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薔薇の刻印(スティグマ)  作者: 多岐濟
二章~蕾、綻びの時を待つ~
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》32話

城とは当然王政の執政場所である。

となれば国でも屈指のお偉い様方が揃い踏みとなる可能性が非常に高いと云うことで。

そこを無暗に歩き回るなど本来絶対に避けて通るもの。

そう。本来なら。

というより、以前の私ならそうしていたわ。貴族の娘には政治の場所などおおよそ接点が無いもの。それこそ本気で政治に触れようと考える猛者くらい。




しかし現在の私はその猛者になっているのだから笑えない。いいえ、成り行きでこうなりましたけど何か?

まぁ何だかんだと仕事の真っ最中ということで、嫌々ながら城の中枢に足を踏み込む羽目になったということだ。出来るだけ関わりたく無かったのに……。

ちらりと隣に視線を向けると、私とは恐らく違う意味で逃げたいと思っているであろうエレンの若干ひきつった顔がある。



もう一度ちらりと視線を動かす。私達の目の前に。

そこには典型的な男が3人。

……ああ、面倒そうな。

何が面倒かって?



この人たち、近衛隊の制服を着ているのよねー……。

近衛隊って王族の護衛部隊なものだから、貴族の出身者が多く所属している。関われば面倒になるのは一目瞭然。しかも先日よりきな臭い噂が流れるような所など危険だ。何故に自分から関わる。いいえ、絶対ゴメンよ。



誓って言いますけど、今の今まで私達は別に何もしていません。ハーヴェイ師範(せんせい)の指示(命令ともいう)で王宮内のとある場所に『鼠退治』に行っていただけ。……まぁその指示が限りなく胡散臭……こほん、失礼。とにかく普通に王宮の廊下を歩いていた『だけ』です。

そして仕事として王宮を歩くものは『建前上』そう身分で差を作ってはならないもの。

だって仕事にならないものね。

でもそんなもの陰に入れば黙殺されたも同然なんて―――プライドだけが高い貴族って本当に面倒。

ここは夜会会場ではない。爵位が重視される場所ならば敢えて口に出さないが此処はあくまで仕事をする場所だ。仕事をしに来ている人間に『自分の方が身分が高いのだ、敬え!』だの『自分の前を堂々と歩くな!歩くならば端によって傅け!』だのもう『おつむが弱い人で〜す♪』だと吹聴しているものじゃない?

少なくとも私の父や兄、親しい学友の親族などにはそんな恥ずかしい態度の者は居ない。そしてその一族もそれに併せた態度を取るように躾られてくる……はずなのに。

そう――――でも現実って見えていないだけでこういうことはごまんと存在するもの。



さて、目の前に居る3人組――――正確にはゲイン・ラングランとお取り巻き達――――は、さっさと素通りしてくださればいいものの御丁寧に足を止めて私たちを見ているのだった。イヤな笑顔つきで。



特に顕著なのがお取り巻き達。にやにやと下品な笑い顔で此方をまるで見定めるよう。

はっきり言ってとっても不快だわ。

重要なのでもう一度言うわ。


非常に不愉快。


見たところ彼等は皆私やエレンと同じ職階かそれより若い(服に職階を表す勲章が付いているので一目瞭然なのだ)。

なのに随分と態度の大きいこと。

目の前には二度と見たくなかったお取り巻きゲイン・ラングラン。

それから子爵家の次男ペトラ・パニーニ。

反対側は男爵家の長男エリオット・ジョーシン。

脳内の記憶を探りながら彼等の情報を思い出す――――そう、当然彼等の家も第三王子派だったわ。



こちらが何も言わないからか、脇の二人が口を開き出す。




「これはこれは、此処は仕事をするのに選ばれた者が出仕する場所だと記憶しておりましたが……なぁ、ジョーシン?」

「ええ、何故貴族で無いものがこんな王宮(なか)まで居るのでしょうかね?」

「迷子ならさっさと出て欲しいものですよ」

「それより下賤の者が我等と同じ王宮を歩くなど……品位が下がるというものです」

「ええ、本当に」


「「………………」」


……凄いわ。

まるでお手本のような嫌み。なんて低レベルなんでしょう。

余りに捻りが無さすぎてある意味感動するわよ。尊敬は全くしませんけどね。

正直『馬鹿なの?』と言葉に出してやりたい。

此方が何も言わないのをどう取っているのか知らないですけど全く詰まりもせず語り続けている―――これ、聞かないと駄目なの?


完全に二人(おばかさん)標的(ターゲット)とされている隣のエレンが『さっさと逃げませんか?』とアイコンタクトを飛ばしてくる。

ええ、本心としては激しく同意したいけれど、『まだダメよ』と視線を返す。


本当は聞きたくもない。何よりも時間が無駄すぎる―――でも、まだよ。



一番面倒な男―――先程から何も言わず燃えるような目をこちらに向ける男、ゲイン。まるで親の敵を見るような。……この男の標的(ターゲット)は私、ということかしら?

大概失礼な男ね……それは本来私が向けるべき視線だと思うのだけれど―――?

すうっ、と目の前の男を見る。

その視線にいらいらしたのだろう、ゲインはちっと舌打ちをしてついに口を開いた。本当に失礼な男。



「……王宮(こんなところ)でうろちょろと……王子に無礼を働いた上に婚約破棄をされた貴女には王宮(ここ)に居るべきでは無いだろう」

「それは私が申したいところね?何故咎の無い私が貴方などに指図されるのかしら?」

「なっ……!!」



ほら、ちょっとつつけば直ぐに顔に感情を出してしまうなど、この人相変わらずポーカーフェイスが下手すぎる。

しかし……この人近衛隊に居るのね。

順当と云えば順当と云えるけれど……さて?


ここで放っておいてもいいですが、後々面倒になるのも御免ですよね?



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