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<ホド編>18.作戦会議

18.作戦会議



―――ヴィマナ内会議室―――



 「若!一体何があったのですか?!」


 アレックスの激しい傷つき様を見て驚くエントワ。

 なぜならアレックスほどの強者がここまでダメージを負うことなどそうそうはないからだ。


 「んぁ‥‥。ちとやべぇやつらとやりあっちまってさぁ‥‥こりゃぁこれから気合い入れることになるぜぇ、エントワ‥‥」


 「三足烏の烈‥‥ですか」


 「アレックスボウヤをここまでいじめちゃえる烈ってぇーちょっと会って見たいわねぇ、ウッフフ〜」


 「おめぇなぁ、いじめ返してぇだけだろーがぁ。それよりそっちはどうだったんだぁ?」


 「ええ、こちらは予定通り世界竜の加護を入手しました。ただ、加護は世界竜の呪詛、越界できる力を備えているスノウ殿しか保有できぬ代物ゆえ、飛翔石を手に入れるまでの行動はスノウ殿を中心とした作戦になります」


 「そうか!よぉし!それじゃぁ作戦会‥‥イテテ‥‥会議の前に飯とするかぁ!!飯食わねぇとこの傷治らねぇからなぁ」


 飯食っただけで治るとは思えないほどの傷だった。

 身体中の所々に打撲痕や深い切り傷があり今だに血が止まっていない。

 普通なら動けないほどの有様だ。

 明らかに人間の体とは思えないタフネスだった。


 「ところでぇー、そのちっこいボウヤは誰かしらぁ?」


 「え?あぁ、この子は私のキュリア、ガルガンチュアの一員でライジっていうの。ガルガンチュアのメンバーに三足烏の動向を探らせていてダンジョン散策中に伝令として合流したの。大した戦力にはならない戦闘力は低い子だけど、足の速さと料理はピカイチね。この子がいる間は食事は期待できるわよ。でも戦力としては期待しないでね。本当に弱いから」


 「あのぉ‥‥ライジです。よろしくお願いします。っていうか総帥!貶してますよね?貶してますね?!いい貶している!!」


 半泣き状態でエスティを見つめ訴えるライジ。


 「ワサンボウヤは?」

 

 ロムロナはさり気なく全員の状態をチェックしていた。

 その中でワサンの姿が見えないのに気づき問いかけたのだった。

 アレックスがこれほどのダメージを負ったのだ。

 ワサンも相当ダメージを受けたに違いない、と世界蛇組全員が想像していた。


 「んぁ‥‥あのバカは自分の部屋にいるはずだぜぇ。だが少し一人にしてやってくんねぇか?」


 「まさか!あの力をつかったの?!」


 ニンフィーが驚いた表情で問いかける。


 「あぁそうだ。」


 「なんて無茶を!」


 ニンフィーは珍しく悔しそうな表情で下を向いた。

 

 (あの力?)


 部外者的立場のエスティとライジは置いておいて、レヴルストラメンバーとして唯一状況が飲み込めていないスノウを見かねてエントワが答える。

 数日前の出来事もあり、スノウを気にかけているのもあった。


 「スノウ殿‥‥。ワサンは特別な種族の生き残りなのです」


 「特別な種族?」


 「ええ。自らの血をたぎらせ本来の力を解放する。その力の解放は腕力もスピードも数倍に跳ね上がる」


 「数倍‥‥そんな力があったのにバジリスクと戦った時はなぜ見せなかった?」


 「その力には代償があるからです‥‥普段見ている姿に戻った後数時間は全身に激痛が走る‥‥」


 「激痛‥‥」


 「ええ」


 「問題はそれじゃぁねぇ。激痛はワサンなら耐えられるしそれを苦にしてる訳じゃぁねぇんだ‥‥」


 「そう‥‥その力を使えるのには回数の制限があるのです」


 「制限‥‥」


 「ええ‥‥あと数回‥‥正確には分からないけど、数回変態を行うと戻れなくなるの‥‥」


 「戻れない?」


 スノウはシルバーウルフに変態した姿を見ていないためその意味が理解出来なかった。


 「単なるオオカミになっちゃう感じねぇ‥‥。単なる巨大な怪物。話せもしないし、語りかけても理解もできない本能のままに行動する獣‥‥スノウボウヤ‥‥強くなるなら変態したまま戻れなくてもいいと思ったでしょう?‥‥でも、みんなとコミュニケーションも取れず、あたし達の事も忘れてしまう姿になってしまって平気だと思う?」


「‥‥‥‥」


(そんな訳ないだろう‥‥またおれに説教でもするつもりか‥‥)


 

 スノウが無言になってしまった気まずさを感じ取ったエントワが話を続ける。


 「しかしワサンがあの力を使う三足烏サンズウーとは余程の手練れ。そこまでの窮地に立たされたと?」


 理由を知らなかったエスティが申し訳なさそうな表情で答える。


 「はい‥‥‥‥あのままじゃワサンも私も殺されるところでした‥‥‥‥。今私がここにいられるのはワサンがその力を使ってくれたから‥‥‥‥。アレックスはそれを止める暇もないほどの相手と戦っていたから‥‥」


 「んぁ、あれはあいつの決断だぁ。あいつしか責任取れねぇ話だ。だが、そうさせたのは俺が弱かったせいだ。次はあんなことさせねぇ。あのホウゲキって烈の親玉にも不覚はとらねぇ。エントワやニンフィー、ロムロナ、スノウだっているんだ。次は俺たちレヴルストラ総力を挙げた反撃をする番だなぁ!」


 アレックスが罪の意識を感じているエスティを気遣って言葉を被せた。

 だらしのないいつもの喋り方の中にふつふつとした怒りが見える。

 握った拳からは血が滴っていた。


 「あと何回‥‥その変態は、あと何回なんだ?」


 聞いておく必要がある、スノウは思った。

 もしかするとこの先自分が弱いせいでワサンに変態させてしまうかもしれない。

 そんな事は絶対にあってはならないからだ。

 このレヴルストラでの立ち位置がわからなくなっているスノウにとって、自分のせいでこのメンバーに迷惑をかけるわけにはいかなかったのだ。


 エントワが答える。


 「そうですね‥‥我々ではあと数回‥‥としかわかりませんね。もちろんワサン本人ならわかるでしょうが、彼は絶対に言わない。我々に言えば止めにかかると分かっているのでしょう。若も言ったように彼があの力をつかうのはあくまで彼の責任であり、彼本人がそれを一番分かっている。彼は我々に罪悪感を持って欲しくないのです。だから言わない。ワサンはそういう男です」



 「‥‥‥‥」

 

 スノウは言葉が出なかった。

 思い合う仲間。

 自分のその一員だと言われていても、心のどこかで裏切られどん底へ突き落とされる恐怖を拭えなかったのだ。

  

 「まぁよ!何をすればいいかは簡単だぜスノウ。要は俺たちが強くなりゃぁいいんだぜ!俺たちひとりひとりが強くなる!そうすりゃぁワサンはあの力を使う必要が無いんだからなぁ!」


 「そうですね」


 「うっふふー」


 「ってぇことでよぉー作戦と今後やる事だが、まずはメシだ!メシ!ライジぃ、とびきりうめぇもん作って

くれよなぁ!」


 「な、なんか‥‥いいですね‥‥グスン‥‥ぼ、精一杯ご飯作ります!」


 「なぁんであんたが泣くのよーライジボウヤ、うっふふー。まぁいいわ美味しいご飯楽しみにしているわねぇ」


 エスティやライジも含めレヴルストラメンバーが ”ひとつ” になったのをスノウは感じた。

 ただひとり、自分を除いて。

 

 スノウ本人も分かっていた。

 自分が意地を張っているだけだと。

 子供の様に拗ねているだけだと。

 しかし、どうしても素直になれない長年染み付いた心にあるシミが拭えないのだ。


 自分の事を思いやってくれているメンバーを拒絶しいじけているだけのつまらない男だという事をスノウ本人が一番よく分かっていた。

 ワサンが仲間を気遣って自分の辛さに耐えているように、自分はこのメンバーに何が出来るのだろうか。

 そんな格好いい言葉が恥ずかしく思えるほど、情けない自分を痛感していた。

 


・・・・・


・・・



 ライジの食事は格別だった。

 戦闘はだめだが、逃げ足と料理については手際よく素早い。

 食材はある程度買い込んでいるとは言え、今までにない程の料理があっという間にテーブルに並べられた。


 「うほー!!すげぇなぁやっぱり!ライジ!おめぇうちのコックになれ!」


 「マジですか?!あ、いやでも総帥を裏切れませんから‥‥」


 エスティをチラチラ横目で見て申し訳なさそうに答えるが、アレックスに素直に褒められて余程嬉しかったのだろう、隠せない笑みがライジの表情を不自然にしている。


 「アレックス!この子はうちのコックよ!私の前で堂々と引き抜こうとするのやめてくれる?!」


 「いいじゃぁねぇかよぉー、ちょっと貸してくれるだけでいいなんだよぉー」


 「あんたバカだわ!ちょっとホドフィグ貸してみたいな勢いで言わないでくれる?うちのコックはそう安くないわよ!」


 「頼む!そこをーなんとか!」


 「あのぉー‥‥僕、コックじゃぁないですけど」


 

 楽しい会話と共に食事が続いた。

 スノウだけは無言で食べていた。



・・・・・


・・・



―――ところ変わって元老院大聖堂内の元老院謁見の間―――



 アレクサンとエントワが訪れた場所と同じ中央元老院との謁見の間。

 

 以前は両脇に聖騎士隊がならび謁見するものを威嚇していたが、今は姿を消している。

 薄暗い広い空間の先に広く長く続く階段があり相変わらず一般人には到底たどり着けない高みと言わんばかりに身分の差を象徴している。


 階段を上った先にある玉座にいつの間にか一人の男が座っている。

 

 元老院最高議長である。


 普段は自室におり、行事や政でしか姿を見せないため余程のことがない限りこの場にすら出てこない。

 恐怖で支配している一方で敵も多い。

 アレックスたちも敵の内だ。

 そういった外的から身を守る事も彼には必要なのだ。

 これまで自身を守る存在といえば聖騎士隊があったが、それも母体は冒険者キュリアであり、メインはガルガンチュアでこの国で言えば搾取される側に位置する存在だった。

 従って、いつ反旗を翻すかわからない自分の盾を持ちながら、自分の身は自分で守るしかなかったのだ。


 だが、それも必要なくなった。

 元老院は忠実かつ強力な自分を守る別の盾を手に入れた。

 自身に仇なす存在を簡単に殺せる剣を手に入れた。


 長年の苦労が実ったとばかりに少し笑みを浮かべて語りかける。


 「ホウゲキ」


 相変わらず声の響く広い空間だ。

 本来王族がいて元老院はこの世界の政治・行政を司る機関のはずだったが、もはや王族の姿はなく実質元老院最高議長を頂点にした元老院たちがこの国を牛耳っている。

 その声はなぜか逆らえない気になってしまう威圧感があった。


 「はっ!」


 「アレクサンドロス・ヴォヴルカシャを取り逃がしたと聞いておるが本当か?」


 「はっ!申し訳ございません!仰せとあらばこの首今ここで切り落としお詫び申し上げます」


 三足烏・烈をまとめる連隊長のホウゲキ。

 彼の表情は普段のそれと全く変わらず、しかし謝罪の意には偽りなく、この場で死ぬ事も恐れて居ない覚悟を決めたものだった。


 元老院との謁見前にアレックスを取り逃がした責任を取ると言って自分の首を切り落とそうとしたカヤクを殴って止め、全ては自分の責任と言い切った潔い大男なのである。

 因みに殴られたカヤクはあまりの打撃の威力に気を失っていた。

 冷静ではあるが、力任せで破手(派手)好きなため、”加減” や ”調整” という言葉はホウゲキには似つかわしくない。



 「いらぬ。この場が汚れる。逃した理由を申してみよ」


 「はっ!あやつらの乗り物に装備されている一瞬にして移動できる魔法のような術で逃げられましてございます」


 「ヴィマナか‥‥。あれもきゃつらを殺したあと我のものにしてくれよう。それで勝てるのか?きゃつらに」


 「それはお約束します。仮にあの場に居なかったエントワと魚人、半精霊がアレクサンドロスと同等であっても我が烈の敵ではございません。センノウ配下となっているフンカ以外の分隊長総出であやつらを殲滅します」


 アレックスたちはまだ三足烏・烈の一部の者としか対峙していないのだ。


 「またヴィマナの怪しげな力で逃げられるのではあるまいな」


 「いえ、それも問題ございません。アレクサンドロスが最後に放ったリゾーマタの雷魔法は転送の障壁となるダンジョンの天井に大穴をあけて取り除くために放ったもの。戦った階層よりも下層ならば、転送域を超えるため逃げる事は不可能。そこであやつらを叩き潰します」


 「いくら汝らが多世界をまたがった組織でも今は我の直属。次はないと思え」


 「御意!」


 そういうとホウゲキは溶けるように暗闇にかき消えた。

 

 最高議長はわずかに口角をあげた。

 

 なんと頼れる存在であろう。


 これまで常に警戒をして生きてきたがやっと掴んだ盤石さ。


 「これで次の段階に進める。ファファファ‥‥」



・・・・・


・・・



―――場面は戻ってヴィマナ内―――




 「ほぉー食った食ったぁー!」


 異常なほどふくれたアレックスの腹。

 もはや巨大なボールというか貯水タンクのようだ。

 流石はエントワ、ジェントルマンで背筋を伸ばして綺麗に優雅に食べ終えている。

 見惚れるほどの紳士ぶりだった。

 なぜにこの粗暴なアレックスにこの紳士が慕い付き添っているのかは謎だった。


 他のみんなも食べ終わり満足そうな表情を浮かべている。


 「いやぁこのヴィマナに乗ってから初めてこんな美味い料理を食ったでザマスな。いままで料理人がひどすぎたザマスな、ガスガス」


 「だなぁ!」


 「ですね」


 「たしかに!」


 ガースの言葉に賛同しアレックス、エントワ、そしてライジが腕を組んだ姿勢で“うん、うん”と頷きながら幸せの時を堪能していた。


 ギロリ!!


 女性二人が恐ろしいほどのオーラを放ちガースを睨みつけている。

 それも当然で普段料理をしているのは女性陣だったのだ。

 迂闊にも敵に回してはならない方々に暴言を吐いてしまった。


 「あっ、いや、た、これまでと同じく‥‥美味い料理でガスよ。前もとても美味しいかったでガスからな‥‥ガ、ギャース!」


 慌てて取り繕うガースであったが、魔法なのか蔦のようなもので縛り上げられている。


 「あぁ、ガース死んだなぁ」

 「ですね」


 アレックスとライジは関係ありませんとばかりに距離をとって体を引き千切られそうになっているガースを見つめる。

 当然の成り行きでアレックスとライジもガースと同じ拷問を受けた。



 「それでは作戦会議に移りましょう」


 エントワは自分は関係ないとばかりに先ほどの会話にもいなかったかのように仕切り空気を変える。


 その直後、ワサンが自室から出て作戦会議室に入ってきた。

 ライジは何か声をかけようと声が喉まででかった時、ロムロナがおれの肩に手をあてて静止した。


 「男の気遣いってやつぅ?ライジボウヤも学びなねぇ、ウフフー」

 

 そんなロムロナの配慮を見て、スノウは心が苦しくなった。

 自分の殻に閉じこもって他人を拒絶し、自虐的に流されてきたスノウにとって、誰かを思いやるなんてのは無縁だったのだが、さりげない優しさを見せるロムロナを見て自分の情けなさを突きつけられた気になってしまったからだった。


 自分さえ思いやれてなかった人生だった。

 毎日明日の自分を裏切って生きてきた。

 

 (なんて寂しい人生なんだろうな‥‥)


 スノウはそんな事を考えていた。



 「さて、我らはいよいよ飛翔石を手に入れるところまできました。したがって次のミッションは飛翔石を手に入れる事になります」


 「やっ‥‥と‥‥このわしの船‥‥をとばせるでガー‥す‥な‥‥」


 バタン‥‥


 「んぁ、死んだかぁ」

 「ですね」

 

 「‥‥ってかぁ、この船おれんだかんなぁ!!」


 ズタボロのガースは念願のヴィマナ飛行が叶うとあって、瀕死の状態ではあるもののその表情は気持ち悪いくらいに嬉しそうだった。

 いや、それ以上にアレックスの表情はこれまでに見た事のない感じだった。

 自分の父親を殺した巨大亀ロン・ギボールと対峙できる準備がやっと整えられる。

 嬉しさと高揚感と並々ならぬ厳しい戦いへの覚悟が入り混じった複雑な顔だった。


 「ですが、我らが飛翔石を入手するにあたり、最大の障壁となる元老院と三足烏の動きを整理が必要です」


 アレックスとワサンの表情が一気に険しくなる。


 「既に解散となった聖騎士団やガルガンチュアの情報から、我らレヴルストラがこの巨大船ヴィマナを飛ばそうとしている事は既に知られています」


 エントワは続けて話す。


 「元老院がとる行動パターンは二つ。ひとつ目は我々に飛翔石を手に入れさせ、ヴィマナを飛ばせる状況を作り上げてから我々を殺す。二つ目はヴィマナを飛ばす事自体も避ける目的で飛翔石を手に入れる前に我々を殺す」


 「そうねぇ。そして力を欲したがる元老院ボウヤはおそらく前者で来る」


 「そうです。この世界は巨大亀や世界竜といったこの世界そのものを簡単に破壊できる存在がいる。それを牽制またはそこの脅威から自分たちだけでも生き残るためには空飛ぶ要塞が必要‥‥そう考えるはずですからね」


 「ああ」


 「ですが、我らレヴルストラがヴィマナを本当に飛ばしてしまった後では逃げられる危険がある。とすれば、彼らの取る行動はただひとつ」


 「飛翔石を手に入れた直後に殺す‥‥ね」


 エスティが答えた。


 「そうです。そして今回、若が世界竜の鍵を入手すべく指定場所に行ったにもかかわらず鍵がなかったという事は、我らが世界竜と接触した事が元老院側に知れているという事。ではなぜ、我々が危険を犯してまで世界竜と接触を図ったのか、元老院はこう仮説を立てているはずです」


 身振り手振りで表現を加えつつエントワは話を続ける。


 「飛翔石の在処は彼らも知っている通りフェニックスの部屋。流石の三足烏といえどもあの業火を防ぎ飛翔石を入手する事など不可能でしょう。それは我らレヴルストラも同じ。つまり、世界竜から業火に焼かれない何かを得るために危険を冒して世界竜に会いに行ったに違いないと。ならばレヴルストラに飛翔石を手に入れさせそれを殺して奪えばいい。あとはゆっくりヴィマナを飛ばす研究と調整をするだけだと。これが我々が飛翔石を手に入れた直後に襲われる根拠ですね」


 「しかもヴィマナ転送域よりも下層でなぁ」


 アレックスが付け加える。

 三足烏と対峙した際にアレックスがジオライゴウで天井を崩壊させた後に転送されたのを三足烏は見ていた。

 早くから劣勢に陥っていた状況を耐えながら戦っていた状況も知っていた筈で、わざわざ時間を稼いでいた理由は転送域には限界があり、それがあのあたりだと推測しているはずだ。

 そして余裕を見てもう少し下層で待ち伏せるに違いないと考えていた。


 「という事で、これまで我々は目的達成のために効率性と全滅を避けるためチームを分けてミッションに対応してきましたが、若やワサンのダメージを考慮すると三足烏・烈は我々が戦力を分散して勝てる相手ではないと確信します」


 ゴクリ‥‥!


 一同は思わず唾を飲み込む。


 「そうだなぁ。あのホウゲキってのはおそらくここにいるメンバーじゃぁ誰も太刀打ちできねぇなぁ」


 「ええ、そうですね」


 エントワが何の疑いもなく肯定した。

 

 「従って、今回はヴィマナの操作をするガース以外は全員ダンジョンに入ります。攻撃は若と私。感知系魔法を得意とするワサンには斥候として警戒に当たってもらい、肉体強化や魔法防御系のサポートはロムロナ、ニンフィーは回復に専念してもらいます」


 「おれは‥‥おれは何をすればいい‥」


 スノウは気遣われて外されたのかと思い、せめて戦いの中で貢献したいという感覚から思わず質問した。

 言った後、少し心拍数が上がったのを感じ、いっそのこと誰かの盾になって命を落とせれば、レヴルストラに貢献しつつ自分も楽になれるという過激な発想に至ったが直ぐ改めた。


 「ええ、もちろんスノウ殿にも戦って頂きます」


 「あたりめぇだなぁ、スノウ。おめぇももう俺たちの重要な戦力なんだぜぇ!はっははー」


 「ただし、スノウ殿にはあくまで自分自身を守るための戦闘に徹してもらいます」


 「そうねぇ、目的は飛翔石を無事にヴィマナに持ち帰る事だからぁ、スノウボウヤに死なれたら困るしねぇ、ウフフー」


 「!」


 スノウは驚いた。

 自分は死なれたら困る。。

 つまり、こんな惨めで情けない自分を痛感させられて尚、自分を守るためにこのメンバーから犠牲者が出るかもしれないのだ。

 スノウの心の中に怒りが沸き起こる。


 「いや待ってくれ!フェニックスから飛翔石を奪うのにはおれが持つ世界竜の牙が必要になるのは明白だけど、飛翔石そのものがおれしか持てないわけじゃないんだから、おれは攻撃の最前線で戦わせてくれ!」


 スノウのあまりの大声での主張に皆驚きの表情を見せた。


 「いえ、世界竜の牙が協力な呪詛を帯びているという事は飛翔石そのものも呪詛を帯びている可能性があります。いや、仮に無くともそういう演出でスノウ殿ひとりだけでもヴィマナに帰還できる状態にしたいというのが作戦です」


 「本当は世界竜の鍵を入手できていれば、それを切り札に全員で逃げるって想定だったんだけどねぇ。見事に先越されちゃったからぁ、うふふー」


 「‥‥‥‥」


 (‥‥最悪俺1人が生き残る可能性があるって事かよ‥‥‥)


 険しい表情を浮かべるスノウを横目にエントワは話を続ける。


 「そしてガース、我々が烈と遭遇し戦闘に入る際、ニンフィーから思念魔法でその旨を伝えます。それまでにヴィマナの動力を転送装置に集中させて、転送可能域を最大限拡大しておいてください。以前入手したアジーダカーランからの情報ではフェニックスのいるは65階層とのですが、最大出力でも転送可能域になるのは55階層あたり。最悪質量に制限が生じる場合、まず飛翔石を転送し、その後に転送できる者から転送してもらう。その際の順番も決めてあります」


 「まぁ、おれのジオライゴウでぇでっけぇ穴ぁ開けるから全員ヴィマナに戻れるはずだぜぇ!はっははー」


 「そう上手くいくかしらねぇ。アレックスボウヤより強かったんでしょう?その烈の親玉みたいな赤毛とぐろボウヤは」


 「まぁなぁ。少しでも行動が遅れりゃぁ全滅かもなぁ、はっははー」


 「ええ、そうですね」


 「そうですねって!」


 皆明るく振る舞っているが最悪のケースが濃厚って言っているようなものだった。

 

 (ヴィマナを飛ばした後の目標もあるだろうが‥‥なんの目標もないおれだけ生かしたって意味ないのに‥‥)


 スノウは沸き起こった怒りが治らなかった。

 険しい表情のスノウを横目にエントワはさらに説明を続ける。


 「今の我々では全滅する可能性は高い」


 「そう、今の俺たちではなぁ!」


 「どういう事だよ!」


 「強くなるんだよぉ!しかも短期間でなぁ!はっははー」


 「我々はフェニックスのいるダンジョンではなく、まず素市に行きます」


 「なぁるほどねぇ、そういうことかぁ。久々に腕がなるわねぇ」


 「だからどういう事だよ!」


 楽観視しているのが、諦めているのか分からずスノウは更に苛立ちを隠せずに声を荒げた。


 「素市にはなぁすげぇ強えぇ魔物がいるダンジョンがあるんだよ。強ぇという事はそれだけ俺たちも強くなれるってぇ訳だ」


 「おれたちの行動がもし烈に見張られているとすればその素市にいっても烈と遭遇するんじゃないのか?」


 苛立つスノウは、アレックス達が何を考えているのか理解したく、その作戦の甘さを指摘した。

 自分ひとりを生かすために全滅されては堪らない。


 「あぁ、その通りだなぁ。だが、このヴィマナ!舐ぁめてもらっちゃぁ困るぜぇ!」


 「ええ。このヴォヴルカシャではヴィマナを超える速度で移動できる手段はありません。最高速で移動すれば5日で素市につきます。ヴィマナ以外で移動する場合、どんなに早い船でも10日近くかかる。リスクを見ても我々に与えられた行動できる時間は・・・」


 「そう!つまり3日だぁ!3日で俺たちはぁさらに強くなるぅ!はっははー」


 「‥‥‥‥‥‥」


 スノウは言葉を失った。

 ワサンの怪我はかなりひどい状況だったのもあり、回復の時間もないまま3日で強くなると言い切ったアレックスの言葉を理解出来なかったのだ。

 

  「俺モ大丈夫ダ‥‥移動期間で完治サセル」


 ワサンはスノウの苛立ちを察したかのように答えた。


 「どうしたスノウ?怖気付いちまったかぁ?」


 自分が最も弱い事を知っており、スノウ自身が最もそれに負い目を感じている中でアレックスが挑発的な言葉を投げかける。

 だが、スノウはその時別の思いを心に抱いていた。


 (一番弱いおれが弱音吐いたら結局こいつらに守られておれを守るために犠牲になられちまう‥‥そんなのまっぴらごめんだ!)


 「やるよ‥‥強くなってやるよ‥‥」


 「よし!よく言った!」


 「ウフフ〜スノウボウヤ。なんだか大人になったわねぇ。今度デートしましょうかぁ?」


 「断る」


 キスしようとしてくるロムロナを制する。

 本気で嫌がるスノウ。

 

 「あらぁ照れちゃってぇー」


 ロムロナはこうやってスノウが心を開くきっかけを作ろうとしているのだとスノウは感じ、嫌がりつつも少し暖かい気持ちになった。



 「それじゃぁ今から出発だぁ!」


 「あなたはどこにいくの!」


 エスティがこそこそと下船しようとしているライジに向かって言う。


 「あ、いえ、僕はレヴルストラのメンバーでもないですしあまりみなさんのお邪魔になってもいけないですからそろそろお暇しようかと‥‥」


 「ビビったなぁ」

 「ビビったわね」

 「ビビってる」


 「おめぇが居なくて誰が飯作るんだよぉ、ボケが!」


 アレックスのげんこつがライジの頭に叩きつけられる


 「いったぁ!わかりましたよ‥‥ぐすん」


 「よぉし!じゃぁ出発だぁ!!」


 アレックスたちは素市もとしに向かってヴィマナの舵をきった。







8/30 修正

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