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<ティフェレト編>10.王と監視者

10.王と監視者



 「ここからは別行動にしよう」


 「え?!まさかスノウ!あたしを置いてどこか怪しいお店に行くんじゃないでしょうね?!こんな来たこともない街にあたし1人を放置するっていうの?!馬鹿だわよ!」


 「おい‥‥」


 スノウは呆れた顔で突っ込むのも面倒くさいといった態度で言葉を返す。


 「はぁ‥‥あのなぁ。明日にはこの街を出発するんだぞ?時間がないの!だから二手に分かれて情報収集しようって言ってるんだよ!」


 「ため息ついたね!ため息ついた!なにそれー!」


 (面倒くせぇ‥‥。一体何が望みだよ。最近おれの意見に賛同してくれることが多いからいいパートナーとしてこの先もやっていけそうと思わせておきながら定期的に見せるこの面倒臭さ。疲れる‥‥)


 エスティはただスノウと一緒に行動したいと思っているだけなのだが、それを事務的に遠ざけたスノウの態度に腹を立てていた。

 その心の内にどんな想いを秘めているかなど、雪斗時代から恋愛経験ほぼゼロのスノウにとっては分かるはずもなく、ただ気分がブレる存在にしか映っていなかった。

 なんとかエスティを宥めすかして納得してもらった後、2人は別々に行動することとなった。

 スノウは西側。地図で言うと、ノーンザ中央地側だ。

 エスティは東側。メルセン地方側でこの街に入ってきた周辺だ。

 既にざっくりと街並みは見ており多少安全を確認できているため、エスティを東側としたのだ。

 最悪困ったらリクドー医師を頼ればいい。

 最後まで不満そうな顔をしていたエスティだったが、彼女をあえて東側にしたスノウの優しさには気づいていない。


 「全く。こんな見知らぬ街でどうしろっていうのよ。だいたい情報収集とはいえ、女性から声かけるってさ。勘違いされたらどうするのよ」


 エスティは地面を蹴りながら文句を言っている。

 頭の中で想像が膨らんでいるようで怒りが込み上げている。

 その後の展開で何やらハレンチなことを想像したのか、勝手に顔を赤らめて小走りになった。

 周囲の人はその怪しげな行動を見て関わらないようにと距離をとっている。

 最早おかしな妄想が頭から離れずに赤らめた顔で周囲も見えず小走りになっているエスティは通行人とぶつかって吹き飛ばしてしまう。


 「あ!すみません!すいません!」


 我ながらおかしな妄想で周囲も見えずに他人にぶつかってしまうとは情けないとばかりに必死に謝るエスティ。

 吹き飛ばされたのは大男だった。

 その大男も前方不注意だったのか、何にぶつかって吹き飛んだかわからず一瞬混乱したようだったが、目の前の紫髪の女性が必死に謝っているのを見て状況を察した。

 その上で文句を言ってやろうと立ち上がる。

 大男は2メートルはあろうかという高身長で筋骨隆々だった。

 顔に傷のある強面でその見た目からすれ違う人たちは皆避けていたが、変な妄想に取り憑かれていたエスティには大男は見えているはずもなく、ぶつかってしまったのだ。


 「てててめぇぇ!どどこを見てんだぁ?!おお俺を誰だと、おおお思ってんだぁ?!」


 目の前の大男を見て、謝っている自分が馬鹿らしくなったエスティ。

 ぶつかってしまったのはお互い様なのに、何故この大男は怒鳴り散らしているのか。

 しかも体格差的に自分が吹っ飛ぶはずなのに、大男が吹っ飛んだ状況から自分がどれだけ怪力重量級女なのだと周りに見られているのでは?とさらに妄想を膨らませ次第に怒りが膨れ上がってきたのだ。

 とはいえ、声を荒げている大男に荒げ返してはさらに怪力重量級女を印象付けてしまうの思い、怒りをグッと抑えて答える。


 「どなたかは存じませんが、失礼しました。ですがぶつかってしまったのはお互い様では?ここは双方が謝罪して終わり、としてはいかがかしら?」


 「ははぁ?ばば馬鹿かお前。ななんで吹き飛ばされたおお俺がああ謝らなくちゃいけないんだよぅ」


 思わぬ切り返しに怒りボルテージが振り切れた。


 「じゃぁきちんとお詫びいたしますのでこちらへどうぞ」


 口調はあくまで落ち着いた感じで、だが毛は逆立っており、そのまま相手の腕を掴み路地裏に誘導する。

 大男は抵抗するが怪力そうに見えるにも関わらず軽々と連れていかれる。

 エスティは周りに誰もいないことを念入りに確認した。


 「さぁて‥」


 凄まじい殺気を放つ目の前の紫髪の女に死を覚悟するような恐怖を抱く大男。


 (まままじでやばい!こここ殺される!しし死にたくない!)


 「おおおい!きょきょきょ今日のところはこれで許してやる!から、おおおおいらを逃がせ!」


 その見た目とアンマッチな言葉遣いに普通なら違和感を覚えるが、エスティにはどうでもよかった、というより気にしていなかった。

 彼女の頭の中は振り切った怒りで、この大男をどうボッコボコにするかしかなかったのだ。


 「覚悟はいいかしら?」


 ほんのわずかの理性が、剣に手をかけるのを止めているが、握る拳は相手を屠る勢いだ。

 大男の目には小柄な女性が自分の倍以上の大きさに見えている。

 炎のオーラを背負った姿で。

 次の瞬間、一瞬光ったかと思ったら目の前に15歳程度のきゃしゃな体つきの少年が目の前で土下座をしている状態となった。

 面食らったエスティは数秒呆けていたが、顔を横に振り我に返った。

 怒りは吹き飛び、目の前の状況の整理で思考をフル回転させている。


 (敵?!三足烏?!この弱々しい姿はカモフラージュ?わざと路地裏に行くように仕向けた?この土下座、油断させるため?隙を見て致命傷を負わせる戦法?いや、でも姑息すぎる。探るか‥‥)

 一応警戒し剣に手をそえたまま問いかける。


 「赤毛とぐろは元気かしら?あなたはどの隊の者?」


 「あわわぁ!」


 大男だったはずの少年は誤魔化している様子もなく、エスティが剣に手をかけている状況に死をイメージし恐怖に慄いている。

 エスティは、ライジの裏切りもあり警戒に余念はない。


 (とぼけているわね‥演技か?攻撃を受ける前に殺すか‥‥いやもし三足烏ではなかったら、単なる殺人犯になってしまう。指の1〜2本切り落としておくか?‥‥いやもう少し探ろう。ちょっと隙を見せてみるか)


 「しらばっくれるのね。いいわ、これからたっぷり拷‥‥は‥‥は‥‥」


 エスティは少しわざとらしくなっているが、くしゃみが出そうな仕草をする。


 「ハクチョ!」


 攻撃するには十分な隙だった。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 しかし少年は攻撃するどころか、エスティのくしゃみに驚いてひっくり返り、気を失って泡を吹いて倒れた。

 エスティは白目を剥いている目に息を吹きかけたり、脈をチェックしたりと大男だったはずの少年の状態を診たが、どうやら本当に気絶しているようだった。


 (なんなのよこの子‥‥)


 エスティはとりあえず回復魔法をかける。



・・・・・


・・・



 一方、西側を散策中のスノウ。

 通りを歩きながら周りの人々の会話を聞きある程度西側エリアを把握した。

 西側は東西に走る大通りが商店街になっており、賑わいを見せてる。

 この大通りを挟んで北側が高級住宅地、南側は中流層の住宅、さらに南は貧困層区画がありその中には闇市なるものがあるらしい。

 中流層と思われる人たちの会話から、高級アクセサリや嗜好品は闇市で買った方が安いということだ。

 中には上流層から盗まれた盗品も売られるらしく、それらを取り締まる私設警察のような組織があるとのことだ。

 会話中、闇市で素敵なダイヤのネックレスを買った知人が幸運だったと周りに自慢していたらしいが、私設警察の耳に入り逮捕され終身刑になったという話がスノウの耳に入ってきた。


 (私設警察か‥‥警戒しておいた方がいいな。おそらく上流階級が作った組織だろう。自分たちから盗んだもの取り返すのと、その泥棒を取り締まる機関として作られたに違いない。何かあればレネトーズの名前を出せばなんとかなりそうだが、あまり事を荒立てて護衛同行の機会を失うわけにはいかない。ケリーを救うチャンスが限りなくゼロに近づいてしまうからな)


 スノウは色々と側耳たてて聞いてきた会話から状況を整理した。


 (このおれの格好はまさに冒険者だからな。高級住宅区画を彷徨いていたらそれこそ怪しい人になってしまうから、探るなら南側の暗部からだろう。とりあえず闇市に行ってみるか。何も買わなければ私設警察に目を付けられることもないだろうからな)


 そう整理した後、スノウは闇市の方向に足を向ける。

 このメルセボーは、巨大な街だ。

 ノーンザ中央地とメルセン地方を結ぶ貿易の拠点でもあり、さまざまな物品が店先に並んでいる。


 (ノーンザーレはこの街以上らしいからな。装備とかはノーンザーレで買おう。道具関連で必要最低限のものだけをここで買うかな。だが買うなら闇市ではなく中央通りの店だな)


 スノウは中流層区画から貧困層区画に入り、そのまま闇市に到着した。

 至るところに貧困層でも中流層でもない雰囲気の者たちがおり、明らかに私設警察だった。


(これは何か情報を得ようと動くだけでやばそうだな‥‥)


 スノウは闇市で物色するフリをしながら聞き耳を立てるだけにした。

 得られた情報は以下の3つだった。


  ①王が人が変わったようになり貧富の差が広がっている。

  ②キタラ聖教会が貧困層や中流層の援助を行っており、王政側としばしば衝突しているらしい。

  ③貴族の横暴が黙認されている。違法な物品が出回り初めているが裏で貴族が糸を引いているらしい。


 これからの旅に関わる情報としては以上だが、特に②についてはキタラ聖教会を頼った人たちまで弾圧された事例があり、この世界の大半を占める中流層は、本心はキタラ聖教会を頼りたいのだがしぶしぶ王政に従っているようで、キタラ聖教会側が次第に圧されているとの事だった。


 (この私設警察の多さは、単なる治安維持が目的ではなく中流層、貧困層から王政に歯向かう者を取り押さえるのが目的だな。王政にいいカッコする為の点数稼ぎか‥‥)


 後どうでもよさそうな情報としては以下があった。

  ④ノーンザーレ北にあるロアース山頂にある王立天文台に新たな所長が就任した。

  ⑤今年は大寒波が襲ってくるらしい

  ⑥東側にうまい料理を出す店がオープンした

  ⑦フォックスで数年ぶりにダイヤモンド級冒険者が現れた


 スノウは⑦についてあまりの情報流布の速さに驚いたが、同時にまずいと思っていた。


 (目立つ行動は控えないとな‥‥ははは)


 これ以上の詮索は私設警察に目を付けられると考え、戻ることにした。

 帰り道貧困層エリアから中流層エリア入るあたりの人気のない路地の道端で物乞いをしている人に硬貨を渡している人影が見えた。

 白地に青いラインの入ったローブを着ており、噂に聞いたキタラ聖教徒だとすぐにわかった。


 (貧困層に対して施しをしているところを見ると得られた情報はあながち嘘でもなさそうだな)


 スノウは少し様子を見ることにした。

 すると、どこからともなく方々から人影が現れた。

 数にして3名。

 服装はバラバラだが、雰囲気はほぼ同じで威圧的なオーラを放ち、そのどれもが楽しんでいるかのようなものだった。


 (私設警察‥‥あの教徒と物乞い‥‥やばいな。点数稼ぎの餌食にされるぞ、きっと‥)


 想像に易しかった。


 「貴様。キタラ聖教徒だな?そうやって賄賂を渡して王政に歯向かう者を増やそうとしているという情報はどうやら本当だったようだ。王政反逆罪の現行犯で逮捕する」


 無茶苦茶な理由だった。

 見るからに小柄のローブの男はなす術なく捕まってしまう。


 「な、何をするのです!何という言いがかり。離して下さい!」


 ローブの男は争うが力で抑えられており逃れられない。


 (うむぅ。どうする?助けるか、見過ごすか‥‥)


 スノウの脳内で存在感を強めているエントワがいつもの腕を組んだ状態で厳しい目を向けている。


 (はぁ。ややこしくしてくれるよな‥‥わかりましたよ師匠)


 要は、誰にも見られなければよいのだ。

 スノウはありったけの素早さ向上魔法をかけて一気に3名を気絶させ、元の物陰に戻る策にでる。

 予想通り、3人の私設警察はスノウの存在に気づく間も無く首に一撃を加えられ一瞬で気絶した。

 物乞いも同様にスノウの存在に気付くことなく突然バタバタと倒れた私設警察を見て呆然としている。

 だが、ローブから除く顔だけは違った。

 私設警察を気絶させる動きの間、スノウはその顔を見ていたが深く引き込まれるような碧い瞳が常人では捉えられないはずのスノウの一連の動きを追っていたのだ。

 そして最後少し微笑んでいた。


 (見られた!)


 物陰に戻ったスノウは不味いと思った。

 見られたこともそうだが、何よりあのスピードを捉えられる動体視力を持った存在が弱々しい私設警察の捕縛に抗えないフリをしていた事に罠の匂いを感じたからだ。

 スノウは足早にエスティとの合流地点に向かう。

 そうこうしている内に日が暮れ、合流時間になっていた。

 宿の部屋に戻ると既にエスティは戻っていた。

 が、いるはずのない3人目がそこにいた。


 「ああ、スノウおかえり」


 「あ、どうもお帰りなさいっす」


 「‥‥‥‥」


 沈黙が数秒続く。


 「は?!っておい!おかえりじゃねぇだろ!お前誰だよ!ってかエスティもおれがこの状況あたかも知っているような素振りでおかえりとか言っている場合じゃないだろ!」


 「もう、本当にうるさいわね。あたしのこの状況見てこの子が敵じゃないと悟りなさいよ。この子にあたしやあなたをどうこうできる力なんて1ミクロンもないんだから」


 「ははは‥‥アネゴ、キツイっすね‥オイラに対して‥‥」


 「確かにこの程度のガキなら一秒かからずに息の根止められるけど、もしそれで殺してたらどうするんだよ!まず説明だろ!」


 「ははは‥‥ダンナ、恐ろしいっすね‥オイラに対して‥‥」


 スノウが戻るなり、エスティといきなりの言い合いになっていた。


 「いや、お二人ともオイラのためにケンカはやめてっすよ」


 「誰がお前のためだ」

 「誰があんたのためだ」


 言い合っているのに息はピッタリだった。



・・・・・


・・・



 少し言い合った後、落ち着いて事情を聞いた。


 「簡単に言うと、ぶつかった大男は実はこのガキで、話している内に意気投合して行く当てがないから連れてきたと?」


 「ええ」


 「それで、聞いたらエメラルド級冒険者だというからわざわざレストール卿に仲間だと言って推薦状をもらって通行証も貰ってきたと?」


 「ええ」


 「それでエスティ、君の意見はこのガキは役に立つからこの先の旅に同行させたいと?」


 「ええ」


 「わけわからんだろ!忘れたのか?ライジの件!」


 「そんなのあたしが一番心に刻み込んだ話でしょ!言われなくたってわかるわよ!でも騎士道に反するんだもの、こういう弱々しい子を放っておくことが!」


 「ぐっ‥‥」


 思わず言葉を失うスノウ。

 自分も同じだったからだ。

 私設警察に目を付けられるリスクを承知でキタラ聖教徒と物乞いを救ってしまったことと、あの碧い目の教徒が怪しい存在だったことからエスティをこれ以上責められないとスノウは思った。

 自分の中にもエントワがいて騎士道に反する事にストレスを感じるようになっていたのだ。


 (やってくれたなエントワ。あんたのダンディズムは確実に生きてるよ。厄介なほどに‥‥言うなればエントワ病ってやつだな‥‥)


 「わかった。だが、このガキが何かしでかした際はエスティ、君が対処しろよ」


 「わかってる。あたしが責任を持って殺す」


 「!」


 青ざめる少年。


 (なんて人についてきちまったんだオイラ‥‥)



――1時間後――


 少年はスノウの執拗な尋問にヘトヘトになったようだ。

 少年はレンという名前で音魔法に長けており特殊な魔法を使えた。


 「なるほど、レン。君は人に触れた時の音を掴んで自分の体に纏わせることでその人の容姿を再現できる音魔法が使えるってことなんだな?」


 「そうっすダンナ」


 いわゆる変身能力のようなもので、実際に触ることも出来その質感は肌触り、細かい皺までを完全にコピーするほどだった。

 ただ、その効力は長くなく、レンが持っているバレンという球体の中に音叉が入ったような魔導具に転写した音が鳴り響いている間だけとのことで長くて30分、短いと数分とのことだった。

 因みにそのバレンという魔導具無しでその魔法を使う場合、1分と持たないらしい。

 しかも怪力に変身しても怪力になるわけではないらしく、力や戦闘力は少年のままとの事だ。


 「そのダンナってのやめてくれないか?」


 「ダンナはダンナっす。オイラこんな風に誰かを頼りながら生きてきたっすから今更変えられないっすよ。スノウのダンナ」


 「せめてスノウのアニキくらいにしてくれ」

 

 (ダンナって言われると雪斗時代のアラフォーに戻った気になって滅入るからな‥‥)


 「おお!いいっすねアニキ!じゃぁアニキって呼ばせてもらうっす。スノウのアニキにエスティのアネゴ。なんかお二人さん夫婦みたいっすね」


 バッゴーン!


 目を疑うほどの速さで殴られ吹き飛ぶレン。

 殴ったのはエスティだったが、その顔は真っ赤になっており、隠せない笑みが溢れている。


 「な!何を言うのかしらねレンったら!あたしとスノウが夫婦なんてあるわけないでしょ!そりゃなくもないかもしれないけど、そんな風に見えたってことよね!もぅー馬鹿だわねー!でも見えたのならしょうがないか!って全く馬鹿だわ!」


 レンの生死は定かではない。



・・・・・


・・・



 回復魔法で一命を取り留めたレンと会話再開。


 「アニキの言う通りっす。この世界を治めている王は1年ほど前から人が変わったようになって急にオイラみたいな貧しいものたちに意地悪くなったっす。そんで優しくしてくれたキタラ聖教会の人たちまでいじめる始末で、途方にくれてたっすよ。そんな時にアネゴにぶつかっちまったって感じっすよね」


 レンは常に笑顔の少年だ。

 辛い生活を強いられてきたはずだが、変身音魔法のおかげもありなんとか食い繋いで生きてきたようだ。

 しかし、その辛い生活にも関わらず絶えない笑顔のポジティブさは尊敬に値するとスノウは思った。


 「そうそう、アニキたちはこの世界のお伽話を知ってるっすか?」


 「お伽話?」


 「そうっす。おっとその様子じゃぁ知らないってことっすね。じゃぁオイラが説明するっすよ」



・・・・・



 その昔、ティフェレトは作物はあまり育たず人々は貧しい生活をしていた。


 あるところに農業を営む若い兄弟がいた。


 兄の名はプレクトラム、弟の名はズュゴン。


 ある日いつものように畑を耕していた時、突然2人の前に神が現れた。


 その神は兄に告げる。


 「この世界は病んでいる。お前たちのうちどちらかが王になりこの世界を治め救うのだ」と。


 兄弟ふたりとも王になるなんて想像もしていなかったから神お告げに驚いた。


 神は続けて告げる。


 「いかに良き王であろうと、何代も経ると欲にまみれ民を圧する。それを戒める存在もまた必要だ。お前たちのうちどちらかがその王を戒める存在になり、王の治める世界が良き時代であり続けるように監視するのだ」と。


 だが条件があった。

 監視役は王を戒める力を持つ代わりにその代償として目と言葉を失うと。

 しかもその代償は監視者の血筋に永遠に受け継がれると。


 王は華やかな立場、監視役は過酷な立場。

 もし神のお告げに従う場合、兄は監視者になるつもりだった。

 幼い弟にそのような過酷な運命を背負わせるわけにはいかなかったのだ。


 兄のプレクトラムは神に申し出る。


 「ありがたいお言葉。許されるのであれば一晩だけその重責を私たち兄弟が背負えるか考えさせてください」と。


 兄は人々の生活が少しでも良くなるならと神お告げに従う事にした。

 当然弟を王にするつもりだった。


 次の日、兄は神のお告げに従う事を伝えるため、神が現れた場所で祈り神を待つ事にした。

 すると神が現れた。

 黒目が消え盲目となり、言葉を失った弟と共に。


 なんと、弟が先に神に申し出て兄を王に、自分を監視者にと願ったのだった。


 兄は泣いた。


 だが、言葉を失った弟は心の声を直接兄の心に伝えてこう言った。


 「兄さんは強くて優しい。僕を守ってくれたようにこの世界みんなを守って?僕には兄さんと一緒にいる事しかできないから」と。


 そうして生まれたのが初代ラザレ王国国王 プレクトラム・マッカーバイ。

 そして弟は、兄を支え、神の教えを広めるためにキタラ聖教会を作り初代教祖 ズュゴン・マッカーバイとなった。


・・・・・・・・・



 「ラザレ王国を作った初代王のプレクトラム・マッカーバイとその弟のズュゴン・マッカーバイの話っす。本当かどうか分からないっすけど、ティフェレト人はみんな信じてるっす」


 「そうすると、今人が変わったような王が敷く圧政とそれに対抗するキタラ聖教会はまさにお伽話の王と監視者のようになっているって事か?」


 「そうっすね。みんなそう思っていると思うっす。でも口に出したら私設警察とかいう貴族の犬に捕まっちまうんでみんな黙ってますけどね」


 (相当な手練れに見えたローブの男は、目が碧かったから教祖じゃないって事か)


 「このまま進めば、あたしたちは何れ王側の者たちとキタラ側の者たちの両方に接触する事になるね。その前にどちらにどう関わるかを決めておく必要がありそうね」


 「ああ。その通りだ。実はおれも襲われた物乞いとキタラ聖教徒を助けるために私設警察を気絶させてしまったんだが‥‥」


 「はぁ?!何やってるのよあなたは!馬鹿だわね!」


 「おれの中のエントワが腕組んでプレッシャーかけてくれたもんでね‥‥」


 「ぐっ‥‥」


 スノウ、エスティともにお互い生きづらくなったなと思った。

 だが、嫌ではなかった。


 「それでその時助けたキタラのローブ男がおれの動きを捉えていたんだよ」


 「!」


 エスティは驚く。

 スノウは最早エスティでも目で追えるか自身のないほどの成長を遂げていたからだ。

 そんなスノウの動きを捉える存在は只者ではなかった。


 「その人が監視者の人かな」


 「いや視力があった。別人だ」


 「そっか。でもなんでだろう‥‥偶々かな‥‥それとも知ってて?!もしかしてグランディディエライト級の冒険者に接触しに来たとか?」


 「可能性はある。だが一応フォックスの受付女性の下手な演技を周りは信じたからおれはダイヤモンド級になっているはずだけどな」


 結局、自分たちが王側につくかキタラ側につくかの決定打になる情報がないという事でその場は保留とした。

 レンに対しては自分たちがホドから越界してきた事は伏せて、行きがかり上ハルピュイアを救う事になっている話を伝えた。

 ハルピュイアを助けると言う事は王側を敵に回す事に決めたのかと問われたが、ハルピュイアは助けるが王側と敵対するかどうかは別の話だとレンに説明した。

 だがレンは理解しなかったようだ。

 殺されたくなければ他言無用と念押しして就寝した。



・・・・・


・・・



 翌朝、レネトーズ卿とともにノーンザーレに向かって出発した。

 豪華な馬車、荷馬車に加え、しっかり護衛馬車を用意していたため、スノウ、エスティ、レンは護衛馬車に乗り込んだ。

 昨晩と馬車に乗った時にケリーから念話が届いており、丁重に扱われているという事でスノウは安心した。

 馬車一行はこの世界最大都市ノーンザーレを目指して出発した。








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