》27話
「ケインは短絡的な思考もあるからその辺りは多目に考えてやってくれ。まぁあいつはあいつなりに考えているから」
「とてもそうは見えませんが」
「手厳しいな」
苦笑いをしながらそう返しているけれど、特段深く突っ込むわけでもなく。さてと、と呟いた上でアインは私達の方を再び見た。
「そうだな……ヒルダが感じたように近衛達が何故この『不完全』な術を使い続けているのか、この術の結露に本当に気づいていないのか……今回不可解な点が多い」
「やはりアインも気づいていたのですか?不可解な、という……」
「いいや。正確には『術』がおかしいと気づいたんじゃない。『近衛』の内情がおかしいと思ったんだ」
近衛の。
その単語に私もエレンも目をぱちくりと見開いた。
散々その『近衛隊』という単語を今日聞いてきたというのにそちらには気が向かなかった。
「近衛……ですか?」
「そう、二人は近衛と関わらないから気づかないと思うが、ここのところあっちの行動がどうもキナ臭くてな。隊長達が何かあると今探っていたところにエレン、お前は彼等が施した『仕事』の方におかしなところがあると言ってきたんだよ。それを確認するためにヒルダ、今日は君に似たような任務を与えた訳だ」
「……え……」
エレンが気づいたのは流石ですが、どうして魔術が苦手な私にその矛先が向いたのでしょうか。
『何故?』と思いっきり顔に浮かんだのだろう、くっと笑いながらアインは話を先に進める。
「二人の魔術に共通している事は何だと思う?」
「「共通……」」
エレンと見事に声がハモったが、全く解らないわ。
エレンの属性は『水』と『風』。私は『緑』になるのでまず属性の共通は無い。そもそも魔術についてエレンは魔術師団に所属してもおかしくない腕前よ?魔力量なんて以ての外(悲しくなるのでこの件についてこれ以上触れないほうが私のためね……ええ)。
……ダメ、思い浮かばない。
横のエレンに『どう?』と問い掛けるとエレンもまたふるふると首を横に振り『解らない』と意思表示をする。
「質問を変えよう。お前達は魔術を使う上で何を『意識』する?」
「え?使う上で……」
「僕はイメージです。水、風、それをどの様に使うのか、どう形にするのかをイメージしますね」
「私も……似ているかもしれません。緑は成長をイメージするのが一番巧く術を使えるので」
例えば以前修理した壁。今日見た看板。
成長する蔦や茎がどう発動するか、順を追ってイメージするのが一番成功しやすい。
本当はそこまでやらなくても普通術は発動するのですが、どうも私には魔術のセンスが本当に薄いのでこの手順を踏んだほうがいいのよね。
でも驚いた。
この様子だと魔術が得意なエレンも術の発動に似たような手順を踏んでいたみたい。
そのエレンも私の方を見て同じように驚いた顔をする。
……どうしてお互い驚いているのか、答えはとても簡単で。術が得意な者。それから大人になるほどこの手順を踏む者は少なくなる。
子供の頃はそうやってイメージすることを教わる筈なのに、成長するにつれてそれをしなくなるのよね。
何故なら必要無いから。
その手順を踏まなくても術が発動するなら、わざわざ手順を踏む必要はない―――そういうものなのよ。
だからエレンがイメージをする、と言うことに多少なり驚いた。彼は魔術が得意なのだもの。
きっとエレンからしても私がそうやって術を使うなど思わなかっただろう、その驚きから簡単に推察できる。
「術を発動するのにわざわざイメージをするやつは王宮勤めが長くなるほど少なくなる。俺やケインなんかも例外じゃないしこの騎士団の奴など元々魔術頼りではないから尚更な。そこで『イメージ』を几帳面にするエレンが感じた違和感を、ヒルダ、同じようにやっている君にも確認して欲しかったんだ。『術におかしな点が無かったのか』を」
「……あの、それならどうして先に言って下さらなかったのですか?」
そうでしょう?
エレンが1度指摘してきたということは少なくもケインと、今こうして話しているアインはおかしいと思ったはず。
なら私じゃなくて二人が確認してもいいはずなのに。
というよりも正直そちらのほうが確実な気がするんですけど。
私の疑問は最初から分かっていたのだろう、アインは再び苦笑いを浮かべた。
「……お前達が術を『イメージ』することに慣れていたこともある。言わなくても解るって。それからこういう術との相性とか。だけど一番の要因は……君ら二人が俺達の『相棒』だからだ」
「え、私達が任務に不馴れだからの『相棒』では?」
「僕は実地訓練のひとつだと思っていました」
「まぁそれもある意味正解だが―――本当は単純に『刻印』との相性で選ばれている」
「……え?『刻印』」
どうして此処でまた『刻印』?
ふとアインを見ると苦笑いを崩さず私を、そしてエレンを見る。
あら?もしかして、もしかしてよ?
「……もしかして……」
「もしかしてアインさんも……その」
「そう、俺もケイン同様『刻印持ち』だ。俺もケインも性格が『前衛タイプ』だからな、どうしても補佐が必要だった。そこで白羽の矢が立ったのはお前達だ。……二人とも明らかに『後衛タイプ』だからな」
……どうしてまた伝説的『刻印持ち』がこうあっさり存在するのだ、と私達が呆気に取られる傍らで、アインが続けて色々言っているけれど、とても全部が耳に入らない。どうしよう、ついていけないかも。
とりあえず私もエレンも前に出て戦うタイプじゃない、ということを言われたことしか理解できなかった。
アインはそのままぶつぶつと何かを呟きながら自分の右手首をぐっと左手で掴み、そのまま右手は『何か』を握った。
「『刻印』はひとつひとつ意味がある。ケインが『盾』を持つように―――」
呟くアインの手元から何かの力が動くのを感じる。そう、あの時、ケインが『刻印』を発動したときと似たような―――
「……って、……ちょ、アインさん、待ってください、その文様……まさかそれって……!!」
先にアインが何を掴んだのか気がついたエレンが驚嘆の声を上げる。
私にはまだ見えない。
何を、アインは、掴んだの?
「………………あ!」
見えた……!!
……って!?
「待ってアイン、それは……!!」
見えた、けど。
私、きっと今エレンと同じ顔をしている自信がある。
どうして『それ』が此処にあるの!?
「……他の奴等には他言するなよ?」
そんなことを苦笑いしながら言わないで。
誰にもこんなこと言えるはずない。
アインの手の甲にそのまま『刻印』が淡く光る。その『刻印』は私達国民がよく知るマーク。
―――彼等王家の紋章と、同じ『印』。
そして今アインの右手に握られたのは『剣』。
何処をどう見ても『王』を示す宝剣。国民なら誰もが知っている。そう、国王陛下が帯剣しているはずのモノ。
どうして国王陛下の剣を今此処でアインが持っているの!?
アインはその剣をかちん、と握る。まるでアインの為にあるかのような『宝剣』。
「俺の『刻印』は『王の刻印』という。これを持つものは王、もしくは次の王に認められた者―――お前達は知っておいて欲しいから言うが、他の奴等には言うなよ?無用な争いになる」
その宝剣を見ながら血の気が引く気がした。元婚約者様から婚約破棄をされたときよりもっと引いたかもしれない。
口が割けても言えませんそんなこと。
明らかにトップシークレットでしょうそれ!




