表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

プロローグ 絶対王者の沈没‐USFパリ大会

■USF男子4×100メートルメドレーリレー決勝(アメリカ代表チーム)

 

 アンカー、ジャックス・ヴァン・ディーンは、勝利に染まっていた。

 (俺達は全員が完成されている。誰が泳いでも勝てるチームだ)


「Take your marks…」

電子音が響く!

◆第一泳者:レオがバサロキックで少し遅れた。だが少しずつ差を詰める。しかし、遅れを取り戻す事に執着し、次の泳者に「託す」気持ちがない。

タッチ!

◆第二泳者:ザインがスタートで出遅れた。前の泳者からの流れが途切れている。彼はゼロから自分のレースをするしかなかった。

タッチ!

◆第三泳者:チェイスが飛び出す。差が広がる。前の泳者からの流れに乗っていないからだった。

 だがアンカー、ジャックスにとっては、前の泳者までの遅れなどいつものルーティンだ。

ラスト25メートルで仕留める。

(ハッ、悪いなミナト。ここからは俺の独壇場だ)

◆第四泳者:ジャックスが飛び込む。広がった差を詰め始める!

 ――残り25メートル。

ジャックスはギアを上げる。

彼だけが持つ領域――「絶対加速」。

水面が裂ける。観客の絶叫が背中を押す。

――残り15メートル。

隣のレーン、日本のミナト。

その泳ぎには、“継がれているもの”があった。

第三泳者のタッチの瞬間から続く水の流れ。

速度、呼吸、リズム…すべてを受け取り、

一切の断絶なく、次の加速へと変換している。

それは個人の爆発力ではない。

四人で構築された、ひとつの“エネルギー”。

(……関係ねぇ!)

ジャックスはさらにギアを上げる。

前の泳者の波など感じていない。感じる必要もない。

自分がすべてをねじ伏せれば、それで勝てる。

――残り10メートル。

並ぶ。捉えた。

勝利を確信した、その瞬間だった。

ドンッ!!

水が、弾けた。

一瞬世界が止まる。

ミナトのキックが変わる。

いや、“変わった”のではない。

それは、ここまで繋がれてきた全てのエネルギーが、

最後の一点に収束したのだ。

水が意志を持ったかのように、ミナトの身体を前へ押し出す。

(……は? 何だ、今の……!?)

理解が追いつかない。

“個”の領域を超えた何か。

――ラスト5メートル。

(置いていかれる…!?)

ジャックスのストロークが乱れる。

完璧だったはずのフォームが、崩れ始める。

(嘘だろ……俺が……)

“世界で最も速い生物”の俺が、

ただの一人として、置き去りにされる。

思考がノイズに変わる。

キックは空を切り、水飛沫だけが無駄に跳ねる。

タッチ。

電光掲示板に灯ったのは、日本。そして「1」。

歓声が爆発する。

ジャックスの視界に映ったのは、

仲間と共に勝利を掴んだミナトの背中だった。

四人で一つの怪物となったチームと、

四人いたはずなのに、最後まで一人で戦い続けた自分。その差が、そこにあった。

だが……

(……違う)

ジャックスは歯を食いしばる。

(あと0.5秒……俺が速ければ、勝てた)

その答えが、敗北から最も遠いものだとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ