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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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4/50

元魔王、妹が出来る

「まったく、いきなり倒れるから驚いたぞ」

「ご、ごめんなさい……初めて竜を見たので、びっくりして……」

「クロを見て、どうしてそんなに驚くんだ? あんなに可愛いのに」

「……あの竜が、可愛いんですか?」


 ロストの言葉に、少女は首をかしげた。


「ああ。頭を撫でてやると嬉しそうに鳴くんだ。これがまた可愛くてな……そうだ、お前にも撫でさせてやるよ」

「い、いえ、遠慮します……」

「遠慮はいらん。庭に行くぞ」

「きゃっ!?」


 ロストは少女をひょいと抱き上げ、そのまま部屋を出て庭へと向かった。


「あ、あの、自分で歩けますから……降ろしてください……」

「いや、こっちの方が速い」


 庭に着くと、ロストは少女を地面に降ろし、クロを呼んだ。


「おーい、クローッ!」


 その声に応え、黒く大きな竜がとことこ歩いてくる。


「グルルルゥ」

「ひっ……!」


 少女は思わずロストの背に隠れた。


「怖がることはない。クロはおとなしいぞ。よしよし」

「グルルルルゥ♪」


 ロストがクロの頭を優しく撫でると、クロは目を細めて嬉しそうに喉を鳴らす。


「ほら、お前も撫でてみろ」

「は、はい……」


 少女はおそるおそる手を伸ばし、クロの頭に触れた。


「グルルルゥ♪」


 クロは再び、心地よさそうに鳴く。


「下顎を撫でてやると、もっと喜ぶぞ」

「こ、こう……ですか?」

「グルゥ♪ グルルゥ♪」


 少女がクロの顎の下を撫でると、クロはますますご機嫌になった。


「わぁ……」


 その反応に、少女の顔がぱっと明るくなり、目が輝く。


「どうだ? 可愛いだろう」

「はい……とっても可愛いです」

「グルルルゥ♪」

「ロスト様ー!」


 そこへ、後ろから蟻人たちがやってきた。


「ここにいたんですね! 部屋にいないから、あわてましたよ。……あ、その子、目を覚ましたんですね」

「ああ。で、何か用か?」

「はい、おやつの時間になったので、お呼びに来ました」

「そうか。あいつの分もあるか?」

「もちろんです」

「それならいい。行くぞ」

「きゃっ!」


 再びロストが少女を抱き上げ、そのまま家の中へと戻る。


「クロ、また後でな」

「グルルゥ♪」

「そういえばお前、蟻人たちを見ても驚いてなかったようだが……どうしてだ?」

「最初に竜を見たら……もう何が来ても驚く気力が残ってませんよ……。あの、お願いですから、今度こそ降ろしてください……」


「いいや、こっちの方が速いからな」


 玄関先でようやく少女を下ろすと、一行はリビングに向かい、席についた。


 今日のおやつは、コカトリスという魔物の卵を使った特製プリンだ。


 少女は不思議そうに皿の上のプリンを見つめる。


「……これ、なんですか?」

「プリンという食べ物だ。美味いぞ、食べてみろ」


 少女は恐る恐るスプーンを取り、ひとくち口に運んだ。そして――


「……! 美味しいですっ! こんなに美味しいもの、初めて食べました!」

「そうか」


 無邪気に笑いながらプリンを頬張る少女を、ロストはどこか優しい目で見つめていた。


「……ところでロスト様、その子の今後については何かお考えですか?」

「ん? ああ、今ちょうど思いついたところだ」

「今って……まぁ、ロスト様らしいですね。それで、どうされるんですか?」

「うむ。この子を――俺の妹にする」


「「「「「………ええっ!?」」」」」


 ロストの唐突な発言に、蟻人たちと少女がそろって叫んだ。


「ロスト様、今なんとおっしゃいましたか?」

「聞こえなかったのか? だから、この子を俺の妹にするって言ったんだ」

「聞こえてはいましたけど、本気なんですか?」

「ああ。最近、この生活にも慣れてきたが……何かが足りない気がしていたんだ。それが、ようやく分かった」

「そ、それは……?」

「癒しだ」

「い、癒し……ですか?」

「ああ。この子の笑顔を見ていると、なんというか、心が穏やかになるんだ……だから、俺の妹にする。分かったか?」

「いや、全く理解できませんけど……要するに、その子の笑顔をもっと見たいから、妹にしたいということで?」

「まあ、そういうことだ」


 ロストの断言に、蟻人たちは深いため息をついた。


「はぁ……ロスト様はいつも、思いついたら即行動なんですからね。分かりました、お好きにどうぞ」

「ああ、好きにする」

「えっ、えっ……?」


 戸惑う少女に、ロストがぐいっと視線を向ける。


「おい、お前、名前は?」

「えっ!? えっと……レティです」

「レティ。今日からお前は、俺の妹だ。よろしくな」

「え、あ、はいっ……!」

「よし。じゃあ俺もプリン食べるか……うん、美味い!」


 ――こうして、レティはロストの妹になったのだった。

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