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Dr.翔子の愛  作者: 高杉翔子


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Dr.翔子の愛 ロンドン編

晴れて結ばれた修一と翔子はロンドン留学でその実力と技術を認められて、社交界デビューのテニス大会でも優勝を手にする。

そして教授から王室付きの医師団の一員になるようにと大抜擢を受ける。たいへんな任務を前にして修一と翔子は立ち向かって行くことに。

いよいよ王室へ上がる朝がやって来ました。

緊張していないといえば嘘になります。

インルームダイニングの朝食も軽くフルーツとコーヒーを頂いてシャワーを使い、昨日選んだ黒のフォーマルなスーツを着ます。

「翔子ちゃん、いつも通りでいいんだよ。特別なことは何もない。そして僕たちにとって難しい課題などない。」

「修ちゃん、その通りでございます!わたくし大丈夫ですわ。」

時間通りお出迎えの車が到着致しました。

黒のロールスロイスで違うのはフロントには国旗がはためいていることでございます。

後部シートに教授とわたくしたちが座りましても余裕があるという素晴らしき高級車でございます。

宮殿の門はお出迎えの車ですので顔パスでございます。

まずわたくしたちは控えのお部屋へ通されました。

そこでお紅茶をいただいたのですが、今まで飲んだことがないくらい美味しかったのでございます。

茶葉も美味しいのでしょうが、淹れ方もお上手なのでしょう。

わたくしも美味しいお紅茶の淹れ方をお勉強しなくてはと思いました。

そして診察室へ通され、間もなくチャールズ国王とカミラ王妃が入室されました。

教授が国王に体調を伺います。

今のところ体調はよろしいとのこと。

教授は

「国王、体調はおよろしくてもそろそろ検査を受けていただきたいのですが」

「うむ、そのつもりはしています。」

「国王、先日お話ししていましたこちら修一が検査を担当させていただきます。」

「よろしくお願いする」

そこでカミラ王妃の体調を伺います。

「このところ胸焼けがして辛いのです。」

そこで教授がわたくしに目配せされましたので、わたくしは

「王妃様今伺った範囲でお薬をお出しすることはできますが、わたくしとしては早急に検査を受けていただき病名が確定してからになさった方がベストかと存じます。」

「いつスケジュールが空いてるのかしら」

そばにいらしたお付きの方が明日の午前中とおっしゃったので明日の午前10時から胃カメラをすることになりました。

国王の検査は明後日午前中からと決定致しました。

最後に国王が

「テニス大会で優勝されたようでおめでとう。」

「恐れ入ります。ありがとうございます。」

カミラ王妃が

「Dr.翔子はたいへんピアノがお上手なのでしょう。わたくしも聴きたかったわ」

「お褒めにあずかり、ありがとうございます。」

和やかな雰囲気のなかわたくしたちは退室致しました。

教授が

「おふたりとも上出来でしたよ。ありがとう。あとは検査を滞りなくやってくれたまえ。」

「教授のおかげでございます。ありがとうございました。」

「わたくしを取り上げて下さいまして教授、本当に感謝申し上げます。」

「そうだ、明日は午後からウエストミンスター寺院でリハーサルがあるんだったね。楽しみだね。」

「教授、奥様にもよろしくお伝え下さい。」

「ああ、伝えておこう、家内もウエストミンスター寺院での結婚式なのでずいぶん楽しみにしておるんだよ。」


教授とお別れしてからわたくしたちは研究室へ行き、打ち合わせをしたりデータを解析したりしておりました。

明日のことがあるので少し早く退室致しました。

車に向かいながら修ちゃんが

「今日みたいな日はロンドンアイ(ロンドン一の大観覧車)がいいかなと思って予約してあるんだ。ファストトラック(優先入場券)だよ。レディ翔子いかがですか?」

「本当に?修ちゃん最高ですわ!」

わたくしは明日のことを忘れてしまうくらい嬉しくなりました。

ファストトラックの通り、待たずに乗ることが出来ました。

1周で30分でございます。

ひとつのゴンドラに27人乗れるとのことでございます。

ファストトラックではシャンパンがついております。わたくしたちは今日の健闘を祝って乾杯致しました。

あと残ったシャンパンは搭乗していた方にお分け致しました。

ちょうど夕焼けが見えて一番最上部は素晴らしい見晴らしでございました。

わたくしは修ちゃんの手を握ったまま、修ちゃんはわたくしの肩を抱き寄せて下さっています。

今日のというかここ数日の出来事はわたくしたちの間では最早言葉として口にできないほどの感無量のことばかりでございました。

絶景を眺めながら何一つ会話はなくても2人の感じていることは同じでございます。

究極の感嘆は無なのかもしれません。

そして出来事とともに2人の愛は更に強く深まったように感じられます。

あっという間の30分でございました。

わたくしはこの日ロンドンアイに乗ったことは忘れないでしょう。


自宅に戻りますとバトラーさんがわたくしと修ちゃんの明日のスケジュールを教えてくださいます。

修ちゃんの検査も明後日の9時にと言う事でございました。

バトラーさんがいるような身分にあっという間になってしまいました。

というか、バトラーさんがおられないと連絡ごとがうまくまわらないでしょう。

わたくしにとってヘアドレッサーさんは本当に有難い存在でございます。

その時々に合わせて服装も変えるのでヘアドレッサーさんは必須でございます。

ハウスキーパーさんが作って下さいましたイギリスの家庭料理はとても美味しいものでございました。夕食を済ませて、2人の時間はシャンパンとともに。

何も会話を交わさなくても、嬉しい気持ちとこれからの医療行為の自信はお互いに信じあっております。

「翔子お風呂に入ろう」

バスタブの中で横になった修ちゃんの上にわたくしが乗っかります。

ジャグジーの泡で身体が揺れます。修ちゃんは両手でわたくしの乳房を掴みます。

修ちゃんの大きな手でわたくしの乳房はすっぽり包まれました。乳房を掴んだ修ちゃんが愛おしくてたまりません。

こんなにも人を愛せるものかと思い、なぜかしら涙が溢れます。

。わたくしの向きを変えて修ちゃんがkissなさいました。そして涙にもkissを。


カミラ王妃の検査をさせていただく日の朝になりました。

わたくしは今日はディオールの甘いグレーのワンピースをチョイス致しました。

ヘアドレッサーさんが髪を作って下さる時、とても素敵なワンピースだと褒めて下さいました。

それにぴったりな綺麗なヘアスタイルはアンニュイな感じでとても女性らしくて女性をお望みのカミラ王妃にも合わせて下さったようでございます。

玄関先でバトラーさんが

「翔子様なら間違いございません。ご検討お祈りしております。」

「ありがとう、行って参ります!」

今日も修ちゃんの運転で修ちゃんの車で出勤でございます。車の中でも2人ともリラックスしておりました。

車を降りる時

「翔子、翔子に失敗の要素は一つとしてない。行っておいで」

修ちゃんが嬉しいお言葉下さいました。

修ちゃんは以前なら必ず翔子ちゃんとお呼びになっていたのですが最近では本気の時は必ず翔子とお呼びになるようになりました。

より近くなったようでわたくしは嬉しく思って聞いております。


バイタルを取ったり、細かな準備をした看護師さんが準備出来ましたと報告して来ました。

わたくしは検査室に入りました。

「Dr.翔子、前回とても苦しかったの。苦しまないようにお願いしたいわ。」

入るなりカミラ王妃がおっしゃいました。

「王妃様、ご心配ご無用でございます。苦しくないよう終わる予定でございます。」

わたくしは眠剤のサイレースを点滴の中に入れました。

直ぐに王妃は眠られました。

カメラを挿入していきます。

胸焼けがするという箇所を確認致しまして最後まで丁寧に見ていきます。

他には問題なく、綺麗なものでした。

カメラを抜いて終了致しました。

わたくしの配合通り、そこでカミラ王妃が目覚められます。

「もう終わったの?翔子」

「王妃様、予想通りの症状が見受けられましたのでこれでお薬をお出しすることが出来ます。お薬は本日飲んで頂いてもかまいませんので、これからは快適な毎日が送れるようになると存じます。」

「ありがとう、Dr.翔子、ちっとも苦しくなくて、あぁ本当に良かった!翔子これからも身体の相談にのって下さる?」

「もちろんでございます、王妃様、よろしくお願い致します。眠剤を使いましたので30分お休み頂いたらお帰りになれますわ。」

看護師がお休みになるベッドへご案内します。

わたくしは処方箋を作りまして、バトラーさんに手渡しました。

これで一連の検査は終了でございます。

わたくしはお部屋へ帰って休みました。

いつもとなんら違いのない胃カメラでございました。教授と修ちゃんが入って来られました。

「翔子ご苦労だったね。王妃は翔子がずいぶんお気に召したようだよ。」

教授はにこにこされて頷いてらっしゃいます。

「これからウエストミンスター寺院でリハーサルだね。楽しみだ。」

そうおっしゃって出て行かれました。

修ちゃんは

「予想通りの結果だね。翔子はなんの問題もない(笑)」

「修ちゃん!」

わたくしは修ちゃんの胸に飛び込みました。

嬉しくてほっとして、修ちゃんに抱きしめて欲しかったのです。

修ちゃんはしっかり受け止めて下さいました。

この胸のぬくもりがあるからわたくしは頑張れる!そう思いました。


結婚式の為、わたくしと修ちゃんの両親はすでにロンドン入りしております。

ホテルはやはりリッツロンドン。

わたくしのお父様はわたくしたちに収入が入るようにと不動産買付けに翻弄されております。

2人のお母様方は専らハロッズでお買い物三昧でございます。

わたくしたちは病院から自宅に戻りましてシャワーを使い、わたくしはヘアスタイルを作って頂き、本場と同じ修ちゃんのお母様から頂いたティアラを付けました。

そしてリハーサル用に作りましたウエディングドレスを着用、ベールは3メートルのものを着けました。

本番でうまくいくようベールは3メートルのものにしたほうがいいとのことでございます。

車に乗りましたらベールでいっぱいでございます。

「翔子綺麗だよ。」

「ありがとうございます。修ちゃん。」


リハーサルはまるで本番と同じように進められました。

お父様とバージンロードを歩き、修ちゃんにわたくしを手渡します。

神父様がおっしゃることを誓って最後に誓いのkissを致しました。

全て滞りなく終わりました。

教授夫妻と二組の両親とでリッツロンドンでディナーをご一緒致しました。

わたくしたちから教授ご夫妻にリッツロンドンのスイートルームを結婚式が終わるまでの3泊プレゼントしております。

これだけのことをしても足りないくらい教授ご夫妻にはお世話になっております。


修ちゃんが国王の検査をする日がやって参りました。

わたくしは修ちゃんの腕前を見学させていただきたくて、教授にお願いして助手として入ることをお許し頂きました。

助手と言いましても、検査ですのでバイタルをとって点滴するくらいのことでございます。

もちろん教授と他の医師団の先生方も立ち会われております。

普通の検査のような訳ではございません。

全てわたくしが準備致しまして、教授のGOサインも頂きました。

「Dr.修一、ご準備出来ております。」

控え室の修ちゃんに声をかけます。

修ちゃんが入室されました。

「修一、痛くないように頼むよ。」

国王がおっしゃいます。

「国王様、なんの問題もございません。苦痛なく終える予定でございます。」

修ちゃんが眠剤のサイレースを点滴にいれるよう指示されましたのでわたくしが点滴に注入致しました。

修ちゃんのカメラの挿入の滑らかさ、無駄のない動き、そしてモニターに映った画像はとても綺麗なものでございました。

国王はよく眠っておられます。

教授もご満悦でございます。

カメラを抜いて終了でございます。

と同時に国王も目覚められました。

「もう終わったの?」

教授が

「国王様、たいへん綺麗なもので、病変は一つとしてございませんでした。どうぞご安心下さい。」

「あぁ、ありがとう。良かった、そして修一、よくやってくれました。眠っている間に終わったね。これからもよろしくお願いする。」

修ちゃんは

「国王様、有難いお言葉ありがとうございます。」

わたくしもほっと致しました。

これで一連の検査は終了でございます。

明日は挙式でございます。


ヘアドレッサーさんがとっておきのヘアスタイルを作って下さいました。

ティアラとベールが似合う素敵なヘアスタイルでございます。

ウエディングドレスを着ると本当に華やかで美しくこのデザインにして良かったと思いました。

バトラーさん、ヘアドレッサーさん、ハウスキーパーさんたちがビューティフル!と言って褒めて下さいます。

車に向かいますと修ちゃんは既に後部シートに着いておられます。

わたくしが座るとドレスとベールでいっぱいになりました。

「翔子、今迄でいちばん美しい!」

「修ちゃん、ありがとうございます。」

挙式はリハーサルと同じ滞りなく終わり、ウエストミンスター寺院を出ると、研究室の方々や病院の方々がフラワーシャワーでお祝いしてくださいました。

思わぬことでたいへん嬉しく思いました。

一生忘れない、ウエストミンスター寺院の荘厳なゴシック様式と世界一古いと言われておりますパイプオルガン、何もかも素晴らしいものでございました。

そして何よりも修ちゃんと結ばれたこと、誓いのkissは甘くて幸せの味が致しました。

両方の両親とも仕事がございますのでこのまま帰国するとのことでヒースロー空港までお見送りに参りました。

わたくしの母はとても寂しい思いをしてらっしゃいますのでわたくしとしても辛いところでございます。さと子ちゃんが亡くなっておりますので、なおさらでございましょう。

連休などがあれば会いにきて下さいとしか言いようがないのでございます。

修ちゃんのお母様はわたくしにハグしてくださいまして

「翔子ちゃん、お別れは辛いけれどまた来るわね。」

なんにしても空港での別れは寂しいものでございます。

帰りますとバトラーさんが教授にドン・ペリニヨンをお届けしておきましたとご報告下さいました。

よく気のつく良いバトラーさんで助かります。

今日は1人ずつシャワーを使いわたくしがパウダールームから出て来ましたら修ちゃんが倒れ込むように横になられたのがちらっと見えました。

このところ本当に色々なことがございましたのでお疲れなのでしょう。

弱音など吐かない方ですから今日はゆっくりなさった方がいいと思い、わたくし1人で書斎で調べ物をしてからベッドに入りました。


翌朝、シャワーを使い、ヘアドレッサーさんにヘアスタイルを作ってもらっておりました。

お団子が左右にある女子大学生みたいな可愛らしいヘアスタイルでそれに合わせて白のレースのブラウスとピンクのフレアースカートを合わせました。

「翔子様、本当にお綺麗でお可愛らしい、とても奥様でお医者様とはどなたも思いませんわ」

そう言われて嬉しく思いました。あとはメイクをしてパウダールームを出てリビングルームへ。

「!!」修ちゃんがまだ起きてらっしゃらない。

目ざとい修ちゃんはわたくしが起きると必ず目を覚されます。

わたくしは昨夜の倒れ込むようにベッドに横になられた修ちゃんを思いました。

急いでベッドルームのドアを開けます。

修ちゃんがうつ伏せになってらっしゃいます。

修ちゃんはうつ伏せにはお休みにならないのです。

何処か身体が悪いと人はうつ伏せになるものでございます。

「修ちゃん、どうかなさったの!?」

わたくしはベッドの上へ駆け上がりました。

スカートの裾がめくれ上がります。

「翔子、大丈夫だから。胃が…………痛いだけ」

お顔を覗き込みました。

お顔のお色が真っ青で額には汗がびっしょり。

それを見てわたくしは自分が医師だということを忘れてしまいました。

どうしたらいいの?

何をすればいいの?

「修ちゃん!!」

わたくしは修ちゃんの肩にしがみつきました。

苦しそうに修ちゃんが

「翔子、大丈夫だよ。書斎の僕のデスクのいちばん上の引き出しにボルタレン錠があるから取って来てくれないか」

そう、修ちゃんは旅に出る時も痛み止めをお持ちなのでした。

「わかりましたわ」

わたくしは急いで書斎の修ちゃんのデスクへ。

ございました。

救いの神でございます。

わたくしはお水とタオルを持ってベッドルームへ。

修ちゃんは仰向きになっておられましたがずいぶん苦しそうでございました。

なんとかお薬をごっくん出来ました。

タオルで額の汗を拭います。

「修ちゃん…………修ちゃん…………」

お薬が効くまでは30分はかかります。

わたくしはその間修ちゃんの手を握り、胃の裏に当たる辺りのお背中をさすってなんとか痛みを和らげることをしておりました。

胃が痛い?これほど痛いのであれば潰瘍の穿孔(穴があくこと)?それならばたいへんでございます。

わたくしの頭の中は次第に医師の思考回路へと変わって参りました。

早く胃カメラでみたい!

どうか普通の潰瘍でありますように!

次第に修ちゃんの苦しみ方が治まって参りました。

「修ちゃんどう?」

「うん、良くなってきたよ」

なんとか歩いて車まで行ければいいのですが。

わたくしが修ちゃんを背負うことは無理でございます。

お着替えのお洋服をお持ちしなければなりません、わたくしはウォークインクローゼットへ急ぎました。

修ちゃんは痛みが治まったようで、お着替えもなんとかお出来になりました。

それどころか立って歩けるように。

有難いボルタレン錠!

わたくしはバトラーさんに事情を説明して朝食は皆様で召し上がってくださるようお願い致しました。


車のところで修ちゃんは

「僕運転してもいいけど。」

などとおっしゃるのでございます!

「何をおっしゃるの!今迄苦しんでた方が運転なんてとんでもございません!後ろのシートにお座りになって!」

渋々修ちゃんは後部シートにお座りになります。

わたくしは運転を始めました。

病院の近くに来ますと

「翔子違う、違う、正門じゃないんだ、裏門へつけて。医局長に胃カメラのお部屋ひとつ貸してって頼んで来るから。翔子は車を停めて検査室の前で待ってて。」

わたくしは呆れました。

病人が自ら交渉に行くなんて、聞いたことがございません。

裏門へつけると修ちゃんは歩いて中へ入って行かれました。

わたくしは車を停めて検査室の前で待っておりました。

すると廊下の向こうから医局長と修ちゃんが歩いて来られました。 

「やぁDr.翔子驚いたよ。本人が交渉に来るなんて(笑)お部屋は第一検査室使ってくれていいよ。僕も見せて頂こうかな。そんなに痛んだ病変部をみたいと思う」

修ちゃんのバイタルをとり、準備しておりますと、

「翔子、経鼻挿入でお願いするね。モニター見たいから」

ご自分のご病気さえも知識のひとつにしようというストイックさはさすがでございます。

胃カメラを挿入致しまして、胃の中央に大きな潰瘍が認められました。

「うわ、大きいな。」

「本当に。切除致します。」

切除致しまして思ったより出血はございませんでした。

十二指腸も異常なく良うございました。

胃カメラを終えた修ちゃんは

「翔子、ありがとう。じゃこれからオペに行って来るよ。」

「えっ!何ですって!無茶でございます。お止めになって!!」

「冗談じゃない、こんなことくらいでオペをやめるわけにいかないだろ。」

「それでしたらわたくし付き添います。助手でも見学でもけっこうでございます!」

「大丈夫なんだけどな。仕方ない、助手で入って。」

「わたくしの時だってオペをお止めになったじゃないですか。朝まであんなに苦しんでらしたのに…………」

「わかりました、オペを終えたら点滴するよ」


そんな攻防の末わたくしは修ちゃんのオペの助手として入りましたが、実に鮮やかなメスさばきでわたくしは本当にたいしてすることがございませんでした。縫合の時糸の端を持っていたくらいでございました。

オペを終えてソファでお休みの修ちゃんに点滴のプレゼントでございます。

今度はさすがに抵抗することなく点滴を受け入れて下さいました。

潰瘍を切除したばかりですからお食事はとれません。

点滴は必要不可欠でございます。

点滴をしている修ちゃんにタオルケットをおかけします。そして修ちゃんのお腹の辺りに座ります。

空いてる方の手をそっと握ります。

修ちゃんが痛くてお苦しみの時、頭の中が真っ白になってどうしていいか分からなくなりました。

さと子ちゃんに逝かれた時の感覚に似ております。

わたくしにとりまして修ちゃんがどれほどの支えになっているかがよく分かりました。

「修ちゃん、良くなってくれてありがとう。」

「翔子、心配かけたね。良くやってくれた。ありがとう!」

わたくしは横になっている修ちゃんに抱きつきました。お手に頬ずり致しました。

この世の中でいちばん大切な人…………

この方の胸に抱かれるのはわたくし一人なのでございます。


夕方になり、修ちゃんの点滴を用意して帰宅する用意を致しておりました。

そうしましたら修ちゃんが入って来られました。

何のご用事なのでしょうか?突然なので驚いておりましたら、

「それ僕の点滴?」

点滴を見つめながらおっしゃいます。

「そうでございます。今日1日は必要かと思われます」

「僕点滴は嫌です。翔子先生のお料理を細かく砕いてスープ状にしていただけませんか?お願い致します(笑)」

あんまり真面目な顔でおっしゃるのでわたくしは可笑しくなりました。

普段から健康で活動的な修ちゃんにとりましてじっと横になって点滴するのはたいへん苦痛なのだと推察されます。

「分かりました。わたくしのお料理で良ければ作って差し上げます。」

「ありがとう!翔子!」

修ちゃんはわたくしを抱きしめました。

いつもの消毒液の匂いが致します。

良かった、こんなに良くなられて…………

それにしても夫婦2人で揃って胃潰瘍になるなんて、今回のイギリス留学がどんなにわたくしたちにとってストレスだったのか改めて思い知らされることとなりました。


わたくしは三分粥とコーンポタージュスープとお豆腐を崩したものを作り、修ちゃんに召し上がっていただきました。

胃が受け付けてくれたのか、胃が痛いなどのことはございませんでした。

基本点滴などより人は口から食べ物を食す方が良いと考えられます。

これで修ちゃんは快方に向かったと考えられます。

愛する人が苦しんでいたり、病気になったり、最悪、死に至ることも人生にはございます。

さと子ちゃんの死が何よりそれを物語っております。

取り返しのつかないことでございます。

修ちゃんとわたくしは本当にこれからも健康第一に過ごさなければ留学の意味もなくなってしまいます。


やはり今日はお疲れになったのか、修ちゃんはシャワーを使い、ベッドにお休みになっておられました。

「翔子、今日はありがとう。始めはそのうち治るだろうと我慢していたんだ。それが良くなるどころかだんだん痛みが強くなってね、自分の中で胃に何かあると確信するまでには時間がかかったんだ。」

「修ちゃん、わたくし何も気がついてあげられなくてごめんなさい。まさか修ちゃんにこんなことが起こるとは想像も出来ませんでした。それよりも修ちゃんの具合の悪くなった事実に直面致しました時、たいへん動揺致しました。そして医師としての判断ができなくなってしまいました。自分でも驚くほど何をすればいいのか全く分からなくて、こんなことは初めてでございます。」

「それだけ僕のことを思って、頼ってくれている証拠だよ。翔子には僕しかいない、そうだろ?」

「修ちゃん、そうなの!修ちゃんしかいない!」

修ちゃんは起き上がり、わたくしを抱きしめて下さいました。そして髪の毛を優しく撫でてくださいました。

世界でいちばん大切な人、どうしたらこのわたくしの気持ちを伝えることができるのかしら?

好きで好きでたまらない、そして修ちゃんが産まれて来てくれたことが何よりの喜び、感謝でございます。


3日後今日はバッキンガム宮殿で社交界のダンスパーティーがございます。

一度も参加したことのない未知の世界でございます。

修ちゃんもわたくしもダンスは自信がございますが、他参加される方々がどのようなダンスをなさるのか、見たこともございませんのでやはり不安がございます。

ヘアドレッサーさんが今日は本気のヘアスタイルを作って下さいました。

MIKIMOTOのティアラをつけると本当に輝くような美しさでございます。

ドレスはお気に入りのTiffanyBlueのドレスで臨みました。鮮やかなターコイズブルーですのでとても目立ちます。

新入りでこんなに目立っていいのでしょうか?

ヘアドレッサーさんは

「とてもお綺麗!目立っていいのですよ!翔子様はドレスとティアラがなくても目立ちますよね!」

などと嬉しいお言葉おかけ下さいます。

ドアを開けて修ちゃんが勢いよく入って来られました。

「翔子!なんて綺麗なんだ!美しい!」

そうおっしゃってわたくしを抱いてくるっと一周まわられました。

「楽しみだね。今日は。翔子また不安に思ったりしてない?絶対大丈夫だよ。僕らのダンスは。」

「本当ですの?大丈夫ですの?」

「当たり前さ、さぁ、行こう。」

修ちゃんはわたくしの手をとり歩いて玄関まで。

今日はバトラーさんが修ちゃんの黒のロールスロイスを運転して下さいます。

わたくしたちは後部シートに座りました。

豪華なドレスですのでシートがいっぱいになります。

「翔子、いつものように踊っていいんだよ。あとは僕がサポートするから」

「はい、修ちゃんにお任せ致します。」


バッキンガム宮殿まではすぐでございます。

ロールスロイス始め高級車がたくさん止まってございます。

わたくしも少しうきうきして参りました。

宮殿のバトラーさんがご案内して下さいます。

とても大きくて豪華な装飾のパーティー会場でございます。

皆様のドレスが色とりどりでとても美しくてまばゆいばかりの輝きでございます。

チャールズ国王とカミラ王妃が入場され、開会のご挨拶をされました。

やはり社交界なんだわとわたくしは改めて思いました。

軽やかなワルツの曲がかかりました。

皆一斉に躍り始めます。

わたくしは修ちゃんの手に導かれて躍り始めました。

修ちゃんはわたくしをリードするためとてもいい位置の背中に手を添えてくれます。

ターンする時もうまく手を添えて下さいますのでとてもターンしやすく、軽やかに回れます。

次の曲がかかりました。

それもリードのうまさで羽根がはえたように踊れます。

わたくしたちはパーティーだということも忘れて楽しんで踊っておりました。

なんと気がつくと皆様観客になって広い踊り場で踊っているのはわたくしと修ちゃんだけでございます。

それでも修ちゃんはダンスを続けました。

しばらく踊っておりましたらラストの曲となりました。

踊り終わってわたくしたちは深くお辞儀を致しました。

すごい拍手喝采でございます。

これはどういうことでございましょう。

すると教授が来られまして

「修一、翔子、素敵だったよ。皆さん見とれてらした」

「恐れ入ります、教授」

テニス大会だけでなく、ピアノやダンスも皆様に認めていただき、わたくしは内心とてもほっとしておりました。

今迄努力してきて良かった、それが今花開いたということになります。

そしてわたくし1人の力ではございません、修ちゃんという優秀なパートナーがいてこそ、でございます。

前世から結ばれていたのではないかと思うほど息がぴったり合うのでございます。

ダンスが終わり、会場は立食パーティーになりました。

様々な方が話しかけて下さいます。

中にはやはり診察を希望される方もいらして、わたくしは快く承諾致しました。

見ますと、修ちゃんも皆様に囲まれて、ずいぶん人気がございます。

ダンスを踊っておりました時はわたくし医師であることを忘れておりました。

それくらい楽しかったのでございます。


バトラーさんの運転で帰宅致しました。

リビングまで帰って参りました時に修ちゃんにお電話が。

多分東大の研究室の方だろうと思われますが修ちゃんの会話からただならぬ雰囲気が感じられました。

何か悪いことが起こったことは間違いないだろうと考えられます。

「翔子、実験のデータに不備が見つかって修復できないそうなんだ。これが頓挫してしまうと僕の論文は書けなくなってしまう。今から日本に帰ろうと思う。翔子、ついて来てくれるか?」

「修ちゃん、当たり前ですわ。すぐチケットをとって下さいませ。バトラーさんとヘアドレッサーさんには同行してもらいましょう」

「僕は教授に連絡してチケットをとるから翔子は荷造りしてくれる?」

「分かりましたわ」

わたくしも必死でございました。

今迄順調に進んで参りました修ちゃんの研究がこんなことで駄目になるなんて、絶対に避けなければなりません。

わたくしはドレスを脱ぎシックなGUCCIのワンピースに着替えました。

スーツケースにお洋服を入れる手が震えております。ハウスキーパーさんが手伝って下さいました。

「翔子様、しっかりなさって!修一様ならどんな困難も乗り越えられますよ!」

「ありがとうカレン、わたくしがしっかりしないといけませんわね。」

車にスーツケースを積み込んでもらいました。

書斎へ行くと修ちゃんが持っていく書籍を選んでいらっしゃいました。

「修ちゃんお洋服などの身のまわりのものは揃えましたわ。わたくしにお手伝いできることございますか?」

「うん、ありがとう。だいたい持っていく書籍は選んだよ。ファーストクラスでチケットもとれた。翔子は大丈夫?」

「わたくしは大丈夫でございますわ。それよりも修ちゃんのことの方が心配でございます。」

「僕は大丈夫!データを分析しておかしくなった箇所を必ず修復してみせるよ。」

「修ちゃん、きっとうまくいきますわ」

わたくしは修ちゃんの胸に飛び込みました。

「翔子…………」

修ちゃんはわたくしをぎゅっと抱きしめて下さいました。

修ちゃんの研究が頓挫するなんてことはございません。わたくしは固く信じておりました。


飛行機の中でも修ちゃんは原因らしきものを探ろうといろんな書籍をご覧になり、根を詰めてらっしゃいました。わたくしは心配で

「修ちゃん、あちらへ行ってからでもできるものでございましょう。今は少しお休みになって。」

ようやく機内食をお召し上がりになり、お休みになられました。わたくしは狭いけれども同じブースで休みました。修ちゃんのぬくもりを感じます。

少し眠られたようでわたくしも安心致しました。

そっと手を添えてから握ってみます。

大きな手、愛しい人…………

どうぞデータの解析がうまくいきますように。

「翔子起きてたの?僕は大丈夫だからね。心配いらないよ。その小さな心を痛めないで。」

「修ちゃん…………」

東京に着きました。

「翔子リッツ・カールトン東京に行ってチェックインしてきて、僕は東大へ行くから」

「分かりました。わたくしもあとからいきます。」

タクシーを使いましたがベンツのレンタカーを頼んだ方が良いと思いました。早速手配致します。

わたくしはチェックインを済ませ、ヘアドレッサーさんにヘアスタイルを作ってもらいました。

後のことはバトラーさんにお任せ致します。

わたくしも急いで東大へ向かいました。

修ちゃんはもうデータとにらめっこでございます。

膨大なデータの集合体でございます。

それをひとつずつミスがないか解析していくのでございます。

気の遠くなるような細かい作業でございます。

わたくしもお手伝い致しました。

人が入れ替わっても修ちゃんはずっと付ききりでございます。

お食事もとらず、シャワーも使わず、睡眠をとることもなく、一心不乱でございます。

「修ちゃん、お願い、お食事を召し上がって。」

「うん、これが終わってから」

とおっしゃるばかりでお食事を召し上がりません。

いったいいつまでこんな無理なことをなさるつもりなのかしら?

心配でたまりません。

すると修ちゃんがシャワー使っくるとおっしゃってオペ室が並んでいるところにシャワー室があるのですがそちらへ行かれたようでございます。

良かった、安心してわたくしもリッツ・カールトンに戻りシャワーを使ってまたヘアスタイルを作ってもらいました。

女性としてわたくしはどんなに仕事がハードでも髪の毛を振り乱してというようなことはいたしません。

いつでも愛する方の前では美しくありたいのでございます。

バトラーさんに

「修ちゃんが根を詰めるので心配なの。どうしたらいいのかしら」などとお話ししておりました。

わたくしのスマホが鳴っております。

修ちゃんからです、どうしたのか驚きました。

「翔子、わかったんだ。データのミスでおかしくなってた。修正したら全部のデータが正常化したんだ。良くなったんだよ!」

「修ちゃん、本当?」

「もちろん、翔子早く来て!」

わたくしはとるものもとりあえず研究室へ向かいました。

研究室ではパソコンを前にした修ちゃんを囲むようにしてたくさんの研究員の方々がいらっしゃいました。

わたくしもその輪の中にそっと入りました。

グラフも途切れることなく順調に進んでおります。

さすが修ちゃん、これで論文が暗礁に乗り上げることはなくなったのでございます。

苦悩の色濃く真剣な眼差しだった修ちゃんの瞳はいつもの優しい瞳に戻っております。

今回のことでわたくしは初めて気づいたのですが、愛する人が病気になったり、困難に陥ったりした場合、自分が病気になったり、困難に陥ったりするよりも数倍辛くて、心配で不安で悲しい思いをするということがわかったのでございます。

よく言う変わってあげたいに似た感情だと思うのでございます。

そんな時愛する人はたまらないくらいいつもよりより一層愛しく思われます。

究極自分の命よりも大事ということでございます。

研究員の方々は口々に

「やっぱ修一でないと駄目なんだよね。」

「修一だから出来たんだよ。」

修ちゃんはそれを聞いて

「何言ってるんだよ。みんなのおかげさ、これからも頼むよ。」

わたくしも

「皆様ありがとうございました。本当に感謝の言葉しかございません。」


修ちゃんがそっとわたくしを廊下に連れて出られまして、

「教授の処方箋で僕の点滴が出てるはずだから薬局へ行って取って来て、車で待ってて」

「修ちゃん…………そんなに…………大丈夫ですの?」

「これ以上悪くならないためのものだから心配いらないよ。あとは食べて寝たら治るさ、翔子ちゃん心配いらないよ。」

点滴嫌いの修ちゃんがご自分から点滴を希望されるのですからよほどお身体の危機を感じられたのでしょう。

わたくしはせつなくなって涙致しました。

修ちゃんの頑張るところ、お優しいところ、ひとつひとつがたまらなく愛しく思われました。

「うっ…………」

「翔子ちゃん、泣かないで。涙を拭いて、もう解決したんだからすぐ治るさ。さ、点滴を取りに行って来て。」

「はい、承知致しました。」

わたくしは涙を拭ってまず教授のお部屋へと向かいました。

このような騒ぎになりまして教授もさぞかしお心を痛めてらっしゃるでしょう。

教授室のドアをノック致します。

「はい、どうぞ」

聞き慣れたお優しい教授のお声でございます。

「高杉翔子でございます。」

教授はソファに座ることをお勧め下さり、お茶を淹れてくださいました。

「教授今回のことではたいへんご心配おかけ致しました。」

「いやいや、やっぱり修一君だね。私もはらはらしていたけれどやってくれたね。彼がイギリスから帰って来てくれると聞いた時、実はこれで大丈夫だと思ったんだよ。良かったね。」

「わたくしはもう駄目なのではないかと心配ばかりしておりました。」

「そうそう、王室付きの医師団の一員になったんだって。君たちなら選ばれるだろう。めでたいね。頑張り給え。」

「ありがとうございます。でも教授、そのような大役を頂いたら東大病院でお仕事できなくなってしまうのではないかと心配しております。」

「イギリスの教授とは懇意にしているからまたどうとでもなることだよ。今からそんな取り越し苦労をすることはないよ。安心していなさい。」

「寛大なるお言葉ありがとうございます。安心致しました。」

教授のお部屋を辞して薬局で点滴を受け取り、車へと急ぎました。

修ちゃんはもう運転席に座ってらっしゃいました。

「修ちゃん、なんて無防備な!わたくし運転致しますわ。」

「大丈夫だよ、ホテルまですぐそこじゃないか。」

攻防の末、修ちゃんが運転してホテルへ。

まずシャワーを使い、ようやく一息ついて修ちゃんはベッドに横になられました。

「翔子先生、点滴お願いします。」 

「分かりました。おとなしくしているんですよ。」

「は~い。」

点滴の針を挿して速度を中くらいに致します。

わたくしはベッドに横になっている修ちゃんのお腹の辺りに座り、点滴をしていない方の手を握りました。

愛しい人の手…………わたくしはたまらなくなってその手に頬ずり致しました。

こんなになるまで頑張った修ちゃんが愛しくて愛が溢れて参ります。

修ちゃんはわたくしの腰を持って自分の方に引き寄せて

「翔子ありがとう。心配かけたね。」

「ううん、データが無事回復して本当に良かったですわ」

「もう駄目かと思った時、翔子のことを思った。翔子の絶望した顔を絶対に見たくないと思って頑張った。

さと子ちゃんが亡くなった時の翔子の悲しむ姿を思い出したんだ。翔子の悲しむ姿をみたくなかった。

星の数ほどの男女がいる中で僕と翔子は出会って愛し合った。僕はこれほど愛し合ってる夫婦は他にいないんじゃないかと思ってるんだ。100年経ってもこの愛は変わらない。」

「修ちゃん、わたくしも同じことを思っていますのよ。苦悩してらっしゃいます修ちゃんを見て自分の身が切られるように辛くて、もう見ていられませんでした。わたくしが代われるなら代わって差し上げたい。そう祈っておりました。」

「翔子!!」

「修ちゃん!!」

修ちゃんは起き上がってわたくしを抱きしめて下さいました。

胸がいっぱいになってなぜかしら涙がこぼれます。

「あっ、点滴!」見ると点滴は終わっていました。

修ちゃんが針を抜きます。

わたくしは目に涙を貯めたまま修ちゃんを見つめておりました。

お元気になって下さって良かった、それが何よりでございます。

「さっきの続きだよ。」

もう一度抱きしめて下さいます。

いつもの消毒液の匂いが致しました。

幸せの匂いでございます。


東大のデータのことが片付きましたら成城の修ちゃんの実家と大阪のわたくしの実家へ顔を出さないといけません。

わたくしと修ちゃんは成城に向かいました。

お父様もお母様も大歓迎して下さいました。

王室付きの医師団の一員になれたこと、我が事のように喜んで下さいました。

「イギリスの方々も見る目があるわね。修一さんと翔子ちゃんなら抜擢されて当然ですわ。」

本当明るいお母様でございます。

「医師団の一員になれたことの記念にお受け取りくださいね。ダイヤの髪飾りとパールの髪飾りよ。」

「お母様、こんなにいつも高価なものばかり、よろしいのですか?」

お父様が

「翔子ちゃんが可愛くて仕方ないんだよ。もらって下さい。」

「ほら、似合うじゃないか。翔子いただきなさい。」

と修ちゃん。

修ちゃんがわたくしの髪にダイヤの髪飾りをつけて下さいました。

鏡で見ますととても素敵です。

社交界デビューしてからは髪飾りやアクセサリーがかなり必要になって参りました。

「お母様、ありがとうございます。とても素敵でわたくしすっかり気に入ってしまいました。」

「翔子ちゃん、本当によくお似合い!」

お父様とお母様のお勧めでこの夜は高杉家に泊めていただくことになりました。

修ちゃんのご実家に泊まるのは初めてでございます。

広いお家の一室に客間がございまして、ツインのベッドが置かれておりました。

お母様とハウスキーパーさんがお料理されていましたのでわたくしもお手伝い致しました。

お母様もお料理上手な方だとお見受け致しました。

4人で楽しいディナーをいただき、食後はわたくしがピアノを弾かせて頂きました。

修ちゃんもご実家でリラックスなさったのか、わたくしのピアノに合わせてヴァイオリンを弾かれました。

修ちゃんのヴァイオリンはふくよかな音で人柄が表れるとわたくしいつも感じます。

修ちゃんのヴァイオリンで一層わたくしのピアノに艶が出て参ります。

お父様お母様も楽しそうにお聞きになっておられます。

とても楽しいひと時でございました。

お風呂を頂き、修ちゃんとベッドルームでシャンパンをいただきました。

「お父様お母様にこんなに歓迎して頂き、わたくし幸せ者でございます。」 

「翔子ちゃんが魅力的だからだよ。今回のデータの件で改めて翔子ちゃんが好きになったよ。」

「えっ、今回の件で、どうしてですの?」

「僕と同じように必死になって手伝ってくれた。その姿を見て僕の心も熱くなった。」

「まぁ!嬉しいです。」

ツインのベッドですが修ちゃんがわたくしのベッドに移って来られました。

「客間にダブルベッドはないんだよ。ちょっと狭いけどこうして寝ようよ。」

そうおっしゃってわたくしを抱きしめられました。

「ひとつのベッドしか使わないでいたら、狭いシングルで2人で寝たのが丸わかりですわ」

「いいじゃないか。夫婦なんだから。仲良しだと表明しておこうよ(笑)」

「恥ずかしい………」

「なんでだよ(笑)」

甘い夜が過ぎて行きました。


翌朝わたくしたちは大阪のわたくしの実家へ向かうことに。

「翔子ちゃん、修一さんのことお願いね。辛抱強くて頑張り屋さんだから気を付けてあげてね。」

「お母様、わたくしもそう思いますわ。ですからしっかり見張っておきますわ。」

お父様も修ちゃんもにこにこされています。

名残惜しんで高杉家をあとに致しました。


飛行機で一路大阪へ。

やはり実家は嬉しいものでございます。

特にお母様がとても喜んで下さるのでわたくしも嬉しくなります。

さと子ちゃんにお線香をあげます。

さと子ちゃん、心配なくね。修ちゃんのことはお任せくださいね。

お母様がリッツ・カールトンのエステの招待状をお持ちで、

「翔子ちゃんこれ行ってらっしゃい。」

「わぁ、お母様いいんですの?」

「ずっと忙しくて行ってないんでしょう。綺麗になってらっしゃい。」

わたくしは嬉しくて早速出かけました。

2時間コースでトリートメントルームでゆっくり致しました。

帰りにショッピング街に寄り、知らないブランドですがとても可愛いワンピースとブラウスとスカートを購入致しました。

ジュエリーショップがあったのでやはり寄りたくなります。

ドレスにぴったりのネックレス、ダイヤモンドとサファイアで装飾されています。

250万円でしたがこんなお気に入りに出会うことはないので思い切って購入致しました。

久しぶりにお買い物してご機嫌でございます。家に帰りましてお顔を触ってみましたら本当にすべすべでございます。

「修ちゃん、修ちゃん、わたくしのお顔を触ってみて!」

「うわっ、翔子ちゃんすべすべ!」

そうおっしゃってぎゅっと抱きしめて下さいました。

そしておでこにkissを下さいました。

やはりエステのマッサージが良かったのだと思います。

これからは忙しくてもエステに行こうと決意致しました。

実家でゆっくり致しまして、それでも翌朝にはもうお別れでございます。

「修一さん、翔子は向こう見ずなところがあるから時々ブレーキかけてあげてね。」

「お母様、僕がいるんですよ。翔子に無理なことはさせません。ご安心下さい。」

どちらの実家に参りましてもお母様方は同じことをご心配なようで親は有難いものでございます。


取り急いで来ました日本ですがわたくしたちはやはり本拠地のイギリスへ帰らなければなりません。

いつも通りファーストクラスで搭乗致しました。

行きの時とは違い心は軽いので快適な空の旅でございます。

ファーストクラスは完全個室なのがいけません。寝る時間になりますと修ちゃんがわたくしのところへやって参ります。

狭いシングルで2人重なって眠ります。

それでもよく眠れるのが不思議でございます。

時々手を握り合います。

わたくしの手が修ちゃんの大きな手にすっぽり包まれます。

それがとても安心感を生みます。

「修ちゃん大きな手…………」

「翔子可愛い手…………」

この手でどんな困難なオペもこなしてしまうGodHandでございます。

修ちゃんのことは人間としてもリスペクトしておりますが、医師としても尊敬しております。

普段の冷静さに加えて理路整然としたオペの手順は見事でございます。

そういえば修ちゃんが取り乱したところはわたくし見たことがございません。

あのデータの件にしましても、黙って苦悩されていましたので、取り乱したところは皆無でございました。

おそらくご自分のご両親が亡くなっても悲しみをじっと内に秘めて、見た目は取り乱したりはなさらないでしょう。

さと子ちゃんが亡くなった時も寡黙にさと子ちゃんの手を握りしめておられました。

だいたいにおきまして医師が感情に流されるのは良くないこととされております。

亡くなった方がいらっしゃるたびに泣いていてはお仕事になりません。

そういった意味で修ちゃんの姿勢はご立派と言えます。


長旅を終えましてロンドンに到着致しました。

人の順応性とはすごいもので今度は日本ではなく、ロンドンに帰ってきた方がほっと致します。

チェルシー地区のお家に帰って来て嬉しいのです。

伝統を重んじ、なおかつ現代的なところもあるロンドンが好きになりました。

こんなに王室を愛している国民は他にございません。

その王室の医師団ですから相当名誉なことでございます。

帰って真っ先に教授に事の結果をご報告致しました。

また明日お目にかかることになるでしょう。


お風呂も大阪のお家よりも広くてジャグジーもついております。

今日は2人でゆっくり湯船に浸かりました。

修ちゃんの上に重なって横たわり、ジャグジーの泡に揺れます。

愛した人と産まれたままの姿で一緒にいられることの幸せ…………

修ちゃんと巡り合って結ばれたことがわたくしの人生の中で最もハッピーな出来事でございます。


久しぶりにロンドンのカレッジに参りましてまず初めに教授にご挨拶に伺いました。

一通りのご挨拶が終わると

「君たちが東京へ行ってる間に大きな仕事が発生したんだよ。キャサリン妃がオペを希望されてね、執刀は修一にお願いしようと思ってるんだ。」

修ちゃんは即座に

「光栄なお話しでございます。喜んでお受け致します。」

ついに来ました。修ちゃんの本領発揮できる時がやって参りました。

キャサリン妃の病気のオペなら修ちゃんは星の数ほどの経験値をお持ちです。

オペの日はまた改めて近いうちにとのことでございました。

わたくしたちは教授のお部屋を退室致しました。

「修ちゃん、わたくしはなんの心配もしていませんわ。」

「僕もなんの心配もしていないよ。むしろ楽しみにしているくらいだ。そうだろ、翔子」

「えぇ、その通りですわ。当日はわたくしも助手として入らせてくださいませね。」

「やる気満々だね(笑)」

「皆様に修ちゃんの素晴らしい技術を見せてあげてくださいませ。」

わたくしたちは自信しかございませんでした。

オペは成功するはずでございます。


当日、わたくしは爽やかなヘアスタイルをお願い致しました。

その通りシャキッとした中に女性らしさが表れている素敵なヘアスタイルでございました。

わたくしたちはいつもより早めに病院に入りました。

キャサリン妃は前日から入院してらっしゃいます。

看護師がお迎えに行っているようでございます。

「修ちゃんいつも通りお願いね」

「OK」

キャサリン妃がオペ室に入られました。

わたくしは

「なんの心配もございません。お休みになってる間に全て終わります。」

「よろしくお願いするわね。」

少し緊張されてるようでございました。

酸素マスクをつけ、麻酔医が麻酔を入れました。

いつも通り鮮やかなメスさばきで修ちゃんは着々とオペを進めます。

助手のわたくしは本当にお仕事がございません。

3時間の予定でしたが2時間少しで終了致しました。

見学に来られていた先生方も、医学生からも拍手が起こりました。

教授もとても満足そうでございます。

「Dr.修一、お疲れ様でございました。」 

「Dr.翔子、ありがとう。」

キャサリン妃はICUに入られましたが問題なく経過は進むと思われます。

それにしても見事なメスさばきでわたくしたちは改めて修ちゃんの技術のレベルの高さを思い知らされました。

修ちゃんのお部屋へ行ってみました。

修ちゃんはもうパソコンに向かって何か入力されています。

「修ちゃん、お忙しいの?」

「あ、翔子、忙しくないよ。キャサリン妃はオペに踏み切られて良かったと思ってたところ。綺麗に病変部を切除出来たんだよ。」

「皆様修ちゃんのオペの腕前に拍手なさってましたわ。」

「有難いね。そんなふうに思って頂いて。」

「わたくしも自分のことのように嬉しいのです。」

「翔子、僕に失敗はないのさ。」

「修ちゃん!」

わたくしは修ちゃんの胸に飛び込みました。

ここは病院の一室だというのに。

でも修ちゃんはしっかり抱きとめてくださいました。

次々とハードルを飛び越えてわたくしたちは順風満帆でございます。


キャサリン妃のオペのことがあったりしてすっかり自分の身体のことがおろそかになってしまいました。

月のものがないので、多分ストレスなのでございましょう。

それでも一応検査してみなくてはならず、わたくしは婦人科へ訪ねて行きました。

妊娠検査薬をひとつ譲って頂いて、検査してみましたらなんとマーカーが!

本当なの?

看護師さんが

「Dr.翔子、おめでとう!早速先生に診てもらいましょう。」

婦人科の先生の内診で

「翔子、おめでとう!もうすぐ3カ月よ」

「先生、ありがとうございます。」

わたくしと修ちゃんの赤ちゃんがわたくしのお腹にいる!

修ちゃんの血筋を引いた赤ちゃんはさぞかし優秀なのでしょう。

このニュースを聞いて修ちゃんはなんておっしゃるかしら。

急にわたくしは自分の身体のことが愛おしくなって参りました。

大事にしなくちゃいけないわたくしは今大切な身体。


車に乗ってから急に心配になり、ハロッズへ行き、ヒールの低い靴を3足買いました。高いヒールでつまずいたりしたらたいへんでございます。

赤ちゃん用品の売り場に参りまして、色々と見て廻りました。

どれも可愛い、でも買うのは修ちゃんに報告してから、2人で買っても良いですし、ただ見ているだけでも嬉しくなります。

ゆりかごは必ず買おう、思い切りゴージャスなものを。

少し驚かせようかしら、ホールのデコレーションケーキを購入致しました。

きっとキャサリン妃のオペのお祝いだと思われて、大げさだよ、なんておっしゃるでしょう。

そこで打ち明けても良いなと思います。

今わたくしは2人なのでございます。

こんな喜びは生まれて初めてでございます。

大切な命…………半分は修ちゃんの命。


帰宅するとハウスキーパーさんがお料理をたくさん作って下さってました。ケーキはキッチンに隠しておきます。

ハウスキーパーさんが

「このケーキは今日のオペのお祝いでございますか?」

「くれぐれも内緒にしておいてね。わたくしの口から報告したいから。わたくしに新しい命が芽生えましたの。」

「まぁ!翔子様、おめでとうございます。」

「うふふ、ありがとう!」

シャワーを使い、ヘアドレッサーさんがとっておきのヘアスタイルを作って下さいました。

TiffanyBlueのワンピースを選びました。

あ、修ちゃんのお帰りでございます。

「修ちゃん、今日はお疲れ様でした。あれからキャサリン妃のご様子はどうですの?」

「翔子、ただいま。もう一般病棟に移られたよ。なんの心配もないね。」

「良かった!わたくし嬉しい!」

修ちゃんはわたくしのおでこにkissを下さいました。

修ちゃんがシャワーを使われるのをお待ちしておりました。

ディナーを頂いて、わたくしはケーキをテーブルの中央に置きました。

「翔子ちゃん、オペのお祝いなの?このオペでケーキ買ってたら毎日買うことになるよ(笑)」

「それが違うのです。修ちゃんに秘密にしているお知らせがありますの。」

「違う?何なの?」

「わたくしの身体の奥の方に芽生えた命がございます。」

「えっ、命…………翔子ちゃん間違いないの?」

「えぇ、今日診ていただきました。」

「本当なの?やったね!翔子ちゃん!」

修ちゃんは立ち上がり、わたくしの隣に座られました。

そして右手でわたくしのお腹を擦りました。

「ベイビー、ご機嫌いかが?」

「まだ幼いのでお返事できませんわ。」

お腹のところに耳をお当てになります。

「今はお休み中かな?」

そしてわたくしの両手を取り、

「翔子、ありがとう!」

抱きしめて下さいました。

消毒液の匂いが致します。

幸せの匂いでございます。

「翔子、立ちっぱなしのオペは危険だよ。辞めてほしい、僕だってインターンの頃は産婦人科で赤ちゃんを取り上げたこともある。今安定期じゃないから辞めた方がいい。」

「大丈夫よ、修ちゃん。今オペの予約の方々は社交界でわたくしを指名して予約された方ばかりなの。お断りは出来ないわ。これ以上予約はとらないからいま予定に入っているオペはさせてちょうだい。」

「うーん、賛成出来ないな。」

「他のことは無理したりしないから。ね。」

わたくしをというオペをお待ちの方々にキャンセルなんてとてもできないことでございます。

わたくしは無理やり修ちゃんの許可を取りました。

救命におりますと妊婦さんが運び込まれることもございます。

ですから修ちゃんは産婦人科のほうにも知識豊富でございます。

修ちゃんのお気持ちはよく分かりますがキャンセルと言う事はわたくしの中にはございません。

今予定されているオペはやり遂げたいのでございます。


それからの修ちゃんは赤ちゃんにデレデレでございました。

朝起きられるとわたくしのお腹に

「おはようベイビー、パパだよ!」

と話しかけられます。

わたくしは普段病院でクールに構えてる修ちゃんを存じていますので驚いております。

これでこの赤ちゃんが女の子でしたらもう限りなく甘いパパになること間違いなしでございます。

研究室の皆様にたまにはクッキーを焼いてお持ちしようと焼いておりましたら

「翔子ちゃん何してるの?そんな立ちっぱなしで余計なことしなくていいんだよ。それでなくてもドクターの仕事ハードなんだから。」

本当に過保護そのものでございます。

今まで知らなかった修ちゃんの一面を見てわたくしは少し呆れておりました。

今日のオペを2例こなしましたら終わりでございます。

今まで3例終えましたが大丈夫でございました。

今日もこの調子でいきましょう。


研究室の皆様にクッキーをお待ちしました。

皆様たいへん喜んで下さいました。

さぁ、あとオペを2例致しましたら大丈夫でございます。

1例目は難なく終了でございます。

休憩なく2例目にかかりました。

途中ちょっと患部の出血が多くて時間がかかってしまいましたが無事に乗り切り、あと少しで終了でございます。

それなのにわたくしは立っているのが辛くなって参りました。

どうしたのかしら?

もうあと少しで終了だから終わったらお部屋でゆっくり休みましょう。

そうしているうちに無事終了でございます。

良かった、終わったわ。

その時、わたくしは鋭い下腹部痛を覚えました。

「痛い…………」

なんとかしてオペ室から出なければ…………

歩こうとしますがあまりの痛みにわたくしはお腹に手を当てたまま立ち止まってしまいました。

その時、足をつたって足元に広がる真っ赤な液体が。

出血でございます。

あまりの腹痛と出血のショックでわたくしはその場に倒れ込んでしまいました。

たいへんなことになってしまったわ。

「誰か婦人科のドクター呼んで!」

「Dr.修一にも連絡とって!」

みんなでベッドに寝かして下さいましたが出血は止まらず血が滴っているのが分かります。

「吸水パッドとって!」

わたくしは次第に意識が遠のいていきました。

修ちゃん助けて!赤ちゃんを守って!

「翔子!僕だよ!わかるか!?」

修ちゃん来てくれたのね!

ごめんなさい、こんなことになって。

わたくしが悪いのです。

婦人科のドクターと修ちゃんが一生懸命対処して下さっているのがほのかに分かります。

そのままわたくしは意識をなくしました。


「翔子…………翔子…………」

修ちゃんの優しい声でわたくしは目覚めました。

わたくしの左手を修ちゃんが両手でしっかり握って下さってます。

「翔子!気がついたんだね。良かった!」

「修ちゃん、ごめんなさい。赤ちゃんは?」

修ちゃんは首を横に振りました。

「胎盤に根付かない赤ちゃんは育っていかないんだよ。翔子が悪いんじゃない。そんな赤ちゃんは諦めないと今度はお母さんの命を奪ってしまう。」

「わたくしが修ちゃんのおっしゃることも聞かずにオペをしたから。」

「違うよ。翔子、自分を責めるんじゃない。」

涙が頬をつたいました。

「うっ…………」

「そんなに悲しまないで、自分の身体のこと心配してね。けっこうな出血だったから本当に大丈夫かなと思ったよ」

「修ちゃんあんなに喜んでらしたのに…………」

「僕と翔子ちゃんがいる限りまた天使みたいな赤ちゃんがやって来るよ。」

「ありがとう修ちゃん」

「今日どうする?このまま病院にいる?」

「帰りたいわ。」

「うん、じゃあそうしよう。」

修ちゃんはお部屋を出て行かれました。

悲しいけれど起こってしまったことは仕方ございません。

これからまた修ちゃんと今まで通り歩んで行くしかございません。


修ちゃんが毛布をお持ちになって来られました。

わたくしを毛布にくるんでひょいと抱き上げられました。そのまま車まで直行でございます。

後部シートにわたくしを寝かせられました。

修ちゃんは強い…………

さぞかしがっかりされているだろうに、ご自分の気持ちは置いておいてわたくしの心配をして下さる。

昨日までわたくしの中にあった命が今はない。

修ちゃんはその命を手に取られたのかしら?

もやもやとそのようなことを考えているうちに自宅に到着致しました。

バトラーさん、ヘアドレッサーさん、ハウスキーパーさんがお迎えに出てらして

「翔子様、どうなさったのです。」

「まぁ!翔子様こんなお姿に、すぐベッドを整えますわ」

修ちゃんが

「みんなありがとう。実は今日小さな命が流れてしまった。翔子の身体がダメージを受けてるのでよろしく頼むね。」

「翔子様、しっかりなさって!」

「翔子様、なんでもお申し付け下さいませ。」

「みんなありがとう。お世話になります。」

修ちゃんが毛布にくるまったままのわたくしを抱き上げてベッドルームへ向かいました。

ベッドの上に寝かせられまして点滴の用意をなさいます。

「本当は輸血したかったんだけど輸血は良くないからね、なんでも食べて体力回復してね。」

「はい、ありがとう修ちゃん。」

修ちゃんはわたくしのそばに座られました。

「日にちが経てば身体は良くなる。精神的にまいらないようにね。」

修ちゃんはわたくしの髪を撫でながらおっしゃいました。

そんなお優しいお言葉をかけられてまた涙が溢れます。

いっそ「君の不注意だよ!無理した結果がこうだ!!」とお叱りを受けた方がいいような気が致します。

お怒りをぶつけて下さった方が修ちゃんの気持ちが軽くなるのではないかと思うのでございます。

「修ちゃん、そんなに優しくしないで。優しくされればされるほどわたくしは申し訳なくて謝罪の言葉が見つかりません。」

「翔子、何言ってるの。翔子のせいじゃない、育たない赤ちゃんだったんだよ。それよりも君の身体のダメージが大きかったので心配してるんだ。元の翔子に戻ってまた2人で歩んで行こう。また神様が可愛いエンゼルを授けて下さるよ。」

「修ちゃん、ありがとう…………」

身体が疲れているのでしょうか。わたくしは眠くて眠くてそのまま眠りに落ちてしまいました。


その後2日ほどわたくしはベッドから起きることなく過ごしておりました。

修ちゃんの朝の身支度のお世話も出来ずに起き上がれなくてベッドの上に横たわっておりました。

修ちゃんは出かける用意をしてわたくしのところに来て下さいます。

「おはよう翔子、これから行って来るね。翔子の予定していたオペは僕がするから安心して。お食事はとってね。それじゃ行って来るね。」

前髪をかき上げておでこにkissを下さいます。

「ごめんなさい修ちゃん、行ってらっしゃいませ。」

朝からお食事は取れなかったのですが、頑張ってお昼は軽くいただきました。

「翔子様、もう少しお召し上がり下さいませ。欲しいものがあればなんでもお申し付け下さいませ」

「ありがとうスカーレット、じゃあディナーは修ちゃんと同じものを用意してちょうだい。頑張って食べるから。」

バトラーさんが入って来られまして

「翔子様、いかがですか?実はわたくしも若い頃家内が流産したことがございました。そのときは2人ともショックを受けておりましたがその後2人の子供に恵まれました。ですからしっかりなさって下さいませ。流産などよくあることのひとつでございます。」

「まぁ、そうでしたの、よくお話し下さいました。わたくしも元気出さなければなりませんね。」

そう、こんなふうに寝ている場合じゃございません。

わたくしのオペをお待ちの方々がいらっしゃるし、研究でしなければいけないことが山積みでございます。

わたくしは頑張って起き上がりました。

バトラーさんが肩を抱いて下さいます。

少しふらふら致しますが歩けます。

まず初めにソファに座り、バトラーさんが淹れてくださいましたお紅茶を頂きました。

温かく香り高い美味しいお紅茶でございました。

なんとか1人でシャワーを使い、パウダールームへ向かいました。

ヘアドレッサーさんが髪をドライヤーしてアップに結い上げて下さいました。

女性らしくてとても素敵なヘアスタイルでございます。

嬉しくてGUCCIのワンピースを選びました。

パールの髪飾りを着けてくださいました。

いつものわたくしに戻って修ちゃんをお迎えしましたらどんなに喜んで下さるでしょう。

聞き慣れたベンツのエンジン音が致しました。

わたくしは小走りに玄関ドアまで急ぎました。玄関口で待っておりますとドアを開けて修ちゃんが帰って来られました。

わたくしは膝をついて

「修ちゃんお帰りなさいませ。」

「翔子、起きれたの?良かった!元気そうで。」

「身支度のお手伝いも出来なくてごめんなさい。」

「そんなことどうでもいいよ。翔子が元気になってくれて嬉しい。」

修ちゃんは思い切り抱きしめて下さいました。

やっといつもの2人になれました。

ディナーを頂き、白のオーガンジーのドレスに着替えましてピアノを3曲弾きました。

久しぶりに聴くピアノの音色が傷ついた心を癒しました。

わたくしは今回のことで身体の傷より心の傷の方がより深いもので回復も遅いものだということを身をもって知りました。

これから先災害などで傷ついた方がいらしたらまず心の傷をケアして差し上げないといけないと考えました。

これからは精神科の分野のお勉強もしていこうと新たな目標が出来ました。

わたくしのピアノで修ちゃんもワイン片手にご機嫌でございます。

良かった!


オペと研究、精神科のお勉強と毎日忙しくしておりましたら、赤ちゃんとのお別れから1年が経ちました。

わたくしは無理しない範囲で研究に打ち込んでおりました。修ちゃんの論文も順調に進んでいるようでございます。

教授がいらして研究の様子をご覧になり、とても満足そうでございます。

「修一、翔子、ちょっと私の部屋へ来てくれないかね。」

教授の部屋へ行くまでの廊下の長いこと。修ちゃんが日本語で

「お話しなんだろう?」

「悪いことじゃありませんように!ね、修ちゃん」

教授のお部屋のソファに座ると教授はいつものようにお紅茶を淹れようとなさいます。

「教授、お紅茶はわたくしが淹れさせていただきますわ。宮殿のお紅茶の淹れ方を学びましたの。」

「ほう、そうかね。ではお願いしよう。」 

わたくしはバッキンガム宮殿でいただいたお紅茶があまりに美味しかったのでバトラーさんにお願いして淹れ方を伝授していただきました。

丁寧にお紅茶を淹れました。

「翔子、これは美味しい、本当にバッキンガム宮殿でいただいた紅茶と変わらないよ。君は何でもよく学んで身に着けているね、感心するよ」

「まぁ、教授のお口に合いましたのね。嬉しいですわ。」

「才能ある努力家夫婦だね(笑)そんなおふたりに朗報だよ!明日正式におふたりに准教授の位が与えられる。」

「教授、本当ですか?」

「あぁ、前からそんな声が上がっていたんだよ。何と言っても王室の医師団の一員が一研究員では王室に失礼だからね。もっともな話しだろう。」

「教授のバックアップのおかげです。ありがとうございます。」と修ちゃん。

「教授、有難いお話しですが、わたくしなどはまだ准教授の技量ではございませんわ。」

わたくしは本当に恥ずかしい、いつも修ちゃんのあとをついて行くばかりでとても准教授と言えるような実力ではございません。

「翔子、何言ってるんだ、君は十分准教授に匹敵する実力を持っているよ。もっと自信を持っていいんだよ。」

「翔子、良かったね、教授のご推薦付きだよ!」

「ありがとうございます。身に余る光栄でございます。」

それからしばらくは3人で医学談義に花が咲きまして1時間ほどしてお部屋を退室致しました。


「修ちゃん、どうしましょう、わたくしそんなもったいないお話し、本当に。」

「翔子、君は十分准教授に匹敵する実力があると僕も思うよ。有り難くお受けしよう。」

「夢のようなお話しでございます。しかも修ちゃんと一緒なんてこんな光栄なことはございませんわ!」

わたくしは今までとにかく修ちゃんの出世だけを考えて過ごして参りました。

修ちゃんはそれだけの方ですし、人生の目標と言っても過言ではございません。

それが修ちゃんと一緒にわたくしもなんて思いもよらないことでございます。

でも教授が推薦なさったのであれば有り難くお受けしようと思います。

「修ちゃん、今まで一生懸命やってきた甲斐がございますね。」

「本当言うとね、翔子ちゃんははじめさと子ちゃんの後ろについて技術も幼かったんだよ。それがさと子ちゃんが亡くなってから仕事にのめり込んですごい努力してたよね。それから翔子ちゃん目覚ましく伸びたと僕は思ってるんだ。」

確かにさと子ちゃんを亡くした悲しみから逃れる為に仕事に没頭していた時期がございました

そして修ちゃんと結婚して様々なことを学び、わたくしは恵まれた立場だったように思います。


帰宅致しましてバトラーさん、ヘアドレッサーさん、

ハウスキーパーさんに

「皆様たいへん光栄なことで、僕と翔子が准教授を授かることになりました。日頃からの皆様のサポートに心から感謝申し上げます。」

皆様口々に

「修一様、翔子様、おめでとうございます。遅すぎるくらいですわ。十分准教授の価値がございます。」

「皆様日頃からわたくしの力になって下さって感謝しかございませんわ。」

ハウスキーパーさんが大急ぎでケーキを作って下さいました。今夜のディナーは7人みんなでお祝いを致しました。

食後は珍しい赤のドレスに着替えましてピアノ演奏で皆様くつろぎました。

准教授になり、従業員の方たちにも恵まれて人生のレールは敷かれたように順調に進んでいっております。

2つの不幸、さと子ちゃんの死とわたくしたちのエンゼルが流れてしまったこと…………

たった2つの不幸がどちらも死ということ。毎日命に向き合っているわたくしたちにもどうしようもなく訪れる死が日のあたる人生に翳りを投げかけているのです。それは揺るぎない事実として決して薄れることはないのでございます。

あとから聞いたのですがわたくしの出血を止めようとして修ちゃんの手に触れたのは小さな小さなエンゼルだったそうでございます。

最後にパパに拾い上げてもらってエンゼルちゃん良かったこと…………

あれから愛し合ってもわたくしたちにエンゼルちゃんは授かりません。

かたや悲しい思いをしていると准教授という光栄な出来事があり、何もかも全て思うようにはいかないものでございます。


翌日わたくしと修ちゃんはアカデミックガウンを羽織り、学長から准教授の栄誉を頂きました。

他には准教授から教授に昇格なさった先生方もいらして皆様なるほどという方たちばかりでございます。

残したことは修ちゃんの論文を学会で発表することになりました。

今まで一生懸命やってきたことをやっと学会で披露することにわたくしも緊張しております。

それと准教授になったことでますます日本に帰るきっかけがなくなり、わたくしの母などはずいぶんがっかりされている様子でございます。

こうなりました限りは、お父様お母様が日本での財産を整理されてイギリスでお暮らしになって下さるほかございません。

修ちゃんのお家は修ちゃんが家を出られていますので次男の拓哉さんがお家を継がれています。

それなのでお父様お母様は安心しておられますが拓哉さんはご結婚されていないので跡継ぎは今のところ不在でございます。

それを言うとわたくしの家も女子2人の上に1人は亡くなってしまいました。

わたくしが男の子を産めば良いのですがなんだか日本の皇室みたいになってしまいました。

その考えで言いますと長男なのに家を出られて好きな道を歩まれている修ちゃんは自由奔放だということになります。

わたくし1人の考えでございますが、修ちゃんの才能をひとつの家で完結してはあまりにもったいない、広めて医学界の指標として頂きたいのでございます。


学会初日でございます。

修ちゃんのスーツの上衣を着せて差し上げながら、わたくしは嬉しくてドキドキしておりました。

「修ちゃん、長い間お疲れ様でした!今日やっとあの論文が日の目をみるのですね。わたくし先ほどからドキドキが止まりませんの。」

思わず修ちゃんのお背中に抱きつきました。

修ちゃんはお背中から胸に回したわたくしの手を握りながら

「翔子ありがとう!僕の苦労をずっと見守ってくれてたね。翔子の励ましがあったから今日を迎えられたと思う。」

「とんでもないことでございます。修ちゃんの実力ですわ!」

わたくしは達成感でいっぱいでございました。

医学界に新しい旋風を巻き起こすのです。

そしてその人は修ちゃんなのです。

バトラーさんたち全員に送られてわたくしと修ちゃんは車で出発致しました。


会場へは30分ほどで到着致しました。

わたくしは今日は知的なCHANELの白のスーツでございます。

髪飾りはちょっと贅沢にダイヤモンドをチョイス致しました。

発表は修ちゃんは5番目でございました。

スクリーンに大きく映し出された実験結果のデータ。

それを切り替える役にわたくしが着きました。

スクリーンを背に修ちゃんが論文を発表致します。半分過ぎた頃から感嘆の声と、ざわめきが起こりました。

当然でございます。これほど画期的な研究、今までの常識を覆す内容でございます。ノーベル賞ものでございます。修ちゃんの論文が終わりました。

拍手とスタンディングオベーション、ワンダフルの声、鳴り止まない拍手、多分医学界の雑誌と思われるカメラマンの撮影、フラッシュの嵐、これほどとは思わなかったのでわたくしはただ驚いておりました。

それから5人くらいの方が発表されましたが会場の中は修ちゃんの発表で持ちきりでございます。

最後に司会の方が

「Dr.高杉の論文が素晴らしかったので医学新報の記者さんからインタビューがございます。」

修ちゃんが出て来られまして10分ほどインタビューに答えられました。

学会は閉会致しまして、わたくしと修ちゃんは控え室へ急ぎました。

「修ちゃん、おめでとうございます!」

「翔子ありがとう!君がいてくれたおかげだよ!」

「いいえ、修ちゃんの実力ですわ!」

わたくしたちはkissをしてしっかり抱き合いました。

帰ろうとして裏門に着きますと記者さんたちがたくさん控えておられまして、すごいフラッシュ。

「奥様、今日の論文について一言お願いします。」 

「わたくしはずっと主人の研究を見守って参りましたので本日発表にこぎ着けましたことたいへん嬉しく思っております。」

「奥様も医師でいらしてご夫婦おふたりの協力の賜物ということですか?」

すごい質問の嵐でとにかくわたくしたちは車に乗るのがやっとでございました。

記者さんたちが群がって車を囲んでいますので発車するのもままならないのです。

「このまま発車したら危ないな。僕降りて対応してくるよ。」

「それでしたら修ちゃん、わたくしも降りますわ。」

本来ならば教授に一言お礼申し上げたかったのですが

それもできない状況でございます。

2人で対応したことで記者さんたちも順番に質問されてわたくしたちも落ち着いて答えることが出来まして1時間ほどで取材は終了致しました。

やはり修ちゃんは人格者でございます。

普通なら無理矢理車を発車させて振り切るところですが誠意を持って対応しようとするところが素晴らしいとわたくし思いました。


「折角2人でいるんだし、パディントンへ行かないか?」

「修ちゃんがおっしゃるならわたくしは何処へでも参ります。」

パディントンへ着きますと街自体がメルヘンで溢れております。

ショップへ入り、大きなパディントンベアを選び、

「翔子、今日の記念はこれだよ!」

「わぁ、可愛いですわ!」

ハロッズでもハロッズベアを購入致しました、我が家はベアだらけでございます!

とてもレトロなカフェに入りましてミルクティーを頂きました。

幸せなひと時でございます!


帰宅致しましたら雑誌記者の方が6人ほどお待ちでした。

「Dr.修一、Dr.翔子、今のお気持ちお聞かせ下さい。」

「今迄ずっと研究してきたことを発表出来まして達成感でいっぱいです。ありがとうございます。」

「主人の努力が実りましてこんなうれしいことはございません。皆様ありがとうございました。」

わたくしたち2人並んだ写真を撮りまして終わりでございます。

わたくしハウスキーパーさんに申し付けまして皆様にミネラルウォーターを1本ずつお配り致しました。

「皆様方わたくしたちの帰りをお待ち頂き、お疲れ様でございました。」

記者さんたちが感激致しまして拍手を下さいました。


家の中に入りまして従業員の方たちに今日の出来事をお話し致しました。

特にバトラーさんは明日から取材のお電話が入ると思われますので大変だと推測されます。

やっと教授にお電話差し上げましてたいへん喜んでいらっしゃるようでわたくしたちも嬉しさでいっぱいでございます。

パディントンベアをベッドルームに飾りましてわたくしは今日の幸せを噛みしめておりました。

修ちゃんについて修ちゃんと歩んで来て良かった、わたくしの愛した人は素晴らしい方でございました。

修ちゃんが入って来られまして

「翔子がいたから今日の僕があるんだ。翔子なくして今日の研究結果はない」

「修ちゃん、そんなふうにおっしゃって下さってわたくしは嬉しさでいっぱいでございます!」

修ちゃんはたまらなくなってわたくしを抱きしめられました。

いつもの消毒液の匂い、修ちゃんの匂いでございます。

わたくしたちは何かある毎に愛が深まって参ります。

本当に今日は最良の日でございました。

足を絡め合って修ちゃんの胸で眠る、わたくしにとっていちばんの幸せなのでございます。


波乱に富んだ昨日、今日は平和な一日が送れることでしょう。

わたくしはベッドルームのカーテンを開けました。

!!雑誌の記者さんたちがそれぞれ脚立に乗ってカメラを構えてらっしゃいます。

わたくしは慌ててカーテンを閉めました。

どうしたらいいのでしょう。

これはいったいどういう現象なのかしら?

これ以上なんの取材があるのでしょう?

ベッドから修ちゃんが

「翔子どうしたの?そんなところに突っ立って。」

「修ちゃん家の前に記者さんたちが。」

「えっ、何だって!」

修ちゃんがカーテンの隙間から外を覗かれています。

「本当だ。まるでアイドルだね。(笑)」

「笑っている場合じゃございませんわ。どうなさるおつもり?」

「要するに彼らの要望に応えてあげればいいんだよ。怖がることはないんだよ。じゃちょっと着替えて。」

「よく分かりませんがわたくしもお着替え致しまして、ヘアスタイルを整えますわ。」

セリーヌの優しいピンクのワンピースを選びまして

ヘアスタイルを整えて頂きます。

今日はレースの白のカチューシャを着けました。

「お家の前がすごいことになっているのよ。どうしたことでしょう。」

「一夜にしてヒーローとヒロインになられたんですわ。素敵ですわ〰️」

「お話ししなければいけないことは昨日お話ししたのよ。それ以上何もございませんわ。」

「昨日スターになられたご夫妻の朝の様子をカメラに収めたいとしか考えられませんわ。」

バトラーさんが記者さんたちにきちんと並んで怪我のないように気を付けて下さっています。

玄関のドアの前で修ちゃんと一緒になりました。

「翔子、何も怖がることはないんだよ。僕のあとについて来てくれ。」

「分かりました、修ちゃん。」

2人揃って門の前まで進みました。

「Dr.修一、Dr.翔子、おはようございます、昨日スターになられましたが、今朝のお気持ちをお聞かせ下さい!」

「おはようございます、昨日は僕の論文に高い評価を頂き、たいへん嬉しく思っております。光栄でございます。」

「おふたりの朝の様子をカメラに収めたいのですが、そのままでリラックスしたポーズをお願い致します。」

昨日も何枚もお写真撮りましたのに、今朝のお写真がいるのですね。

「翔子、柔らかな微笑みでね。」

「承知致しました。」

わたくしはできる限りの微笑みで修ちゃんと腕を組みました。

すごいフラッシュの嵐でございます。

そこへバトラーさんがまた人数分のミネラルウォーターをお持ち下さって、記者さんたちにお配り致しました。

やっとわたくしたちは家の中に入ることが出来ました。

朝食の為に席に着きます。

「びっくりしたね、翔子。」

「本当に。このようなことがまだ続くのでしょうか?」

「僕の勘だけれどこれで終わりじゃないような気がするな。翔子も覚悟しておいたほうが良いよ。僕たちは今注目の人になってるようだね。」

「毎日こんなことが続くのでしょうか?」

「多分ね(笑)」

「どうしましょう、わたくし…………医師としてのお仕事は支障ないのですか?」

「病院の中に入ってしまえば問題ないよ。」

それから修ちゃんはバトラーさんに取材の電話があれば受けて時間調整してくれるよう指示されました。

と言う事はこれから取材があると修ちゃんは予測されているのです。

人生がすごい方向転換されているように思われます。それからわたくしは新聞を見て驚きました。

「医学界の新星現る!Dr.修一、翔子夫妻」

中身を読みますと、医学界を震撼させる研究内容、Dr.修一とDr.翔子夫妻は日本でも最高峰の大学出身、ロンドンに来てから王室付きの医師団の一員となった。先日准教授の栄誉を受けたがあの研究内容を発表して准教授では世間が許さないだろう。国民の世論が高まっています。

という内容でございました。

わたくしは驚きました。修ちゃんは准教授の位を頂き、喜んでおります。こんな記事を書いて修ちゃんがもっと上を目指しているようで誤解を生んだら困ります。

「修ちゃんがまるで教授になりたがっているような記事じゃございません?」

「そんな意味ではないと思うよ。マスコミの書くことに神経質になっちゃ駄目だよ。カレッジに行ったらいつもの平和な毎日が待ってるよ。」

「分かってくださる人は分かってくださると思います。わたくしたちは心穏やかに過ごしていることが大切なのかもしれませんね。」 

「そうそう、いつもの翔子ちゃんでいてね。」

わたくしはバトラーさんに

「バトラーさん、お世話おかけ致します。わたくしたちが留守の間お一人で大丈夫でございますか?」

「翔子様、ご心配なく、わたくしが取り仕切っておきますのでご安心下さいませ。」

「まぁ、ありがとうございます!それを聞いて安心致しましたわ。」

「翔子ちゃんそろそろ行こうか。」

「えぇ、参りましょう。」

ガレージに参りましたらカメラマンの方が何人かスタンバイなさっておられます。

わたくしたちは修ちゃんの黒のロールスロイスに乗り込みました。

シャッター音が鳴り響きました。

わたくしは思い切って窓を開けて記者さんたちに手を振りながら

「行ってまいります。」

と笑顔で会釈致しました。

シャッター音が鳴り響きます。

車は滑るように走り出しました。

「翔子ちゃん、それでいいんだよ。本当に君は聡明だね。」

「まぁ、修ちゃん、聡明だなんて。ただ逃げる理由がございませんものね。ここは世間の波に乗って、と思ったのでございます。」

「そう、いつものように確かなオペをお願いしますよ。」

「もちろんでございます。医師としてのわたくしは健在でございます。」

大学病院に着きました。

医局まで歩いていますとすれ違う方から

「Dr.翔子おめでとうございます。」

声をかけられます。

「ありがとうございます。」

会釈しながらやっと医局のお部屋にたどり着きました。

待機していらした先生方も

「おめでとうございます。」

皆様お声をかけて下さいます。

改めて修ちゃんの研究の凄さに頭が下がる思いが致します。

「Dr.翔子、折角医局に来て下さいましたが准教授のお部屋にいらっしゃらなくてよろしいんですか?」

わたくしうっかりしておりました。

わたくしは准教授であり、准教授のお部屋がございます。

「ごめんなさい。わたくし准教授のお部屋に行くこと忘れておりました。今日はここのロッカー使わせて下さい。」

皆様笑っておられます。

修ちゃんは准教授のお部屋にいらっしゃったのかしら?

わたくしみたいなミスはされませんよね。

やっとマスコミから離れて医師のお仕事が出来ます。オペを2例こなしましてランチでございます。

職員の食堂に参りましてわたくしは4人の方とお食事しておりました。

何やらあちらの方で人だかりがしております。

何なのかしら?食堂で。

「翔子、あの人だかりDr.修一じゃないか?」

「えっ、本当ですの?」

わたくしはフォークとナイフを置いて近くまで参りました。

ランチを召し上がっている修ちゃんの周りに記者さんたちが5.6人取り囲んでおられました。

そしてその中のお一人が

「あっ、Dr.翔子もいらしたんですか?」

わたくしはしまったと思いましたがもう遅うございます。

「今日はご夫妻別々にランチなのですね。」

「レディ翔子是非Dr.修一の隣にお座り下さい。お写真1枚お願い致します。」

見つかってしまったのですから仕方ございません。

わたくしは修ちゃんの隣に座り少し首を修ちゃんの方に傾けてポーズをとりました。

一斉にフラッシュが焚かれます。

修ちゃんが笑いながら日本語で

「なんで来るんだよ。」

「ごめんなさい、人だかりがしていましたので見に来たんですの。」

わたくしは隙だらけだと思わず自覚致しました。

「Dr.修一、研究結果が世間に広まって祝福の中どのようなお気持ちでオペをされたのでしょうか?」

「オペをする気持ちに変わりはありません。いつでも全力投球です。医師として当然のことかと思われます。」

「Dr.翔子もカレッジの中の空気は清々しいと感じられているのではないですか?」

「そうですね、わたくしはあの研究が世に出て皆様方が認めてくださってうれしい気持ちでいっぱいでございます。清々しいと感じられます。」

ランチタイムをインタビューに費やしてようやく終わりました。

「翔子ちゃん午後からも頑張ってね。」

修ちゃんがわたくしの肩を叩きます。

「修ちゃんもお疲れ出されませんように。」

午後から診察致しましていつものように混んでいましたのでけっこう追われました。

やっと一息ついて医局で休んでおりました。

今日はこれで帰ろうかしら?

修ちゃんはどうなのかしら?

そのようなことを考えておりましたら1人の医師の方が入って来られまして

「今修一准教授とお話ししてたら教授から呼び出しがあって行かれたよ。多分マスコミをなんとかしなさいというお話しか、それとも真逆の何かいいニュースかどちらかと思うんだ。」

皆様

「えー、なにそれ。まるで推測だからちっともわからないよ。」

「それにしても今このタイミングで教授が出て来られるとはね。」

皆様のことを聞いているうちにわたくしはとても不安になって参りました。

とにかくマスコミ攻撃が激しいのでカレッジの風紀が乱れるとのお叱りかもしれないとの気がして参りました。

修ちゃんが悪いんじゃないのにお叱りを受けるのはちょっと納得がいきません。

わたくしは落ち着かなくなり、とにかく私服に着替えましてどうしたものかと棒立ちになってしまいました。

先ほどのドクターが

「Dr.翔子、どちらへ?」

「わたくし心配になって参りまして、教授のお部屋の近くまで行こうかと思っておりますの。」

「僕は軽はずみなこと申しましてたいへん申し訳ない、翔子の気持ちも考えずに。」

「いいえ、お気になさらないで、わたくしが心配症なだけでございます。では皆様お疲れ様でした。ごきげんよう。」

わたくしは挨拶もそこそこに教授のお部屋の近くまで急ぎました。廊下にはどなたもおられません。

こんなところで待っているなんてなんの解決にもなりませんが心配でたまらない気持ちはどうしようもないのでございます。

30分ほど経ちましたが修ちゃんは出て来られません。

お叱りを受けてだとすると長すぎます。そのあと世間話でもされてるのでしょうか?普通の方なら考えられませんが、修ちゃんならありそうでございます。

カチャ、ドアの音とともに修ちゃんが出てこられました。

わたくしは小走りに駆け寄りました。

「修ちゃん!!」

「翔子、どうしたんだ、こんなところで。」

「教授のお呼び出しがあったと聞きまして、お叱りを受けているのだと思い、お待ちしておりましたの。」

「なんだよ、それ。違う違う、お叱りどころか真逆だよ。」

「えっ、本当に?あぁ良かったこと。」

「なんのお話しだったかはお家に帰ってゆっくりね。」

「あら、もったいつけるのですね。」

「こんなところで立ち話する話でもないんだ。さ、帰ろうか。」

わたくしはとにかく安心致しましたので嬉しくてたまりませんでした。

修ちゃんの腕を掴み、絡めました。

大学病院の中でもかまいません。

そうなのです、修ちゃんがお叱りを受ける云われはございません。

そうは思っておりましても、周囲から色んなことを言われましたらつい不安になってしまいます。

駐車場に参りましたら記者さん、カメラマンさんがたくさんおられます。

なんとかして車に乗り込みました。

恐くてもわたくしは窓を開けてにっこり笑って手を振りながら

「皆様お疲れ様でございます。ごきげんよう。」

ご挨拶致します。

わたくしたちの車の後ろを何台かついて来られます。

「翔子ちゃんハロッズ行こうか。」

「えっ、大丈夫ですの?」

「気にすることないよ。いつものようにお買い物楽しもう。」

「うれしいですわ!このところ忙しくてお買い物してませんので。」

車を停めてハロッズへ入ります。

修ちゃんのシャツやブルゾンやネクタイを選びます。

わたくしはTiffanyのアクセサリーやバッグ、CHANELの白のワンピースをチョイス致しました。

「翔子ちゃん、お振り袖用の髪飾りを買いなさい。」

えっ、それは近々お振り袖を着る機会があるということなのですね。

じゃあ教授のお話しは社交界の催しについてだったのですね。

良かった、安心致しました。

修ちゃんたらはっきりおっしゃって下さればいいのに。

何処のブランドかはわかりませんがルビーを取り巻くダイヤモンドがお花の形をしているものと、久しぶりにオパールにダイヤモンドをあしらったもの、とても気に入ったので買い求めました。

うれしい、社交界でなんの集まりがあるのかしら?

髪飾りを着けて鏡をみているところをお写真撮られました。

わたくしはもう一度向き直りましてにっこり笑って会釈致しました。

最近ではお写真撮られることにだいぶ慣れて参りました。ハロッズの駐車場へ行く時も修ちゃんと手をつないで歩きます。


お家に着いてもマスコミの方がおられます。

皆様に会釈して家の中に入ります。

バトラーさんたちがお迎えに出て下さいます。

修ちゃんとバトラーさんが何か打ち合わせをしておられます。

わたくしはシャワーを使い、お着替え致しました。

修ちゃんは打ち合わせが長引いていらっしゃるようです。

わたくしはヘアドレッサーさんに先ほど買った髪飾りを渡しました。

「これは多分近々お振り袖を着た時に使ってちょうだいね。」

「まぁ、なんて綺麗な髪飾り!お似合いになりますわ!」

修ちゃんが席に着き、ディナーを頂きました。

食後はスパークリングワインを頂きます。

「翔子、今日の教授のお話しなんだが、僕たちがマスコミに出てクローズアップされてることは学長はとてもいい宣伝になるとお喜びらしいんだ。イギリスの最高峰のカレッジで敷居が高い為に受験生も集まりにくい、僕たちが出ることで親しみやすい雰囲気が作れたとおっしゃっているらしいんだ。」

「まぁ、そうなのですか?それは意外でございました。」

「新聞や雑誌であれだけの研究を発表して准教授はないだろうと世論が高まっている、カレッジの権威にもかかわるので明日正式に僕を教授にと思し召しなのだよ。」

「…………えっ!教授ですの?」

「喜んでくれるかい?」

「えぇ…………信じられないくらいうれしいですわ!」

「明日の授与式のプレゼンターは翔子ちゃんだよ。お振り袖を着てあの髪飾りを着けてくださいね。」

「それで、…………修ちゃん…………おめでとうございます。」

わたくしはグラスにスパークリングワインを注いで乾杯致しました。

世論が高まっていることはわたくしも承知しておりました。でもまさか本当に教授になるとは夢にも思いませんでした。

修ちゃんの出世だけを考え、願いながら過ごして参りました。

今その夢がこんなに若くして叶ったのでございます。

「本当にうれしすぎます。」

わたくしは修ちゃんの胸に飛び込みました。

ふたり熱いkissを交わしました。

感激のあまり涙がこぼれます。

こんなに嬉しい涙はございません。

「なんで泣くんだよ。」

「嬉しくて、嬉しくてたまりません。」

そして両方の両親に知らせて、我が家の従業員さんたちにも。

「おめでとうございます。当然でございますわ。翔子様、教授夫人でございますね。」

「明日午前中は授与式で午後からはテレビ出演でございますよ。」

「えっ、テレビ?なんのインタビューですの?」

「今回の研究と夫婦円満の秘訣をインタビューされるようでございます。」

「修ちゃん、わたくしどうしたらいいんですの?」 

「いつもの翔子でいいんだよ。僕を愛してるって言ってくれればいいだけさ。(笑)」

「それはもちろんそう申します。」

「とてもたいへんになって来たので今度は若いサブバトラーさんを1人増やそうと思っています。皆さんよろしく頼むね。」

わたくしは明日のお振り袖を選ぶのに迷っております。

やはりおめでたいので赤い薔薇のお振り袖に薔薇の帯を選びました。

髪飾りは合わせてルビーとダイヤモンドのものに致しました。

先日お振り袖が要ると思いましてさと子ちゃんのものも全部母に送ってもらったところでございます。

さと子ちゃんのものとわたくしのお振り袖で30枚ほどございます。

これだけあれば当分はいけると思います。

薔薇のお振り袖はさと子ちゃんのお振り袖でございます。

さと子ちゃんと一緒に明日は臨みます。

さと子ちゃん修ちゃんが教授になったのよ!

本当に早い出世だこと!


今夜はゆっくりと2人で浴槽に重なり合って浸かりました。修ちゃんの両手がわたくしの両乳房を掴みます。ジャグジーの泡で2人の身体が揺れます。わたくしは修ちゃんを跨いでkissを交わします。洗い場に出てわたくしは手で修ちゃんの全身を洗いました。修ちゃんもわたくしを洗って下さいます。器用な修ちゃんはわたくしの長い髪も丁寧に洗って下さいます。泡を落とすとお互いをバスタオルで拭きます。

パウダールームでわたくしの長い髪を大事そうにドライヤーして下さいます。そしてふたり産まれたままの姿で、修ちゃんはわたくしをお姫様抱っこなさってベッドの上に寝かせて下さいました。

「翔子、可愛い翔子…………」

「修ちゃん、大好きよ。」

修ちゃんはわたくしの足の先からご自分の舌で愛撫されて行きます。

わたくしの大切なところはより念入りに愛撫されます。

そして乳房のところまで来て乳房を揉まれます。

そこで上下逆になりましてわたくしが上でございます。

わたくしも舌で修ちゃんの足の先から愛撫致します。

そして修ちゃん自身は手でつつみ込み可愛いがります。

修ちゃんの胸まで進みました。

修ちゃんはいきなりわたくしにkissなさいました。

kissされたことでわたくしは修ちゃんが愛しくてたまらなくなりました。もう一度下半身に戻って修ちゃん自身を愛撫致します。もう我慢できなくてわたくしは修ちゃん自身を口に含みました。舌で優しく転ばせます。

わたくしは貞淑な淑女ではございません。テクニックのある娼婦でございます。しばらく続けていましたら修ちゃんが

「翔子…………!僕を受け入れて!!」

わたくしは口の中で修ちゃんの頂点を受け入れました。これでわたくしたちはひとつになった!

わたくしは修ちゃんの胸に抱かれに行きました。

修ちゃんはしっかり抱きしめて下さいます。

「翔子…………最高の妻。」

「わたくしもですわ。修ちゃんが愛しくて大好き!」

わたくしは満たされた思いでいっぱいでございます。

修ちゃんは浮気なんかなさらない。もうわたくしのものでございます!

わたくしたちは全館空調の暖かいお部屋で産まれたままの姿で一緒に朝まで眠りました。


まだよく眠ってらっしゃる修ちゃんをそっとしてわたくしは朝のシャワーを使いました。

まだ修ちゃんに揉まれた乳房に感触が残っております。少し恥ずかしい思いをしながらパウダールームへ入りますとヘアドレッサーさんがスタンバイなさっておられます。

「おはようございます、今日はどんな素敵なヘアスタイルかしら?」

「お任せくださいませ。今日はとっておきでございますよ。」

ヘアスタイルを作り、ルビーとダイヤモンドの髪飾りを着けて薔薇のお振り袖を着ました。

ほんとにあでやかな目を見張るほど美しい、日本人はやはりお振り袖でございます。

「翔子様、今日は本当にお綺麗!晴れの日に相応しいお着物ですわ!」

「ありがとう!わたくしもとても晴れ晴れとした気持ちでございます。いつもありがとう!」

パウダールームを出ますとモーニングコートをお召しになった修ちゃんがリビングにおられました。

「修ちゃんお待たせ致しました。お支度出来ましてございます。」 

「翔子…………!今日の翔子は世界一綺麗だよ。」

「修ちゃんこそとてもご立派で…………」

そうは言いましても、わたくしは修ちゃんのお顔をまともに見ることはできませんでした。

昨夜のわたくしを思うと恥ずかしくてわたくしは思わず目を伏せてしまいました。

「……………………。」

「あれ?翔子ちゃん、どうしたの?」

修ちゃんは昨夜のことなどお忘れになったようにけろりとされています。

「いいえ、大丈夫でございます。」

「さぁ、行こうか。」


今日は希少価値があると言われております白のロールスロイスにふたり並んで座りました。

従業員の皆様方が送って下さいます。

門の周辺にはマスコミの方々がいらっしゃいます。

修ちゃんが窓を開けて

「皆様おはようございます、お疲れ様です。インタビューは授与式が終わりましたら応対させていただきます。よろしくお願いします。」

それでも車に乗ったわたくしたちをカメラマンさんたちが一斉に撮られます。

イギリスに来てこんな栄誉を受けるなんて思いもしませんでした。

何より修ちゃんの研究と修ちゃんという人が認められたことが何より嬉しくてたまりません。

運転してらっしゃる横顔をまじまじと見つめてわたくしはうっとりしておりました。

「翔子ちゃん、なに?そんなに見つめられると恥ずかしいよ。」

「ごめんなさい、修ちゃんの研究が認められてこんなに晴れやかな日が来るとは思ってなくて、嬉しくて嬉しくて…………。いえ、修ちゃんのことは信じてはおりましたのよ。」

「そう、翔子ちゃんがいつでも僕を信じてくれた、ずっと見守ってくれた、だから今日という日が来たんだと思う。」

「修ちゃん…………。」

わたくしは運転席に座った修ちゃんの太ももに手を置きました。

修ちゃんのぬくもりが感じられます。

こんなに人を好きになることがあるでしょうか。

わたくしたちは世界一愛し合う夫婦だと思うのでございます。


カレッジに到着致しました。

講堂は満員でございます。

わたくしは舞台袖の控え室に入り、修ちゃんは一般席に着かれました。

間もなく司会の方の授与式の宣誓があり、続いて学長のお話しはDr.高杉の研究によってカレッジの名前がより有名になったこと、研究の内容が稀に見る素晴らしさであったことを述べられました。

司会の方が教授の辞令の授与を告げられます。

わたくしは金のトレイに入った辞令を持ち、壇上に上がります。

わたくしのお振り袖の艶やかさで会場はざわめきました。

「高杉准教授壇上へどうぞ」

修ちゃんが壇上へ上がられました。

「高杉准教授良くやってくれました。教授になっても引き続きよろしく頼みます。」

わたくしは修ちゃんの前に辞令を差し出しました。

修ちゃんはそれを受け取り

「たいへん名誉な位を授かりましてありがとうございます。教授の名に恥じないようこれからより一層精進致します。」

会場は拍手喝采でございます。

あまりの名誉にわたくしは涙が溢れそうでございました。

修ちゃんの晴れやかな姿何人かの方々がビデオに撮っておられるので頂いて両方の両親に送ろうと思います。学長と修ちゃんが並んで記者さんたちがお写真撮っておられます。

わたくしは舞台袖で感激して見ておりました。

すると1人の記者さんが

「翔子准教授もこちらに来て一緒にお写真お願い致します。」

わたくしは驚いて少し躊躇致しましたが学長が

「翔子准教授こちらへ」とにこやかにおっしゃって下さったのでしずしずと修ちゃんの横に立ちました。

一斉にフラッシュが焚かれます。

恥ずかしく思いましたが学長のお許しが出たので良かったのでしょう。

その後講堂へ出たところでインタビューが始まり、修ちゃんが一通り喜びの言葉を述べられました。

「翔子准教授は今回の研究の内容をご存知だったのですか?」

「えぇ、もちろんでございます。この研究が発表されたらどんなに素晴らしいだろうとずっと修一を見守って参りました。」

「おふたりの絆はとても深いようにお見受け致しましたがそれはどういったことなのでしょうか?」

修ちゃんが

「信じあって、愛しあっているということです。」

「修一はわたくしの命よりも大切な世界一のものでございます。」

インタビューが終わり、わたくしたちは車で自宅に戻り、午後からのテレビ出演の依頼に応えなくてはなりません。

作って下さっていたサンドイッチを急いで頂いて、シャワーを使いたいと思っていますと修ちゃんが

「翔子ちゃん帯を解くの?帯を解かせて欲しい。」

「えっ、修ちゃんそんなことしたいんですの?」

修ちゃんが帯を解いてお振り袖を脱がせて下さいます。

長襦袢だけになってぎゅっと抱きしめて下さいます。

「長襦袢究極のセクシーだよ。」

「ありがとうございます。」

先ほど講堂で教授になられてシャキッとしてられた方が今このようなことをなさっているのがすごいギャップでわたくしだけが知っている修ちゃんのギャップがとても嬉しいのです。

逆にわたくしのこともそうお思いになってらっしゃるかもしれません。


シャワーを使い、少しヘアアレンジしてオパールとダイヤモンドの髪飾りを付けました。

お振り袖は白百合のお柄、白と緑でとても珍しい綺麗なお着物でございます。

イギリスの方もお振り袖の美しさに魅せられているようでございます。

テレビ局のお迎えの車が到着致しました。

番組は日本でいうところのワイドショーみたいなものの公開録画でございました。

研究のことはそこそこにしてインタビューしたいことはわたくしたち夫婦の仲の良さが注目されていることのようでございました。

「研究の実験データに不具合が発覚した時も彼女が徹夜で手伝ってくれました。そしていつも僕を信じて僕の研究の後押しをしてくれた、彼女なくしてこの研究は成功しなかったと思います。」 

「わたくしはただ修一のあとをついて参りました。わたくしの命よりも大切な修一の命でございます。」

「次に視聴者の方からの質問なのですが、朝9時の診察が始まる時に待合室がいっぱいだった場合、どんなふうに思われますか?」

「僕は12時に終えられるかとにかく頑張ります。」

「わたくしも頑張りますが本当のところは焦っております(笑)」

「もう一つ質問ですが手術の前は緊張されますか?」

「いい意味の緊張はしております。自信に満ちた、

神経が張り詰めて引き締まります。」

「わたくしも緊張しております。そして絶対に成功する、失敗の要素は一つとしてございません。」

「おふたりともとても頼もしいお答えありがとうございます。」

最後に司会の方が

「Dr.翔子の日本のお着物姿がイギリス女性の憧れとなっております。その場でけっこうですので一回転して下さいますでしょうか。」

「まぁ、そうですの。日本人としてとても嬉しく思います。」

わたくしは立ってくるっと一回転致しました。

視聴者の方からの拍手喝采頂きました。

それでテレビ出演は無事終了致しました。

またテレビ局の車で自宅に送って下さいました。


新しいサブバトラーさんが来られました。

一流ホテルで若くしてバトラーさんをされていた方でとても頼りになりそうでございます。

ヘアドレッサーさんが一人なのでお休みがなかなか取れないのでヘアドレッサーさんももう1人雇用することになりました。

「修ちゃん今日はお疲れになりましたでしょう?」

「ううん、ちっとも、翔子は?」

「わたくしは全然大丈夫でございます。」

「修ちゃん、マスコミに登場する、こんな生活がいつまで続くのでございますか?」

「うん、僕にもわからないけど学長のお考えだと僕たちは最高のカレッジのコマーシャルみたいなんだ。これもカレッジへのご奉仕だと思ってるんだ。事実、医学部がこんな研究をしていることが皆さんに分かってもらえたよね。」

そこへバトラーさんがみえられて

「修一様、明日は宮殿へ起こし下さいませ。王と王妃の診察でございます。因みにもう教授の付き添いではございません、修一様の助手が翔子様でございます。」

わたくしはそれを聞いて改めてわたくしたちの地位、立場が変わってしまったことに気づきました。

修一教授の付き添いで翔子准教授が伺うという図式になるのです。

わたくしが夢にまで見た修ちゃんの出世でございます。

「修ちゃん、素敵ですわ。」

「翔子がいてくれたおかげだよ。どんな時も僕を支えててくれた。」

頬に頬ずりして下さいました。

修ちゃんの深い愛情を感じました。

こんなことになりまして、全く日本で暮らすということは考えにくいようになって参りました。

パソコンの検索履歴に修ちゃんがイギリス移住と検索しておられました。

わたくしと同じ考えでいらっしゃるのだと改めて思いました。

住んでみますと物価の高いこと以外はイギリスはとても住みやすくて、国民性が良くて快適でございます。

伝統を重んじ、王室を愛しているこんな国は他にございません。

その王室の医師団の一員ですからこんな栄誉はございません。

短い間に数々の栄誉を全て手に入れたことになります。

夫婦で教授と准教授、そして王室の医師団、素晴らしいことでございます。

わたくしは母にお電話しまして

「修一教授の助手として翔子准教授が宮殿に上がるのよ」と、報告致しましたら母も感激し、そこまでになったら当然日本に帰ることは無理だと納得されたようでございます。

修ちゃんのお母様は相変わらず明るくて

「素晴らしいことだわ!翔子ちゃんありがとう!」

とおっしゃっておられました。

お電話報告が一通り終わりましたら、ソファにお座りになっておられた修ちゃんが

「翔子、ここへ来て。」

とご自分の膝を差し指められます。

わたくしは少し恥ずかしい思いをしながら修ちゃんの膝の上に座りました。修ちゃんは足を絡ませながらわたくしの乳房をまさぐります。

「うーん、やっぱり帯を解きたいな。」

そう言われて帯締めと帯揚げを外し、帯を解きます。

着物を脱がせて長襦袢になります。

「ほんとに可愛いな。」

わたくしをご自分の足の間に立たせて呟かれます。

そしてわたくしをお姫様抱っこなさってベッドの上に寝かせて長襦袢をお脱がせになります。

わたくしは和服の時はショーツを履きませんのでブラジャー1枚になりました。

お気に入りのピンクのレースのブラジャーは修ちゃんに外されました。

わたくしは起き上がり、修ちゃんのシャツのボタンを外し、ベルトを抜いてスラックスを下に下ろしました。修ちゃんのトランクスを下ろし、修ちゃん自身を手でつつみ込み愛撫致しました。

わたくしの世界でいちばん大切な修ちゃん…………

あまりに愛おし過ぎてわたくしは修ちゃんを口に含み舌で優しく転ばせます。

「翔子、最高だよ!受け止めて!」

わたくしはそのままで修ちゃんの頂点を受け入れました。

そうしてから今日が排卵日だったことを思い出しました。

ここはもう一回修ちゃんに頑張ってもらわなくちゃいけません。

わたくしは修ちゃんの足元に戻ってまた愛撫を始めました。

順に上に上がって行って修ちゃんは飛ばして胸に移ります。

修ちゃんの乳首を舌で愛撫して気持ちを高めます。

そして修ちゃんに移り、手と舌で愛撫致します。

「翔子、駄目だよ!早く受け入れて!!」

わたくしは素早く修ちゃんをわたくしに挿入致しました。

修ちゃんの力強さが伝わります。

「修ちゃんすごくいい!!」

わたくしは修ちゃんの胸に倒れ込みました。

汗と汗が絡み合います。

修ちゃんの精子君頑張って!

「修ちゃん今日排卵日だったの。」

「そうだったの?翔子、ありがとう!」

「力強いパパでしたわ。」

わたくしたちは2人で浴槽に重なり合って浸かり、余韻を楽しんでおりました。

世の中では教授と言われております修ちゃんが何もかもさらけ出してわたくしに素の自分でぶつかって下さる、わたくししか知らない修ちゃんがいることに喜びを感じます。

わたくしの最高の喜びでございます。


翌朝も王室のお出迎えのロールスロイスが滑るように我が家の車寄せにやって参りました。

わたくしはセリーヌの白の楚々としたスーツを身にまとい晴れやかな気持ちでございました。

教授の修ちゃんの助手として准教授のわたくしが同行する、もっとも理想的なシチュエーションでございます。

国王と王妃はたいへんお元気そうで、わたくしがバイタルをとり、修ちゃんに報告致します。

修ちゃんがオペをしたキャサリン妃の経過がとても良いことにおふたりともとても喜んでおられました。

国王が

「修一の研究はとても素晴らしいね。あれから人気者になってたいへんそうだね。」

「国王様、恐れ入ります。僕の研究にお目を通して頂き光栄でございます。」

「翔子は修一の研究のサポートをされてとても素敵だと思いました。それから翔子、次こられる時はお振り袖でいらしてちょうだい。」

「カミラ王妃ありがとうございます。仰せの通り次回はお振り袖で参ります。ありがとうございます。」

和やかな雰囲気のなかわたくしたちは退室致しました。

「修ちゃんおふたりともお元気そうでよろしゅうございました。」

「うん、このまま再発とかなければ本当にいいよね。イギリスの方から見たらお振り袖ってとても魅力的なんだね。まぁ翔子が着ているからっていうのもあるけどね。」

「まぁ、修ちゃんありがとうございます!」


これから病院へ帰り、修ちゃんはオペを1例こなしてから教授のお仕事をされるようでわたくしは雑誌の撮影でございます。

王室のお車の方は親切で病院に修ちゃんを降ろして下さり、わたくしは自宅へ送って下さいました。

わたくしはシャワーを使い、ヘアスタイルを作って今日は紫の絞りのお振り袖に袖を通しました。初めて着るお振り袖でございます。

藤色の絞りのかんざしを挿してなんとも言えないほど美しいお着物でございます。

あと2枚お振り袖がいるとのことでオレンジトーンのものと白地に御所車が描かれたものを用意致しました。

作って下さっていたサンドイッチを頂いていましたら雑誌社のお迎えの車が到着致しました。

ハードスケジュールでございます。


3枚のお振り袖のお写真を撮り、プロデューサーの方が

「レディ翔子次は水着のお写真お願い致します。」

えっ、何ですって!そんなアイドルじゃないのでそれは出来ません。散々攻防の末、テニスのスコート姿なら許せるということになりました。

口には出しませんでしたが本当は水着姿でもわたくし自信がございました。

テニスのスコート姿で真っすぐの脚を披露出来まして本音は満足でございます。

またよろしくお願い致しますと言われ、テレビ局の車で自宅に送っていただきました。


夕食の時に、修ちゃんに

「今日水着姿を撮られそうになりましたのよ。絶対に駄目って言ってテニスのスコート姿に変更になりましたのよ。」

「水着になれば良かったのに。購入部数が跳ね上がるよ。僕の気持ちは穏やかではないけどね。」

「まぁ、修ちゃんたら他人事みたいに…………!」


マスコミ出演や雑誌の取材はなくなることもなくて、わたくしは修ちゃんがするであろうオペがわたくしに回ってきまして毎日大忙しとなりました。

教授は医学生の教育に時間を割くのでなかなかオペをたくさんこなすことは難しくなって参ります。

そのためちょうど准教授が中間管理職になりお仕事はかなりハードとなるわけでございます。

それでもオペ好きなわたくしは精力的に頑張っておりました。

「Dr.翔子、学長がお呼びです。」

事務の方がそう言って来られました。

なんのご用事なのかしら?

このところ過剰労働気味なのでお叱りを受けるとしたらそれかしら?あとは全く思い浮かべることは出来ません。

「高杉翔子でございます。」

「あぁ入り給え」

広い立派な学長室でわたくしは隅っこに立っておりました。

「そんなところに立っていないでこちらに座り給え。」

中央にあるソファをさされました。

わたくしはソファの一番端に座りました。秘書の方がお紅茶を出して下さいまして、お部屋を出て行かれました。

「修一の仕事が翔子の方に回って来てたいへんだろう。」

「はい、でもわたくしオペは苦になりませんので大丈夫でございます!」

「君は聡明で頑張り屋さんだね。そんな君にご褒美だよ。明日正式に教授となるよ。」

えっ、今なんて?わたくしが教授に?

「学長、それは本当ですの?」

「あぁ、明日午前中授与式だから皆さんが期待しておられるお振り袖で出席したまえ。因みにプレゼンターは修一だよ。」

「学長、こんな栄誉なことはございません。ありがとうございます。ますます仕事と研究に打ち込みたいと存じます。」

「うむ、夫婦で頑張ってくれたまえ。期待しているよ」

そうしてわたくしは学長室を退室致しました。

なんて嬉しいことでしょう!

わたくしを認めてくださった。

毎日一生懸命やってきた甲斐がございます。

こんな嬉しいことなのに最近胃が悪くて今も吐き気がして先ほどのお紅茶を飲むのが精一杯でございました。

できれば吐いてしまいたいほどでございます。

ストレスなのでしょう。

こうしている間にももうテレビ局のお迎えがきているはずでございます。

今日はインタビューに答えてあとはお振り袖のお写真とたっての希望ですので水着姿をとりました。白のレースのビキニでございます。

わたくしのグラビアですと購入部数が跳ね上がるそうでございます。

複雑な気持ちですがとにかく今日はお仕事終わりでございます。


わたくしが明日の研究の準備をしていますと修ちゃんがご帰宅されました。

お出迎えに出ますと

「翔子聞いたよ!やったね!」

「修ちゃん、ありがとうございます!」

わたくしの頬にkissして抱きしめて下さいました。

「すごいね、2人とも教授になっちゃったね。」

「こんな光栄なことございませんわ。」

従業員の方々にもお知らせしてみんなで乾杯致しました。

「翔子のお父様には申し訳ないけどこれからの将来のことを考えるとこのお家では手狭になってきたと思うんだ。お父様もおっしゃっておられたようにこの家を売って広い家に引っ越そうと思っています。メイフェア辺りが良いかと思います。引っ越しはたいへんだからどうぞ皆さん協力して、できない場合は言って下さい。プロの業者さんをお願いしますので。本当に皆さん日頃から良くしてくださって心より感謝しております。翔子が教授になるとまた忙しくなりますので引き続きよろしくお願い致します。」

「わたくしも今引っ越しのこと伺いましたがやはりこのお家では狭いと思うことがございます。わたくしたち夫婦は引っ越しのことはおそらく出来ないと思いますのでどうぞ皆さん御協力よろしくお願い致します。」

思わぬことで驚きましたがやはり修ちゃんの決断は早くて的確でございます。わたくしは修ちゃんのお考えの通り後ろをついて行くだけでございます。頼もしいたった1人の大切な方でございます。

バトラーさんも

「かしこまりました。今いる全員でやれば出来ると思いますが通常の業務をしながらということになりますので無理な時はどうぞよろしくお願い致します。何より翔子様、おめでとうございます。」

「翔子様、おめでとうございます。」

「翔子様なら当然でございます。本当におめでとうございます。」

「皆様ありがとうございます。今より一層お仕事頑張ろうと思っております。」


お夕食はご馳走でございましたがわたくしは気分が悪くてとても食べられる状態ではございませんでした。

「翔子ちゃん少しでも食べられないの?」

「ごめんなさい、気分が悪くて…………明日のために今日はお先に休ませて頂いてよろしいかしら?」

「もちろんいいとも、大丈夫?」

わたくしはとにかく休みたくてたまらなかったので軽くシャワーを使いベッドに入りました。

大丈夫、明日になったら良くなるわ。


朝起きてシャワーを使い、パウダールームへ入りますとヘアドレッサーさんがスタンバイなさっておりました。和服に似合うとても素敵なヘアスタイルで生花のかすみ草を挿して下さいました。

お振り袖はピンクのフリージアでとても鮮やかでございます。

「翔子様、晴れの日に相応しい、素敵でございます!」

「ありがとう!ヘアスタイルもとても気に入りました。」

修ちゃんの待つダイニングに入りますとパンの焼く匂いが致しました。それを嗅いだ瞬間吐き気がしてわたくしはパウダールームへ駆け込みました。

何か吐こうとしても昨夜から何も食べておりませんので何も出ません。

吐き気だけがするので苦しくて涙が出ます。

少し治まって涙を拭いてダイニングに戻りました。

修ちゃんが

「どうしたの?どこへ行ってたの?」

「えぇ、ちょっと…………」

「(笑)僕にうそつくの?そんな真っ青な顔して汗かいて、何処が悪いのか言いなさい。」

「実は2,3日前から胃が悪くて吐き気がするんですの。今日の授与式までお待ち下さいませ。」

「うーん、胃潰瘍ではない感じがするね。お薬は何か飲んだの?」

「いいえ、あまりお薬に頼りたくないので何も飲んではいません。」

「そうか、わかった。授与式無事に終えられるといいね。」

「はい、なんとか頑張りますわ。」

修ちゃんの胃潰瘍ではない感じという勘は良く当たるのでございます。

でしたらなんでしょう?

朝食もオレンジのフレッシュジュースを少し飲んで済ませました。


バトラーさんが運転して修ちゃんの車でカレッジの講堂へ付けます。

席の最前列のマスコミの方の多さを見て驚きました。

わたくしは一般席に、修ちゃんはプレゼンターですので舞台袖にいらっしゃいます。

「高杉翔子准教授」

学長が呼ばれます!

「はい」

わたくしは壇上へ上がりました。

「准教授として多大な功績をたたえます。今回教授として任命します。頑張ってくれたまえ。」

「有り難くお受け致します。これからもより一層精進致します。」

修ちゃんがトレイに入った辞令を差し出しました。

わたくしは有り難く受け取りました。

すごいフラッシュの嵐でございます。

今度は学長と修ちゃんと3人並んでのお写真でございます。

それが終わっても講堂の入り口でインタビューでございます。

「翔子教授、今のお気持ちは。」

「このような辞令を頂いて身に余る光栄でございます。わたくし1人の力ではございません。周りの方々のお手助けあってのことでございます。」

「修一教授はどのようにお考えですか?」

「夫婦でこのような栄誉を頂き、これから益々仕事や研究に励もうと思っております。」

そこでバトラーさんが

「皆様これでひとまず終わりでお願い致します。お二方ともお仕事ございますので。」

なんとか修ちゃんはカレッジの方へ、わたくしは次はコマーシャルのお仕事がございまして、スタジオへ行かなくてはなりません。


なんとかスタジオに到着致しました。

お紅茶のコマーシャルでお衣装のお振り袖も準備して下さるとのことでございます。

お振り袖はなんとひまわりの柄でとてもポップで可愛いらしいものでございました。

ヘアスタイルもアレンジし直して髪飾りは大きなひまわりのお花を付けます。

我ながら若返ったと思いました。

歩いて書斎に入り、そこでお紅茶を飲んでにっこり微笑むというシチュエーションでわりと早くokが出ました。

帰りにはたくさんのお紅茶とひまわりのお振り袖は差し上げますとのことでございました。

こんなに可愛いお振り袖頂いてわたくしとても嬉しく思いました。

教授のお仕事ございますのでまたカレッジに戻りお着物を脱いでオペ室のシャワーを使いました。

CHANELのスーツに着替えました。

書籍などを整理しまして明日のオペの予定をチェック致します。


仕事に打ち込んでおりましたら、ふとわたくしの生理のことが頭に浮かびました。

実は准教授の仕事がハードで生理不順でございました。

しばらく生理がない…………

ただ遅れているだけなのか?

わたくしは早る気持ちを抑えながら婦人科へ向かいました。

「こんにちは。妊娠検査キットをひとつ譲って頂ける?

「まぁ翔子教授、どうぞお持ち下さってけっこうでございます。」

わたくしは早速キットを使いました。

!!陽性でございます。

修ちゃんの血をひいた可愛い赤ちゃんがわたくしのところへやって来てくれました。

前回はつわりになるまでに流れてしまったので自覚症状はなく終わってしまいました。

わたくしはお部屋の中で1人喜びに浸っておりました。

排卵の時に結ばれたこの子でございます!

あぁ、神様ありがとうございます。

教授になった日にやって来てくれました、可愛い赤ちゃん。

ところへ、修ちゃんが勢いよく入って来られました。

「翔子いる?これから胃カメラしてみない?」

「まぁ、修ちゃん、ちょっとここへお座りになって。」

「なんだよ、胃カメラ嫌なの?」 

「修ちゃんの血をひいた可愛い赤ちゃんが舞い降りて参りましたの。」

「えっ、赤ちゃん!!本当なの?翔子!!」

「検査キットですけど、キットは信頼度99%ですわ」

「つわりだったの。今日は嬉しいことだらけだね。」

「修ちゃんの血統は是非残しておきたいですわ。」

「翔子ありがとう!…………」

修ちゃんは机のあちら側にいるわたくしのところまで来てぎゅっと抱きしめて下さいました。

「翔子、エコーで見たい!」

「まぁ、まだ小さくて見えないかも知れませんわ。」

「いや、見たい!」

きかんきなことおっしゃってわたくしは呆れましたが修ちゃんはわたくしの手をひいて検査室まで来られました。

わたくしをベッドの上に寝かせてお腹を出します。検査用のゼリーを塗ってエコーを当てます。

「モニター見て、翔子、ちっちゃい粒が映ってるよ!」

わたくしはモニターを見ました。

本当にちっちゃい粒がちょこんと映っております。

なんとも言えない喜びが湧き上がって参りました。

と、「修ちゃん、駄目駄目、吐きそう!」

「えっ!」

修ちゃんがトレイを持って来てくれました。

食べていないので何も出ません。最後に黄色くて苦い胃液が出ました。最悪でございます。

わたくしは苦しくて涙が頬をつたいます。

修ちゃんは汚れたトレイを洗ったあとわたくしを抱き上げて

「今日はもう帰ろう。教授室の鍵をかけてこようね。」

わたくしを車の後部シートに寝かせてご自分はカレッジの方に向かわれました。

わたくしは苦しかったのでさすがにぐったりとしておりました。

タオルケットと荷物を持って修ちゃんが帰って参りました。タオルケットをわたくしにかけて下さり、運転なさいます。

「明日オペがあるだろ。最中に吐き気が来たらたいへんだから点滴用意してきたよ。」

「ありがと…………」

自分でも体調を崩した自覚がございます。


帰宅致しましてお迎えに出てくれた方が抱き上げられてるわたくしを見て

「翔子様、どうなさいましたの?」

「翔子様、いかがされました?」

皆様口々に心配して下さいます。修ちゃんはわたくしをリビングのソファに寝かして皆様を集めました。

「皆様嬉しいお知らせがあります。僕と翔子のところに可愛い赤ちゃんがやって参りました。」

「えっ!それはおめでとうございます。」

「修一様、翔子様おめでとうございます!」

「それで皆様に先日お願いしていました引っ越しのことですが全て引っ越し業者にお願いしようと思います。ですから皆様はご自分の仕事に専念されて特に翔子のフォローをお願いします。翔子は今体調を崩しておりますので翔子の身体一番に仕事を進めて行ってほしいんです。どうかくれぐれもよろしくお願いします。前回赤ちゃんが流れてしまったので僕も翔子も神経質になってしまうと思うのでそこはどうか許して欲しいと思います。」

「分かりました、修一様お任せください」

「承知しました。翔子様はお守り致します。」

わたくしは改めて修ちゃんのリーダーシップに感嘆致しました。

この方の妻で良かった…………!

わたくしをベッドに寝かせて点滴をして下さいました。

「これが終わったらシャワー使っていいからね。何か食べれたらいいんだけどね。」

「ありがと…………努力してみます。」

わたくしの前髪をかき上げkissしてくださいます。

こんなにパーフェクトにご自分の妻を守って下さる夫がいるでしょうか?

わたくしは感激のあまり涙致しました。

この赤ちゃんはなんとしても守らなければいけません。

つわりがどんなに苦しくても赤ちゃんが生きててくれてる証なのです。

わたくしは乗り切れると確信致しました。

点滴が終わり、シャワーを使って一応食卓に座りました。

ポタージュスープが頂けました。

アップルのフレッシュジュースも飲むことが出来ました。

修ちゃんが来られて

「翔子ちゃん、良かった少しでも口に出来て。焦らずやっていこうね。心配いらないよ、僕がついてる。」

「ありがと…………修ちゃんメイフェアのお家は広いの?」

「うん、明日帰りに連れて行くよ。元貴族が住まわれてた家をリノベーションして設備は何でも揃っていて部屋数は40ほどあったと思う。お部屋の装飾がとても豪華で立派なものだから翔子ちゃんきっと気に入ると思うよ。」

「2人とも教授になって、お引っ越しして、赤ちゃんが来てくれて大忙しになって参りましたね。」

「本当だね。すごい人生展開になったね。」

普通ならあまり経験しない人生展開でございます。

しかも幸せづくし、幸せ過ぎて不幸なことが起こらないよう祈るわたくしでございました。










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