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<ホド編> 3 スノウ ウルスラグナ

3.スノウ ウルスラグナ



 「よーし。それじゃぁここで其々の目的に沿って別れるとしようか。ワサンとエントワはにーちゃんを連れてまずフォックスに行ってくれ。やることはわかってるな?」


 「‥ギロリ‥」


 「承知した、若」


 「それでっと。ニンフィーとロムロナは食料の買い出しを頼む。しばらく蒼市に滞在するからとりあえず3日分くらいの量でいいぜ」


 「りょうーかいアレックスボウヤ」


 「あの‥‥船長さん‥‥私スノウさんと一緒に行きたいです‥‥」


 イルカ女と対照的な口調で精霊とのハーフエルフが応える。


 「ニンフィー、何度言ったら覚えてくれるのか知らんが船長じゃなく、キャプテンだぜぇ?」


 (初めて発言するのを聞いたけど‥‥なんか可愛いな‥‥なんてデレーっとした表情を見せようものならワサンにかみ殺されそうだ。それにしてもエントワのことは副船長と紹介しておきながら、自分のことはキャプテンって横文字で言わせるってどんなこだわりだよ‥‥)


 「あぁ、そういうことか。徒労に終わると思うがまぁいいぜ。行ってこい。変わりにワサン、食料の買い出しに代われ」


 「ガウッ!!!」


 驚きの奇声なのか、そもそもそういう感じなのかわからないが恐ろしい唸りがワサンの長い口から聞こえた。

 そしてスノウをさらにギロリと睨みつける。

 あぁ、絶対こいつとは合わない気がするとスノウは確信した。



 周りの建物に比べ一際大きな建物の前に着いた。

 何と書いてあるのか不明だが、どうやらここがフォックスという職業照会所らしい。

 自分の天職とか能力値とかを示してくれるのだそうだ。

 加えて元老院が御布令をだしている通り、ダンジョンを探索する冒険者を募っていることから様々な職業の人たちが冒険者になってるらしく、その冒険者登録もやっているらしい。

 勝手にダンジョンに入って勝手に死んだら消息が分からなくなってしまうから、きちんと管理したいのだろう。

中に入ると右側の壁一覧に張り紙が貼られている。

 普通に想像するにクエストの依頼書だろう。

 正面には長いカウンターがあり、左側には大きく開けたスペースにテーブルとイスが並びいわゆる酒場になっている。

 ここで仲間を見つけたりもするのだろう。


 「スノウ殿、まずは天職照会を致しましょう、こちらに進まれよ」


 エントワがスノウを誘う。


 (しかし、殿という呼び方‥‥おれ下手したらあなたの孫くらいの歳だよ‥‥なんというか‥‥律儀だなぁ)


 長いカウンターの右端に石臼のように見える円柱状の石でできたなにかがあり、その奥に受付と思われる女性が座っていて、やたら息巻いている男の応対をしている。

 聞こえてくる会話から冒険者登録をしにきた人のようだ。


 「俺の素質からいけば勇者か魔剣士あたりだろうな!驚くなよ?」


 一緒に冒険者登録をしにきたらしい仲間二人にそう息巻いている。


 「それでは両手をこの台の上に乗せて意識を集中してください。あなたの潜在能力を引き出し、眠っている天職を表示します。それに合わせて固有能力が使えるようになるのと、職業によっては魔法も使えるようになるかもしれません。」


 事務的に応対する受付の女。円柱状の台に手を乗せたこうるさい男はさらに息巻く。


 「よし!おらぁ!こい!はぁっ!!」


 しばらくすると手が光り、円柱状の台が黄色に光り出す。手を乗せた面には何やら文字が浮かび上がっているようだ。


 「おお!!黄金色!勇者か!、んん?なになに?固有能力はぁ‥‥ヘヴィーエンカウンター?なんだこれ?」


 「天職および固有能力の獲得おめでとうございます。それでは申し上げますね。色はオーカー、これは天職 木こりを表します。固有能力ヘヴィーエンカウンターは魔物を極端に引き寄せるパッシブ能力になります」


 「ぬぁぁぁっぁにぃぃぃぃ!!!う、うそだー!!!、おいいい加減にしろよ!なんだこのマジックツールは!壊れてんじゃねぇのか?おれは勇者になる男だぞ?!」


 「お客様、落ち着いてください。ちなみに貴方が使える魔法があります」


 「おお!なんだ?魔法が使えるってか!それはどんな種類の魔法だ?まさか!伝説の原初魔法アルケー系か?それとも神秘魔法のミュトス系か?


 「いえ、ウルソーですね。それも肉体強化や滋養強壮といった類の魔法が使えます」


 「ふざけんな!いよいよ木こりを極める気か!おれがそんな下等な魔法の使い手なわけねーだろ!てめぇやりなおせ!」


 罵倒を浴びせながら受付女の胸ぐらを掴みかかろうとした時、一瞬見失うほどの速度でエントワがその男の横に詰め寄り掴みかかろうとした腕を握りひねり上げながら一言。


 「ダンディズムとは自身に関わる全ての物事を受け入れただひたすらに己を磨くこと。癇癪(かんしゃく)を起こし女性に手をあげようとするとは男を名乗る資格なし。おとなしく去りなさい」


 エントワは美しいほどのよい姿勢で喚き散らしていた男の腕をひねり上げている。

 あまりの激痛に声もでない威勢のいい男は涙目になりながら走り去っていく。

 連れの二人も申し訳なさそうにお辞儀をして追いかける。


 まわりからは拍手とともに一部ざわめきが起こる。


 「あれ、上流貴族のエントワ ヴェルドロワール公爵じゃないのか?」

 「まさか、こんなところにいないだろう?上流貴族っていったら、中央元老院の犬だぜ?俺たちの信仰心を監視する役目じゃないか!」


 (もしかすると、このお方、すごい人なのかもしれない‥‥まぁでもおれはこの世界になんのしがらみもないし、自分に危害を加えないのであれば気にする必要はないな‥‥)


 「ありがとうございます。エントワさん」


 受付女が答える。


 「いえ、当然のことをしたまで。それより天職照会と冒険者登録を依頼したい御仁がおりますのでご対応いただけますか?この御仁がトライブ登録します。もちろんトライブ名はレヴルストラ」


 レヴルストラという名前を聞いた周りが一斉にどよめく。


 「あの元老院に歯向かっているという噂の‥‥」

 「存在しないゴーストトライブって話だったが‥‥?」

 「でもなんで上流貴族がレヴルストラに‥‥?」

 「私設警察に通報したら報奨金がもらえるかも‥‥」


 どよめきの中、エントワがネクタイを締め直す動作をした瞬間に周りに緊張が走り一瞬にして静まり返る。


 「えぇ、もちろんです」


 受付嬢は全てを把握しているかのように笑顔で答える。


 「さて、スノウ殿、先ほどの下郎のやりとりを見ていたのでお分かりでしょう。さぁ両手をこの台の上に乗せてください」


 「え、あぁ、わ、わかりました、ありがとうございます」


 (敬語になってしまう‥‥この人相当すごいのだろう)


 促されるままに手を置くスノウ。

 先ほどのやりとりでいけば、自分の天職ってのがわかるのと固有能力といわれるものも使えるようになるはずだ。


 (なんだっけ、集中だったか)


 スノウは目を閉じ意識を自分の内面に集中させてみる。

 なにやら頭の奥のほうから小さな光が現れ少しずつ大きくなっていくのが見える。

 その光は七色に光っているようでどんどん大きくなっていき、やがて自分の意識を丸呑みするかのような勢いで視界が包み込まれていくのを感じた。

 その瞬間、ドン!!という大きな音とともに台座が真っ二つに割れた。


 「きゃ!な、なに‥‥これ‥‥」


 「これはレベル10のマジックアイテムのはず。その魔力は第3階級悪魔ですら壊すことのできない代物の‥‥それが壊れるというのは‥‥」


 受付女とエントワが驚きを隠せずに声を漏らす。


 「えぇ?!おれやばいの?‥‥これってどういうこと?おれは天職ない人?もしかして不吉の兆候ってやつ?」


 いつもの慌てふためく自分が顔を出す。

 あの落ち着き紳士の代名詞のようなエントワが片眉を吊り上げている。

 相当まずい状況に違いない。


 「あぁ、いぇ、ちょっとあとで原因は調べますが、残念ながら貴方の天職および固有能力はわからないということですね‥‥あ、でも冒険者登録はやりま、え?! なんで? すでに登録になっているみたいですよ?」


 割れた台座に浮かび上がる文字を必死に読み取って答える受付女。

 ありえない事態なのであろう、相当狼狽しているようだが、そこはプロで仕事はきちんとこなす。


 「えぇっとお名前はスノウ‥‥さんですね。あとは読めません。えぇっと最終登録レベルは‥‥3、さん!!355?!」


 驚く受付女とエントワ。


 「これは‥‥なんたることだ‥‥」


 「あ!でも現在のレベルは‥‥1‥‥レベル1!?‥‥わけがわからない‥‥あわわー」


 焦りながらも仕事として話し続ける受付女。

 さすがはプロだった。


 「て、天職と固有能力の部分は破損箇所と重なってて見えませんが、最終登録時点では最上級冒険者階級のダイヤモンド級を大きく超えるレベルです‥‥これは‥‥フォックス支局長にお話をしないと‥‥あ、でも今出張で不在でした‥‥。一月後に戻る予定ですので必ずもう一度お立ち寄りください。尚、ダンジョンには入れますし、武器・防具、魔法屋等のフォックスユニオンに属する施設もご利用いただけます‥‥ははは‥‥でもレベル1‥‥‥‥」


 へんな汗が止まらない受付嬢。

 今までに例を見ない状況なのだろう。


 (レベル1を強調すんなって‥‥。しかしどういうことだ?)


 スノウは初めてここにきたわけだから、レベル1は当然として、なぜ既に登録があったのだろうか。

 雪斗をこの世界に連れてきた富良野紫亜が言ったスノウの名前と同じものが表示されているこの状況。

 しかもこれが魔法道具とやらで、なにかしら魔力で個人を特定しているとすると、指紋認証みたいに自分を間違うことなく特定しているんじゃないだろうかとスノウは推測した。


 (つまり、おれは、日本でサラリーマンをしていたおれは‥‥この世界に来たことがあるってことじゃないか?)


 しかしスノウには記憶喪失になった覚えもないし記憶を辿る限り、覚えている4〜5歳からの一通りの記憶はなんとなく思い出せるし欠けている認識もなかった。


 (もしかするとドッペルゲンガー的なもので、ここが全く別の世界線の並行世界でこの世界の住人のおれがスノウ ウルサイナ?とかいう名前だっていうことなんじゃないか?)


 想像が膨らんでしまうが、いずれにせよレベル1には変わりなく、どうやら名前だけは有名らしいので用心しなければならないということだけが判明した。


 なぜなら好奇の眼差しの奥にいくつかの殺意のオーラを感じたからだ。

 簡単に殺せる有名人が現れて一気に名を挙げられる、そのターゲットがスノウということだった。






様々な専門用語が出てきます。後々のネタバレしない範囲できる限りご紹介していきます。

 *フォックス:職業照会所。FOCs(Find One's Calling service)の略です。

 *トライブ:冒険仲間・チームのこと。

 *第3階級悪魔:悪魔は全部で6階級あります。追々明らかにしていきます。

 *魔法:文字通り魔法です。アルケーやミュトス、ウルソーのように基本的に7種別に分かれています。

     こちらも追々明らかにしていきます。

 *固有能力:天職が明示されるとともに開花する能力です。非常に強力なものから日常生活に全く変化がない

       ようなものまで様々ですが、基本的に1人ひとつしか所有できず変更もできないものです。

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― 新着の感想 ―
初めまして、今日この作品を見つけて読み始めたものです。 結構この作品はあらすじを見る限り壮大ですね。 ここにきて実は主人公が来たことがあるというのには驚きました。 しかも、レベルが不明、レベル1なわけ…
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