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<ティフェレト編>11.エレキ魔法

11.エレキ魔法



 メルセボーからノーンザーレに向けては広大な草原が広がっているだけだった。

 途中に小さな町や村があるが素通りした。

 食事は取らないのかとスノウは怪訝に思ったが、途中の開けた場所で御者がテーブルを広げ、弁当のようなものを並べ始めたのを見て理解した。

 優雅にワインのような酒も添えてあったからだ。


 「なるほどな。小さな町や村で食事を取るなんて大貴族には許されない事なんだな・・・・」


 スノウ、エスティ、レンはレネトーズ卿の食事中は魔物に襲われないように警護にあたった。

 のんびり優雅に食事を取るレネトーズ卿。

 2時間かけた食事はやっと終わり、自分たちの食事にありつけるかと思いきや馬車は走り出す。

 その直前質素なランチボックスが配られた。

 どうやら馬車の中で食べろとのことらしい。

 レンは不規則に揺れる馬車に酔ったのか質素とはいえ、せっかく食べたものを全て土に返した。

 その後、やたら足の早い象のような魔物や冒険者崩れの盗賊団に襲われたがスノウ、エスティの前では赤子同然だった。

 そして3日ほど経ち小高い丘の頂上についた時、中央に大きな広場のある巨大な街が見えた。


 ノーンザーレだ。


 巨大な街というより、街がいくつか集まった都市といった感じだった。

 まだ後半日はかかるであろうこの距離から見ても視界に入りきらないほどの大きさからすると、東京23区くらいあるかもしれない。


 「で、でっけぇーっすね!」


 「ええ、大きい街ね。素市ステーションくらいあるかしら」


 「アネゴ、素市ステーションってなんすか?」


 「え?!あ!?いえ、なんでもないわ、気にしないで。気にしたら殺すわよ」


 「ひえぇぇぇ!!」


 エスティには後でこっぴどく説教しないとな、とスノウは思った。

 10メートルはあろう外壁に阻まれて街全体は次第に見えなくなったが、どこまで続くのか分からないほどの長さの外壁を目の当たりにし、その巨大さを実感する

 そして巨大な門の前に到着した。

 外壁に小窓がいくつもついており、そこから何やら光の線が先頭馬車に向かってのびている。

 音の線が馬車に到達した瞬間、エコーのように音の波動が響く。

 どうやら馬車に乗っている人数を音で感知しているようだ。

 それに呼応するように御者がレネトーズ卿と自身の通行証をパチンと弾き、音のラインを外壁小窓に返す。

 御者はスノウたちにも同様の対応をするようジェスチャーで知らせる。


 (なるほど、通行証というから見せてチェックかと思ったが、さすがは音の世界。通行証から発する音で見分けるって言うことか。これなら下手なコピーなんて作れないな)


 スノウたちは御者と同様に通行証を弾いて音を飛ばした。

 音が外壁小窓に届き、確認が完了したようで巨大な門がゆっくりと開き始める。

 不思議と音はない。


 (音をどこかに閉じ込めているのか?)


 馬車が通れるほど空いたところで一行は壁内に入っていく。


 「!!」


 スノウは驚愕した。


 (電気だ!)


 そう、ホドにはなかった電光掲示板が存在していた。

 そこには車のようなものが写し出されており、開発者と思しき人がPRしているのが映っている。

 そして遠くに電車のようなものが動いているように見える。


 「なんだこの街は・・」


 「すごい魔法ね。これも音を使った仕掛けかしら」


 電光掲示板を見たことのないエスティやレンは驚いてはいるが、進んだ魔法仕掛けに驚いているだけでスノウの驚きとは全く別物だった。

 スノウの中で一つの仮説が浮かぶ。


 (まさか・・・・おれ以外に元の世界からきている存在がいるのか?そしてその人物がこの世界で発電設備を作り、電気を生み出して様々な文明の発展を行なっているんじゃ?)


 自分を越界させた富良野紫亜もまた、元の世界からきたわけであり自分以外の人間がこの異世界にきているのは十分有り得ることだった。

 急に嫌な汗が全身から噴き出る。

 スノウは元の世界と異世界の関係性や越界する方法を聞き出せる可能性が見えたという発想以上に、元の世界での自分の存在、つまり雪斗時代の悲惨な日常に引き戻される感覚に襲われ恐怖したのだ。


 「どうしたの?スノウ。なんかすごい汗・・・・顔色も悪いよ?」


 「あ、いや、大丈夫だ・・・・」


 大丈夫ではなかった。

 魔物を殺したり、敵対する人を殺したり、雪斗時代には考えられなかった行動を余儀なくされ心に大きなショックを受けていたはずだったが、心のどこかで夢を見ているような感覚があったのかもしれない。

 それが今、覚めようとしている。

 またあの自分の存在を否定された現実に引き戻される。

 気の知れた仲間、自分の存在を認めてもらえる環境、生き抜くための力、全て雪斗時代にはなかったものだ。

 それが今全て取り上げられ、また何もない雪斗に引き戻される感覚に陥ったのだ。

 足がガクガクと震え、立っていられなくなり馬車の中で倒れてしまう。

 自分の心はこんなにも脆かったのかと失意の中スノウは意識を失った。



・・・・・


・・・



 目が覚めるとベッドに寝ていた。


 「スノウ!よかった!目が覚めたね!」


 「アニキーっ!」


 エスティとレンが目を覚ましたスノウを見て喜ぶ。

 エスティは目に涙を溜めている。


 「ここは?」


 「宿屋だよ。あの後レネトーズ卿とは分かれて、宿屋に来たの。それより大丈夫なの?いきなり気を失って倒れるからびっくりしたよ!」


 「すまない・・大丈夫だよ」


 「それより、ケリーから念話はきているかい?」


 この街のことを聞くのが怖いのか、とにかく今やるべきことに意識を集中し続けていたい心境だった。


 「大丈夫、念話は来ているよ。レネトーズ卿の屋敷の敷地内にある倉庫みたいな建物の中で閉じ込められているみたいではあるけど、何か危害を加えられるような感じではないみたい」


 「屋敷の場所は見てきたっす!」


 「ありがとう、エスティ、レン」


 そう言いながらスノウは起き上がる。


 「おれはどれくらい気を失っていた?」


 「半日くらいよ」


 「そうか。レネトーズ卿がケリーやハーピーの羽をどうしようとしているのかを突き止めなければならない」


 「そうね。それでどうする?」


 「本当はノーンザーレに着く前にレネトーズ卿を拷問して聞き出し、脅して従わせることも考えていたんだが、レンが加わったことでもっと穏便に対応することができそうだ」


 「え?!オイラっすか?!」


 「ああ!レンにレネトーズ卿の屋敷で働く者に音変化させて潜入させ探るのね」


 「その通りだ」


 「だが、ポイントはそれを聞き出せる立場の者に音変化できるかどうかだ」


 「おれに作戦がある。これはエスティとレンがうまく連携して初めて成功する作戦だけどやれるかい?」


 「ええ」


 「オイラ頑張るっす!」



・・・・・


・・・



 作戦を伝えた後、スノウはノーンザーレついて考えていた。


 (発電し、電気を使っている。電車らしきものも走っている。元いた日本と同等の文明があると見ていい。これまで中世の街並みに魔法といった科学ではなく魔法文化が発達した世界だと勝手に思っていたが、魔法があるからといって科学が発達しないとは限らない。おれの勝手な思い込みだ。だが、確かめる必要がある)


 スノウが確かめる必要があると感じた点は三つだ。

 一つめは、この世界が元いた世界同様に科学を発達させ、発電し活用しているという仮説。

 二つめは、電気に見せかけて実は魔法を元にしたこの世界独自の科学という仮説。

 最後は、自分と同様に越界した者がこの世界に不自然に科学を発達させた仮説。


 一つめと二つめは、問題視していない。

 問題は三つめだ。

 科学を発達させている越界者がいるとした場合、間違いなくノーンザーレで中心的存在になっているはずであり、同時にある程度の権力を手にしている可能性が高い。

 その場合、その人物が何を目的としてこの科学を発達させているかを知る必要がある。

 もし、元の世界に帰る手段を得るための科学の発展を進めているなら、スノウがその手段を聞き出せればホドに帰る事も可能となる。

 仮に戻る気がなくても、単にこの世界を豊かにする目的で科学を発展させているなら、接触し越界する方法を知っているか聞いてもいい。

 だが、万が一その人物が科学力を駆使してこの世界を支配しようとしている場合、自分たちにとって脅威になる可能性が高い。

 しかも科学の発達速度によるが、放っておけばおくほど危険度が増す。

 例えば極端な話、核爆弾を作ってしまった場合、それに対抗できる魔法はあるのだろうか。

 想像するに核弾頭ならホドにいる巨大亀、ロン・ギボールですら破壊してしまうに違いない。


 (おれに・・・・人との接触を避け、存在しない事を自分の居場所とし続けたこのおれに・・・・そんなやつと向き合うことができるのだろうか・・・・。また馬鹿にされ、蔑まれ、無能の烙印を押されてしまうんじゃないか・・・・)


 スノウは、ノーザーンに来たことをきっかけに、体に染み付いている負け組の生き方の思考に支配され、完全に雪斗の状態戻っていた。


 (戻りたくない2度と!あんな惨めな日常に!)


 スノウはとりあえず、体調が優れないことを理由にエスティとレンに街を探ってくるように頼んだ。

 体調が優れないのは口実で外に出るのが怖かっただけだ。

 だが、ケリーを救う作戦は今夜決行になるため、いつまでも怖がっているわけにはいかない。


 (これじゃぁひきこもりだな・・・・)


 やらなければならない事は明確だ。

 ケリー救出作戦。

 そしてこの科学を発展させた人物との接触で越界の可能性確認。

 だが、足がすくむ。

 特に二つめに対して。

 過去のトラウマから頭の中に勝手に映し出されるネガティブな情景に鳩尾がゾワゾワする。

 落ち着かない。


 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 スノウは布団を被り、枕に顔を埋めながら声を張り上げた。

 何度も何度も。

 自分を信じてくれるやつらの為に自分の命を使うとまで決心したはずなのに、自分を窮地に追いやりたくない気持ちが働いて嫌悪感で吐きそうだ。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 声が枯れるほど叫び続ける。

 布団をかぶっているから外には漏れないが、人生で初めてだろう、ここまで大声を張り上げるのは。

 ホドでは否応なしに自分を異世界に定着させてくれたアレックス達がいたが、今はそれら自分を引っ張ってくれる人物はいない。

 むしろエスティは自分を頼っている状態だ。

 オボロも眠ったままである。

 頼り縋れる者はいない。

 スノウは吹っ切れるしかないと思った。

 

 一方、エスティとレンは街を散策する。

 と言っても、宿屋とレネトーズ邸の間周辺を見て回る程度だった。

 東京23区ほどもあろう広大な都市を簡単に散策できるものではない。

 だが、レネトーズ卿についてきた事もあり貴族階級エリアに近い宿をとった為、治安はいい。

 いやむしろ行動しづらいかもしれない。

 ごろつきなどに作戦を阻まれる事はないだろうが、逆に何か事件的な行動を取ると治安が良い分目立つ可能性が高いからだ。

 エスティとレンは念入りに人気のない場所や、逆に人の目がつく場所をチェックした。

 木の陰になり、外からも怪しまれない窪んだところからレンを踏み台にしてエスティが塀で囲まれた敷地の中を見回す。

 もちろん今晩の作戦決行前の偵察としてだ。

 ライフソナー、マジックソナーをかける。

 だが、得意な魔法ではないため、確認できる範囲は10メートルでほぼ役に立たない。


 「こんな事ならスノウに来させればよかった」


 小声でエスティが文句を言っている。

 後は視界に頼るしかない。

 そうこうしている内にレネトーズ卿が出てきた。

 側には背の高い若いイケメンの付き人のような人物がいる。

 あとはメルセン樹林から行動をともにしていた御者だ。


 (おそらく、あの2人がレネトーズの側近ね。推測するに、背の高いイケメンが家の中を任されている人物で、御者がレネトーズ本人に付き従って世話しているって分担だね)


 その後を追って腰に短刀を3つぶら下げているいかにも戦士という人物が出てきた。

 何やらレネトーズから指示を受けている。

 エスティは彼らの会話の音の波動を読み取ろうと意識を集中する。

 はっきりとは聞き取れなかったが、おそらくハーピーがケリーを奪いにくる可能性があるため警戒し、襲ってきたら皆殺しにしろ的な指示をだしているようだ。


 (あれは用心棒ね・・・・あの男の情報も入手する必要がある)


 下でエスティの踏み台になっているレンはそろそろ限界のようでまるで生まれたての子鹿のように手足が震え出した。


 「あなた!なんて貧弱さなのもう!仕方ないわね!」


 小声で叫んでレンを責め立てた。

 見つかるリスクは冒せない。

 エスティは仕方なくレンの背中から降り一旦宿に戻る事にした。

 レンは腰を押さえながら苦痛に歪んだ顔でエスティについていき宿に向かう。

 その後屋敷から白髪にオールバックで白衣をきた男が出てきた。

 そしてその後から長い黒髪の女性が出てきた。


 レネトーズ卿は白衣の男と握手し屋敷に入っていく。

 背の高いイケメンが白衣の男を敷地に止まっている馬車まで案内する。

 白衣の男と黒髪の女は馬車に乗り込む。

 よく見ると馬車のはずが、馬が繋がれていない。

 馬車に見えたものはなんと自動車だった。

 しかも電気自動車(EV)だ。

 EVは静かに走り出す。

 お辞儀で見送る高身長のイケメン。



・・・・・


・・・



―――宿屋―――


 「御者だな」


 「イケメンじゃないの?」


 「なんの話っすか?」


 「レン、お前が音変化する対象だよ」


 「えぇ!?どうせならイケメンがいいすよぉー」


 「お前の趣味で選ぶんじゃないんだぞ?」


 「ガク・・・・」


 「嫌なら抜けてもらって構わないが?」


 「アニキ〜そりゃないっすよぉー。言う通りにするに決まってんじゃないっすかー」


 「でもなんで御者のほうなの?」


 「イケメンは家にいたんだよな?留守中家にいるという事は家を任されているって事だろう?それだけ信頼されているって事だ。一方で御者は旅に同行していた。それなりに信頼されているだろうけど、どちらかと言うと身の回りの世話とか小間使い的な対応が多いはずだ。考えても見ろよ。あのレネトーズ卿だぜ?わがまま放題に常に付き合わなきゃいけない。仮に同じ信頼度でも家にいて自由な時間があるイケメンと常に付き添ってわがままに対応して緊張しまくっている御者、どっちが不満が溜まっていると思う?」


 「御者ね」

 「御者っす」


 「ここからが作戦だが、つまりエスティが誘って酒を奢り愚痴を聞き出すには御者がいいって事だ」


 「やっぱりイケメンがいいな・・」


 「だめだ。それで必要な情報と業者の部下の名前と見た目を聞き出し、その後にレンが御者に音変化してその部下を呼び出して縛り上げた後、部下に音変化して潜入する」


 「なんでそんな周りくどい事するの?御者でいいじゃない」


 「いやっすよぉー。あんな貴族のわがままにオイラ応え続ける自信ゼロっす!」


 「確かにね」


 「そういう事だ。それでレネトーズ卿が何をしようとしているかを探ってくれ。ケリーの身の安全が最優先だ。何か動きがあったら直ぐに屋敷から出ておれ達を呼ぶんだ」


 「りょ、了解っす・・・・自信ないっすけど」



・・・・・


・・・



 計画通り、御者をエスティが酒に誘う。

 最初は、スノウに対する愚痴を御者に言って聞かせる。

 恐らく御者は相当な不満が溜まっているであろうが警戒していては情報は引き出せない。

 だが、エスティが同じような悩みを抱えていると知れば、親近感が湧く。

 親近感が湧いた状態で酒が入れば、自ずと口を開いてくれる。

 御者が抱えている不満の暴露に始まり、様々な内部情報を漏らすはずだ。

 人の心理をついた作戦だった。


 「お嬢さん!あんたぁ、大変なんだねぇ。何だか仲良さそうに見えてそんなひどいやつなのかぁ、そのスノウってやつは!」


 「そうなのよ。でもあなたはすごいわね、大貴族に付き添って。あたしにはとても務まりそうにないもの。優秀な方なのね」


 愚痴を言った後の褒め言葉。

 弱みを見せた後に出る褒め言葉は完全に気を許したと思わせる常套手段だ。

 御者はイチコロだった。


 「そ、そんなこたぁねぇよ。俺ぁただの小間使い。そりゃぁ誰にでも務まる仕事じゃねぇし、俺しかいねぇと思うんだぜ?なんつったって旦那様は格別我儘な方だからよう」


 「でもすごい!そんな方に信頼されているなんて!あなただけなのね、あの大貴族の信頼を得ているのは。」


 「その通りだ!って言いたいところだが、それがよう。最近来たガキがすっかり旦那様に取り入ってしまってよう。旦那様の信頼を俺から奪おうってんだよ」


 「そんなひどい人がいるのね。でもあたしは信じてるよ。あなたほどの優秀な人はいないって!だってその人メルセン地方の旅にも来てなかったようだし」


 「そうだ!あいつは旦那様の大事な仕事の付き添いが出来るような奴じゃねぇ!あれは俺にしか任せられない仕事なんだ!へへへ、お嬢さんあんたよくわかってるじゃねぇか!」


 「見てればわかるよ。あなたの方が全然優秀だし信頼されてるって。その最近きた若い人は見た事ないけど、そんな昨日今日来た人に任せられるものじゃないのよね?!」


 「ああ!もちろんだとも!なんて言ったってあの危ねぇ仕事をこなしたんだ!あれがありゃぁ旦那様はスメラギ様とのビジネスってのがうまくいくはずだからなぁ!」


 (来た!)


 「ちょ!声が大きいよ!そんな大事な事はこっそりあたしだけに聞こえるように言わないと!」


 エスティも相手の心の隙をつく会話に慣れてきたようだ。

 うまく信頼関係を築く会話をテンポよく繋いでいる。


 「おお、さすがはお嬢さん」


 御者は小声で嬉しそうにエスティに話を続ける。


 「今日もスメラギ様が来られてな、旦那様がメルセンでの収獲を伝えるとたいそう喜ばれていたからなぁ。俺も鼻高々だったぜ、へへへ」


 「すごいね!因みにスメラギ様っていうのはいったいどんな人物なの?」


 「おお、そうかお嬢さんは来たばかりで知らねぇのか。いいぜ教えてやるよ。スメラギ様はな、数年前に突然このノーンザーレに現れて、音魔法とは違うエレキ魔法っていうので光らせたり、重いものを動かしたりする力で一気に都市全体を発展させちまったんだ。それでつい大貴族になり、一年前頃にはノーンザーレの領主にまでに任命されたお方だ」


 「すごい人なのね!教えてもらって助かったよ、本当に頼りになるわね」


 「任せとけよ。それでな?つい2ヶ月前、スメラギ様が旦那様のところへ来てついこの間のメルセンでの仕事を頼まれたってわけよ。それを俺の活躍もあって無事に終えてなぁ。今日もスメラギ様が来られて状況を聞きなさったが、とても喜ばれて帰られたよ」


 「流石ね!じゃぁ最近きたガキってのにだいぶ点数差をつけたんじゃない?」


 「あたりめぇだよ!あのコグランのガキなんざ俺と比べたら下の下だ!」


 「そうよそうよ!因みにあなたがやり遂げた仕事って?」


 酔いが回っているはずだが御者はエスティのその言葉を聞き表情が少し引き締まる。


 「大きな声じゃいえねぇんだがな?」


 (なんだ、焦ったけど結局話すんじゃない。しかしこのおじさん息くさいし、どんどん顔が近づいてくるから気持ち悪いわ・・・・早く情報を引き出してとっとと解散にしなきゃ・・)


 「実はよ・・収穫物ってのはハーピーの羽なんだよ」


 「なんですって?!」


 少しわざとらしかったかもとエスティは反省した。


 「なんでもな?ハーピーの羽には魔力が宿っていてその羽で仰ぐと、仰いだ以上の風が巻き起こるって言われていてな?実際俺もやってみたんだが、音魔法もあってか、仰ぐと音の波動と共にすごく強い風が巻き起こったんだよ、軽く仰いだだけなのに!それでな?スメラギ様はその羽を使って何やら作るらしいんだがな?」


 「何を作るの?」


 「なんでも永久的にエレキ魔法の魔力が生み出せるアイテムらしいぜ?」


 「あの光ったり重いものを動かしたりする魔力を永久的に?!」


 「ああ、すごいだろう?スメラギ様はまだこの事は口外してはならないと旦那様に言っていたんだがな?俺は聞いちまった。それと・・・・」


 「それと・・・・?」


 「お嬢さんたちと出会った場所でハーピーが襲ってきたろう?あれは羽を取り返そうとしてきたんだが、2度とああいう攻撃をしないように人質も奪ったんだ」


 「人質?!」


 (来た!)


 ようやくケリーが攫われた理由にたどり着いたとエスティが心の中でガッツボーズをした。


 「ハルピュイアっていうハーピーの進化系の一匹を捕らえたんだ。そいつを人質に持っておけばいざと言うときに役立つと思ってな、旦那様が捕らえると言い出したんだ。ハーピーの村を奇襲的に襲ったからそれほど強くない護衛でもなんとか捕まえられたんだよ」


 「そうなのね・・でもそのハルピュイア?その魔物を救いにハーピーが襲ってくるんじゃない?」


 「大丈夫だ。俺の部下をつけているし、スメラギ様の護衛の部下もついているからな。特にスメラギ様の護衛の部下ってのがたいそう強くてな。まぁスメラギ様の護衛はさらに強いから納得なんだが」


 「ありがとう。流石は一番に信頼されているだけあって色々と把握してるのね」


 そう言いながらエスティはさりげなく、ロゴスのヘビースリーパーをかける。

 強力な睡魔に襲われる魔法だ。

 得意ではないがクラス1の魔法で使える上、酒も入っているため御者は数分と立たない内にテーブルに頭をぶつけるように眠りについた。

 エスティは代金を支払い、置き手紙を置いて怪しまれないようにしてその場を後にした。


 エスティは急いで宿屋に戻り仕入れた情報をスノウに伝える。


 「エレキ魔法!!」


 スノウは、仮説を立てた。

 おそらく数年前に現れたスメラギという人物は日本から越界した者だろう。

 そういえば十年ほど前に大手電気メーカーの開発役員が行方不明というニュースが報じられていた。

 名前は確か皇承太郎とかニュースで言っていたのを思い出した。

 雪斗時代の自分の名前は置いておいて、皇承太郎という名前が珍しいものだったのと、50歳前に開発の役員で優秀だったような内容が報じられており、リア充で失踪というなんともったいない事をする男だとイラついていたため覚えていたのだ。

 なんなら自分が消えてしまいたいとさえ思っていたため、なおさら記憶に残っていたようだ。


 そして、エレキ魔法。

 その名の通り、電気だ。

 スノウが雪斗時代を思い出して臆してしまった電光掲示板や電気自動車のエネルギーたる電気。


 エレキ=電気。

 電機メーカーで開発職。

 日本にいた皇とノーンザーレのスメラギで同姓。


 ほぼ確信に近い仮説だ。

 スメラギは皇承太郎であり、この世界でなんらかの方法で電気を作り、電気で動く機器を作って発展させた。

 そうして世の中を便利にしていくに従って力をつけ、自身も大貴族、そしてこのノーンザーレの領主にまで上り詰めた。

 いやもしかするとそう仕向けた可能性もある。

 そして、ハーピーの風を巻き起こす羽。

 これは恐らく風力発電に活用するつもりだろう。

 魔力を帯びた羽を使い、風を巻き起こす事でモーターを回転させ発電する。

 エネルギー保存の法則で言えば、羽根で巻き起こした風でモーターを回し、そこから生まれた電力で羽を動かし風を巻き起こすという事は、理論的に難しいはずだ。

 仮にエネルギー循環できても、他に回す電力余裕はないから意味がない。

 だが、ハーピーの魔力を宿した羽を使う事によって、羽を動かす動力以上のモーター動力となる風を巻き起こせるとしたらどうだ?

 それこそ、半永久的に電力を供給し続ける発電機関が作れるのではないか?

 その仮説が信憑性を帯びるに従ってスノウはケリーの身に不安を感じる事となる。

 恐らく新たな技術の投入によって必要と電力量はどんどん増えるが、電力供給量は限界がある。

 とすれば、ハーピーの羽のようにもっと発電に寄与するものをかき集める事になるだろう。

 風だけでなく熱を発するものを持った魔物も襲われ利用される事になる。

 魔力を発しなくなった魔物の遺物は当然廃棄される。

 そうなればケリーのように人質となる存在もまた消されるだろう。

 正直スノウは、ケリー以外の魔物に興味はないし、この世界の生態系がどうなろうと関係ないと思った。

 だが、魔物を侮ってはいけない。

 コントロールできる保証はないし、人間の知識を大きく超える存在や膨大な魔力量を持つ強大な力を持った魔物もいるだろう。

 そういった未知の存在がいるにもかかわらず、家畜のようにコントロールできると思っているのであれば大きなしっぺ返しを喰らうはずだ。

 だが、自分の知った事ではない。

 ケリーさえ救えればよい、スノウはそう結論付けた。



・・・・・


・・・



 予定通り、レンが御者の部下に接触し捕らえて縛り上げ監禁した上で部下になりすましてレネトーズ邸内に潜入した。








12/5修正

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