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<ホド編>17.対峙 ―烈― その2

17.対峙 ―烈― その2



 カヤクは数十もの手裏剣を一斉に放ち、ワサン、エスティ、ライジ達を攻撃する。


 「ソンナモノ、既ニ見切ッテル」


 ワサンはカヤクに詰め寄りながら無数の手裏剣を避けきった上で短刀を投げつける。


 「それはこっちのセリフだね。毒付きのナイフなんてもう通じないよ」


 カヤクは紙一重でワサンの投げつけた短刀を避けた。

 一方、エスティは剣で手裏剣を避け切っている。

 ライジは逃げ足だけは早いようだ。

 とりあえず無傷らしい。

 離れた場所で様子を伺っている。


 そのままワサンは刀でカヤクに斬りかかる。

 カヤクは足のかかとについているナイフでその刀を受け切った。


 「パーセルペイン!」


 その衝撃で刀に塗布されていた毒がカヤクに飛び散るが、カヤクは毒霧や酸などを防ぐバリア魔法で飛び散った毒を防いだ。

 そしてそのまま刀を受けた足を上げたままスライディングしてワサンの後方へ回り込む。

 続けざまに腰にぶら下げているフレイルを取り出しワサン目掛けて振り下ろす。

 先ほど爆発でワサンにダメージを与えたフレイル攻撃だ。


 「そうはいかないわよ」


 エスティが素早い剣さばきでフレイルの鎖を切断し爆発する球体はあさっての方向に飛んでいく。


 「あっそ。じゃぁ君から殺すか」


 そういうとカヤクはフレイルを持っている逆の手を思いっきり前に振り出すと、爆発する球体が一瞬で向きを変えエスティの方へ飛んでくる。


 「な!‥鎖切ったはずなのに!」


 「僕はマジシャンだからね、へへへ」


 「く!油断した!」


 「ジノ・アジリアル、ジノ・ソリッドスキン」


 ワサンは素早さと皮膚の超強化魔法をかけて一瞬でエスティの前に移動しフレイルの爆発を受けきる。


 「ワサン!」


 ドッゴォォォォン!


 エスティは無傷、ワサンも前回の爆発フレイルの衝撃を考慮し超強化魔法をかけたことで大きなダメージには至らなかった。

 その隙を狙って強化されていないワサンの眼球めがけてかかとナイフの蹴りを放つ。


 キシャーン!!!


 ワサンの背後から素早く回り込んで剣でナイフを防ぐエスティ。


 「上出来ダ」


 「あなたもね!」


 「んんんん!イラつくなぁ、そういう陳腐な連携を見せられると吐き気をもよおすんだよねぇ!」


 一瞬で後方へ引き下がり、ブツブツと何かを唱え始める。

 肉体強化系のウルソーと感知系のロゴス魔法を複数かけているようだ。


 「オ前モ備エテオケ、来ルゾ!」


 エスティも大急ぎで強化系感知系魔法をかける。



 (こりゃぁまずいなぁ)



 アレックスはホウゲキと大剣を交えながら横目でワサンたちの戦いを見ていた。

 2対1で明らかに押されている。


 「余所見をする暇があるとは随分と舐められたものだな」


 ホウゲキが強力な一撃をアレックスに向ける。


 「余所見なんてしてねぇよぉ!」


 ドッグアァァーーン!!


 アレックスも大剣で受ける。


 「あんた相手に余所見なんて出来るわけねぇなぁ。だが早めにあんたをぶっ倒さねぇと仲間がやばそうだなぁ」


 「仲間を気遣うか。それを余所見と言うのだ!」


 ホウゲキはさらに大剣をアレックスに向ける。


 ドッグアァァァンン!!


 「ジオエクスプロージョン」


 「おおおおお!ジオストーム!」


 ホウゲキが超高熱の爆発魔法を繰り出すと同時にアレックスが風の刃をともなった暴風を繰り出す。


 シュババババーーン!!!


 爆発を超高圧の風の刃が切り刻み方々に高熱波が散らばる。


 「マジックアドヒレンス」

 「マジックアドヒレンス」


 二人同時に魔法効果付着の呪文を武器にかけ、魔法付着物理魔法に移る。

 この二人のようにクラス3の魔法を使いながらの戦いとなると衝撃が大きく、ダンジョンのような狭い場所では周囲を破壊しながらの戦いとなる。

 ましてや3メートルほどの大男が凄まじい力でぶつかり合いながら戦っているのだからそれだけでも一太刀一太刀に凄まじい衝撃波が生じているのだ。


 (分が悪いなぁ)


 本来炎系爆発魔法を中心に攻撃しているホウゲキに対して、属性的にはアレックスの繰り出す気体系風圧魔法の方が有利なのだ。

 しかし、その属性の有利さがあるにも関わらず勝負は拮抗している。

 つまり、アレックスが押し負けているということだ。

 一太刀一太刀の重さがアレックスのそれを大きく超え、その衝撃から次の一手のタイミングが少しずつ遅れているために得意な魔法の優位性は失われ、更に力負けしている剣技もタイミングのズレでさらに不利に働き次第に押され始めている状態なのだ。


 打ち合う度に爆発と風の刃がぶつかり合い、高熱の爆風が方々に散らばり、ダンジョン内を破壊していく。



 ガキィン!ケェン!シャキィン!カカン!!


 「アレクサンドロスも中々やるねー。ホウゲキさんと打ち合えるやつなんてそうはいないんだけどなぁー。でもそろそろ疲れてくる頃かな?」


 「余所見シテルンジャネェヨ」


 カヤクはワサンとエスティの素早い攻撃を受け切りながら息も切らさずにホウゲキとアレックスの戦いの様子を伺っている。

 ワサンがカヤクの攻撃を受けながら、エスティが隙をついて攻撃しているが悉く防がれる。


 ワサンはもう十分に肉体強化、感知強化魔法をつかっており、これ以上の動作向上は見込めない。


 (クソ‥‥強ェナ)


 「ヒョロイノ‥‥何故俺タチヲ殺シタガル?俺タチニ恨ミデモアルノカ?」


 少しでも気をそらすために質問を投げかける。

 こいつは結構油断するタイプだから、相手の油断するポイントを会話から探そうとしたのだ。



 「ヒョロイの?バカにしてくれるね〜。僕結構脱いだらすごいんだけどなぁ。そう思うでしょう?エストレア?見てみる?」


 カヤクはワサンの攻撃を受けながら上半身に来ている服を脱ぎ出す。


 (クソ‥‥フザケヤガッテ‥‥シカシ隙ガネェ)


 カヤクは力を振り絞った強烈な一撃をワサンに向けて繰り出した


 グワッキキィィィン!!!


 ワサンはその衝撃で後方へ吹き飛ぶ。

 間合いを作ったカヤクは上半身裸の状態で自分の筋肉をエスティに見せつける。


 「あ!あんたバカだわ!」


 次の瞬間カヤクのパンツがずり落ち、カヤクのいちもつがエスティの前で露わになる。


 「ぎぃぃぃやぁぁぁぁーーーー!!!」


 エスティが狂気の叫びを放ち、目を覆いながら回し蹴りを繰り出した。


 シュルルン!


 予想外の展開に蹴りを避けるのが遅れたカヤクの股間にエスティの蹴りが炸裂する。



 「!!!‥‥‥‥‥‥」



 声も出ないほどの強烈な痛みにダンジョンの壁を裸のまま何度も蹴りつけるカヤク。


 ドガン!ドガン!ドガン!


 壁はあっという間に破壊され尽くした。



 「ぎゃーーーーー!!!!!あたしのブーツが!!汚れたーーー!!!」



 相当嫌なのか、そういうものに疎いウブなのか、顔を真っ赤にし湯気を出しながらブーツで地面を何度もけるエスティ。


 ドガン!ドガン!ドガン!


 地面はあっという間に破壊され尽くした。


 「ハハハハハ、ザマァネェナァ!!」


 ワサンが持っている担当の刃先にボタンのようなものが突き刺さっている。

 一瞬の隙をついてカヤクの履いているズボンのボタンを刀で引っ掛けて引き千切ったのだった。


 「ワーサーンー!でめぇーーーーーー!!!」

 「ワーサーンー!おめぇーーーーーー!!!」


 カヤクとエスティの怒りが頂点に達したようだ。


 「オイオイ、エスティ!敵ヲ間違エルンジャネェ!」


 「ワサン!貴様だけは必ず殺してやるよ!元老院様はただ殺せと命じられたが、怒破手にギタギタに切り刻

んで激痛で後悔させながら殺してやる!元老院様の秘密に近づいたのが運の尽きだよ!」


 「元老院ノ秘密?」


 次の瞬間、カヤクの前の間に大剣が飛んできて奥の壁に突き刺さる。


 グアッッサーーーン!!!


 「カヤクよ!貴様油断したな!!!今ここで殺してやろう!!」


 「ホウゲキさん!油断してました!あ、あまりの怒りでつい‥‥すみません!!」


 カヤクは急いでパンツを履き直し戦闘態勢に入る。

 ホウゲキの凄まじい投剣に冷静さを取り戻したカヤクは一瞬にして本気モードに入った。

 先ほどの出来事に対する怒りは消え表情は冷静になっている。

 チャラさもなくなり、くねくねしていた体の動きが落ち着いた状態でもはや何をしても隙など生まれない状態になっていた。


 「予定通りあとで殺してやるが、最初からその本気を出しておくべきだったな、カヤクよ!だが安心したぞ。さっさと片付けろ」


 「御意」


 言い放つと同時に凄まじい速さでワサンの目の前に移動し一撃を加える。


 シャザーーン!!!


 「グアァァァ!」


 「ワサン!」

 

 ワサンの腹から胸にかけて斜めに深い切り傷が刻まれる。

 あまりの激痛にさすがのワサンも声をあげる。


 (ダセェ・・・何テ声出シテヤガル・・・)


 吹き出す血をみてエスティがすかさず回復魔法をかけるが血は止まらない。

 エスティの使える回復魔法力ではこの深さの傷を癒すのが間に合わない。


 「ワサン!この傷‥‥深すぎる!」


 (コレハヤバイナ‥‥仕方ネェ‥‥)


 「エスティ、30秒クレ‥‥」


 「えっ?!何?!え?!え?!」


 ワサンは距離を取るために後ろに飛ぶ。

 飛ぶと同時にエスティの鎧に血が吹きかかる。


 「おおおおおお!」


 (ワサンはあの傷で何かやろうとしている!私であいつの攻撃防げるの?!いや防ぐんだ!)


 エスティはカヤクの攻撃に備え構えている。

 しかし、恐らく30秒も持たないはずだ。


 「ワサン!やめろ!」


 ワサンの様子を横目に見ていたアレックスが叫ぶ。



 「グオォォォォォ!」


 ワサンの様子がおかしい。

 体が震え出し少しずつ体が大きくなっていく。


 「あのぉ馬鹿野郎ぉ」


 (こりゃ長くもたねぇなぁ、急いでくれよぉぉ!)


 アレックスはホウゲキからの攻撃に耐えながらワサンを心配する。

 

 一方時間を稼ぎたいエスティは、必死にカヤクの攻撃を受けているが受けきれずに斬られ始めていた。


 「おやおや、なんか拍子抜けるなぁ。ワサンは休憩中かい?君じゃぁ相手にすらならないし、つまらないからそろそろ殺すよ?先ほどの屈辱、普通に死ねると思わないでくれよな?」


 「言ってくれるわね!これでもヴォウルカシャ最大のキュリア背負ってんのよ?」


 「弱者がいくら集まったって弱者でしかないからね。それを纏めてるっていっても弱者に変わりないよね。謝罪しても許されない、殺すよ」


 「はぁ?あんな下品なもの見せられてなんでこっちが謝らなきゃならないのよ!バカだわ!」


 「じゃぁ死にな」


 カヤクはエスティの挑発にも乗ることなく冷静に殺意をむき出しにしている。


 背中にクロスに差していた2本の細身の剣を抜き構える。

 おそらくカヤクのスピードで軽い細身剣なら防ぐのはほぼ不可能。

 だが、剣質が軽い分皮膚強化魔法で受ければ致命傷は免れるはずだ。

 エスティは間も無く訪れる正念場に緊張を隠せない。


 (もし自分が死ぬようなことがあってもワサンが必ず‥‥ん?ワサンがいない?!)


 「じゃぁさようなら」


 次の瞬間、カヤクは構えている姿が残像となるほどのスピードでエスティの前に移動し、2本の剣をエスティ目掛けて突き刺してきた。


 (まずい!斬撃ではなく突き!これではソリッドスキンでも防げない!)


 死を意識したエスティ。


 ドバチェァァァン!!!


 血しぶきが飛んだ。



 (あまりの速さで痛みすら感じないのかしら‥‥なんとも短い人生だったな‥‥)


 一瞬のはずなのにエストレアの脳裏に自分の人生が走馬灯のように駆け巡る。


 (恋‥‥してみたかったな‥‥)


 「ん?私‥の血じゃない?」



 「ワ‥‥サン!!!やってくれたじゃぁないか!」



 カヤクの胸に真横に3本の切り傷が刻まれている。

 そして、そこから激しく血が噴き出していた。


 カヤクの奥を見ると巨大な銀色の狼がルビー色の目を光らせてカヤクを見ている。


 「ガルルルルルウウ」


 ワサンが姿を変えた輝くような毛並みのシルバーウルフだった。


 「予定変更だよ。先にワサン、貴様から殺してやる。あいにく獣は嫌いでね。アレルギーなんだよ!」


 そういうと凄まじいスピードで銀狼のワサンに切り込む。

 銀狼ワサンはそれを避け鋭い爪でカヤクに攻撃をしかけるが、カヤクはそのワサンの前足に斬撃を放つ。


 シャバン!!


 銀狼ワサンの前足が切られる。

 傷は浅いが血がどくどくと流れる。


 「ガルルウルルルルァァ!!!」


 「ハッハァ!獣になると言葉も忘れるか!魔物と変わらないじゃないか!さくっと殺してやるよ」


 銀狼ワサンがブルブル震えだす。

 カヤクは呪文を唱えている。


 「バイオニックソーマ」


 もはやエスティにはカヤクの動きは追えなくなっている。

 しかし明らかにカヤクが銀狼ワサンに斬撃を与えているのがわかる。

 銀狼ワサンが距離を取る度に体に切り傷が増えているからだ。

 銀狼ワサンは、ジノ・ソリッドスキンで皮膚超強化しているためカヤクの斬撃は致命傷にはならないようだが、一方のカヤクは最初のダメージ以降、銀狼ワサンからの攻撃を食らっていないようだった。


 銀狼ワサンがさらに震えだす。


 「なかなかしぶといね。だから獣は嫌いなんだよ!」


 さらにスピードを増したカヤクが銀狼ワサンを襲う。

 次の瞬間、銀狼ワサンが更に光り輝く銀色に輝きだす。

 カヤクをも凌ぐスピードで攻撃をギリギリかわし、カヤクの左目あたりに前足の攻撃を食らわせる。


 「僕の顔に傷をつけたね‥‥全身全霊をかけて貴様を殺す!」


 「ガルルルルルゥゥガル!」


 カヤクの左目あたりに縦に3本の切り傷がついている。

 ギリギリ失明は間逃れたようだが今は目を開けていられない。

 一方銀狼ワサンも変体前に腹にカヤクの斬撃を食らった跡があり血が垂れているが、それ以外の小さい傷が無数につけられ瀕死の状態だった。


 「ワサン!大丈夫かぁ!」


 アレックスがワサンを気遣うが、アレックスの体も傷だらけでところどころから血が垂れている。


 「ぬぅぅぅん!!!」


 ホウゲキの強力な一撃がアレックスを襲う。


 ドッガーァァァン!


 辛うじて一撃を受けるアレックスだが、力んだ瞬間身体中の傷から血が吹き出る。


 「んぬぅぅぅおおおおおオラァ!!!」


 受けた攻撃を跳ね返すアレックス。


 「ワサン!エスティ!上ぇ気をつけろぉぉぉ!!!」


 アレックスが叫ぶ。


 「ジオライゴウ!」


 アレックスが右手の拳を上に振り上げた瞬間その手から強大な稲妻が天井に向かって発生する。


 ドッッッッッゴォォォォォン!!!


 その衝撃はダンジョンの3階層分ほどの大穴が開くほどだった。

 破壊された天井から大量の瓦礫が落下してくる。


 「こんな埃を巻き上げるだけの攻撃が効くと思うのか?アレクサンドロスよ!」


 「攻撃じゃぁねぇよぉ!」


 次の瞬間アレックス、ワサン、エスティそしてエスティのそばに寄ってきたライジが光に包まれて消えていく。


 「ワーーーサーーーンーーー!!!!!!」


 瓦礫の落下音をかき消すほどの、怒りに任せたカヤクの叫びがダンジョンに響き渡る。


 4人はヴィマナに転送されたのだ。


 「アレクサンドロス‥‥。いいだろう。次は逃がさん」


 瓦礫が落下する中、ホウゲキとカヤクはまだ息のある仲間を引き連れて退散した。







8/29 修正

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