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暴走する母と苗字


「遠慮しないで食べてね」



 そう言いながらお母さんはテーブルに着いた僕達の前へお手製のカレーがよそってあるお皿を並べていく。

 今日のメニューはカレーにサラダ。そしてコーンポタージュだ。

 リビングにはカレーのスパイシーな香りとポタージュの優しく甘い匂いが広がり、僕の空腹の胃袋を刺激する。



「あ、ありがとうございます」



 まだ緊張しているのかナズナは少し遠慮気味にお礼を言う。



「いえいえ。苦手なものとかがあったら無理しないで残して良いからね」



「はい」



 お母さんはナズナの言葉に笑顔を浮かべて頷くと、自室で何か作業をしているお父さんを呼びに行った。

 どうせまたプラモデルでも作っているのだろう。

 毎日の日課とはいえ、良くやるものだ。



「美味しそうだね」



 隣に座るナズナは目の前にある本日の食事を見てそう言う。

 


「そうだね。お母さんのポタージュは本当に美味しいからオススメだよ」



 昔からお母さんは料理が好きで、事あるごとに手の込んだ料理を出してくれていた。

 唐揚げやチャーハンなどの比較的簡単なものから、パエリアや四川風の麻婆豆腐なんかも作ってくれる。

 

 お父さん曰く昔からの料理の腕は凄かったらしく、それが結婚を決める決定打になったらしい。


 とにかくお母さんの料理の腕はそこらの飲食店に引けを取らない。



「そっか。楽しみ」



 目をルンルンと輝かせて料理を見るナズナ。

 お母さんの思いつきだったけど、家に招いて良かった。



「ほら、蓮の友達が来てるから早く!」



 リビングの奥でお母さんがお父さんを呼ぶ声がする。



「分かったって。今行く」



 お母さんの催促にお父さんは慌てているようで、情けない声を出しているお父さん。

 ナズナがいるのだからこういうのは本当にやめて欲しいが、威厳も何もないのがお父さんの短所であり長所だ。とにかく優しい父である。



「はい。おまたせ」



 お父さんの手を引きながら、お母さんはリビングに入ってくる。

 いつまでたっても仲良しだ。



「初めまして。七草ナズナです」



 お父さんを見たナズナは立ち上がり挨拶をする。

 そしてそれに対してお父さんの反応は……なんとも情けなかった。



「え? あ、はい。蓮の父です」



 若い女性に慣れていないのか、若干ビビっている様子で、声が上ずり何とも弱々しい。

 男子高校生かとツッコミを入れたいが流石にナズナの前だ。自重する。


「はえー。まさか蓮が女の子を連れてくるなんてね」



 お父さんはただただ驚いている。

 そしてお父さん。その言葉には同意だ。

 僕自身もまさか女の子を家に呼ぶなんて夢にも思って無かったよ。



「それじゃさっそく食べましょ!」



 このリビングで唯一平常運行のお母さんがそう言ったところで食事が開始された。




「それで、ナズナちゃんは蓮の彼女さんなの?」


 家族とナズナ。全員が食事をし始めてすぐ、お母さんは爆弾を投下した。

 普段から若干暴走気味とはいえ、流石にこの暴挙は僕が止めなければいけないだろう。




「ち、違うよ? 友達。そう友達!」



 僕はナズナに同意を求めるようにして、隣を見る。



「……はい友達です」



 ナズナは僕の期待通りの言葉を言ってくれる。

 しかし、その言葉の語気は想像していたものよりも弱く、僕はさらにテンパってしまう。


 怒らせてしまったのだろうか?

 僕とナズナは友達だと思っていたが、ナズナからしてみれば友達では無かったのかもしれない……。


 僕は打開のチャンスを伺うが、そんな都合の良い頭は持ち合わせていないので、硬直してしまった。



「あららー。嘘つかなくても良いのよ。休日に二人で出かけるくらいだもん。そういう関係なんでしょ?」



 母の口は止まらない。

 そしてお母さんの隣にいるお父さんは事の顛末をソワソワとした態度で見ている。こういう時のお父さんは話しに入りたいけど怒られるのが分かるから我慢。そんな状態のことが多い。


 この場の指導権は完全に母にあった。



 言葉巧みに僕とナズナに質問しては、楽しそうにする。

 まるでシャチがアザラシで遊んでいるかのように……。



「いえ、本当に違います。ね? お、大久保くん?」



 母の口撃に耐えかねたナズナは僕に振る。

 しかし、僕はそれどころじゃない……。


 苗字で呼んでくれた……。


 僕はその事実に胸を打たれて違う意味でフリーズ。

 自分のことながらなんとも情けないが、突然の出来事に頭と体は機能を停止させた。



 その後のことは良く覚えていない。



 ナズナは母に自分と僕の関係を説明し、それを聞く父。

 もちろんお母さんの踏み込んだ質問は止まることを知らなかったが、それを上手く処理して、なんとか誤解を解くことに成功したようだった。

 そして強烈な質問攻めで無駄な緊張が解けたのだろう。お母さんとの会話を楽しんでいるようだ。


 それに反して僕は……。



 苗字で呼んでくれたことへの嬉しさで食事どころではなかった。


 


 ちなみにずっと無言だったお父さんは、ずっとニコニコと笑顔を浮かべながらカレーを口に運んでいた。

 なんというか、お母さんとお父さんはお似合いだよね……。




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