第六十八話 足りないもの1
区切りが悪くなってしまうので短めになっています。
王城の庭で私が持っているものと同じ木剣を手にしたトニー様と見合っていた。
周りには人がいないため、とても静かだ。
相対していればおのずと隙は見えてくるものなのですが、トニー様からはそのようなものが感じ取れませんね……。
ですが、攻めなければ崩せない。
「はあぁぁぁ!」
全力で木剣を振るうが、トニー様にはいとも簡単にいなされてしまう。
イノシシのように突っ込むだけではだめならばと考え、剣の振りに緩急をつけるが崩せない。
さらに数振りか打ち合ったタイミングで、本能がここで勝負に出ろと告げてきた。
動きを最小限にし一歩踏み込んだ一刀は、トニー様の反応が遅れていたのにも関わらず剣で受けられてしまい、手にしていた木剣を弾き飛ばされてしまう。
「参りました」
……完敗ですね。
「……フィリス様は筋がいいですね。剣士としての才だけならば、今まで出会ってきた中で一番かもしれません」
「ありがとうございます」
お世辞であることは分かりきっていたが、取り立ててそこに言及する必要性を感じないので頭を下げる。
これが、帝国一の剣士ですか……。
私もかなり実力のある方だと自負していたのですが、ここまで手も足も出ないとなるとうぬぼれていたと言わざるを得ないですね。
「トニー様は対峙していて、私には何が足りないと思いましたか」
「そうですね……。単純に筋力と経験ですかね。ただ、今回は魔力をなしという前提ですから、筋力は魔力を使えれば補えますし、経験に関してもこのまま剣の道に生きているのであれば自然と身について行くと思いますよ」
私はトニー様の筋力と経験が足りないという言葉に納得がある。でも、腑に落ちない。
「疑うようで申しわけないのですが、私に足りないものは本当に筋力と経験だけなのでしょうか?」
「……はい」
トニー様は黙って私を数秒間見続けたあとに頷いた。
「レイの番犬、迷い子に嘘をつくとは感心せんな」
嘘?
振り向くと、第二王子による口説きを痛快な物言いで断ったこの世のものとは思えないほど美麗で気品がある金髪の女性が立っていた。
「こんなところに何の用だ!コウモリ女!」
「嘘をつくだけでなく、貴婦人にそのような物言いをするとは感心せんぞ、番犬」
「……嘘とは何でしょうか?」
普段は紳士的なトニー様の殺気がまざった荒い口調、一般人が受けたら気絶してしまうような殺気に動じた様子もない金髪の女性などよりも、トニー様のついた嘘というのが気になり、二人の会話に割り込んだ。
「ほう、気になるか?」
「……はい」
口元を扇で隠し、血を連想させるような赤い瞳を向けられて気圧されるが頷く。
「オズボーン様!こいつの言うことを聞くべきではありません!他人のことを塵芥としか思っておらず、何のためらいもなく人の命を簡単に奪うような――」
「黙っておれ、番犬。このお嬢様は妾に答えを求めているのだ」
「くっ!」
トニー様は金髪の女性と私を見て、悔しそうに口を閉じた。
トニー様が言ったことは、目の前にいる女性を貶めるために口にしたことではなく、事実であることはなんとなく分かる。
この女性を見ただけで悪寒が襲ってきて、関わるべき存在ではないと警鐘を鳴らすのだから間違いない。
だとしても、今はトニー様がついた嘘を知ることの方が私にとっては優先するべきことだった。
「では、ついてまいれ」
前にも見た時空の裂け目のようなものが現れ、それに金髪の女性が入っていく。
「知らないままの方が貴方にとって幸せだと思いますよ」
トニー様のつぶやきが耳に入るが、私は金髪の女性が消えていった時空の裂け目に入る。
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