元魔王、妹が出来る
「まったく、いきなり倒れるから驚いたぞ」
「ご、ごめんなさい……初めて竜を見たので、びっくりして……」
「クロを見て、どうしてそんなに驚くんだ? あんなに可愛いのに」
「……あの竜が、可愛いんですか?」
ロストの言葉に、少女は首をかしげた。
「ああ。頭を撫でてやると嬉しそうに鳴くんだ。これがまた可愛くてな……そうだ、お前にも撫でさせてやるよ」
「い、いえ、遠慮します……」
「遠慮はいらん。庭に行くぞ」
「きゃっ!?」
ロストは少女をひょいと抱き上げ、そのまま部屋を出て庭へと向かった。
「あ、あの、自分で歩けますから……降ろしてください……」
「いや、こっちの方が速い」
庭に着くと、ロストは少女を地面に降ろし、クロを呼んだ。
「おーい、クローッ!」
その声に応え、黒く大きな竜がとことこ歩いてくる。
「グルルルゥ」
「ひっ……!」
少女は思わずロストの背に隠れた。
「怖がることはない。クロはおとなしいぞ。よしよし」
「グルルルルゥ♪」
ロストがクロの頭を優しく撫でると、クロは目を細めて嬉しそうに喉を鳴らす。
「ほら、お前も撫でてみろ」
「は、はい……」
少女はおそるおそる手を伸ばし、クロの頭に触れた。
「グルルルゥ♪」
クロは再び、心地よさそうに鳴く。
「下顎を撫でてやると、もっと喜ぶぞ」
「こ、こう……ですか?」
「グルゥ♪ グルルゥ♪」
少女がクロの顎の下を撫でると、クロはますますご機嫌になった。
「わぁ……」
その反応に、少女の顔がぱっと明るくなり、目が輝く。
「どうだ? 可愛いだろう」
「はい……とっても可愛いです」
「グルルルゥ♪」
「ロスト様ー!」
そこへ、後ろから蟻人たちがやってきた。
「ここにいたんですね! 部屋にいないから、あわてましたよ。……あ、その子、目を覚ましたんですね」
「ああ。で、何か用か?」
「はい、おやつの時間になったので、お呼びに来ました」
「そうか。あいつの分もあるか?」
「もちろんです」
「それならいい。行くぞ」
「きゃっ!」
再びロストが少女を抱き上げ、そのまま家の中へと戻る。
「クロ、また後でな」
「グルルゥ♪」
「そういえばお前、蟻人たちを見ても驚いてなかったようだが……どうしてだ?」
「最初に竜を見たら……もう何が来ても驚く気力が残ってませんよ……。あの、お願いですから、今度こそ降ろしてください……」
「いいや、こっちの方が速いからな」
玄関先でようやく少女を下ろすと、一行はリビングに向かい、席についた。
今日のおやつは、コカトリスという魔物の卵を使った特製プリンだ。
少女は不思議そうに皿の上のプリンを見つめる。
「……これ、なんですか?」
「プリンという食べ物だ。美味いぞ、食べてみろ」
少女は恐る恐るスプーンを取り、ひとくち口に運んだ。そして――
「……! 美味しいですっ! こんなに美味しいもの、初めて食べました!」
「そうか」
無邪気に笑いながらプリンを頬張る少女を、ロストはどこか優しい目で見つめていた。
「……ところでロスト様、その子の今後については何かお考えですか?」
「ん? ああ、今ちょうど思いついたところだ」
「今って……まぁ、ロスト様らしいですね。それで、どうされるんですか?」
「うむ。この子を――俺の妹にする」
「「「「「………ええっ!?」」」」」
ロストの唐突な発言に、蟻人たちと少女がそろって叫んだ。
「ロスト様、今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえなかったのか? だから、この子を俺の妹にするって言ったんだ」
「聞こえてはいましたけど、本気なんですか?」
「ああ。最近、この生活にも慣れてきたが……何かが足りない気がしていたんだ。それが、ようやく分かった」
「そ、それは……?」
「癒しだ」
「い、癒し……ですか?」
「ああ。この子の笑顔を見ていると、なんというか、心が穏やかになるんだ……だから、俺の妹にする。分かったか?」
「いや、全く理解できませんけど……要するに、その子の笑顔をもっと見たいから、妹にしたいということで?」
「まあ、そういうことだ」
ロストの断言に、蟻人たちは深いため息をついた。
「はぁ……ロスト様はいつも、思いついたら即行動なんですからね。分かりました、お好きにどうぞ」
「ああ、好きにする」
「えっ、えっ……?」
戸惑う少女に、ロストがぐいっと視線を向ける。
「おい、お前、名前は?」
「えっ!? えっと……レティです」
「レティ。今日からお前は、俺の妹だ。よろしくな」
「え、あ、はいっ……!」
「よし。じゃあ俺もプリン食べるか……うん、美味い!」
――こうして、レティはロストの妹になったのだった。




