第七十話 また現れる人型の魔物
六天将のおっさんに追い出された次の日、どうせ厄介払いされるんだろうなと思っていながらも訪ねると、意外なことに家に入れてもらえた。
ただ、俺の提案を参考にしたテーマパークづくりにお熱なみたいで、特に何かを教えてもらえる、なんてことはなかったけど。
むしろ、どういう作品を参考にした方がいいかとかを聞かれて、俺がアイディアを出す係をさせられていた。
さらには、俺だけの意見じゃ足りないとか言い出してきて、孤児院とか宿屋の人にどういう作品が好きなのかアンケートをさせられたし。
正直、あの時は地獄だった。コミュ障である自分が知らない人に声を掛けるだけでもハードルが高いのに、他国で種族の違う人に話しかけないといけないというのがしんどいから。
まず最初はどうやって話しかけようと結構悩んでいたんだけど、そもそもよくよく考えたら俺がやる必要なくないかと思い始めて。
別種族の人に話しかける勇気がないですとあのおっさんに伝えたら、もし手伝わないのなら秘蔵の魔導書を盗み出したと皇帝陛下に伝える、とか脅してきて、泣く泣くアンケートをやらされることになる。
逃げられないことが確定した後、どうやって話かけようかなと道をうろうろして、次第になんで俺がこんなことをしなきゃいけないんだよ、と脅してきたおっさんにイライラしてきたところに、定食屋を見つけて飯を取ることにした。
お腹に物を入れたことで少し頭が回り出して、こんなうろちょろしてイライラしてもしょうがない、と割り切ることが出来るようになって、何も考えずに街の人たちに話しかける。
最初は何にも考えずにやっていたわけだけど、次第にまず話しかけるときはおっさんの名前であるラルストンという名前を使おうとか、犬族だったら肉が好きだから肉を餌にして、みたいな工夫をしながらなんとかアンケートを集め終えた。
「お、セオドアじゃん」
「あ、どうも」
苦労をした結果、でただ街を歩いているだけなのにたまに声を掛けられるようになったわけだけど……。
人と関わることが苦手な俺としては、あんま嬉しくない。
「なあ、また魔法について教えてくれよ」
「あー、すみません。買い出しがあるので」
「ああ、またラルストンさまのお使いか?」
「はい」
アンケートを集めた後も、おっさんが扱いやすい俺を解放するはずもなく、こうやって雑用をさせられている。
……考えただけで腹立てくるな。
なによりも、反撃しようにも、権力的な意味でも武力的な意味でも絶対に勝てない相手なのがたち悪い。
「お前も大変だな」
本来だったら六天将のもとにいるというだけで羨ましがられるだろうが、前に俺がどんな扱いを受けているかを話したからか、犬耳の少年が同情的して俺の肩に手を置いてきた。
孤児院で育てられている少年に同情される俺って……、みたいな虚しさを覚えていると。
ドガーン!!
突然、数百メートル先にある家屋で爆発が起きた。同時に大量の動く死体たちが現れる。
周囲にいる人達は動く死体たちがいる方向に視線を向け一瞬固まる。そして数秒後、時が動き出したかのように悲鳴声を上げて動く死体たちから逃げ回っていた。
前に襲って来た奴と同じなら、俺は何とかなるけど……。
「お、おい!セオドア、何とかならないのか!」
「……やれることはやります。クイックバレット」
俺は逃げ回っている人達に近い魔物を標的に決める。
動く死体の頭を狙い的中させると動かなくなった。
やっぱり、頭を飛ばせば倒せるのか。
でも……。
次々と現れる動く死体たちを見て、すべてを守り切るのは難しそうだと感じていた。
それでも、何とか犠牲者が出ないように立ち回っていたのだが、動く死体に背後から襲われているのが視界に入る。
間に合わない!
「加勢させていただきます」
助けることを諦めかけていた住民の近くにいる動く死体を、突如現れたフィリス様が一刀する。
助かった。
……あれ、でも。前に人型の魔物に襲われた時、フィリス様は目を伏せていたから戦えないんだろうなって思っていたんだけど。
……今はそんなことを気にしている場合じゃないか。
「助かります。では、フィリス様は右側をお願いします」
「分かりました」
返事が聞こえたことで、道の左側にいる動く死体にだけ集中する。
フィリス様が手伝ってくれたおかげで、危なげなく対応できるようになる。
「現在、我々警備隊が事態を収拾するために動いております。助けに参りますのでもうしばらくお待ちください」
周りが騒がしい中でも妙に耳に残る女性の声が聞こえてきた。
そうしたら、槍を片手に持ち鎧を身に付けた集団が現われ、動く死体たちを片付けていく。
とりあえず、何とかなったのだろうと判断し、一緒に戦ってくれたフィリス様が目に入る。
「フィリス様、助かりました」
「いえ、こち――」
「なあ、セオドア!孤児院の方も大丈夫か、一緒について来てくれないか!」
さっき話しかけてきた犬の獣人である少年が切羽詰まっているような様子で会話に割り込んでくる。
取り乱しているみたいだな……。
……特に他にやるべきこともないだろうし。
「分かりました。道案内は任せてもいいですか?」
「ああ、任せろ」
「私もついて行きます」
「……お願いします」
顔を見る限り特に無理しているわけでもなさそうだと思い、フィリス様の厚意を受けることにした。そして、案内してくれる少年の後をつける。
孤児院に向かう途中、けが人や火事になっている建物はあったりするのだが死傷者はいなさそうだった。
町中にはさっき駆けつけた鎧の集団がいて、恐らくその集団が上手いこと対処をしてくれたんだろう。
意外に被害が少ないことが分かってきたところで、過去にアンケートを集めるため訪れた孤児院が見えてきた。
「ハーピーに似た魔物に子供たちが連れ去られたんです!」
「少し待ってください。上と掛け合っていますので」
「待つことなんて出来ませんよ!今追いかけなかったら、間に合わなくなってしまうではありませんか!!」
そこには、いつもニコニコしていて子供たちから慕われていた中年のシスターが鎧を身に着ている男性に掴みかかっている姿があった。
「母さん!何があったんだ!!」
「……何でもないわ。危険だから中に入っていなさい」
「そんなわけないだろ!そこにいる人と言い争って――」
「中に入っていて!!……大丈夫だから」
犬族の少年はさらに何かを口にしようとするが、涙ぐみながらも優しい笑みを浮かべる中年のシスターを見て大人しく孤児院に向かっていく。
「セオドアさん、どうか魔物に連れ去られた子供たちを助けてくれませんか。お礼はいくらでもしますから」
犬族の少年が孤児院に入っていくのを見届けた中年のシスターは、俺の手を握り懇願してきた。
それも必死な様子で。
「……はい、任せてください」
「ありがとうございます……。本当は、あなたのような少年に頼むべきことではないと分かっているのですが……」
「いや、全然気にしなくていいですから」
俯きながら悲痛な声を上げさせてしまっていることにやりづらさを感じ、気を遣われたくなくてそう答えた。
「それで、子供たちはどこに連れていかれたんですか?」
「あそこに連れていかれました」
中年のシスターはここから一番近い城壁を指す。
城壁か……。
誘拐犯がわざわざこの帝都に留まっているとは考えづらいし、外に逃げたのか。
「ありがとうございます。絶対とは言いませんが、出来る限りのことはしますので」
「よろしくお願いします……」
弱弱しくお礼をされてしまい、もしうまくいかなかったらこの人に十字架を背負わせてしまうんだろうなと漠然と思った。
そして、孤児院にいる子たちにも子供にはまだ必要のない行き場のない感情を覚えさせてしまうんだろうなと。
そんなことを分かってしまったことで重圧を感じてしまいながら、中年のシスターが指差した方に向かう。
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