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<ティフェレト編>29.スメラギ

29.スメラギ



 「ソニアはどうした?弱虫な弟と話すことはないのだが?」


 「くっ!」


 (なんだ?因縁でもあるのか?)


 目の前の長身細身の黒髪女は最初の一言とはうって変わって高圧的な口調に変わり、ソニックを蔑(さげす)むような眼差しで話しかけた。

 スノウたちは開けた中庭に招かれた。

 ソニックがスノウの袖を引き囁く。


 「スノウ、気をつけて下さい。彼女は・・彼女の一族テッセン家は生粋の戦闘の名家なのですがその戦い方は狡猾で手段を選びません。勝つことだけを突き詰めた強者です」


 「え?」


 (何言ってんの?!これから戦いになるので気をつけてください的な・・・)


 「さて、このあたりでいいだろう。そうだな、弱虫な弟では相手にならんからそこの貴様にしよう」


 そう言いながらリュラーのひとりであるルーナ・テッセンはスノウを指さした。

 戦う気満々なオーラでスノウを指名したのだ。


 「えっと、スメラギ様に重大な手紙を預かっておりましてそれをお届けに来ただけなんですけど・・・」


 「それで?」


 「それでとは?」


 「貴様馬鹿なのか?我が主人のスメラギ様への手紙は貴様が生きていようが死んでいようがどちらでもよいではないか。死んだら死んだで死体となった貴様から回収すれば済むことだ。それよりも貴様がスメラギ様の脅威なのかどうかを見極めるのが先だと思わないか?」


 「あらら、そういうことですか」


 スノウはやれやれといった表情でルーナから少し距離を取る。

 すかさずソニックがそばに寄ってきて耳打ちする。


 「スノウ、少し手を抜いてください。本気を出されると圧倒的な実力差を見せつけることになります。拮抗(きっこう)させて互角と思わせるのがベストです。圧倒的な力差を見せつけるとどんな汚い手を使い始めるかわかりません。とにかく態度は大きいのに姑息な手を使ってきますから」


 (過去にそうとうひどいことされたのか?なんだかやたら汚い手を使うことを強調してくるな、ソニックのやつ)


 「わかったよ」


 そう言うとスノウは戦闘モードに入る。

 ただし、ソニックが言うように手を抜くつもりはスノウにはなかった。

 自分の強さにはそれなりの自信はあるが、世の中には自分より強いやつらがいることも三足烏の経験から十分知っているからだ。

 相手の強さを知るまでは気を抜けない。

 まずは防御に徹することにした。


 「じゃぁ弱虫な弟、貴様の合図で始めようか」


 「わかりました。コイントスで地面に落ちる瞬間で開始とさせていただきます」


 そういうとソニックはポケットからコインを取り出す。

 周囲にピリピリとした緊張感が漂う。

 ソニックは右手の上にコインを乗せ、親指で勢いよく弾く。

 コインは空中をくるくると周りながら上に飛ぶ。

 高く飛んだコインは勢いを失い降下を始める。

 スノウはフラガラッハの柄に手を添える。

 コインが落ちる。

 身構えるスノウ。

 次の瞬間、突然フラガラッハの柄を握る手が切断され吹き飛ぶ。


 「!!」


 「スノウ!」


 (なんだ?!何が起きた?!)


 そしてコインが地面に触れる。

 触れた瞬間に凄まじいスピードでルーナが刀を突き立てて迫ってきた。

 利き腕が切られていた為フラガラッハで受けることができないスノウは体を仰け反ってかろうじて避けた。


 「勘のいい奴め!」


 スノウが体勢を整えようとしているがルーナはその隙を与えない。

 ルーナは体を捻り刀をスノウの首目掛けて真横に振る。


 (こいつ、マジで殺す気か!)


 スノウはルーナの刀の柄の部分を足で抑えるように蹴りを繰り出し寸でのところで刀の動きを止める。

 そのまま後ろに飛び距離を取る。


 「ふぅ〜、早速せこいまねしてくれたな。あんたの武器、刀じゃないだろう?」


 「・・・・」


 「そのカイザーナックルっていうのかな、両手で握っているやつ。上から手袋で隠しているから見えなかったが、あんたの得意な武技は拳闘だろう?コイントスでコインが落ちる前にとても早い突きを放って衝撃を飛ばしたんだな。あ、そうか・・・確か音撃っていう二つ名だったっけ。打撃を音で飛ばすってやつかな?想像だが!」


 そう言い放つや否や凄まじい速度でルーナに詰め寄りフラガラッハを振り下ろす。


 ガキィィン!!!


 ルーナはフラガラッハを両手で受けた。

 手袋が敗れ両手につけられた輝くカイザーナックルが露わになる。


 「貴様!手は切り落としたはずだ!」


 「ああ、これね。さっき長々と喋っている間にこっそり治したんだよ。作戦がバレて図星つかれて同様している時が一番隙ができるからね」


 「治した?!どんな音魔法だ?貴様悪魔か?!」


 「へぇ、悪魔を知っているってことか」


 「くっ!もう喋るな!」


 そう言いながらルーナは正拳連撃を繰り出す。


 「喋るなって、あんたが勝手に喋ってるだけだろう?」


 パシパパンパシパシ。


 スノウは正拳連撃を全て片手で払う。

 次第にスピードが上がっていくが、軽々と片手で払い続けている。

 一方ソニックは戦闘前に手加減するように忠告したにも関わらずやり過ぎているスノウを見て今後の展開を心配しつつも、ルーナを圧倒している姿を見て誇らしく思っていた。

 というより、何かの因縁があるのかスカッとした笑みを浮かべている。


 「なめおって!許さん!手加減するのはやめてやろう!」


 「ははは、弱いやつのセリフだな」


 「何をぉぉ?!」


 ルーナは少し距離を取り、空を切るように正拳連撃を繰り出す。

 そして正拳連撃に加え、蹴りも繰り出す。

 蹴りを避けるために手で払おうとした瞬間その手が切断され飛ばされる。


 「うぐ!!」


 「スノウ!」


 笑みを浮かべていたソニックの表情は一気に不安なものに変わる。


 (なるほど!そういうことか!)


 さらに止まらない蹴りをスノウは片手で避けているが、蹴りだけではなく何もないところも避けている。

 いや、微かな光の点が見えている。

 その光の点も片手で避けているのだ。


 「めんどくせぇな・・・」


 スノウはバリアオブアースウォールを唱える。

 目の前に土の壁が現れるが数度の突きと蹴りですぐ破壊されてしまう。

 しかし壊しても壊しても新たな壁が現れる。

 スノウは連続で壁魔法を詠唱していた。


 「小賢しい!そんなに我の攻撃が恐ろしいか!」


 ルーナはさらにスピードを上げて壁が生成されるよりも早く壊していく。

 そしてついに壁を壊し尽くした。


 「とどめだぁ!死ねぇ!」


 ルーナは壊れていく壁の先にいるスノウに向かって渾身の正拳を放つ。

 しかし、途中で放った正拳を止めた。


 「死ねぇとは物騒だな」


 「くっ!!き、貴様どうやって?!」


 いつの間にかスノウはルーナの背後に回って彼女の首元にフラガラッハを突きつけていたのだ。

 しかも切り落とされた腕は治っており、身動きが取れないようにルーナの左腕を掴み締め上げている。


 「そこまでです」


 建物の入り口付近から、いつのまにか長身細身で黒髪女性が立っており、戦いを制した。

 その容姿は、スノウが剣を突きつけて追い詰めている目の前の女性と瓜二つだった。


 「!」


 (双子か?!)


 瓜二つの人物が現れて一瞬そう思ったスノウだったが、目の前で取り押さえているはずのルーナがいつのまにか消えていることに気づく。


 (な、なんだ?!いったいどういう事だ?!)


 「失礼しました、客人」


 長身黒髪女性が話始める。


 「種明かしをすると、私の特技は拳撃を音として飛ばすだけではなく、自分自身を音として飛ばし攻撃させる事ができるというものです。客人が戦っていたのは私の音分身という事です。ですが、客人の実力は十分にわかりました。最大限の警戒をした上で話を聞きましょう」


 そういうと、手を拝むように合わせて何かを呟いた後、両手を広げるような動作をする。

 広げると同時に長身黒髪の女性と同じ人物が左右3体ずつ出現した。


 「ルーナ、私たちは戦いにきたのではありません。スメラギ様への重要な手紙を預かったのでそれをお届けにきただけです。警戒を解いてください」


 「あら、弱虫な弟。あなたがいるから一応こうやって応対させてもらっているのよ。それだけでも有難いと思いなさい。それともここで殺してあげましょうか?」


 「くっ!」


 コツ、コツ、コツ・・


 ルーナ本体の背後から白髪オールバックで白衣を着た人物が現れる。


 「私に重要な連絡とはなんですか?」


 (す、皇(すめらぎ)・・)


 同じ日本から越界した人物であり、この世界にエレキ魔法と呼ばれる電気文明を急速に浸透させ強大な力を持っている人物でもあるスメラギ。

 その企みが何なのかも気になるところではあったが、まずは偽の王になっている可能性にスメラギが関与しているかどうか、それを突き止めなければならない。


 (いや、その前にこの世界の危機を知らせこの目の前の越界人がどういう反応をするか見るのが先だ・・)


 スノウはソニックに目で合図し、手紙をルーナに渡させた。

 ルーナは何か危険がないかを分身に調べさせる。

 特に危険がない事を確認できると、スメラギにその手紙を手渡した。

 スメラギはその手紙を読み始める。

 ケースには手紙となにやら天体の様子が描かれたデータが印刷されたものも入っていた。


 「・・・・」


 さっと手紙に目を通した後、データの方に目をやりしばらく見つめている。


 「君たち、この手紙を届けてくれて礼を言う。この手紙を受け取った経緯を教えてくれないか?」


 スノウはソニックに再度目配せして説明するように指示する。


 「王室クエストのためにロアース山へ登山中に上から転げ落ちてきた男性を助けました。その男性をノーンザーレの病院に運んだ際にこの手紙をスメラギ様に届けてほしいと頼まれた為お届けにあがった次第です」


 「なるほど。それでこの手紙を見たかね?」


 ソニックのこめかみに汗が滴る。

 スノウはソニックを制して話始める。


 「見ています。ケースが壊れて手紙が少し破れている状態で飛び出していたので戻す際に見えてしまったという状況でした」


 「手紙の内容は理解したという事かな?」


 「よくわかりませんでした・・・・」


 「なるほど」


 (や、やばいな。なんか感づかれたか?相当警戒しているはずだからな。くそ・・傾向と対策なしに突き進むとこうなるって事か・・)


 「よし。それではこれからロアース山頂の天文台に向かう。内容を理解できていないとは言え、事が事だけに君たちにも同行してもらうよ。そこの電気自動車に乗って待っていてくれたまえ」


 「わかりました」


 スノウはひとまずやり過ごせたと思い、言われるままに電気自動車の方に近づいていく。

 ソニックとゴーザは何を言われたのかわからず、とりあえずスノウについていく。


 「そこの銀髪のキミ。ちょっと待ちたまえ」


 「!!」


 「キミはこちらへ来たまえ。少し話がしたい」


 スメラギにスノウだけ建物の中の執務室に連れて行かれた。

 ソニックとゴーザは中庭で待つことになった。

 数人のルーナが2人を監視している形のため、迂闊に動けない状態となった。

 建物に入る直前、ソニックとゴーザに目をやるが、ふたりとも少しだけ不安そうな表情を浮かべている。

 だが、いざとなったら戦闘も辞さない表情でもあった。


・・・・・


 「そこにかけたまえ。さて・・」


 スメラギは執務室にあるソファに座るよう促す。


 「さっそくだが、私は2020年の日本からこのティフェレトに来た。キミはこの世界に来てどれくらいだ?何年から越えてきたのだ?」


 「!」


 スノウはスメラギに感づかれているのか、ひっかけの質問をされているのかわからなかったが、ここで嘘をついて警戒度合いをあげられるのはまずいと思い、素直に自分が日本から来たと告げる事にした。


 「ええっと・・。約1ヶ月くらいです。その前はホドと言われる別の世界にいました。そこにはかなり長くいました。そのホドに飛んでくる前は2019年でしたが・・」


 「やはりか」


 「なぜ私が越界者だとわかったのですか?」


 「理由は三つだね。普通ティフェレト人だと、私のこの身分に恐縮するか、この世界を変えた時代の寵児としてスターを見るような態度を取る。これはほぼ100%どちらかだ。だがキミは違った。私を見ても恐縮も憧憬(しょうけい)も感じられなかった。強いて言うなら警戒しんだね。そしてもうひとつは、明らかにこの手紙の内容を理解しているのに理解していないフリをした。表情の微妙な変化で理解したよ。この世界の住人は予備知識なしにこの内容を絶対に理解できないからね。知っているということはティフェレト人ではないということだ」


 「・・・・」


 (クソ・・やはりだめだったか・・)


 「そして三つ目で確信した。キミがもしティフェレト人なら電気自動車と聞いても何かわからないはずだ。この世界では電気はエレキ魔法という固有名詞になっているし、車自体もイーブイ(EV)という名でしか呼ばれていない。それなのにキミは電気自動車と聞いて迷いなくその物体に足をすすめたわけだ」


 「!」


 迂闊だったとスノウは思った。

 いや雪斗時代の自分に呼び戻されるような、過去に足を捕まれ引き戻されるようなそんな感覚を早く消し去るために、その原因となっているこの日本からの越界者、皇 承太郎氏に接触して自分は雪斗ではなくスノウである事を知らしめて、自分自身としても自覚したいと思っていた為に早くこの男と接触したかったと焦っていたのかもしれない。

 完全に情報が不足しており対策もないまま飛び込んでいった結果だとスノウは反省した。


 「それで・・キミの目的はなんだ?私に同郷のよしみで金でも借りにくるつもりできたか?それともこの手紙の内容を問いただし、対処方法があるのかを聞きに来たか?いや、日本に戻る方法でも聞きに来たのか?」


 「正直に言います。対処方法の有無と越界の方法の有無を聞きにきました。確かに手紙の内容は理解できていますし、ロアース山の頂上にあるのが天文台であるのも知っています。この世界の文明レベルでは天文台など作れるはずもないですから間違いなくあなたの力で作られたものだと思っていました。ですのでその内容に書かれている事は理解できました」


 「なるほど」


 「そして越界の方法については、日本に戻るのが目的ではありません。この世界にも知り合いができ、仲間もできました。できる事なら彼らを救いたい。そして救った後私はこのティフェレトにくる前にいたホドに戻りたい、いえ戻らなければならない事情があるんです」


 「ほう、日本ではなくそのホドという世界にか?」


 「ええ」


 「なるほど。私と同じであの日本に戻るつもりはないという事だね」


 「どういう事ですか?」


 「ん?キミならわかるだろう?日本、いやかつて存在していた地球全体が病んでいた。資本主義経済が運で築いた財力を武器に弱者を支配し、本来秩序と尊厳を持って向き合うべき科学を単なる金儲けの手段に貶めた世界。私はね、そんな世界にとことん嫌気がさしているのだよ。だが、このティフェレトは違う。まるで真っ白なキャンパスだ。好きなように塗る事ができる。現にこのノーンザーレは驚くほどの速さで近代化が進んだ。くだらない貴族どもはいるが、やつらはうまく使えばいい。力なき虚構の地位にしがみついているものたちでいずれは簡単に排除できるからね。そして私はこの世界で貧富の差もなく純粋に科学を突き詰めて秩序と尊厳を持って生活を営める理想の世界を作りたいのだよ」


 「・・・・」


 スメラギの話にいつのまにか引き込まれている自分がいた。

 日本、いや地球全体が病んでいるという考え方はスノウも全く同感だった。

 だから自分は日本に戻りたくないのだと。


 「賛同してくれているようだね」


 「?」


 「おや?不思議そうな顔をしているな。まぁ同郷のよしみだ。私の秘密を教えよう。私は天技というものを持っていてね。フォックスで冒険者登録した際にわかったものなのだがね。相手を見ると、なんとなく感覚でYes/Noの反応がわかるのだ。クローズドクエスチョンを投げるとわかりやすい。もしくは強く念じると相手を賛同させることもできる。フォックスでは精神感応とでていたが、これは思念の強さで精神操作ができるものだと私は思っている。だからといって警戒の必要はないよ。これは本当に心から強く願っているものでないと伝わらない上、精神操作には程遠く相手に理解を促すものでしかないからね。だが、今キミが私の意見に賛同しているかYes/Noくらいは感じる事ができたからそう言ったというわけだ」


 「そうなのですね」


 「それで話を戻すと、そんなわけでこの世界を終わらせるわけにはいかないという点では同じという事だ」


 「そうですね。そして私にも何かすべき事があるという事ですね?」


 「ほう、キミはなかなか頭がいいようだ。その通りだ。この世界を救う手を私はいくつか知っている」


 ダン!


 そう言いながら机にスノウが届けた天文台からの手紙とデータをならべ手で叩く。

 その手紙にはこう書かれていた。


―――――――――

スメラギ様


緊急事態連絡です。

天体望遠鏡がこの世界に接近する謎の星を捉えました。

見える大きさと想定の測定距離から直径はおよそマルシュアース山とほぼ同等規模です。

そしてこの世界に衝突するまでの期間はおよそ30日。

対策は検討できておりませんが取り急ぎ書面にてご報告させていただきました。

私は引き続き謎の星の動向の観察を続けます。


ロアース天文台所長


―――――――――


 この世界は巨大隕石によって滅亡の危機に瀕していたのだ。





12/26修正


少し忙しくなってきたので次回は次の木曜日になります

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