第八十六話 エリザベスさん2
「……良かったんですか?」
「何がですの?」
「いや、フィリス様をお城まで送り届けなくて」
「あら、どうして?」
「だって、フィリス様は貴族のお嬢様でしかも行方不明になっていたわけだから、しっかり送り届けた方がいいとか思わないのかな、とか思いまして」
無責任に放り出した結果、また行方不明になったりしたら事だろうし、こういうのって体裁を考えたら送り届けるのが普通のような気がするけど。
「ただの貴族のお嬢様だったら無理にでも送りますけど、フィリスさまなら必要ないと判断しただけですわ。あの方が対処できないような出来事が起きたらわたくしがいたところでどうにもなりませんこと?」
「まあ、そりゃそうだとは思いますけど……」
「ここは引いた方がフィリスさまからの心証がいいと思ったのですのよ。それに、セオドアさまと面と向かって話し合う機会というのもなかなかないと思ったのですわ」
え、なんで俺なんかとそんな機会が欲しいの?……というか、御者はいるけど外で馬を引いているし、実質的に二人きりなのか……。
この、こてこてなお嬢様言葉を使う人と二人きりっていうのはなんというか、やりづらそう……。というか、何を聞かれるんだろう。……緊張してきた。
「先ほどは冗談だとおっしゃっていましたが、実際はどうだったんですの?」
「何のことですか?」
「誤魔化さないでくださいませ!いくら雇い主と雇われという関係であったとしても、男女二人で共同生活をなさって何も起きないはずはありませんわ!」
カーリンさんは妙にテンションが高い。
……フィリスさんに雇われたきっかけみたいなのを聞かれるのかな、とか考えていたけど、なんか思ったよりも俗物的な質問で安心はした。……けど、これはこれで厄介そうだな。
「ないですよ。そもそも、身分が違いますし」
「そんなこと言って、あれほど目美しい女性と共同生活をしていてアプローチをしないはずがないでしょう!!」
何だよ、その妙な偏見。カーリンさんの想像している俺、イケイケすぎだろ。
「いやむしろ、だからこそそういう目では見ないんですよ。人間としてもランクが違いますし、そもそも、こっちから迫ったところでフィリス様を困らせるだけですから」
「そうかしら?脈のない相手と一緒に一週間も過ごした後に、お空のデートには誘わないと思いますわよ」
「あれはデートじゃないですから。それに脈は絶対にないです」
確かにある程度心は開いてくれているんだろうけど、それは友人としてちょうどいいとかそんな感じだろう。
「お嬢、そろそろつきますよ」
「あら、いいところだったのに。後でもう少しお話をしましょう」
「いや、いいです」
いいところだった、という発言に不穏さを感じて断ると馬車が止まる。
降りると、帝国で歩いているときにひときわ大きくて目立っていると感じていた建物が建っていた。
……こてこてすぎて似非っぽく感じちゃうけど、やっぱりカーリンさんはいいとこのお嬢様なんだな。
「ここも久しぶりですわね。家族は出払っておりますのよね?」
「はい、そのように聞いて――」
「兄さん!」
区切りが悪く短くなってしまったので、すぐにもう一話投稿します。
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