだろう。

 越界したい人から見れば欲しいステータスかもしれないが、興味のない人にしてみれば大した価値ではない。

 ゴーザ、エスティは少なくとも越界をしたがっている事はないだろう。

 ソニア、ソニックやレンは分からないが、越界者だからということで付いてきてくれているとも思えない。

 アレックスやエントワには強さとかステータスとかなど関係なく、彼らに付いていけば何とかなるという期待というか確信が持てていた。


 (その根拠はなんだ?)


 スノウは答えを出せない問いを考え続けいた。

 そうこうしているうちに豪雪地帯に到着する。

 街らしきものは見えず、一面雪が被った木々しかなかった。

 強い風が吹き荒れ雪を撒き散らしている。

 しばらく進むと大きな丘が見えた。

 もちろん雪がかかっているため白一色だ。

 そこからは歩きになるとのことで、木の陰にEV車輌を停車し木々で隠した。

 スノウとしては来るのは2度目だが、前回は豪雪地帯で降りることはなくそのまま禁断の地に出向いたため、改めてその寒さに気分が萎えていた。

 スノウは寒がりだった。


 「おう、若ぇのにガタガタ震えちゃってー。そんだけ防寒着重ね着込んでるんだからむしろ熱いくらいだろうに?」


 「がが外気温氷点下だぞきっと!こここんな寒かったとはな。ってかお前が異常なんだよ。防寒着も着ずにいつもの鎧だけなんて!そそその鎧凍って皮膚にくっついたりしないのか?」


 「皮膚にくっつくだぁ?俺の ”熱いはーと” によって体が燃えるように熱くなってるから鎧が凍りつくことなんてありえねぇなぁ!」


 「ばば馬鹿よゴーザ、馬鹿だわね!ここんな寒さにその軽装、ここ氷のちょちょ彫刻にでもなるつもり?」


 同じく寒がりのエスティが勝手にガタガタ動く顎のおかげでまともに喋ることができなようだ。


 「そういえばレンはどうした?」


 「ここっこここっすよー」


 エスティの方から震えるレンの声が聞こえる。


 ボン!!


 エスティがきていた分厚い毛皮のコートが音の波動とともにレンに姿を変える。


 「へぶしょー!!!」


 「鬼だな」

 「鬼だ」


 エスティはレンに音変化魔法で毛皮のコートになるように威圧しながら詰め寄ったのだろう。

 仕方なく言いなりになっていたレンはもろに寒さを肌に受けている状態になっていたようで大きなくしゃみとともに全身の震えが止まらずに今にも凍え死にそうな表情を浮かべていた。


 「ちょっと寒いじゃない!レン!誰が戻っていいいって言ったの?!」


 「もももうう限界っすよーーー!!!アネゴには心はないんすかーー!!」


 「まま全く‥‥おおお前らやる気あんのか?!早くいくぞ!寒くてここ凍ってしまいそうだ!ゴーザ、きょきょ距離はあああとどれ位だ?」


 「‥‥‥‥」


 ガタガタ震えながらも足を前に進めるスノウ。

 返答がないゴーザの方に顔を向ける。


 「凍ってるーーー!!!!!」


 ゴーザは後方で笑顔のまま凍っていた。



・・・・・


・・・



 「最初からこうすればよかったのよ!ほんとにあんたたち馬鹿ね、馬鹿だわよ、全く!」


 「エスティの嬢ちゃん!お前ぇが言うかぁ?!」


 「そうっすよ!アネゴにそんなこと言う資格はないっすね!」


 「ゴーザ!えらっそうに俺は熱い心で氷も溶かすとかなんとか言ってたくせに一番凍ってたじゃないの?!」


 「お前ぇはこのダサい毛皮のコート着てたらか大丈夫だったんだろーが!」


 「誰が毛皮コートっすか!ってかダサいとなんすか!」


 「うるさい!!お前らいい加減にしろ!」


 スノウはバリアオブウォータウォールの応用で炎のバリアを張っていた。

 表現するならば、バリアオブフレイムウォールとでもいうのだろうか。

 比較的大きめの炎のバリアで火傷することもなく、風を防ぎ雪を溶かしながら常温を保っていたため快適な空間になっていた。

 快適になっていただけに皆勢いよく文句をぶちまけている。

 そんな姿にスノウはイライラしたが、自分にはまだそんな態度を取ってよいだけの判断や実績が伴っていないのだと自責の念にかられそれ以上は触れなかった。


 「そんでよー毛皮の時にお前ぇの目はどこについてたんだ?」


 「実は‥‥ごにょごにょ‥‥プププ!」


 「マジか!がっはっは!」


 「え?!なになに?!」


 しばらく歩いているといつの間にか3人は仲良く会話し笑いさえ出てきている。


 (全くなんなんだ‥‥)


 スノウは解決策の見つからない自分の不甲斐なさと、自分の悩みを理解しない能天気な3人のおかげで更にイラついていた。



・・・・・


・・・



 「よーし、止まれ」


 ゴーザが進む足を止め、3人を制す。


 「止まれって言ったって目の前なんもないっすよ?!」


 「ああ、お前みてぇな凡人にとっては何も見えないのさ」


 「また馬鹿にしてぇ!」


 「あははは!」


 「あははってアネゴにも何にも見えないでしょ?!」


 「!!‥‥み、見える‥‥ような気がするわよ!な、何?!疑ってるわけ?」


 「ゴーザ、早く頼む」


 「おお!すまねぇ!」


 そういうとゴーザは腕にはめているガントレットを外した。

 晒された腕には古めかしくも美しいブレスレットが嵌められており、それをまるでIDカードでも読み取るかのようにとある地面にかざす。

 すると、前方に大きな音がし始める。

 地面が開き、地下に伸びる階段が現れる。


 「よし!入るぞ」


 (よかったー!まだ使えるんだこれー!てっきり破門された時点で使えなくなっているとばっかり思っていたから外からの侵入では使えないカードだと思っていたが何とか面子は保たれたー!)


 ゴーザはホッとしていた。

 格好つけた手前、入り口が開かなかったら何を言われていたかと思うと本当に開いてよかったと安堵していた。

 特にエスティからは何を言われていたか分かったものじゃないなと改めて思った。


 「待て嬢ちゃん!」


 エスティが地面開いた地下への階段を降りようとするが、ゴーザはそれを制止する。


 「入り口はこっちだ」


 そう言いながら開いた階段の少し先のあたりの雪をかき分けてスイッチのようなものを押した。

 すると、地面がせり上り円柱上の物体が目の前に登場した。


 「階段はダミーだ。ドワーフは用心深くてな。その階段を降りると突然扉がしまり閉じ込められてとっ捕まっちまうって仕組みだ」


 ゴーザはスノウたちを円柱の建物の前に誘導した。

 ゴーザは円柱を3回ノックした。

 すると自動ドアのように扉が開く。


 「へぇー!音魔法で反応する自動ドアか!」


 「自動ドア?!なんだそれは?まぁ自動で開くドアには違いないがな。さぁ行くぞ」


 4人は開いた扉の奥に進む。

 すると円柱の建物は再び地面に埋まる。

 エレベーターのような役割の物体で体に感じるGから降下していることがわかる。


 ゴゴン!


 しばらくすると動きが止まる。

 そして目の前の壁が開き一気に視界が広がる。


 「うわぁぁぁ!!」


 レンが思わず声を上げる。

 スノウ達も声にならない驚きを見せている。

 地下の超巨大な空洞に街があった。

 壁面には無数の建造物があり、無数の通路が繋がっていた。

 地面にはたくさんの建物があり、奥には巨大な城が霞んで見える。

 驚くべきは至る所から差し込む光だった。

 密閉されているであろう地下の巨大空洞にどういう技術かその光を取り込んでいる。

 また、これはスノウしか気づいていなかったが空気が澄んでいたのだ。


 「すごい街だ‥‥外の極寒な環境に対してこの快適な温度はおそらく地下のマグマ熱によるものか?しかもこんな地下空洞に光を取り入れる技術と空調設備があるのか?!なんという技術力!」


 「おお!スノウ!さすがだな!よく分かってるじゃねぇか!それがドワーフの技術力だ!」


 「これほどの技術力があれば強力な兵器も作れるし強靭な軍隊も作れはずだが、やはりそういった軍隊があるのか?」


 「いや、そう言ったものはないよ。確かに自衛のための兵器や組織はあるけどな。俺たちドワーフは平和主義者だ。こちらから攻撃することはまずないんだ。だからこうやって辺鄙な所に住んでる。むしろこういう劣悪な環境でも快適に住むことができる環境にするために技術を磨いているって感じだな」


 「すごいな‥‥」


 確かに雪斗時代、地球の歴史を見てみると、寒い地域から様々な先進的な技術が生まれて来た。

 それは劣悪な環境を変えたいという人間の欲求が技術の革新を加速させているのだと理解した。

 スノウの感心をよそにエスティとレンは壮大な光景に口をポカンと開けたまま動かない。

 しばらくすると目の前に伸びる大通りの先から馬車が数台スノウ達の方に向かってくるのが見えた。


 「お出迎えか?」


 「‥‥‥‥」


 少し不安そうな表情を浮かべるゴーザ。


 「なぁに!こっちにはムーサ王の書状があるから大丈夫だ!」


 「‥‥‥‥」


 スノウの元気付けようとする気遣いにも応える余裕がないのかゴーザは無言のままだった。

 馬車が目の前に止まる。

 勢いよくドアが開くと中から豪華な甲冑にマントをつけたドワーフの男が降りてきた。

 長い顎髭を蓄えたその男は歳の頃はゴーザと同じくらいに見える。

 颯爽(さっそう)とスノウ達のほうへ歩いてくる。

 威圧感が緊張を生む。

 男はゴーザの前に立った。

 今にも殴りかかりそうな雰囲気だった。


 (何だ?‥‥ムーサ王の使いだといえばいいのか?どうする?!ゴーザに任せるか?)


 しばらくゴーザとその男は睨み合いのように向き合って黙っていた。

 しかしいきなり2人は腕相撲のような形で力強く手を握りあう。


 「生きていたか!この死に損ないが!」


 「お前こそ似合いもしない顎髭は何だ?!偉くなったもんだな!」


 「だっはっは!」

 「がっはっは!」


 2人は知り合いなのか大声で笑い合う。

 ヒヤっとしたが、何とか上手くいきそうだとスノウは少しホッとた。

 しかし後方から他の馬車から降りてきた鎧を着た兵士と思われる男達が10名ほど走ってくる。


 (なんだなんだ?!)


 そして顎髭男の後ろに整列したと思うと顎髭男とともに一斉に膝をつく。


 「よくぞ戻られた王子!このロロンガ・ルザへ!」


 バツ悪そうな表情でチラッとスノウたちに目をやるゴーザ。

 込み上げてくる怒りを抑えられない表情のスノウ。


 「と、とりあえず馬車に乗るか‥‥な!」


 誘導されるままに馬車に乗る。

 ゴーザとスノウは顎髭男が乗ってきた馬車に乗りエスティとレンはその後方の馬車に乗ることになった。

 そして馬車は動き出した。

 スノウは顎髭男にムーサ王からの書状を見せこの街に来た理由を説明した。


 「ご用件は承りました。確かにこの紋章はムーサ・プレクトラム・マッカーバイ王のものです。書状の中身はこの後お連れする我らが王にお見せください」


 話が通って安心はしたが、スノウの表情は硬く怒りに満ちていた。

 早くこの状況を説明しろと言わんばかりの威圧的オーラをゴーザに向ける。

 組んでいる腕には力が込められ震えている。


 「わ、分かったよスノウ!そんなに怒んなさんなって!」


 「確かお前、自分は大罪人だって言ったよな?」


 「いや、確かに大罪人だってのは間違ってねぇんだ。俺はその審判を受けなきゃならねぇ。すまないがその話は後でゆっくりとな。まず謝罪だが、隠していて本当に申し訳なかった。俺は現ロロンガ王国の第3王子のゴーザノル・ロロンガイアだ。そしてこの顎髭男は俺の幼馴染であり親友でもあるロロンガ王国の自衛軍ゴリアテ総大将のビルガだ。こっちはスノウ。今は俺たちトライブ、レヴルストラのリーダーを務めてくれている」


 「スノウ殿、改めましてビルガメスと申します」


 「あ、あぁ、いえ、こちらこそよろしくお願いします。スノウです」


 「それで入り口で入ってこれたのと、こうやって迎えに来てもらっているという事で俺はまだこの国の王子ってわけだ。まぁ王子って言っても末弟で王位継承権第3位だからいずれはお荷物になるような立場だけどよ。国を出た経緯は以前話した通りで突然訪れたきっかけでこの国を出る事になったわけだが、いずれは出ようと思っていたし、まぁ未練もそれほどなかったからな。それにさっき言った通り帰ってきたからには審判を受けなきゃいけなくてな。それで気が進まなかったってわけだ」


 「分かったが、2度と隠し事はするなよ?これでもしおれが判断を間違ってしまってお前達の命を危険に晒すような事になったらおれはどう償えばいい?」


 「スノウ‥‥すまなかった!」


 「まぁいいよ‥‥それでその審判ってのはなんなの?」


 無理矢理納得したかのように少し怒り口調でスノウは尋ねた。


 「俺は使ってはならない古代装置を使っちまった罪でその是非を問われる」


 「ああ、前に言ってた赤子と友人を逃すために使ったっていう装置か」


 「そうだ。あれははるか昔、このティフェレトの人間史が起こる前から存在していたものでな。それを使ってよいのは王家の者に限られるんだ。王家の者以外が使うとその使用者が死んだ後魂が冥府に送られるらしいのだが、その証として遺体の色がドス黒く変色するらしいんだ」


 「王家の者だったらゴーザが使うのは問題ないんじゃないか?」


 「そうだ。だがなぜかその使用は固く禁じられている。もし使う場合、王家の者と言えど審判にかけられる。審判とは言わば裁判のような者だが、王と司祭によって一方的に判決が下る方式でな。言い訳聞かない言わば欠席裁判みたいなもんだ」


 「王ってお前の父親だろう?どういう理由かしらないけどいくら使っちゃいけないものを使ったからといって、実際には王家の者は使用してもいいものを使っただけだろうし、許してもらえるんじゃないのか?」


 ゴーザとビルガは目を合わせる。


 「いや、人間みてぇに王が自分のいいようにわがままを通せるような世界じゃないんだよドワーフの国は。自分の子供だろうが他人の子供だろうが罪は罪だ。公平に判決を言い渡される。そうやって自分を律し国民を律する事でこの国の栄華はこれまで長きにわたって絶える事なく続いているんだよ」


 そこにビルガが割って入る。


 「スノウ殿、すみません王子の言い方がよくありませんでしたな。人間は人間で感情に流される事によって良いこともあるでしょう。いわゆる情けというものでしょうか。ですが、ドワーフにはその感情によって判断を変えることを良しとしていません。もちろんドワーフも人間同様感情の生き物です。ですが巨人族を先祖にもつ我らドワーフのおいては、長い我らの歴史の約半分が神や他種族から虐げられてきた辛く苦しいものだったのです。そのほとんどの理由が神や人間、エルフなどの他種族を感情的に信じたことが原因であり、最大の反省点でした。その反省点を活かしいかなる状況においても私利私欲はもちろん、恣意的に判断を変えてはならないというのがドワーフの掟になっているのです。それは王が率先して守るべき聖典になります」


 「なるほど。それでその審判でいわゆる有罪?のような結論となった場合はどうなるんですか?」


 ゴーザが割って入る。


 「よくて永久追放。しかも追放され別の土地にいても一切のドワーフとの接触が禁じられる」


 「悪くて?」


 「死刑だな」


 「!‥‥それでどうなんだよ今回の罪は‥‥どれくらいになるんだ?」


 「まぁ、死刑かギリギリ免れるかって感じだな、がっはっは!」


 (笑い事じゃねぇじゃねぇか!どうすればいい‥‥ゴーザを巻き込んだのはおれだ。死刑になる場合、おれが殺すようなもんだ‥‥冗談じゃない!そんなことさせない!)


 「余計なこと考えるなよ?スノウ。それが人間の感情で動くってやつだぞ?」


 なんとも言えない気まずい雰囲気のまま目的地である王城に到着した。



・・・・・


・・・



―――王への謁見の間―――


 「王よ、お久しゅうございます」


 「‥‥‥‥」


 一同が片膝ついて首を垂れている中、ゴーザが挨拶をした。

 目の前に玉座にいるのはこの国の王、エンキ・ロロンガイア王その人である。

 王はゴーザの挨拶に答えない。

 重苦しい雰囲気があたりを包む。

 細かい話を聞いていなかったエスティとレンは場違いとばかりに内心オロオロとしていた。


 「何の面下げて戻ってきたのだゴーザノル」


 低く胸に響くような声が謁見の間に響く。

 重苦しい空気が一気に凄まじいプレッシャーに変わる。


 「我友を助けるため、どのような沙汰も受ける覚悟で参りました。そして我友の目的はその書状に書かれている通りにございます。その目的に比ぶれば私の命など斧より軽い」


 「ほう。そなたにそこまで言わせるとはな」


 そう言いながらスノウがムーサ王から受け取った書状の中身を取り出し読み始める。

 王は一瞬眉を顰めた後、目を閉じた。

 しばらくの沈黙の後、王はゆっくりと口を開いた。


 「人払を。それと司祭を呼べ」


 王の指示に従って謁見の間にいた者達が一斉に出ていった。

 しばらくしてから司祭がやってきた。


 「王様!一体なんなのですか?!わたくしは忙しいのですよ?!いくら王の命令とは言え、急に呼びつけるのはやめていただきたいのであるが?おや?おやおや?!そこにいるのは王の愚息、ゴーザノル王子ではありませんか!いよいよ観念して年貢を納めにきましたか!審判の時が楽しみですねぇ!ブホホホホ!」


 ドワーフにしては細身だが腹だけ異常に飛び出ている着飾った男が謁見の間に入ってきた。

 この国の司祭のようだ。


 「これを読め」


 「何ですか?いきなり!本当に人使いが荒いお人だ!いい死に方できませんよ。それでなんですか?」


 司祭は首に下げていた眼鏡をかけて書状を読み始める。


 「ふむふむ‥‥なんと!」


 司祭の顔が変わる。

 司祭が理解したのを確認した王は話始めた。


 「事情は分かった。俄(にわか)には信じがたいが、かのムーサ王の言葉だ。嘘偽りはなかろう。そしてその隕石とやらが降ってくるのを阻止する話、そのスメラギとやらの技術力ではおそらく対処しきれぬであろう。人間の王家と我らドワーフの王家だけに伝わる伝承を実行に移す時がきたと言うわけか」


 「聖なるタクトですね?」


 「そうだ」


 「それはどこに?普通に考えればドワーフの古の技術によって作られたものと思います。そしてもしそうならこの国のどこかに保管されているのでは?」


 「いや、これは伝承にある神によってドワーフ族とヒト族との永遠の共生関係を確約するものだ。どちらか一方で持つ話ではない。伝承ではこう言われている。ヒト族が素材を持ち、ドワーフ族が技術を持つ。その素材と技術の融合が聖なるタクトを生むと。ムーサ王はそなたらに何か託してはおらぬか?」


 「もしかして‥‥」


 「もしかするな!」


 エスティとゴーザは顔を見合わせる。


 「お、恐れながら王様。あたしの名はエスティと申します。王を幽閉した悪魔が王に成り代わって偽王として何かを画策していたのですが、先般こちらのゴーザ殿とともにその悪魔を打ち倒し王をお救い申し上げました。その際に頂いた品がこちらのアウロ・ソナスという細身の剣なのですがラザレ王国に伝わる最高級の宝と聞いております。もしかするとこちらがその素材と言われているものではないでしょうか?」


 「見せてみよ」


 王は司祭に受け取るように目配せする。


 「きー!私はあなたの召使いじゃないんですからね!この恨み忘れませんよ?!全く!」


 ぶつぶつ文句を言いながら司祭はエスティからアウロ・ソナスと呼ばれる細身の剣を受け取り、エンキ王に手渡す。


 「‥‥‥‥」


 エンキ王はアウロ・ソナスを手に取りじっくりと見定めている。


 「すばらしい。間違いないであろう。これは聖なるタクトの素材だ」


 「おお!やはり!」


 ゴーザはガッツポーズをし、エスティは親指を立てて “やった” と言わんばかりの合図を送る。

 だがスノウは少し浮かない顔だった。


 「では王よ、あとは我らがドワーフの技術をもって聖なるタクトへと鍛えればよいのですね!」


 「‥‥ううむ‥‥」


 眉間に皺をよせ険しい表情でエンキ王は答えた。


 「いや‥‥この伝承を実行に移すのは諦めねばならない」


 「どういうことですか?!」


 王は司祭に話すよう促す。


 「ああもう!面倒くさいですね!本当にこんなタイミングで帰ってきておきながら私を煩わせるなんて!ゴーザノル王子!審判の結果、覚悟しておいてくださいよ!ええっと、このアウロ・ソナスと言われる素材を鍛えられる人物はもういないのです」


 「なんですって?!」


 「どういうことですか?王よ!」


 「我らが生き神の製鉄神ブロンテースなのだ。アウロ・ソナスを鍛え唯一聖なるタクトこの世に生み出せる技術を持った者はな」


 「そして、その製鉄の神は急に会話ができない状態になって体が溶け出して見るもおぞましい化け物になりはててしまったって事ですよ!それでこの地で暴れ回るもんですからねぇ、追放したんです!」


 「な?!」


 一同は重くるしい空気のまま言葉を失った。





2/19修正

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なんとか2〜3話/週でアップできるように頑張ろうっと。

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