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明人の決意01



「なんでヤドリギの事を話したの」


 明人は鬼姫を睨み付けた。


「何を怒っているのだ? ヤドリギの事は隠さなければいけない事なのか? お主がヤドリギを思う気持ちは誰かに隠さないといけない事なのか?」


「そうじゃない。だけど……」


「妾は明人の為を思ってヤドリギの事を疫病神に話したつもりだ。明人、いったいどうしたいんだ? 明人が疫病神を好きだと言った瞬間、妾は情けなくて涙がでそうだった。あれではヤドリギと疫病神に対して酷すぎる。ヤドリギと疫病神のどちらが好きなのか今もう一度言ってみよ」


「……明人はヤドリギの事が一番好きだ。愛している」


 さっきは自分の気持ちに嘘をついた。エルも好きだがヤドリギは明人にとって特別な存在だ。他と比べる事はできない。それはエルと比較しても、けっして例外にしてはいけなかった。


 なのに嘘をついてしまった。そしてエルにも嘘だと見抜かれてしまった。


 自分は、ヤドリギの事を正直に言った上で、自分の気持ちをきちんとエルに伝えなければいけなかったのに、出来なかった。


 エルが部屋を出て行くときに涙を流したのを見て、明人は自分が嫌になった。


「姉さま、まだ間に合うかな」


「うーん、どうかなぁ。なんとなくダメっぽい気がする」


 人差し指を口元に当てながらアヤカは即答した。


「そんな事を人に聞いている様ではダメだな」


 鬼姫が冷たく言った。


「う、うるさい、子供に意見は聞いていない」


 鬼姫がスクッと立ち上がって、明人の前にきた。


 いきなり鬼姫に腹を正拳突きされた。呼吸が止まり、体をくの字にしてその場に倒れてしまう。


「たわけが、八つ当たりなどみっともない」


 止めに後頭部に肘打ちされて、明人は気を失った。


 明人は結局、翌朝まで目を覚まさなかった。


 アヤカに起こされて目が覚めた時に、エルの様子を尋ねた。エルはまだ部屋で寝ているらしい。


「弟くんには会いたくないと言ってたから、部屋に行っても無駄だよ」


 アヤカにそう言われた。


 ちなみに鬼姫は復活したばかりで身体がまだ馴染まないといって今日は起きてこなかった。


 それでもエルの処に行こうとしたが、「会ってどうするの?」とアヤカに言われて躊躇ってしまった。


 だから明人はアヤカに腕を引っ張られて無理矢理学校に連れて行かれた。


 アヤカが気を遣って何も話しかけて来なかったから、学校に着くまで明人は一言も喋らなかった。


 そのかわりアヤカに手をギュッと握られた。それだけでも明人は泣くほど心強かった。


「昼休みに向かえに行くから。一緒に昼食を食べようね。じゃあね」


 明人はアヤカと別れて自分の教室に向かった。


 ホームルームと授業時間中、明人はエルとヤドリギの事を考えた。


 昼休みになると、アヤカがやってきので、昼食を食べる為にふたりで校舎と校庭を仕切っている低い堤の上の広場に上に行き、そこに座った。


「姉さま。……ぼくはどうすればいいのかな」


 明人はアヤカに質問した。明人は午前中ずっと考えていたが答えを出す事ができなかった。


「このまま疫病神と手を切るのが一番良いです」


「即答ですか」


 アヤカは渋い顔をして何か言いたそうだった。


「ふぅ、」


 アヤカに頭をポカリと殴られた。


「弟くんが本当に悩まなければいけない事が、そもそも間違っているんだよ。考えないといけないのは”どうすればいいのか”ではなく、”どうしたいか”じゃないの?」


 どうするのが一番良いか。それはさっきアヤカが言った通りだ。エルと縁を切って今まで通りの生活をするのが皆にとって一番だ。


 では自分が”どうしたいか”は?


 明人は考えた。否、考えるまでもなかった。


 決まっている。


「ぼくは……、ぼくはエルと一緒にいたい」


「分かっているじゃないの」


 アヤカに笑って頭を撫でられた。


「だったらその為に何をすべきかを考えるのよ。大丈夫よ、弟くんが望めば大抵の事はやれるから」


 そっとやさしく抱き締められた。明人は少し心が軽くなった。


「姉さま、ありがとう」


「お礼ないのかな?」


 明人は自分からアヤカを抱きしめてキスをした。


「うわー、いきなり、だよ」


 顔を赤らめてビックリしているアヤカにもう一度、礼をしてから明人は駆けだした。


「私の為にも疫病神さん連れ戻してきてねー」


 アヤカが微妙な事を言って手を振っていた。


「……姉さまは僕の為に応援してくれてるんだよね? まさか単にエルに戻ってきて欲しいだけじゃないよね?」


 アヤカは応えないで手を振っている。


 明人は軽い人間不信になりながら教室に戻って鞄を掴んだ。


 そのまま学校を出る。


 自分がヤドリギを好きなのは今更な事で、心変わりする事は絶対にあり得ない。それをきちっとエルに説明する。その上でエルとも一緒にいたい事をきちんとエルに伝えようと思った。


 ふたりをどう思っているのか、今時点では自分でもハッキリしていないが、どちらも失いたくなかった。だからエルが勝手にいなくなるのは我慢できい。


 とにかくもう一度エルと話をしたかった。だから明人は午後の授業をサボって急いで和紙司神社に戻った。


 鬼姫が参道の辺りでウロウロしていた。明人を見つけてビクリとする。


「さ、昨日は済まぬ。つい殴ってしまった」


「ううん、別に気にしていないよ。と言うよりも悪いのは、ぼくの方だから」


「あ、明人は気にしないのか? そ、そうか。……良かった」


 鬼姫の表情が明るくなった。どうやら昨晩、明人を殴った事をかなり気にしていたようだ。


「ねえ、エルがどこにいるか知っている?」


「えっと、あっちにいるんじゃないかな?」



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