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薔薇の刻印(スティグマ)  作者: 多岐濟
一章~まだ、蕾は綻ばず~
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舞台裏〜秘密の会談室・1

重要人物達の会談です。

――――さて、どうしたものか。




目の前に座るやたらめったら顔のイイ男(注:兄貴)にこちらも笑顔で対抗するけれど、何処まで敵うかしら。

それほど眩しい。

おかしいわね、何だこの美形。

今までも正直残念美形な攻略キャラ共(注:実兄含)を腹一杯見てきたのに、奴等が霞んでしまいそうだ。

いえ、今だって奴等の評価・・は私の中では地下レベルだけどさ。


しまった、人選ミスだったか?


しかし私にとってこの人以外には最適な人選は無かったのだ。






ハイヴァルク・イデア・シュタイザー殿下。

宮殿の中で知らぬものは居ない有名人の一人だ。


―――私の記憶だと攻略キャラではない。だって彼は学園の人間では無いからゲームに存在しなかった。……だけどどうしてまた無駄にイケメンだわさ。




「クリスティーヌ、学園は『楽しい事』になっているそうじゃないか?」

「……そうですわね、お兄様が仰有る『楽しい事』が何を示されているか解りかねますが『充実』しておりますわ」

「ふぅん?」


にやにやと意地が悪く笑う顔すらイケメンだなんて―――喧嘩売ってるのか?異母兄妹とはいえ父は同じハズなのに私とは系統が違う。


そのイケメンは目の前に置かれたカップに口を付けながら「で?」と聞いてくる。


それは確かに間違いない返答で。

私から兄を呼び出したのだから聞かれて当然――――なのだけど。



なーんか裏がありそうだと勘繰ってしまうのは何故だろう……。



「お前は宮殿に戻ってきたのにそれのままなのかい?」

「……え?」

「制服」



思案に耽っていたら兄の言葉を理解するのが遅れてしまった。指を指されながら、ああ、と思う。



「申し訳ありません、あまり滞在できる時間が無いのです。お見苦しいでしょうが寛大なお心で赦して下さいませ?お兄様」



こてん、と可愛らしく見える角度で首を傾げる。

生粋のお姫様なクリスティーヌには朝飯前な仕種よね。


時間が無くてこの後学園にとんぼ返りしないといけないのよ。ああ面倒……って、これも確かに事実。だけど――――本当はあのクローゼットに納まっているきらびやかなゴテゴテドレスを着るのが嫌なのよ!!今の私には精神苦痛以外の何物でもないわよアレ!!


クリスティーヌってば可愛い顔をしているのにお母様に流されまくり人生を送ってきていたから、持ち物やら何やら尽く私の(そしてクリスティーヌとも)趣味から掛け離れている物に埋もれて来ていたのよ。ちなみにその悪趣味は残念ながらお母様のモノだ。


母よ、娘の磨き方を外しまくりだ。

こんなんだから(ヴィヴィアン)までトンチンカンになるのだ。


正直ここまで離れるの!?ってなレベルよ。……あ、部屋の惨劇を思い出したら気分悪ッ……。



―――と、内心目まぐるしく思考が飛んでいるが、笑顔の仮面はこのくらいじゃ外れない。


伊達にお姫様していたわけじゃないしね。



「ふーん?」なんて兄はまた笑うが。何だこれ、腹の探り合いか?




しかし時間が無いのは本当だ。仕方ない、こっちから切り出さなくては。


「私が知りたいのは―――ヒルガディア様のことです。学園をお辞めになられた後、お義兄様方の計らいで王立騎士団に入られたと噂を聞きましたの―――本当ですの?」


回りくどく聞くのは性に合わないのよ。クリスティーヌの性格からするとちょっと首を傾げるかもしれないけれど、時間も無いし仕方がない。

義兄は一瞬目を眇める(でもほんの一瞬だけだ)が、直ぐ様また笑顔に戻った。

多分普通の人には分からないくらい一瞬だけ―――だけど何か変だと思った。


「そうだよ。そもそもおかしいだろ?ヒルダが何か悪いことをしたか?」

「いいえ」


何で愛称で呼んでいるの?と内心おいおいと突っ込みながら、そこはきっぱりと否定する。


「あのままいったら王家の面子じゃない。国の根本が傾いていた―――君の兄貴・・はナニをしたのか判っていないだろう?」


ここで君の、と言うのは嫌味か。―――ううん、多分これは違う。

この兄は長兄を立てている以外他にはそれほど頓着しない性格だったはず。

だけど何か噛み合わない――――何が?



「これは兄上のためでもあるし、ヒルダのためでもある。必然ってやつだよ」

「お兄様?」

「ヒルダは騎士団に必要な人間だ。学園で謂われなく貶められて消えていい人間ではないよ、クリスティーヌ」



……え?


ひたりと合った視線に既視感を覚える。

だって、それはおかしい。


『箱庭』のエンディングでは大体どのキャラで攻略をしていっても『ヒルガディア侯爵令嬢が学園を追放されて修道院に行く』展開は必ずと云えるほど確定的に起こるのだ。




―――なのにどうして、ハイヴァルクはその定義をぶち壊したの。




私がぶち壊したのなら分かる。だって私は『知っている』から。

だから私は今学園で画策しているのだ―――あの主人公アリス兄貴ヴィヴィアンに対しての制裁と、令嬢ヒルガディアの地位復活を。


なのにどうして関係のないハイヴァルクがストーリーを根底からぶち壊しているのだ。




分からない。


このハイヴァルクという人が。




「ヒルガディア様は今……」

「ん?元気にお勤めに励んでいるよ?真面目だからね、彼女」

「お勤め……」


騎士団で?


侯爵令嬢が?


どうしよう、思っていた展開とかなり掛け離れていないか?



困惑した表情が出てしまったのだろう、ハイヴァルクは一瞬だけ苦笑いを浮かべ―――いきなり言葉の刃を突き付けてきた。






「さて、クリスティーヌ。私も聞きたいことがあった―――お前、一体何を考えている?」


ニコニコと笑いながら明日の天気は何だい?レベルの軽さでいきなり突き付けてきた。



―――ちょっと、あんたは騎士団にずっと詰めている立場なんじゃないんかい!?



喉の奥がヒュッと詰まった。

怖い。

この兄は一体何を考えているの。



彼の笑顔は崩れない。




ああ、私、やっぱり人選間違えた?




何だか現実逃避したくなった。



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