》15話
「とりあえずやりなさい?」
隊長は結局容赦無かった。酷い。私一応女性なのに。普段遺憾なく発揮されているフェミニストな精神は何処に行ったのですか。騎士団としての精神は何処に消えたのですか。
……納得できるわけ無いですよねー。
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「おーい、ヒルダ。顔、顔」
「何ですの、普段と変わりありませんが?」
「嘘こけ、その顔の何処が何時もと変わらないんだっつーの。というかイイ笑顔すぎて怖いっつーの」
「あら、レディに対して何かしら?」
「……ちょっとは空気を読んだらどうです、ケインさん。正直僕だって全然納得出来てないんですよ?」
「ええー、何でそんなに嫌そうな顔しているわけお前?」
「自分の胸に聞いてください」
すたすたと歩く足は止めていない。『さ、じゃあ今日は仕事に戻りなさい?』と笑顔で送り出され、そのまま部屋を退出した以上とりあえず先程までの仕事部屋に戻るためだ。
何故か来たときと同じようにケインが(当たり前のように)ついてきていた。
後ろで二人が何かを言っているけれど―――正直あんまり聞こえていない。
何故。
何故私なの。
社交界から逃げ出した筈なのにどんな嫌がらせなのかがっつり目立つポジションを押し付けられているってどういうことなの?
そこまで信心深いとは言わないけれど―――神様、私のことがお嫌いですか?
ちゃんとお祈りは毎日しているのに。
……あ、でも騎士団に来てからのお祈りは正直簡略化していたからそれのせい?
だとしたら心が狭いわよ神様!!
ちゃんと王都には聖堂があるのだからそれで我慢してくださいな!!
……などと悶々と悩んでいた。
ひたすら悩んでいた。
「……ヒルダ?あー、聞いているか?」
「ケインさん、そろそろヒルダさんを何とかしてあげてください。あのままだと薬草で溢れてしまいます。この部屋が」
「部屋の心配かよ。ったく……おい、ヒルダ」
「はい?……あら?」
呼び掛けられてふ、と手が止まった。
―――気が付けば分別された薬草が大量に。
いけないいけない、無心になると無意識にやってしまう。
「お前な、仕事が捗るのは構わないがちったぁ周り見ろよ。それじゃまずいだろうが」
「…………っ」
はぁ、と溜め息をつかれるが反論出来ない。だっていくら悶々と悩んでいたとしてもやってしまったのは事実だもの。言い訳にならない……ううっ。
とりあえずこれは役に立てないことが確実よね。
後で違う方法で処理しなきゃ。
「すみません」
ああ、情けないわ。
しかも答えた声にまで張りがない。
明らかに悄気てしまった私を見てケインが「あー」と言いつつがしがしと頭を掻く。
「ヒルダ、お前は『建前』が無いとやれないのか?」
……尋ねられた言葉に思わず息が詰まった。
「…………いいえ、そんなことは…………」
「言い方がキツいかもしれねぇがそのままだとそう取られても仕方がないだろ?」
「ちょ、ケインさん」
「エレン、お前もだ」
「…………はい」
何とか口を開いた言葉も続かず、それどころかエレン共々何も言い返せない。
そう、納得出来ないから『理由』を欲した。
そうでなければ『納得』出来なかったから―――でも。
「別にお前達がどうということじゃねぇけどさ、相棒っつーのには『理由』があるから選ぶわけじゃない。ぶっちゃけ『納得』出来ない事ばかりだしな」
「でも」
「お前等の言いたいことは分かる。でも正直この騎士団で『理由』を最初から求めるんじゃねぇ」
「ケインさん」
「お前等が自分で納得する『理由』を作れ。突き放されているかもしれねぇがそうしていかなきゃ潰れるぞ」
「「………………」」
その何時ものふざけた表情でも、人をからかうような表情でもなく、真面目なケインの表情に息を呑む。
「いいか、お前等が選ばれた『理由』とお前等を選んだ『理由』は違う。だから此処で言葉にされている事だけが総てだと捉えるな」
「……無茶苦茶です、ケインさん」
「いいんだよ。さっきのエレンが選ばれた『理由』だって理由の一つだけど総てじゃない。それはエレン、お前が此れから自分で捉えていくんだよ」
「……はい」
「それからヒルダ」
「ええ」
「アインの相棒っつーのは『理由』を簡単に口に出せない事情があるんだ。まぁ本人がアレだし色々な。―――だからお前自身で納得出来る『理由』を作っちまえばいいんだよ」
「『理由』……」
「そう、お前何時までもグダグダと考えてるんだろ―――ヒルダ。騎士団でのお前は、誰だ?」
――――『騎士団』での、私?
問われた内容を一瞬呑み込めず目を丸くしてしまう―――だけど。
私は、侯爵家のヒルガディア・マクベスで。
第三王子様の元・婚約者で。
修道院で社交界から離れた終わりを辿るはずだった――――だけど。
『ヒルダ』
今の私は。
「王立騎士団に所属しているヒルガディア・マクベスです。今の私はそれ以上でもそれ以下でもないわ」
経緯はどうであれ、アインに、ハルに引っ張られて過ごしてきた騎士団での一年は間違いなく私にとって新しい『糧』になった。
貴族令嬢としてだけでない、王子の婚約者としてだけでない、存在しなかった新しい『価値』。
それは間違いなく今の私にとってかけがえない理由。
「―――それでいい」
にっと。
何時ものふざけた笑いで『合格だ』と言わんばかりに笑うケイン。
ああ、ふざけている癖に―――こういう所でやはり敵わないと思い知らされる。
それはケインだけに限らないけれど。
「つまり理由はどうでもいいけれど僕は体のいいケインさんのパシリということですね」
「そうそう……ってお前今までの話聞いてた!?俺結構イイコト言ったんだけど!?」
「ええそうですね」
「適当だろそれ」
また仲良く戯れ合い出すケインとエレン。
二人を見ながら何となく掌を握った。
―――まだ、正直表で関わりを拡げることには躊躇いがある。
だけど。
『ヒルダ』
アインが私を必要としてくれるなら、騎士団の仲間としてヒルダを必要としてくれるなら。
私はそれを『理由』にしてもいいかもしれない。
本当の理由が幾つあっても私にとっての『理由』はそれでいいのかもしれない。
何となくそれでいい、そう思った。




