<ホド編>23.火竜ヴァルン
23.火竜ヴァルン
「グァババババ!!さぁ楽しもうぜ!」
ドグアッシャァァァ!!!
巨大な炎の塊がニンフィー目掛けて飛んでくる。
「さっきの私の魔法を見ていなかったのかしら?ディルビアルカタストロフ!」
ニンフィーはリゾーマタ水系の大洪水を引き起こす魔法を唱えた。
「グァババババ!!知ってるに決まってんだろー!!!!ドラゴニックヴァース!」
巨大な炎の塊がヴァルンの魔法によって高熱の爆発を起こし無数に飛び散る。
超高熱の野球ボール大の塊が無数に且つ方々に凄まじい勢いで飛び散りニンフィーだけじゃなく、ワサンにも降り注ぐ。
「バリア オブ ウォータードーム!」
ニンフィーはワサンと自分を囲むドーム上の水のバリアを張り巡らせヴァルンの火炎攻撃に対する防御をとる。
「グァババババ!面白い!だが惜しいなぁ!」
無数の火炎球はバリアによって炎は消え去ったが岩石となった塊はスピードを落とさず飛んでくる。
まるで散弾銃のように石つぶてのようなものが飛んでくる。
「ジノ・ソリッドスキン!」
ワサンはそう唱えながら力を振り絞りニンフィーの前まで蹴り飛び火竜に背を向けニンフィーを庇う。
ガガガキキカカガガカカカン!!!
「ワサン!」
無数の石つぶてがワサンの背中を直撃し凄まじい衝撃を与えた。
「グアァァァ!!」
ワサンの悲鳴が響く。
「ジノ・レストレーション!ゲノア・レストレーティブ!」
ニンフィーは間髪入れずに回復魔法をかける。
「おお!やるじゃねぇか!お前ら!そうこなくちゃなぁ!こんな穴ぐらの中で退屈してたんだ!もっと遊んでもらうぜ!」
火竜ヴァルンは、戦いを楽しんでいるようだった。
久しぶりの客人に思い切りはしゃいでいた。
「ワサン!あなたの強さは何?それをよく考えて戦いなさい!」
ニンフィーが血だらけのワサンに向かって叫ぶ。
傷だらけで相当量の出血をしていたワサンだったが、魔法力が強力なためかほとんどの傷は癒えていた。
「ワサン‥あなたはただカヤクという男の影を追っているだけ!それじゃぁ勝てないよ!もっと自分を信じて!あなたの戦いに見出した強さは何?」
「オ、俺ノ強サ‥‥」
(俺ノ根本ハ、シルバーウルフ‥‥ナラバ俺ノ強サハ瞬発力、スピード、切リ裂く爪‥‥ダガアノカヤクハソノ攻撃ヲモ防グ肉体ヲ持ッテイル‥‥イヤ!最後ニ与エタ一撃!?)
ワサンは思い出していた。
カヤクと対峙し圧倒的な力の差を見せつけられたが最後にはなった爪は確かにカヤクの左まぶたに傷をつけた。
(ソノ時ノ自分ヲ思イ出スンダ。俺ハ何ヲシタ?‥‥ソウダ、体ガ光ッテ‥‥イヤ、ソウジャナイ。スピードダ!奴ノ動キヲ超エルスピードガアノ時ハ有ッタ!)
ワサンは思い出す。
自分の持ち味はスピードだと。
「アリガトウ、ニンフィー」
そういうと思いっきり地面を蹴り、ものすごいスピードでヴァルンめがけて突進していく。
「おお!まだやれるか!嬉しいぞ!グブオォーーー!!!」
ヴァルンはまた喉を膨らませた。
「ドヴァヴァヴァヴァヴァァァァァーーーー!!」
今度は滾るマグマをワサン目掛けてを吐き出した。
「遅イ」
ワサンは仰け反りながらマグマの波を避けヴァルンの懐に入ろうとする。
「甘いぜ!」
しかしヴァルンはその動きを読んでいたかのように巨大なかぎ爪をワサン目掛けて突き立てる。
ワサンはこれまでのスピードに加え、のけぞったことで体勢を崩したためうまく避ける動作がとれず、このまま突進すれば間違いなく黒光りするヴァルンの爪の餌食になるはずだった。
「ウオオオオオオン!!!」
ワサンは狼の遠吠えのような声を上げた。
次の瞬間!ワサンの体が銀色に光り出す。
「ゲノア・アジリアル」
そこからはワサンにはスローモーションのように感じられた。
ヴァルンの黒爪がゆっくりと自分に近づいてくる。
ワサンはその爪の軌道を冷静に読み、体を鰻のように滑らせヴァルンの爪と爪の間をすり抜けた。
すり抜けた後は、マグマを吐き切り防御体勢も取れていない無防備なヴァルンがいるだけだった。
腰から相棒のナイフを抜きヴァルンの腹めがけて鋭く光るナイフを突き立てる。
強固な竜の鱗で覆われていない腹の部分にナイフが突き刺さり、切り裂いていく。
次の瞬間の時の流れが元に戻りものすごいスピードでヴァルンの後方へ飛んでいくワサン。
足でブレーキをかけてしゃがみこみながら着地し止まる。
ワサンが前方に目を向けると、切られたヴァルンが何が起こったのかわからないまま呆然としている。
次の瞬間ヴァルンの腹から血が噴き出す。
間違いない。
マグマではなく竜の血だ。
その温度は1000度を超えるが間違いなく腹から大量の血を吹き出している。
「グノノノノオオォォォ!!」
ヴァルンの悲鳴がフロア中に地震のように鳴り響く。
ドドドドドドドドドドォォォーー!!
「‥‥イデェ!!痛でぇぞ!!やりやがったなぁ!!」
ドドドドドドドドドドォォォーー!!
ヴァルンの怒り狂った声が地鳴りとなり地面や天井を揺らす。
これまでの激しい戦いで天井の地盤にダメージがあったうえに、ヴァルンの凄まじいほどの咆哮に共鳴し一気に崩落につながったようだった。
次の瞬間、天井が抜けフロア全体が巨大な岩で潰されそうになる。
ドガガガラガガガガドガシャァァァン!!
灼熱地獄のフロアはヴァルン、ワサン、ニンフィーを丸ごと押しつぶした。
「キ、貴様!何ノ冗談ダ!?」
なんと、天井が落ちてくる直前にヴァルンが後方にいたワサンを掴み、ニンフィーのところまで蹴り飛び二人を守るように四つん這い状態で巨大な天井の岩盤を必死に支えていたのだ。
ワサンに切られた腹からは血が滴っており、高熱で地面を焼いている。
「何故庇ウ?!」
「うるせぇなぁ‥‥騒ぐと傷が余計に痛むだろうが‥‥」
「オ前‥‥自分ガ何シテルカ分カッテイルノカ?!」
「‥‥わからねぇ‥‥わかるわけねぇだろう?いや、なんか勿体ないと思っただけだな‥‥」
岩盤を支える一方で腹からはワサンの攻撃で切られた腹から高熱の竜の血がしたたり流れる。
「久々に俺とここまで遊んでくれる骨のあるやつらが‥‥ここで死んじまったら‥‥もう俺と遊んでくれるやつが‥‥いなくなる‥だろ?!グ、グァバババ!」
「ニンフィー!」
「ええ!アブソリュート・ゼロ」
ニンフィーが呪文を詠唱するやいなや、あたりが急激に凍りつき滑落した天井は氷結の支柱によって固定され、ヴァルンにかかる凄まじい重圧が一気になくなる。
「ジノレストレーション、ゲノア・レストレーティブ」
さらに回復魔法と治癒魔法をヴァルンにかける。
「おおおおおお!!痛くない!それどころか元気100倍だぁ!グァバババババ!」
「オイ!喚クナ!今度ハ天井ノ滑落ダケジャ済マナクナルダロ!」
一気に元気を取り戻したヴァルンはワサンとニンフィーを非難させた後にマグマを吐き天井を熱で溶かした。
そのため、辺り一帯は2階層分が開けた巨大なドームのようなエリアに変わる。
「ヘブショォォォーー!!!!おい!そこの水の女!この氷なんとかしてくれよ!寒くて風邪ひきそうだ!」
ヴァルンのくしゃみが地面を揺らす。
「次ニ大声出シタラ本当ニ殺スカラナ!」
リゾーマタクラス4の絶対零度の魔法の効力はその威力だけでなく、持続力も強力でヴァルンが吐いたマグマもしばらくすると急激に冷えて固まってしまった。
灼熱地獄が心地よい状態のヴァルンにとって、この冷え方は尋常ではない。
風邪を引くどころか相当な体力を奪われている状態だが、ニンフィーの回復魔法がほぼ全回復できたため、瀕死に至ることはなさそうだった。
「なんだか白けちまったなぁ!俺たちが戦うにはここは狭すぎたな!グァババババ!!」
確かにこの巨体を誇る火竜が存分に力を振るうにはこのダンジョンは狭すぎた。
ワサンも一撃を食らわせたが、それは火竜の飛行能力が制限されていたからかもしれない。
ただし、このデップリととび出た腹の重さで両翼が飛行に耐えうるか?という問題はあるが。
「そうだ!お前ら!この入り口も出口もないダンジョンに入ってきたってことは出ることも出来るってことだよな?」
「アァ、ソウダガ?」
「じゃぁよ!俺を外の世界に出してくれ!」
火竜は目を輝かせながらワサンとニンフィーに頼み込んでくる。
「俺は生まれてからずーーっとこの穴ぐらで暮らしてんだよ。俺はもっと色んなやつと戦いてぇ!このダンジョンにはもう俺の相手になるやつはいなくなっちまったからなぁ!」
ワサンとニンフィーは顔を見合わせる。
さっきまで死闘を繰り広げ、特にニンフィーの回復魔法がなかったらどちらかもしくは両方がいずれ死んでいたかもしれない状況なのに、この太った火竜は無邪気に頼みごとをしてきたのだ。
「その代わりといっちゃなんだけどよ、お前らがピンチの時には必ず駆けつけてこの命をかけてお前らに力を貸す!」
「えっとね‥‥あなたのお願いは聞いてあげたいのだけど、私たちは特殊な方法でこのダンジョンに来たの。その方法だとあなたの巨体をダンジョンの外に出すのは‥‥ちょっと無理かなハハハ」
「まじか!じゃぁ痩せればいいのか?それじゃぁ毎日筋トレでやるか!グァバババ!」
バカなのか底抜けに明るいのか、痩せたところでヴィマナの転送装置のキャパを超えている。
仮に最上階まで行けばあるいは転送できるかもしれないが、この巨体では上層階に上がるためには天井を破壊し続けて大穴を開けて上がっていくしかない。
「イヤ‥‥痩セテモ無理ダ‥。オ前ハソモソモデカ過ギル」
「おお!なんだそういうことか!俺がお前らと同じくらいの大きさになればいいんだな?簡単だぜ!」
ワサンもニンフィーもヴァルンが何を言っているのか理解できず、いい加減理解してきた超楽観的な性格から出たイケイケコメントだと流そうとする。
「ドラゴニックスフィア」
ヴァルンがそう唱えた途端に体が目まぐるしく変化していき、大きさがどんどん小さくなっていく。
そして見る見る内に形が球体に変態し直径1メートルほどの球体になった。
「ええええぇぇぇ?!」
「アアアアァァァ?!」
二人とも驚きを隠せない。
あれほど大きかった火竜がいまやなんとか持ち運べそうなサイズのしかも肉の塊に変化したのだ。
その肉の球体からギロン!と目が開く。
「うわ!気持ち悪!」
あまりのグロテスクな光景に思わずニンフィーが仰け反る。
「オイオイ!俺の魔法を褒め称えろよ!すげーだろ?これなら俺をこのダンジョンの外に連れ出せるんじゃねぇか?な?な?おい?グァバババ!」
「何トイウ魔法ダ?コンナ気持チノ悪‥イヤ特殊ナ魔法ハ見タコトガナイ‥‥」
「そりゃそうだ。これは根源種魔法だからな。お前らゲヌスは精霊魔法を使うのだろう?俺たちイドラつまり根源種は根源種魔法を使うんだからな」
「やっぱり!精霊魔法じゃなかったわね。根源魔法‥‥き、聞いたことがあるわ」
ニンフィーは納得がいったような表情になり話続ける。
だがその表情は嫌悪感で溢れている。
「この世界で精霊が力を得る前から存在し魔力を操ることができた種族。その特定の種族が使っていたとされる魔法‥‥。でも初めて見たわ‥‥実在したのね‥‥」
「そりゃそうだな!今や俺たち竜でも根源種魔法を使えるやつは限られている。魔力の根源そのものが書き換えられちまったから、強い魔力を持ったやつじゃないと使えねぇんだよな」
「どういうこと?魔力の根源そのものが書き換えられたって‥‥」
ニンフィーが驚きの表情で聞き返す。
この竜はとんでもない情報をさらっと話している。
「知らねーよ!俺のじい様から聞いただけだからな!グァバババ!」
「あ、そう」
(この子に聞いても無駄ね‥‥)
ニンフィーは一気にやる気をなくしたかのようにうなだれる。
「そういやお前、本来の姿は狼か?いや本来のというよりももう一つの姿と言ったほうがいいか?」
「ワサン。俺ノ名前ハ、ワサンダ。覚エテオケ。オ前カラオ前呼バワリサレルノハ何故カ苛立ツ」
どうもこの白けた状況と、底抜けにさっぱりというか何も考えていないというか、そんなヴァルンからお前呼ばわりされるのが苛立ち始めたワサンはヴァルンの質問に答える。
「アァソウダ。俺ノモウヒトツノ姿ハシルバーウルフダ」
「そうか!普通獣人はゲヌスに獣の血が混ざっただけで根源はゲヌスだからな。でもお前は変わってんだなぁ。根源を二つ持ってるってよ。まぁいいや、お前‥おっと悪りぃなワサン!お前も根源魔法イラ系を使えるはずだぜ?根源のひとつが狼ならな!」
「何ヲ言ッテイル?」
「頭悪りぃなぁ!ワサン!お前もこの美しい球体に変態できるっつー事だよ!さぁ!やってみろ!」
「断ル。テ言ウカ、モウ一度頭悪イトカヌカシタラ本気デ殺スカラナ」
「なぁーにぃー!!お前バカか!何故にこの素晴らしさがわからんのだ?!まぁいいか。好きにしろ」
「イイカ貴様!バカト言ッテモ殺スゾ!」
(フン。シカシ、コンナ怪シゲナ魔法誰ガ使ウカ‥‥。ソレニ元ニ戻レルカ保証モナイ)
ワサンはこの球体に変態することに興味はなかったが、このヴァルンが使う魔法の加護が自分にもあり、さらに強さの領域を広げてくれるのではという期待は持っていた。
(ドラゴニックスフィア‥‥ダッタカ)
そう心の中でつぶやいた瞬間、ワサンの体に異変が起こり始める。
「ウウウ!!」
みるみるうちにワサンの体は小さくなり、着ていた服の中に埋もれてしまった。
「ワサン!」
慌てて服の中を確かめるニンフィー。
「えぇぇぇ!!!うえぇぇぇ!!」
ワサンの着ていた服をかき分けるとそこにはバスケットボール程度の肉の球体があった。
そこからギロリと目が開き、ニンフィーを睨みつける
「ぎぃぃやややややぁぁぁぁぁ!!!!」
思わずニンフィーはワサンと思われる肉の球体を遠くへ蹴り飛ばす!
「オオオォォォォォォォィィィィーーーーー‥‥‥‥」
遠くに飛んでいくにつれてワサンの叫び声が小さくなっていく。
「グアババババ!やっぱりあいつ俺様の魔法に興味あったんだな!いや俺様のこの美しいフォルムに魅せれられたか!グァババババゥゥ!!!」
ニンフィーに蹴飛ばされむせ返るヴァルン。
5分後、遠くからワサンがものすごいスピードで戻って来て一瞬で服を着る。
「貴様‥‥殺シテヤル!一生肉ノ塊ノママカト絶望シタゾ!」
「グァバババ!でも戻れたじゃねぇか!お前素質あるな!グアァババババウゥゥ!!!」
ワサンに蹴り飛ばされむせ返るヴァルン。
「ニンフィー。オ前モヤッテクレタナ。俺ヲアンナニ遠クニ蹴リ飛バシヤガッテ!」
「私悪くないわよ。あなたが突然あの気持ち悪い形になったのがいけないんでしょ!」
「グアァババババゥゥゥゥ!!!」
二人のやりとりを見て笑い出したヴァルンはニンフィーとワサンから蹴りを入れられる。
しばらくコントのようなやりとりを繰り返した後、2人と1球は上層階を目指し移動を始めた。
・・・・・
・・・
―――南東下層階―――
ドクロの不気味な目が間違いなく自分の体ではなく、そこから飛び出た自分に向けられている。
そのドクロ、キンベルクはヨダレを垂らしながら右手に魔力を込め始める。
「ライジ!ライジ!しっかりして!起きるのよ!」
一生懸命に自分の体を揺さぶり意識を取り戻そうとしているエスティだが、その行為は上から見下ろしているライジには何も影響はなく、ただただこちらを不気味に見つめる骸骨に恐怖するだけだった。
ヨダレを垂らし獲物を狙うように見開いた目無き目がライジを凝視していた。
キンベルクの右手に込められた魔力がどんどん増幅されていく。
魔力はやがて白みがかってくる。
「ソウルイーター」
靄のように白みがかった魔力は形を成し蛇のような大きな口を開けてライジに向かって伸びてきた。
『え!え!マジで?!これって魂食われるやつでしょ?!今の体から抜け出てる僕をあの白い蛇みたいなのが食べるってことだよね!』
焦るライジ。
ソウルイーターと呼ばれる蛇は、動きはそれほど速くないがそれが逆に恐ろしい。
じわじわと迫り来る “死” というものだった。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「ロワール流奥義、聖魔斬」
シャヴァン!!
「ぎいややややぁぁぁぁぁぁ!!」
ソウルイーターと呼ばれる蛇は一瞬にして細切れになり悲鳴とともに消え去った。
「ライジ!早く戻って来なさい!これは総帥としての命令です!!」
エスティの声にビクつく動きを見せたあとライジの魂はスルスルと横たわっている実態の体に戻っていく。
「キィィィーーーー!!!許しませんよ!許しませんよ!許しませんよ!許しませんよ!」
キンヴェルクが怒りのオーラを出しながら叫び出す。
「私のせっかくの食事をあなた、なんてことしてくれてんでしょうか!私はね!食事の邪魔をされるのが最も我慢ならないのですよ!」
キンベルクは空間に異空間ホールを開けそこから杖を取り出す。
「この杖はね、ヴァナルカンドといって私の魔力を何倍にもする伝説級武器なんですよ。この意味わかりますね?あなたたちには万に一つの勝機はないということです、ロホホホ」
そう言い終えると異空間から取り出した杖をかざしなにやら詠唱を始める
「ロタ」
杖の先から黒い煙のようなものがでてエスティめがけて襲いかかる。
まるで細かい虫の大群が煙のように群がり、生き物のように意思をもってうごめいているかのようだ。
エスティは素早くその黒煙をかわし大きく距離をとった。
「ライジ!この煙、何かやばい!距離をとりなさい!」
エスティの判断は正しかった。
たまたま居合わせたネズミがその黒煙に触れた瞬間、そのネズミはのたうちまわりしばらくすると口から内臓を吐き出して死んだのだ。
「異形精霊のゾス‥‥」
エスティーは聖騎士隊でいわば聖なる剣術を学んだ。
一方で異形精霊のゾスは聖剣術とは対極に位置する魔法系統と言えるだろう。
ゾスに対抗できる魔法は限られる。
魔法で対抗してもまともな戦いにすらならない。
おそらくこのエルダーリッチが言うように、昨日エントワが倒したアスゼネコは強敵ではなく、3強が支配するダンジョンなのだろう。
このエルダーリッチを従えるガングリオンという魔物とはどれほどの実力なのだろうか。
「でも!負けない!私はレヴルストラのみんなと比べると実力は劣るかもしれない。だからこそこのダンジョンで大きく成長しなければならない。エントワおじさまに受けたご恩を返すためにも、私はこの戦いに勝って成長するんだ!」
エスティーは剣を握り返し、エントワに叩き込まれたロワール流聖剣術の構えをとり、これまでにないほどの集中力でキンベルクに剣先を向ける。
「いいでしょう。やはりあなたから頂きましょうか。あなたの魂は美味そうです。そこの青年の鋭く輝く魂ほどではありませんが、前菜としてはちょうど良いですね、ロホホホ」
キンベルクは伝説級の杖ヴァナルカンドを振り上げる。
10/30修正




