ENDING
息をするのも苦しかった。
桐谷世羅は力を失った指先から銃を落とすとハハハと薄く笑って自室のベッドから窓の外を見つめた。
「ここらが頃合いってことだな」
日本の裏組織であるアースエンドの一員で組織の人間のために動いていた。
両親を失った自分を大学卒業まで支援してくれた人物がその組織の人間だったからだ。
だが、それは全てまやかしであった。
両親を追い詰め殺した人間だと気づいた時にはもう戻ることはできなかった。
こういう人間を駒として使って自分たちの勢力を拡大してきたのだ。
だが、それに破滅の楔を打つことができる切り札を手に入れた。
だが。
だが。
自分に指示を出していた人間に嵌められて警察に追われることになってしまったのだ。
同じ部署にもう一人駒が潜んでいたのだ。
世羅は笑いながら
「刑事が警察に追われるとはな」
だが俺もそれだけのことをしてきたんだ
「まあ、強ちこの立場が間違いだってことはねぇな」
と目を閉じた。
大きな窓の向こうには東京の街と青い空が映っている。
ダイニングのシンクから聞こえる水の音がゆっくりと時を刻み終わりへと導いている。
その世羅の部屋の遥か下にパトカーがサイレンの音を響かせて集っていた。
多々倉聖は少し遅れてパトカーから慌てて降りるとマンションの上を見上げた。
「桐谷…早まるな」
まだ俺はお前の相棒になり切っていない
「逝くんじゃない」
そういって同じ2係の面々も降り立った。
「死ぬんじゃないぞ」
聖が最初に足をマンションに踏み入れた瞬間に大きな音と共に桐谷世羅の部屋が吹き飛んだ。
聖は上を見上げ黒煙を上げる部屋を見つめ唇を噛み締めた。
「こんな、こんな、こんな終わり方ってねぇよ!」
桐谷ぃ!!
声は響いたもののその声に返るものは何もなかった。
聖はポケットに入れていた携帯のバイブに目を見開いた。
『相棒…お前を信じてるぜ』
そして、音声データが添付されていたのである。
聖は涙を流すと後ろで立っていた酒蔵太蔵を見た。
「…酒蔵さん、貴方が筒元を殺し、そして、桐谷を撃ったんですね」
アースエンドの一員として
「この添付ファイルに声が入っています」
酒蔵太蔵は目を見開くと自らを取り囲む面々を見た。
杉浦剛志は拳を作ると殴り
「桐谷にはさせてやることができなかったが…お前にはちゃんと罪を償わさせてやる」
そして
「生きろ」
と告げた。
「アースエンドは必ずつぶす」
聖は座り込む酒蔵太蔵を見下ろして拳を握りしめていた。
彼も桐谷世羅も二人が犯した罪は許されるものではなかったがそれでも聖はその向こうで彼らを操り、罪を犯させ、今回桐谷世羅を嵌めた存在がどんなに力を持っていても対峙しようと覚悟を決めていたのである。
「俺は絶対に許さない」
必ず全てを白日の下に引きずり出して
「その罪を償わせる」
桐谷世羅がその人物も炙り出してくれた。
音声データを添付してくれていたのだ。
これまでの音声データ。
彼は待っていたのかもしれない。
チャンスを。
己をがんじがらめにしている黒い帯を解くチャンスを。
聖は黒煙を上げる部屋を見上げ
「一つだけ言うとしたら俺は生きて帯を解いた後のお前を見たかった」
だが桐谷…お前の無念は俺が晴らす
「俺はお前の相棒だからな」
と呟いた。
そして、捜査一課2係の最後の戦いが始まるのである。
エンディングが流れ、スタッフロールと共に『次回最終回は1時間30分の拡大放送です』と下に流れた。
次回が最終回であった。
■ 悪役刑事
花村隆太はカチンコの音を響かせると
「OK!」
お疲れ様!
と声を上げた。
血糊をつけた多々倉聖役の高峰慎之介が笑みを浮かべた。
桐谷世羅役の荒神静と娘の世那と皆月若葉役の三村莉佐が花束をもって近寄った。
今日が警視庁捜査一課2係のクランクアップだったのである。
静と莉佐のオールアップは先日だったのだが、今日はクランクアップだったので出番はなかったが来たのである。
多々倉聖役の高峰慎之介は花束を受け取り
「荒神さん、世那ちゃん、三村さん、ありがとうございました」
お疲れさまでした
と頭を下げた。
隣で花村隆太プロデューサーが笑顔で
「2係は初っ端から事件続きだったからどうなるかと思ったがよかった」
と言い、静を見ると
「あ、そういえば温泉宿女中の噂の事件帳でも温泉宿の女中と対峙する犯人刑事役だったな」
もう事件は起こさないようにな
と告げた。
が、静はガーンと目を見開くと
「いや、俺が事件を起こしたわけじゃないけど」
と返した。
莉佐は笑い
「ですよ、荒神さんは目つき悪い攻撃を受けて落ち込んでいただけですよ」
と言い
「またそっちで言われるかもしれませんね」
頑張ってください
とにっこり告げた。
酷い。
と静も慎之介も心で呟いた。
慎之介は慌てて微笑み頭を下げると
「本当にありがとうございました」
皆さんとまた仕事できることを
とフォローを入れるように告げた。
静も思わずウルっと涙を滲ませて頭を下げた。
「俺こそお世話になりました」
ありがとうございました
「けど三村さんだけは外しますけど」
…。
…。
花村隆太は思わず
「全く、本当に仲がいいなぁ」
あははは
とフォローしながら笑い、全員が苦笑をこぼした。
莉佐は気にした様子もなくケタケタ笑って世那を抱きしめると
「私はまた世那ちゃんに会いに行きますから」
よろしくお願いしますね
と答えた。
慎之介は驚きながら
「え?マジで?」
と彼女を見た。
莉佐は頷いて
「ええ、世那ちゃんをモギュモギュしにいっているので」
シュークリームをお土産に
とにっこり笑った。
世那は笑顔で頷いた。
が、静はカッと目を見開くと
「三村さん、世那を餌付けするのはやめてください」
と言い放った。
莉佐は笑顔で
「でも荒神さんもシュークリーム好きですよね?」
今度は何がいいです?
「イチゴとチョコレートクリームにしようと思っているんですけど」
と告げた。
静はそれにムッムムッと悩み
「イチゴで」
と答えた。
世那は笑顔で
「世那はチョコレート」
と答えた。
何だかんだで仲が良いのだ。
慎之介は莉佐を横目で見た。
優しい視線で見る彼女に気づき
「やっぱり彼女が会いに行くのは世那ちゃんだけじゃないんだろうなぁ」
と苦笑した。
プロデューサーの花村隆太は最後の締めとして
「じゃあ、みんなお疲れさまでした!」
と声をかけた。
全員が同時に手を挙げて
「「「「お疲れさまでした」」」
と答えた。
静は世那を連れて渋谷マルイ撮影スタジオを出るとふぅと息を吐きだした。
警視庁捜査一課2係は連ドラだったので今の仕事の中で一番収録が多い仕事であった。
それが終了したということは暫く時間に余裕が出るということである。
世那を抱き上げて
「次のドラマ撮影までいっぱい遊ぶからな」
と告げた。
世那は笑顔で
「はーい!」
楽しみー
と答えた。
そこに三村莉佐が
「じゃ、私もー」
と隣に並んで歩いた。
「同じ温泉宿女中の噂の事件簿ですから」
私、温泉宿の女中役
静は彼女を見ると
「!主演か!」
と告げた。
横から慎之介が
「俺はそのうちゲスト出演しますから」
よろしく!
と告げた。
それぞれの道に行きながら交わっては離れて、そしてまた交わっていく。
それが人生なのだろう。
そして、彼らの前に覆面パトカーが止まると相田光一が降りて静の腕を掴んだ。
「少し力を借りたくてな」
付きあってくれ
「世那ちゃんは守がいるから、一緒に遊んでくれ」
世那は笑顔で
「はーい!」
と答えた。
慎之介は呆然と見送り呆然と見つめる莉佐に
「そのうち、荒神さんは悪役刑事じゃなくて…探偵になるのかも」
と呟いた。
莉佐はそれに笑顔で
「女優はね、少々のことじゃへこたれないのよ」
と言い腕を上げた。
「やりて刑事に負けたりしないわ」
それを見守るように青い空に太陽が強く輝いていた。




