第八十九話 カーリン商会2
「ですから、今日は周りのことは気にせずに案内して差し上げられますことよ。まず、わたくしがおすすめスポットを紹介いたしますわ」
先に進んでいくエリザベスさんの後に続くとエレベータがあって、それを無視してもう少し奥に進むと地下に続く階段があった。
最初に紹介するおすすめスポットが地下なのか、と思いつつ階段を降りきると、壁に槍や大剣、長剣などが値札と共に飾られているのが目に入る。他にも武器は、台の上に無造作に置かれていたり、木の樽に突っ込まれていたり、ショーケースのようなところに飾られたりしていた。
デパートを想像していたことから武器が並んでいることに違和感を持つが、冒険者という職種がある以上、リピーターがいるわけだからおかしな品ぞろえというわけでもないのだろう。
「いっぱい、いろんな武器が並んでいますねぇ」
ポールさんは飾られている武器を見回しながら、感嘆しているんだろうなという声を上げた。
品ぞろえが多いのもそうだが、手に届きそうな値段のものからかなり値の張る物までそろえられていて、質にもよるだろうが新しい武器を手に入れたいならここに来れば良さそう、という印象を受けた。
「そうでしょう!ですが、うちの商会はこれだけではありませんことよ。皆さま、もう少し私についてきてくださいませ」
エリザベスさんの言う通りについて行くと暗くてよく見えなかった通路があり、そこを進むと普通なものもあるが、ちょくちょく気になる形状の武器が飾られていた。
「皆さまはここに並んでいる品ぞろえを見て、少し変わっているものがある、程度にしか思わなかったですわよね?ですが!……いえ、実際に紹介する方がいいですわね」
エリザベスさん並んでいる武器の中でも、本当に武器なのかと疑問が浮かんでいた剣の柄しかないものを手に取る。
そしてその剣の柄を俺に渡してきた。……なんで?
「えっと……」
「セオドアさま、それに魔力を流してみてください」
言われた通り少し魔力を流してみると、一瞬だけ光った。
懐中電灯かな?
「そうではなく、もっとたくさん流してくださいませ」
「分かりました」
かなりな量の魔力を流し込むと、剣の柄の先から光り輝く刀身が現れる。
なにとは言わないが輝く刀身を見て思い浮かぶものがあったが、一応蛍光灯みたいな形じゃなくて、剣の形状をしているから違うものではある。
「この通り魔力を流すことで、赤子であったとしても魔法で倒すことが推奨されているロックリザードを一刀両断できるような性能がありますのよ」
「それは凄いですね……。それなら僕でも扱えちゃうってことですよね」
「ええ、勿論ですわ」
エリザベスさんの返答を聞いたポールさんは、物欲しそうな表情をして俺の握っている光剣を見る。
この光る刀身自体が魔力の塊だから、魔法耐性のない魔物に有効なのはそりゃそうか。
……それにしても、
「これ、かなり魔力を食いません?この光る剣を出しているの、かなりつらくなってきたんですけど」
「え?あんたって確か、いつも使っている防御魔法だったら、一日は張り続けられるって言っていたわよね?」
「一応、一日ぐらいなら」
物欲しそうな表情をしていたポールさんが血の気が引いたような顔をしながら、クローディアさんは胡乱な目をしてエリザベスさんの方を向く。
「まあ、多少の魔力は必要ですが、修練もなしに特定の魔術師にしか扱えないと言われている魔法剣を再現できるすぐれものですのよ!」
「でも、この底なしの魔力量を持っているこいつでさえ、三十秒ぐらいで辛いって言ってるけど」
「これだけ優秀な能力を有しているのですから、少しばかりのデメリットがあるのは仕方ありませんこと?」
自分で言うのもなんだが、この俺でさえ一分しか使えないような武器が少しばかりのデメリットと表現するのは無理があると思うけど。
……というか、本当にきつくなってきたから止めよう。
「あのこれ」
「……ありがとうございますわ」
お礼を言われるが、エリザベスさんの瞳がもっと光る刀身を出し続けろと訴えかけているように感じた。
でも、魔力を止めた剣の柄をエリザベスさんに受け取ってくれる。そして、剣の柄を元の場所に戻しその隣にある長剣を掴んだ。
「次紹介するのはこれですわ」
次の武器は特に何の変哲もない長剣みたいだ。まあ、普通じゃないんだろうけど。
「これはなんと、回復魔法を使える魔剣ですのよ!」
「へぇ!」
ポールさんはすごいなぁ、みたいな反応をするが、クローディアさんは既にもう疑いの目を魔剣に向けている。
俺もクローディアさんと同じだ。
「どうせそれも、あほみたいな魔力が必要なんでしょ」
「そんなことはありませんわ!回復魔法を利用するのに、利用者本人の魔力は一切必要ありませんことよ」
「それなら凄いじゃないですか!」
ポールさんは感嘆の声を、クローディアさんは一切信用していないように見える。
「あの、魔力を一切必要とせずに回復魔法を使うなんてことは出来ないと思うので、何かしらのギミックがありますよね?」
何の原動力もなしに回復魔法を使えるわけがないからな。
「ええ。利用者の魔力を必要としない代わりに、聖属性の魔石が必要ですわね」
「聖属性の魔石って、かなり値が張るはずだけど」
魔石には無、火、水、風、地面、聖、闇、という属性が付与されていて、その中でも、聖属性を宿している魔石がかなり希少だ。理由は、魔石というのは魔物から取れるもので、聖属性を宿している魔物が少ないから。
そもそも、聖属性の魔石を宿している魔物というのは人に危害を加えるものが少ないため、討伐対象となりづらいというのもある。
一応、熟練の魔術師が無属性の魔石に聖属性の魔力を込めれば、聖属性の魔石を作ることは出来る。ただ、聖属性にかなり適性がある術者じゃないとそういったことは出来なくて、魔石を作れるほどの術者となるとかなり少ない。ということは、聖属性の魔石の生産量も少ないことになるので、かなり値が張ってしまうのだ。
「そうであったとしても、多少のお金を掛けるだけで戦闘しながらも回復魔法を使えるというのは破格の性能だと言えますわ」
「だとしても、魔石を買わなきゃいけないぐらいだったら回復ポーションを買った方が安上がりでしょ。それに、その剣本体自体も高いだろうし……。それって、壊れたら回復魔法は使えなくなるのよね?」
「……ええ」
「だったら、壊すわけにはいかないから剣としてはもったいなくて使えないでしょ」
あまりにも正論だな……。エリザベスさんも黙っちゃったし。
「そういう考え方もありますわね。次はこれですわね」
いや、思った以上にエリザベスさんの心が強いな。
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