第54話 再びのフラッド
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東ダンジョンを攻略してから、二週間が過ぎていた。
街は落ち着きを取り戻していた。
ギルドの前には、以前よりも多くの冒険者が集まっている。
東の危険度が下がったことで、新人が入りやすくなったのだと聞いた。
ロイはその光景を、少し離れた場所から眺めていた。
騒がしい。
だが悪くない。
こういう空気は嫌いではなかった。
「暇そうだね」
リアが肩のあたりをふわりと飛ぶ。
「少しな」
ロイは苦笑する。
体感でここ数ヶ月、常に何かに追われていた。
死ぬかもしれない緊張の中で動き続けていた。
それが、今はない。
東ダンジョンは終わった。
もうしばらくは、大きな問題も起きないだろう。
そう思っていた。
地面が揺れた。
最初は、誰も気にしなかった。
荷馬車でも通ったのだろう、と。
だが次の瞬間、もう一度。
今度ははっきりと分かる揺れだった。
「……地震?」
誰かが言う。
その直後だった。
遠くで、警鐘が鳴り響いた。
一本ではない。
二本、三本。
次々と鳴り始める。
街の空気が一瞬で変わる。
「おい……なんだ?」
「外だ!門の方!」
冒険者たちが一斉に走り出す。
ロイも反射的に駆けた。
嫌な予感がする。
理由は分からない。
だが、体が覚えていた。
門の外を見た瞬間、言葉を失った。
黒い波。
地平線の向こうから、モンスターの群れが押し寄せている。
数が違う。
討伐対象の数ではない。
災害だった。
「フラッドだ……!」
誰かが叫ぶ。
その声が、現実を突きつける。
ロイの思考が止まった。
――なぜ。
東ダンジョンのフラッドは止めたはずだ。
巨大蜘蛛も倒した。
最深部まで行った。
それなのに。
「なんで……」
答えはない。
モンスターの群れは止まらない。
ゴブリン、オーク、見たことのない大型の影まで混じっている。
門が閉じられる。
弓兵が矢を放つ。
魔法が飛ぶ。
だが、数が多すぎた。
門が破られる。
叫び声が上がる。
モンスターが街へなだれ込んだ。
「下がれ!市街戦になるぞ!」
ギルド職員の声が響く。
ロイは槍を構えた。
考えるより先に体が動く。
目の前のゴブリンを突く。
倒れる。
次が来る。
また突く。
だが終わらない。
次から次へと押し寄せてくる。
「数が……多すぎる……!」
冒険者たちが押し返されていく。
街の中で戦うには限界がある。
建物が壊れ、炎が上がる。
悲鳴が広がる。
ロイの頭に、ある考えがよぎった。
家だ。
家族。
反射的に走り出していた。
家の前に着いた時には、すでに煙が上がっていた。
「父さん!」
扉を開ける。
中には家族がいた。
無事だった。
だが、外の音はすぐそこまで迫っている。
「避難するぞ!」
ロイが叫ぶ。
父は首を振った。
「もう遅い」
外で何かが崩れる音がした。
通りが塞がれている。
逃げ道がない。
長男のルイが剣を手に取る。
レイも続く。
「ロイ、お前が行け」
父が言った。
「何言って――」
「お前は冒険者だ」
静かな声だった。
「生きろ」
その言葉に、ロイの足が止まる。
外から咆哮が近づく。
時間がない。
扉が破られた。
モンスターがなだれ込む。
ロイは槍を振るう。
倒す。
だが、次が来る。
また次が来る。
数が減らない。
守りきれない。
「……くそっ!」
腕が重い。
呼吸が乱れる。
後ろで誰かが倒れる音がした。
振り向けない。
振り向いたら終わる。
分かっている。
それでも――。
視界が赤く染まった。
衝撃。
体が浮く。
何かに貫かれた感覚。
力が抜ける。
膝が崩れる。
音が遠ざかっていく。
倒れながら、ロイは思った。
――何かを、間違えた。
東を止めれば終わると思っていた。
違った。
何も終わっていなかった。
意識が途切れる。
暗闇。
静寂。
そして――。
「ロイ、寝坊だぞ!」
父の声。
見慣れた天井。
朝の光。
体は無傷だった。
ロイはしばらく動けなかった。
呼吸だけが荒い。
リアが、すぐ近くで浮かんでいる。
「……起きた?」
いつもの軽い声だった。
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