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<ホド編>22.エルダーリッチと火竜

22.エルダーリッチと火竜



―――Day2―――



 ダンジョンに入って2日目。

 エントワがいきなりアスゼネコを倒し、メンバーに衝撃と士気向上を与えた。

 エスティはライジと共に南東側の低層階まで来ていた。

 このダンジョンは下層へ行けば行くほど三角形に広がって行く三角錐のような構造になっており、北へ向かったスノウ・ロムロナチーム、南西に向かったワサン、中央を降りていったエントワに対して別の方向を選びエスティとライジは南東に向かって降り進んで行ったのだ。

 エスティは現在ガルガンチュアの総帥となっているが、最近までは聖騎士隊副隊長として活動していた。

 今は隠居している父、ウルザンダー・レストール(ウルズィ)がガルガンチュアの将来を憂慮し聖騎士隊から引き戻しガルガンチュアを継がせたというのが表向きの理由だが、実はウルズィは元老院における不穏な動きを捉えており、エスティの身に危険が及ぶ可能性があるため聖騎士隊から引き戻したというのが本当の理由だ。

 案の定、ウルズィの予見は的中し、元老院は新たな剣、三足烏サンズウー・烈を手に入れた。

 三足烏・烈の強さは既に知っての通りで、ウルズィの判断は賢明だった。

 その後、間も無くして聖騎士隊は全員殺されてしまっている。

 おそらくあのまま聖騎士隊に居たら真っ先に暗殺されて居たに違いない。

 そんな状況を最初は知る由もなく、父親のわがままで聖騎士隊副隊長を辞めさせられ、重責のガルガンチュアの総帥に据えられたと、エスティはそう思っていた。

 しかし今は理解できている。

 自分が抜けた直後に全滅した聖騎士隊。

 そして、アレックスを圧倒したホウゲキという男。

 醜態はさらしたものの、ワサンと自分を相手に余裕で対峙したカヤクという男。

 あの二人は間違いなくこのヴォヴルカシャにおける脅威だと感じていた。

 ガルガンチュアやパンタグリュエルで抑えて来た元老院をこれ以上抑えられない事態になっている事は間違いなく、あのまま自分が聖騎士隊に居たとしたらと思うとゾッとする。

 それはエスティ自身が切実に感じている事だった。


 エスティは聖騎士隊が好きだった。

 元々魔法があまり得意ではなく、ロゴスとウルソーの加護はあるものの、使えるクラスは低くそれを補うように剣術にのめり込んでいった。

 一時期父と懇意にしているエントワから剣術を学んでおり、彼の剣術の美しさに惚れたのもあって、より一層剣術の道に進んでいったのだ。

 今回、彼女にとってこのタイムトライアルでの課題は明らかだった。

 強敵に対峙する時、自分を強化したり回復するサポートがない中で戦う場合は彼女にとって単純に消耗戦になるだけだった。

 そのため、彼女は魔法をうまく使いながら長期戦でも耐えうる戦い方を体得する、つまりこれまで目を背けて来た苦手な魔法を駆使して戦う術を学ぶ、それが今回の明確な課題だった。

 ここまでの道のりでロゴスの感知系魔法によりロスの少ない動きを心がけ、ウルソーの肉体強化系を使いとにかく疲れない戦いを意識し魔物を倒して来た。

 それこそ何百体と。

 その中で魔法を詠唱するタイミングや魔力を込める度合いなどのコツがつかめて来てエメラルド級冒険者でも苦戦する中級以上の魔物にも息を切らさず対応する事ができるようになっていた。

 また、ウルソー回復系も使いながら上級魔物に対しても余裕に対応できるところまで来ている。


 (イケるわ!これを体に叩き込む!そして魔力の限界も超えて魔力量を増やして次はあのカヤクに勝つ!)


 エスティは自分の成長を実感していた。

 ライジは相変わらず逃げ腰でここぞという時にはいつも隠れていたが。


 ダンジョンを進みさらに下層に向かう階段を降り切るところで前方から異様な殺気を感じた。

 微力で張り巡らせて居た感知魔法に突然最大ボリュームのアラートが鳴り響く。


 「誰!?」


 「いえねぇ、人間の分際で我が君のテリトリーに足を踏み入れるの感知しましたのでねぇ。取り急ぎ出向いたわけですよ。わざわざ」


 不気味なトーンの声が発せられエスティは背筋が凍る思いで階段の奥の暗がりを目を細めて見つめた。


 コツ、コツ、コツ‥‥


 靴音に合わせて次第にその姿が見えてくる。


 「が、骸骨?!」


 「あなたねぇ、楽に死ねると思わない事ですよ?私をガイコツと。そこらのスケルトン風情と一緒くたにされては心外ですからねぇ」


 「エ、エルダーリッチ‥‥」


 エスティは自身の鼓動が高鳴るのを感じ、耐え難い深いなオーラに吐き気をもよおしていた。

 落ち着いた口調で話しをするその影はタキシードを着てシルクハットをかぶったエルダーリッチだった。

 魔法に長けており主に異形精霊ゾスの魔法をクラス4まで使いこなす上級魔物のエルダーリッチはアンデッド系魔物の最高位に君臨しその存在の前での死は、魂を捕縛され永遠の奴隷となることを意味する。

 蒼市のダンジョンには存在しない魔物でありエスティも遭遇したことのない強敵だった。


 「エルダーリッチがこんなところに!あなたがこのダンジョンの4強の一角なの?!」


 「低脳ですねあなた。この私ごときがあのお方と同列なわけないでしょう?これだから低脳な人間は嫌いです。嫌いと言えば10年前に来た呪われた水の王子以来の腹の立つ人間ですね」


 (ア、アレックスね‥‥。あいつもこのエルダーリッチと戦っているのね。こいつが今ここにいるという事は、アレックスでも倒せなかった魔物ってことよね‥‥)


 エスティは剣を構える。


 「オーケー!4強を倒す前にあんたを倒してその10年前のアレックスを超えてやるわ!」


 エスティは笑みを浮かべてエルダーリッチに斬りかかる。

 このダンジョンに潜り、1日で一気にレベルが格段に上がったため、動きは凄まじくエルダーリッチに魔法を唱える隙を与えずに懐に飛び込んだ。


 ガキーーーン!!!


 エスティの剣がエルダーリッチの核である鳩尾に突き刺さろうとした瞬間、左腕で防がれてしまう。


 (何!いくら防御力が高くても私の突きをなんの防具もなく受け切るなんて?!)


 「ロホホホ。なかなかいい動きでしたがねぇ。残念、つまようじでいくら突かれてもくすぐったいだけですがね。あなた確か、4強と言いましたね。まさかこのダンジョンを統べるかの方々を殺めに来たとでも?」


 少し考える仕草をしてエルダーリッチは話を続ける。


 「なるほど、昨日アスゼネコを殺したのはあなたのお仲間ですかぁ。まぁあの雑魚キノコなど殺されても仕方のない最弱魔物ですからね。」


 「最弱魔物?」


 「おやおや、あのキノコが幅を利かせていたのはダンジョン内のいわゆるゴミ溜めエリアですよ?あんなところにかの方々が住まわれるはずがないでしょう?あんなところで住めるのは下劣な化けキノコくらいです。そこでちょっとばかしでかい顔をしていただけの事。このダンジョンは3帝によって統治されているのですよ?」


「ま、まさか!」


 (エントワおじさまが初日にいきなりボスを倒したというからさすがエントワおじさまと思いつつ、逆にいきなり倒せる程度の手応えのないダンジョンと思ったけど、そういうことだったのか‥‥)


 エスティは今自分が対峙している魔物がアスゼネコ以上の強敵である事を理解する。


 「お喋りも飽きました。それでは反撃と行きますよ!」


 エルダーリッチは残る右手を前方に振りかざし詠唱する。


 「ウエストナイル」


 エルダーリッチが呪文を唱えた瞬間にエスティは急に体の自由がきかなくなる。


 「う、動けない‥‥」


 「ロホホホ。どうしましたかねぇ?そうそう、せっかくですから名乗っておかないとねぇ。私の名はガングリオン様の配下にして最強の魔術師、キンベルクです」


 そう言いながら、エルダーリッチのキンベルクは、思うよに動けなくなったエスティの髪の毛を掴み上げ話を続ける。


 「せっかくこの私が名乗ったのですからねぇ。あなたも名乗りなさい。きちんと名前を言えたらまた動けるようにしてあげますよ?」


 「エ‥‥エフオエア‥‥え?!はあへはい‥‥あぁぁ!!」


 体だけではない。

 思うよに話すこともできなくなっていた。

 身体中の筋肉が弛緩し自分の意思ではどうにもならない状態になっていたのだ。


 「え?なんですって?なんて言っているかわかりませんねぇ。これでは動けるようにはできませんよ?」


 キンベルクはガイコツにも関わらず明らかにニヤニヤしながらエスティに話しかける。


 「エウオエア‥エウオエア」


 もはや声を出すことも辛くなって来たが、必死に声を出すエスティ。


 「なんですって?早く名前を言いなさいよぉ!」


 ドブッゴン!!


 「あ“あ”!!」


 キンベルクは左手でエスティの髪を持ち宙吊りにした上で右拳で強烈なパンチをみまう。

 エスティはもはや声にならない悲鳴をあげる。


 「言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!」


 ドグオン!ドグオン!ブグオン!ドガオン!ドグオン!ドガオン!ブガオン! 


 「がはぁ!あがぁ!ぐはぁ!あがぁぁぁぁ!」


 そう言いながらキンベルクは嬉しそうに何度もエスティの腹に強烈なパンチを食らわせる。


 「言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!言いなさい!」


 ドグオン!ドグオン!ブグオン!ドガオン!ドグオン!ドガオン!ブガオン!


 「がはぁ!あばぁ!がはぁ!あがぁ!ぐはぁ!あがぁぁぁぁ!」


 明らかに楽しんでいるキンベルク。

 完全なサディストでありヘドが出る性格の持ち主だった。

 エスティは血反吐を吐きながらサンドバック状態で、もはや何の抵抗もできないまま死を待つのみとなった。


 「さーーーあーーいーーーいーーーなーーーさーーーいーーー!」


 最後の一撃とばかりに大きく振りかぶりエスティに向けて右拳を叩き込もうとした瞬間。


 シャバン!


 「へ?!」


 呆気にとられるキンベルク。

 少し離れた場所でライジがエスティを抱きかかえ薬を飲ませている。


 「総帥、これを飲んで。麻痺はすぐ回復するはずです。同時に回復魔法もかけてますからすぐ良くなるはずです」


 ライジが殴られる直前意表をついて背後から凄まじい勢いで跳躍し、エスティの髪の毛をナイフで切り抱きかかえそのまま距離をとってすぐ様ワクチン剤を飲ませて回復魔法をかけたのだった。

 キンベルクの左手にはエスティを吊るして居たはずの髪の毛が残っていた。


 「これはこれは油断しましたねぇ。雑魚雑魚しい人間と思い放っておいたのですが、流石の私も驚きましたよ。今のスピードにはねぇ。じゃぁあなたから殺しましょうか」


 突然ライジが白眼になり力なく崩れ落ちる。


 「ラ、ライジ!」


 回復薬のおかげかある程度動けるようになったエスティが叫ぶ。


 ライジは今、白眼をむいて横たわっている自分とその横で意識を呼び起こそうと語りかけるエスティを上から見ていた。


 『!!ま、まさか!これって僕の魂が体から出ちゃってる?!死んだのか?でも何もされてない?!』


 必死に戻ろうとするが何かに引っ張られるかのように横たわっている自分の体に手が届かない。

 ふと周りを見渡すと鋭い視線を感じる。

 キンベルクがご馳走を目の前にしてヨダレを垂らしている獣のような鋭い眼光でこちらを凝視していた。


 「さぁて、いただきましょうか!ソウルイーター!」


 キンベルクの振り上げた右手から半透明の巨大な蛇が放たれライジの方に向かって来た。


 「うわぁぁぁぁぁ!!!!」



・・・・・


・・・



―――南西最下層―――



 「グァバババ!お前ぇもしぶといな!なかなか死なねぇ!面白いなぁ!俺様のペットにしてやってもいい。1日持つかどうかわからねぇがなぁ!グァバババ!!!」


 膝をつき傷だらけになりながらも鋭い眼光を目の前に巨大な姿に向けるのはワサンだった。

 彼はいち早くこのダンジョンで最強と言われる存在の情報とその居場所を聞き出し時間を優先して戦闘を避けながら最下層まで来ていた。

 ワサンの俊敏さをもってすれば、大概の魔物を振り切る事は可能であり特にこの南西側のダンジョンには重量級の爬虫類系魔物が多く、攻撃をかわしながら進むことが容易だったのだ。

 その時間短縮が仇となった。

 本来であれば3日かけてたどり着く場所であり、その間に得られる経験値があれば相当な強化に繋がっていたはずだ。

 しかしワサンは見誤った。

 エントワがいきなり4強の一角を屠ったニュースもあり、自分の実力があれば途中の面倒なレベル上げなど不要で倒せると思ったのだ。

 そこで得られる経験値と帰りの戦闘で十分成長が見込めるはずだと計算していたのだった。

 確かにエントワはレヴルストラ随一の実力者だが、自分も同じように死線はくぐり抜けてきており、共に戦う中で然程大きな実力差がないことも実感していた。

 逆に時間をかけていてボスを別の誰かに倒されてはそれこそ自分の成長幅が減ってしまう、そう考えたのだ。


 しかし現実は甘くなかった。

 自分の目の前に鎮座するのは巨大な赤竜ヴァルンだった。


 南西側一帯は溶岩地帯となっており熱耐性を持った魔物が多いが、ヴァルンはその溶岩の熱で孵化した赤竜であり、この灼熱地帯は彼にとって快適な空間なのだ。

 炎をはき、鋭い強固な鉤爪という恐ろしいほどの破壊力を有した赤竜ヴァルン。

 難点はせっかくの飛行能力がこのダンジョンで活かせないことと、あまり動かない生活のためかでっぷりと太っているため動きが鈍いことくらいだ。

 しかし、じっとしていても灼熱地獄で体力を奪われるアウェイではワサンはそのスピードを活かせず、鈍いヴァルンの攻撃を何度か喰らってしまい完全に劣勢に陥っていたのだ。


 ワサンは戦いながら思慮をめぐらせていた。

 このヴァルンという赤竜は、動きは遅いが完全にこの一帯を支配し、この灼熱地帯全体がヴァルンのために存在するステージであり普通に戦っても勝機はない。

 あるいはシルバーウルフに変身すれば活路を見出せるかもしれなかったが、あれはいわばスペシャルウェポンでありいざという時の手段でありピンチの度に使える代物ではなかった。

 ましてや自分を強化する試練で使うものではない。


 (今足リナイノハ何ダ‥‥)


 こうしている間にも灼熱地獄で体力が奪われている。

 一刻の猶予もなかった。


 ( 『スメル オブ デインティ』ト『ダークネスミスト』デ気配ヲ消スカ‥‥。イヤ、小手先デハダメダ。勝テル気ガシネェシ意味ガナイ。仮ニコノ赤竜ニ効果ガアッテモ、烈ノ “カヤク” ニハ効カナイカラダ‥‥)


 ワサンにとって得意な魔法系統はロゴスだ。

 あと使えるのはウルソー、エル・ウルソーでそれ以外の潜在魔法は感じられなかった。

 スピードと感知を活かして相手の攻撃をかわすことを得意として来たが、今はそれが機能しない状態だ。

 残るはウルソー系だった。


 (確カ‥‥アノカヤクガ使ッテイタ、エル・ウルソークラス3ノ魔法‥‥)


 以前カヤクと対峙し圧倒された際に使っていた魔法、バイオニックソーマ。

 最低でもあの魔法は使えないと互角に戦うことすらできないとワサンは思った。


 「ウベァァァァァーーーー!!ショヴァァァァァァァーー!!」


 ヴァルンは何かを吐き出すように喉を膨らませた後、強烈な炎を吐き出しワサンのいる一帯を焼き尽くした。


 「おい!せっかく久しぶりのじゃれ合いなのに魂抜けたかのように突っ立ってるのやめろ!もう少し楽しませろよ!」


 当然ワサンは、強烈な火炎が降り注ぐ前に別の場所に移動していた。


 「焦ルナヨ。オ前ガモウ少シ楽シメルヨウニ策ヲ練ッテルンジャネーカ!」


 「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!でもじゃれ合いながら考えてくれよ!」


 ドッガァァァーーーン!!!


 そう言いながらヴァルンは鋭い巨大な爪をワサンめがけて振り下ろす。

 動きが遅いので避けるのは造作もないが何せこの灼熱地獄、なるべく体力の消耗は避けたい。

 ウルソーの回復系で体力や傷は治せるが魔力消耗も抑えておきたいのだ。


 (アレハ確カ全テノ身体能力ヲ格段ニ上ゲル魔法‥‥イメージヲ固メロ‥‥ウルソーノ全テノ肉体強化ヲ纏メテ一気ニ体内ニ注入スルイメージ‥‥)


 「バイオニックソーマ!」


 ワサンは脳内に魔法のかかった状態をイメージし詠唱する。

 ワサンの体が光り始める。


 (イケタカ?!)


 しかしかかったのは皮膚超強化魔法のジノ・ソリッドスキンだった。


 「クソ!」


 「ジャバァァァァァ!」


 ヴァルンの炎が襲う。

 かろうじて避けきる。


 (何ガ足リナイ?!イヤ、イメージ仕切レテイナインダ!)


 「モウ一度!バイオニックソーマ!!」


 それから幾度となく試すがどれも既に使える魔法になってしまう。


 「ソンナ差カヨ‥‥アノクソッタレ野郎トソンナ差カヨ‥‥」


 「シャバラララァァァァァ!!!」


 その一瞬の隙を逃さずヴァルンは炎を吐きつける。


 (マタカ‥‥)


 避けた先に強烈な鉤爪が襲う。


 グワッシャァァン!!


 「ガハ!!」


 ワサンは呪文が成功しない苛立ちとヴァルンの単調な攻撃で油断していた。

 それをヴァルンが見逃すはずはなくチャンスとばかりにワサンを捉えた。

 ワサンは背中に大きな3本の鉤爪による抉り傷を負った。


 「ヒットー!グァバババー!ありゃりゃー。もしかして死んじまうのかぁ?お前面白かったからもっとじゃれ合いたいのによー」


 そう言いながら更に鋭い鉤爪をワサンめがけて振り下ろす。

 辛うじて避けるワサン。


 「ジノ・レストレーション‥‥ジノ・レストレーティブ‥‥」


 ワサンは重症傷修復と強力体力回復の魔法をかける。

 少しずつ傷が癒え体力も回復されていく。


 (ヤベェナ)


 ワサンには魔力がほとんど残っていなかった。


 「ココハ一旦引クカ‥‥」


 (引ク?!今俺引クト言ッタノカ?オレは?!)


 カヤクに勝つどころか目の前の敵からも逃げようとしている。

 ワサンは小手先で成長しようとし、立ち行かなくなったら逃げるという発想になっていた。

 全てはカヤクに翻弄され力の差を見せつけられた悔しさか、その存在を数日で超えなければならないという焦りか、最近魔物と戦闘に入っても自分を追い詰められるような存在がなく成長が実感できていなかったためか。

 様々な思いがワサンの頭を駆け巡った。


 (何故俺ハ強クナラナキャイケナイ?カヤクニ勝ツタメカ?コノ火竜ニ勝ツタメカ?)


 ほんの数秒だろうか自分の不甲斐なさと葛藤で戦いに集中できなくなっていたところをヴァルンが襲いかかる。

 今まで以上に喉を大きく膨らませた後に何かを吐き出すような仕草をした直後に巨大な火炎の塊がものすごいスピードでワサンめがけて飛んでくる。


 (クッ!ヤッチマッタ!)


 ワサンには逃げる隙を失って観念していた。


 ヴァッシャーーーン!!!


 皮膚超強化魔法をかけていたおかげで致命傷は免れたが全身にやけどを負い炎の塊の衝撃であばらが数本折れていた。


 (ココマデカ)


 ワサンには回復魔法をかける魔力量もシルバーウルフになる精神力も残っていなかった。


 (チガウ!)


 ワサンは必死に立ち上がろうと力の入らない体を必死に起こそうとする。


 (俺ガ強クナラナキャイケナイ理由ハ!)


 歯を食いしばって体を起こしきる。


 「仲間ノタメダーー!!!ウオオオオオオ!!!!」


 「仲間ぁ?グァババババー!!!反吐がでるぜぇ!この世は個だ!個の力が全て!弱えぇのは全て自分の責任だぁ!仲間のためとか抜かす奴ほど自分の弱さを他人のせいにする!結局お前ぇもその口かぁ!」


 そう言い放つとまた喉を大きく膨らませて再度火炎の塊を吐き出す。


 「ソウカモナァ!全テハ自分ノ責任ダァ!ウオォォォォォ!!」


 ワサンは防御の体制をとる。


 「クソッタレーーーーー!!」


 その時巨大な水の渦が炎の塊めがけて飛んでいく。


 ショバッシャァァァーーーー!!


 「そう、全ては自己責任。でもね、仲間は力を与えてくれるのよ!仲間のことを思うと力がみなぎってくるの!」


 ダンジョンの奥から魔法を放ち巨大な火炎塊をかき消したのはニンフィーだった。


 「何シテルバカヤロウ‥‥協力スルノハ‥‥ルール違反ダッタロウ」


 「あなたこそ、威勢はいいけど体ボロボロじゃない」


 ニンフィーはうっすら笑みを浮かべながら魔法を詠唱する。


 「グァバババババ!!!何だ!仲間が来たか!小賢しい水魔法の使い手かァ?面白れぇ!俺の炎とお前の水、どっちが強えぇか勝負だ!」


 「舐メラレタモンダナ‥‥モウ俺ニ興味ハ無イトイウコトカ‥‥良イダロウ、ヴァルン!オ前ハ俺ガ必ズ倒ス!」


 「なぁに?ワサン。私がここに来たってことはあなたに出る幕はもうないのよ?エントワが倒したアスゼネコって魔物は雑魚だって聞いたから、このレース、こいつを私が倒してトップに立つわ」


 「フン」


 「グアバババババ!!面白い!面白いぞーお前らーーー!!!」


 ワサンとニンフィーは喉をこれ以上ないほど膨らませ炎を凝縮させているヴァルンの前に立ちはだかり攻撃に備えていた!






10/30修正

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