第九十話 カーリン商会3
心臓が鋼製の疑いがあるエリザベスさんは、足から顔まで隠れるレベルな大きさの大盾を指さす。
これもまた、魔法で身体強化でもしなければ扱えなさそうな大きさの盾であるため、これを使い熟せるレベルの人はかなり限られてくるだろう。
クローディアさんが呆れた表情をしているのはもちろんの事、今まで感心した様子を見せていたポールさんも苦笑いだ。
「黒影、持ちなさい」
「かしこまりました」
昨日御者をしていた人――黒影さんが音もなく現れ、エリザベスさんが紹介している大盾を軽々と持ち上げる。
どこから現れたんだという疑問と共に、黒影さんの見た目が爽やか俳優みたいな感じなので、馬鹿でかい盾を持ち上げられていることが不思議で仕方ない。だって、魔法で身体強化をしているようには見えないから。
「では、使い方を皆さんに実演しなさい」
黒影さんは全身が隠れるような盾を持ち上げながら、立て看板に練習用スペースと表記されているエリアまで歩いていく。
「まず、この盾は通常の運用でもドラゴンブレスだとしても防ぎきれるような性能をしている所がウリですわね。セオドアさま、試しに魔法を一つお願いいたしますわ」
また俺かよ。こういうので一番適正あるのは間違いないんだけどさぁ……。
全身が盾に覆われていて姿の見えない黒影さんを見て、
「人に向けて魔法を使うのは気が引けるんですけど……」
「構うことはありませんわ。この盾の性能なら先ほど説明いたしましたし、黒影であれば何があっても大丈夫ですわよ」
何その無責任な信頼は……。
黒影さんも大丈夫だと示したいのか、盾が上下に揺れる。……大変だな。
「分かりました。なら行きますよ。……クイックバレット」
放った魔弾が盾に当たった瞬間、何も起きずに掻き消える。
「どうですか、セオドアさまの魔法でさえこの通り。そこら辺の魔物相手ではびくともしない性能を誇っていることがお分かりになったでしょう?」
「凄いです」
ポールさんは明らかにさっきのようなキラキラとした表情ではなかったが、反応しないと可哀そうとでも思ったのだろう。
「あんた、全力でやったの?」
「そんなわけないじゃないですか。まあでも、普通の盾だったら傷が出来るぐらいの威力はあったと思いますよ」
クローディアさんがこっちに寄って耳打ちしてきたので、エリザベスさんに聞こえないぐらいの声量で返す。
「ふーん。だったら、今までのとは違って実用性はあるのかしらね」
「まあ、ありはするとは思いますけど……。あんなでかい盾を持っていたら動きづらくて仕方がないでしょうからね。それこそさっきエリザベスさんが言っていたことが本当なら、ドラゴンとかみたいなのを対策するときには役に立つと思いますけど」
「輝くところはあるけど、わざわざ買うほどじゃないってことね」
まあ、適切な評価だな。
「そこのお二方!まだ、この盾には隠された能力がありますことよ!黒影、やりなさい」
内緒話をしていたところに声を掛けられてドキッとする。隠された機能とやらを披露するらしいが、どうしても期待が持てない。
そんなことを考えていたら、大盾から、かちゃり、という音が聞こえて、ものすごい勢いで飛んでいく。
飛んでいった大盾の着地した地点から鈍く重い音がして、土煙が立った。
「このようにこの大盾は持ち手と大盾の間がチェーンで繋がれており、盾自体を射出する機能が備わっているのですわ。その威力は御覧の通り!高い防御性能を誇るこの大盾を射出することで、破壊的な威力を生み出すことが出来るのですわ!」
「射出した盾はどうするのよ」
「それは射出した地点まで回収するか、チェーンで繋がれているので力任せに引き寄せて回収することも可能ですわね」
「あんな重そうな盾を腕力で引き寄せるってこと?力加減を間違えたら、使っている本人が怪我するわよ」
「つまり、利用者本人の技量次第ということですわね」
ポールさんとクローディアさんの反応が悪い中、俺は意外と悪くないと思っていた。
見た目はハチャメチャだけど、守りたいときは高い防御性能を持つ盾として、攻めたいときは高威力のハンマーとして使えると考えれば悪くない。正直、この大盾をもった奴とは相手したくないし。まあ、使いこなせればだけど。
前の世界だったら完全にギャグ武器でしかないが、この世界の住人だったら扱えないこともなさそうだからな。それこそ、黒影さんなんかは使えているわけだし。
「他にも紹介したいものはあるのですが……。いい時間ですので昼食といたしましょうか」
確かに昼ご飯の時間ではあったのだが、あまりに周りの反応が悪いから切り上げたんだろうなと思った。
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