》20話
朝から疲れる騒動を乗り越え(言った本人は頗るご機嫌でしたけど、本当にあの人ケインへの怒りをこっちで憂さ晴らしとかしないで欲しいわ!!)漸く本日の活動へ赴くことになる。
何もしていないのにどうしてこんなに疲れるの……。
………………。
…………前言撤回。それも何時ものことだったわ。
さて、気を取り直して。今日は例の右海区を視察することが最大の目的なのですが―――実はもうひとつ、違う『目的』があったりするのよね。
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「異常はないな―――問題なく使いこなせている。だがやはり此処が―――少し負荷がかかっていたな。しかし最初の頃よりは充分にコントロール出来ている」
「そうですか」
アインの調査に内心で安堵の息をつく。
いえ、勿論のことちゃんと細心の注意を払ってやりましたよ。そこは間違いなく自信を持って言えます。騎士団に配属された頃の私とは一味も二味も違いますから!!
そこは自信を持って言えますが――――実は私、自分の魔術コントロールに今一の自信を持てないのだ。
魔力を保有していることも当然子供の頃に検知しましたし(これは貴族も平民もこの国の国民なら全員が検知するべき義務なのだ)、学園でもある程度カリキュラムには含まれていた。
……が、残念なことに所詮それは『最低限』必要とされてきたというレベルだった。
そもそも最初から莫大な『魔力持ち』だったら検知の段階でさっさと『魔術師団』にスカウトされていただろうし、貴族令嬢に必要とされたのは魔術を操ることじゃない。
平たく言ってしまえば如何に社交界で通用するのか。その技を研き使うこと―――この一片だけが必要とされてきた。
お陰さまで私ヒルガディア・マクベス。
今更ながら基本中の基本から魔術を改めるということになったのだ。
騎士団は何が起こるか分からない場所。
勿論『何が起こるか分からない』という点では他の場所も大差ないかもしれないが、近衛隊や軍部、魔術師団のように、役割分担がはっきりしている隊なら然程問題ではない。
が。
その『普通』こそが全く通じない場所というのが――――残念ながらこの騎士団のことである。
使えるものは何でも使うべし!!を鉄則に『今まで使ったことがない』などの甘言を吐こうモノならその辺のゴミ箱にポイよ、ポイ。
……これ、実際やられた人を見たのよ。
あれはそう、私達より後に配属された新人さんだったわ。
あら?そういえば最近彼の姿を見ていないような……ううん、きっと気のせいね。
それはそうと、配属された中ではかなり底辺に近いと思われる魔力抑制力だった私。当然のことながらそんなこと―――私が私を許せなかった。
何故なら私はマクベス侯爵令嬢。今はそうじゃないかもしれないが、今まで背負って生きてきたものを否定など出来ない。
いくら最早社交界の『社』の字の縁も薄くなりつつある存在だろうが、今まで根っ子に根付いていた『私の存在意義』が直ぐ様覆るはずもないのだ。
ヴィヴィアン様の婚約者として必要とされてきた『王家に殉ずる存在』として求められるのは『完璧』。
必要とされてきた『社交性』は極めたつもりだったが―――今此処で必要とされるのはそれじゃない。
当に『力』だ。
此処ではどの形でもいい。
己を示す『力』こそ必要とされている。
剣が優れてもいない。
魔法が優れてもいない。
それでも『騎士団』に今必要とされているのなら―――やるしかないではないか。
―――というのも勿論本音だが。……ええ知っているわ。私は自分がどういう人間なのか。どうしてまたこうも拗れた言い訳を言っているのか。要するに負けず嫌いなのよ。
本来どういう意図があってアインやハルが私を騎士団に引きずってきたのか分からないけれど、私は圧倒的にお荷物だった。
重要だからもう一度言うわ。
当然の如くお荷物だったわよ!!
表情は見えないように取り繕って来ましたけどね、内心それはそれは悔しかったわ。
アインやハルが私を見つけなければ大人しく修道院に隠っていたはずだったけれど―――こうして表舞台に祭り上げられ、気がつけば一癖も二癖もある隊員に囲まれ、あれよあれよと日々を過ごしていく中で。
気づいてしまった。
―――――私が引いてしまえば凡て収まったはずだった。
凡て蓋をして完璧な令嬢として去っていくはずだった。
それがあの時『マクベス侯爵令嬢』に課せられた役割だったから。
だけど私は気づいてしまった。
騎士団の仲間と過ごしていくうちに、私の本当の気持ちに。
私、本当は悔しかったわ。
私が完璧を目指していた日々は結局無意味だったのだ。
私が己を作り上げた日々は徒労になったのだ。
婚約者様の気持ちひとつで。
それでもあの時私を支えたのは、結局私が培ってきた貴族の矜持だけだった。
『マクベス侯爵令嬢』としての私は『社交界の鑑』でなくてはならないからそうやって去ったけれど。
本当は。
『ヒルガディア・マクベス』としての私は。
悔しかったのだ。
それに気づいてしまった。
「…………ヒルダ」
「はい?」
「眉間」
「え?」
不意に。すっと伸ばされたアインの人差し指が私の眉間を差し、トントンと眉間を叩く。
「ッ!!」
「寄ってる。そんなに焦らなくても確実に進歩しているぞ?」
「べっ……、別に焦ってなど居ませんよ!?」
「そうか?そう言っているが……」
「え?え、ちょっ……!!」
眉間の指がするりと動き始め、ぴたりと今度は目許へ。
「ちょっと、アイン。貴方ね……」
「……寝不足だろう?」
僅かに呆れを含んだ声音に、ぎくりと内心動揺する。いけない、ヒルガディア。動揺してどうするの。
一瞬で己を叱咤すると、すっと視線を向けながら堂々と言い放つ。
「少しだけ寝るのが遅くなっただけです」
「嘘だな。そう言っているがここ数日続いているだろう」
やけにキッパリと言い切られた。
何故。
どうして言い切れるの。
「先週は俺は見廻り当番だった。ヒルダの部屋は随分遅くまで明かりがついていたぞ?」
「………………」
―――なんと、ばっちり目撃されていたのですか。




