第八十一話 蜘蛛たちとの戦い1
あのノートの内容を全て読み終えてしまったため、とうとう蜘蛛たちに立ち向かわなければいけない日になってしまった。
戦うための、心の準備をするための時間があったため、ノートを読み終わってすぐの行動というわけではないが。
……それにしても、ここに落ちてからどれくらいたったんだろうな。陽が落ちて登った回数的に一週間ぐらいか?
「ここでの生活はしんどかったけど、あの蜘蛛たちから逃げた後は、だいたい一ヶ月、一年、もしくはそれ以上ここに居続けることになるんだろうな、って思っていたから。……長かったけど、思ったよりも短くはあったな」
「何か言いましたか?」
独り言をしていたところに声を掛けられて、ちょっと恥ずかしいから誤魔化そうと思ったのだが、フィリスさんの口元が歪んでいるのが見えたから、
「いや、もっとここにいることになるんだろうなと思っていたのに、もう決戦なんだなって」
「……つまらないです。もっと反応してくれないと」
「そんなこと言われても……、というかだから反応しないんだよ」
一週間も二人で生活して、こういう時に反応したらフィリスさんを喜ばせるだけって学んでいるからな。
「まあいいです……。私としても最初に想定していた時よりも早い決着ですし、体感としても短く感じていました。ここでの生活は楽しかったですから」
体感を伝えてくるあたり……、俺の独り言を聞いていたな、この人……。
「何か言いたいことでもあるんですか?」
「……いや、前にも似たようなことを言ってたけど、よくそんな楽しめるよなって。こんなしんどいサバイバル生活」
「だって、すべてのことを自分の裁量で決められるなんて面白くて仕方がないではありませんか。それにセオドアさんと二人きりの生活も楽しいしですし。……でも、セオドアさんが楽しめなかったということは私との共同生活は楽しくなかったのでしょうか?」
少しトーンを落とした悲しげな声色だった。
そんなことで落ち込むような玉じゃないくせに……。
今の質問の意地悪なところが、楽しいって言うとサバイバル生活を否定しているからフィリスさんと二人っきりだったという要素だけで楽しいということになって気恥ずかしいし、楽しくないと言えばお前といても楽しくねえよってことになるし。
考えすぎているだけかもしれないけど、……いやそんなことはないな。
「フィリスさんと一緒にいること自体に問題があるわけじゃないけど、全てにおいて不便な生活を続けたいとは思えないってだけ」
「ふふ。私としてはもう少しここでの生活を続けたい気持ちもありますが、色々な方々を心配させているでしょうし、楽しい時間は終わらせなければいけませんよね」
クローディアさんとかポールさんとかは心配しているだろうし、帝国の人達も招いた貴族の客人を死なせてしまったということになったら大問題だろうからな。キース様とかは心配しているなんていう生ぬるい表現じゃ効かない熟れてないリンゴみたいな顔色で、毎日胃に物が通らない生活をしていそうだし。
そういった申し訳なさもあわせて、
「勝とう」
「ですね」
「いました」
フィリスさんの報告により、数百メートル先にデカ蜘蛛を見つける。
見つけてしまったことにより、これから始まるのだという緊張が襲ってくる。
ここで負けたら、また逃げられるとは限らないし、いろいろと対策を練ったうえで通用しないことになるから、現状の実力では巨大蜘蛛達に太刀打ちできないということが証明されてしまうから。
そういった負の想定が絡みつき、もう少し先延ばしにしたくなるが、
「いけますか?」
そう聞かれたことで、ああ、良くないなと頬をパンッパンッと叩き、
「いけるよ。……イグニッションバレット」
完全な死角からの攻撃だったため防がれず、魔弾がデカ蜘蛛を貫く。
少しするとデカ蜘蛛の群れが現れて、辺りをきょろきょろと見回し始めた。仲間を殺した俺たちのことでも探しているのだろう。
「援護お願いしますね」
フィリスさんはデカ蜘蛛達がいるところに飛び出していく。
戦い方についていろいろと話し合った結果、俺が後衛でフィリスさんが前衛という形で落ち着いた。
フィリスさんだけを先行させる形なのは気が引けたのだが、戦闘スタイル的に後衛してもらっても仕方がないからしょうがない。
一応、両前衛でもいいんじゃないかと提案してみたんだけど、周りの様子をうかがえる役割が欲しいと言われ、そういうしっかりとした理由があるなら俺個人の気分で否定するのはわがままでしかないから後衛する形で納得した。
フィリスさんがデカ蜘蛛達を蹴散らし、俺は死角になってそうな奴を倒すという作業を繰り返しどんどん数を削っていく。
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