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薔薇の刻印(スティグマ)  作者: 多岐濟
二章~蕾、綻びの時を待つ~
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》26話

有無を言わさず掴んだエレンは最初は戸惑い、やがて諦めたように着いてきてくれた。

何だかんだと優しいわ。

そして巻き込んでごめんなさいね。

本当に悪いとは思っているから。後悔はしていないけれど。


微妙な暗がりの廊下を僅かな灯りを頼りに進んでいく。

最初は何故こんなに無防備にしているのかと不思議に思った(忘れてはいけないけれど騎士団(ここ)にはアイン、ハルという王子殿下が二人もいるのだ)が、これも防犯のひとつらしい。正直なところ敢えて暗がりを作る防犯対策など私には到底理解できない。実際国王夫妻が居られる本宮にはこんこんと明かりが照らされているしね。

まぁそんな廊下を一人で歩くのは少々怖かったりもするのでエレンがついてきてくれたのは非常に助かった。



そして辿り着く何の変鉄もない木の扉。



……普段は何も感じないその扉が今日はやけに重厚なモノに感じるのは気のせいかしら。



ちらり、とエレンの方を向く。エレンはさぁ、頑張ってください!!とばかりにこくりと頷いた。

……ああ、そうですか。

さっさと行きなさいということですね。

ふう、とひとつ息をつく。

さぁヒルガディア、女は度胸よ!!いざ、アインの部屋に!!




……コン、コン……




「………………」




…………気合いを入れた割に想定よりもノック音が小さくなったわ。

それでも部屋の主には聞き取れたらしく、『はい?』と確認するように問い返された。明らかに辛うじて聞こえた、というレベルだったわねこれは……。

今度は聞き取れるように少しだけ声を張って応える。

「アイン、ヒルガディアです。遅い時間で申し訳ないのですが、少し宜しいですか?」

『……ヒルダ?』

一瞬呆けたような(多分幻聴ね)声がして、間を置かずに扉が開いた。


「…………どうした、こんな時間に」

「あの……すみません、遅いのに」

「いや、そんなに遅いという程ではないから。……それにエレン?どうしてそんな隅の方にいるんだ?」

「……え?」

「いえ、アインさん。僕のことはお気になさらず」


アインの声に振り返ってみれば、何故かエレンが廊下の妙に端に寄っていた。ちょっとエレン、そんなところにいたら見落とされるわよ。ただでさえ周りは薄暗いんですから。

そのエレンは『さぁ、構わず言ってください。さぁ、さぁ!』と視線で訴えてくる。

いえ、確かに付き合ってもらっておいて貴方に今更振るとかしませんよ?

釈然としないが「とりあえず二人とも入れ、ここじゃ暗いから立ち話にも向かないだろう」というアインの言葉に私はエレン共々お邪魔する。


アインの部屋を滅多に訪ねることはないが、彼の性格を反映したように部屋のなかはこざっぱりとしていた。

部屋の真ん中に鎮座したソファーに座るように促され、二人で大人しく腰掛ける。

確かこのソファーはアインの部屋に乗り込んでくることが多いハルやケインが『座るところがない!』と散々文句を言ったため搬入したとかいう1品だったはず。ハル本人に聞いたのだから間違いない。

ハルやケインがちゃっかりしていると取るべきか、アインが彼等のためにソファーを入れてやるほど寛大だと取るべきか。判断に困るところだ。


まぁ、よく考えてみたら昔の私だったらアインと同じように準備を指示していたかもしれない。ハルやケインのようにおねだりしたりも。



―――いつの間にかそういう感情も消えていたけれど。

これは良かったのか悪かったのか。



など、ちょっと意識が違うところに飛んでいるうちにアインの方から「それで?」と促され、はっと気付く。

いけない。

そもそもこんな時間に訪ねているのだ、さっさと用件を伝えなくては。




「今日の巡回でのことなのですが」

「ああ……どうした?」

「えっと……」


それを皮切りにとりあえず思ったこと、違和感に感じたこと、何と捉えていいのか解らなくてエレンの意見を聞いたこと、そして彼からもアインに伝えるべきだと言われてその足で此処に来たことなどを伝える。

言葉を探しながら口にしているので途中おかしなところがあったかもしれないが、アインは急かさずに最後まで聞いてくれた。


そしてアインは、ふう、とため息をひとつ吐く。


「ヒルダ、エレンも言っているが違和感に感じたことはそのまま言ってくれ。その時気付くこともあるだろうし、違う対応もあるかもしれないだろう?」

「はい……」


それは耳が痛いです。

もうエレンにも言われたのでお腹いっぱいです。


「でも、こうしてすぐに伝えに来てくれたことは及第点だ。少しでも確認したい気持ちは解るが、気付いたことは気負わないでまずは俺に言ってくれればいい」


エレンもありがとう、と言いながらアインは僅かに微笑んだ。

それを見て、不意に感じる。



ああ、やっぱりこの人は人の前に立つ人なのだと。



ひとつを聞いて何手も推し測る。

何手も読んでひとつに纏め上げる。



これは長年第一王子としての立場が、彼の培ってきた経験がそうさせたのだろう。私のたどたどしい説明でエレンが此処にいる理由まで推察するとは本当に畏れ入る。

元婚約者(ヴィヴィアン)にはそんな姿は見られなかったわね。

こういう瞬間、比較するのはよくないと思うけれど気付いてしまうの。


隣でエレンがほっと息をついているのが視界に入った。ああ、エレンは本当に心配してくれていたから安心したのね。悪いことをしたわ。

内心で再度エレンに感謝していると。



「ああ、そうだ。ヒルダ、それにエレン」



今度は大層な笑顔で私達をアインが見た。





「俺は流石にケインのような短絡的な行動は起こさないからそこまで警戒しないで欲しいな?」





「「………………………………」」





……すみません、アインは今の会話で一体何処まで察したのでしょうか?



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