第五十六話 三匹の魔物
前回が短めだったので、投稿しました
転送させられた先には、チンパンジーと宙を飛んでいるハーピーのような見た目をした魔物、そして体と頭は魚で手足が人間といった魚人がいた。
チンパンジーはまんまチンパンジーで、ハーピーは女体で裸なのだが硬派なRPGに出てきそうな見た目をしているため、エロさはほとんどなくむしろ不気味だ。
魚人は魚に毛が一切ない真っ白な手足をくっつけたような見た目をしており、まじまじと魚の目を見ると生気を感じられないのがちょっと怖い。
助けがくるのかも分からないという状況で見たことがない魔物がいるということを直視したくなくて、三匹の魔物の見た目について総評していたところ、ハーピーが上から飛び掛かってきた。
「まあ、そりゃ来るよね」
防御壁は張っていたのだが、見た目的にちょっと強そうだから結構な衝撃が来るんじゃないかと身構えていたところ、たいしたことはなかった。
「イグニッションバレット」
もしかしてそんな強くないのではと思って、火力高めの魔弾をハーピー目掛けて撃ってみたのだが、いきなり現れた障壁に阻まれてしまう。
ハーピーがやったのか、と頭に疑問符を浮かべていたら、チンパンジーがキキと鳴き声を上げ魔法陣を展開させていた。
チンパンジーが使ったのか……。ただ、こっちに攻撃してくる様子はないから防御系の魔法しか使えないと考えてもいいのかな?
厄介そうな魔物に囲まれていることで、せめてそうであってほしいという希望的観測を抱いていたら、物凄い勢いの水と防御壁が衝突する。
「なんだ!?」
思っている以上に勢いが凄いため、全体に張っている防御壁を水がぶつかっている部分に魔力を全集中させる。
防ぎ続けていると水の勢いが落ちるのを感じ、なんとか防ぎきることを成功させた。
やばいな、今の火力……。何とかなったけど、全集中させてようやく防げたレベルだったぞ……。
水がきた方向を考えると、あのぬぼーとしている魚人がやったんだろうか。
あんなに大量に水を放ってきていたのに、床に水たまりが出来ていないことを考えると魔法なんだろうな。
「一番、知性がなさそうな目をしているくせに」
魚の目特有の死んだような目をしているのになんでそんな高威力な魔法を使えるんだよと難癖をつけながらも、この後の動きを考える。
ハーピーからの攻撃は怖くないから無視でいいとして、一番に狙うべきはあの魚人か。
ただ、チンパンジーが使ってくる防御魔法の強度が高いから、下手に魚人を狙った魔法を使っても意味がない可能性が高い。
だからと言って、直接チンパンジーを狙っても防がれるだけだろうからなぁ……。どうするか。
まあでも、あの魚人がまたあの魔法を使ってきていないことを考えると、連発は出来ないと考えてもよさそうだな。
あのやばい魔法をしっかりといなせれば、向こうからの攻撃は防げるというのは朗報ではあるか……。
攻撃を防ぐことは出来るが有効打を与えることもできない、そんな面倒な奴らと相手をしたくないからどこかに逃げられる場所がないかと辺りを見回すが、一面が岩壁で出口となりそうなところがない。
改めてここはどこなんだと文句を言いたくなりながらも、上からハーピーが足の爪でひっかこうとして来ているのを見逃さない。
さっきのハーピーによる攻めは脅威ではなかったが、足の爪が水色に変わり魔力を感じることから油断せずに防御壁の強度を上げる。
が、ハーピーに防御壁を突き破られたので、後ろを下がる形で避けた。
「やっぱり、警戒しておいてよかったな!思った以上ではあったけど!クイックバレット」
そしてお返しに放った高速の魔弾はハーピーの右足に当たる。
ハーピーは奇声を上げたが、まだ飛んでいるので致命打になっているわけではなさそう。
チンパンジーが常時展開型の防御魔法を三匹分、張っておくなんて非効率なことはしないだろうっていう考えは当たってたな。
ただ、向こうが冷静になる前に魔弾を当てたかったから、照準をしっかりと定められなかったし向こうが飛んで動いてるから、顔とか羽みたいな致命傷になる部分を狙えなかったのが痛い。
今のが、向こうが油断してくれる最初で最後のチャンスだっただろうからな。
三対一で、しかも向こうは遊撃と火力役、防御役と攻守がそろっていてバランスがいい編成だから、一匹は行動不能にさせられないとしんどいんだけど……。
上々とは言えない成果に不満を抱いていたところ、急に魚人がいる方向から魔力が高まってきたのを感じ、魚人を警戒したら水流がこっちに飛んできたので全力で横に跳んだ。
避けた先にちょうどハーピーが飛びかかってきて、タイミングのよさに舌打ちをするが、防御壁で一瞬防がせて時間を稼ぎしゃがんで躱した。
ハーピーは片足でしか仕掛けてこれないため、防御壁と合わせれば攻撃をいなすのは造作もない。
「クイックバレット」
ハーピーに防御魔法が張ってあることは分かりきっているので、魚人に魔弾を飛ばす。
チンパンジーはキキ!と驚いたような声を上げていたのでうまくいったか、と思ったのが魚人はぴんぴんしていた。
おそらく不意打ちではあったのだが、防御魔法を間に合わされたのだろう。
チッ、上手くいかなかったか。
肉眼で反応して防御魔法を張ったというのも魔物の身体能力を考えればありえない話じゃなさそうだけど、あのチンパンジーは魔法特化だろうから魔力を知覚されたという線が濃厚だな。
まあ、どうやって相手が防いだかは関係なく、今の魔弾が通らないとなるとチンパンジーか魚人を息切れさせるぐらいしか手が思いつかなくなっちゃうね。
……嫌だよ、俺。こんな密室でこの三匹と戦い続けるの。
向こうは全力で防がざる負えない魔法を使ってくるから、一瞬も油断できない状況で長時間の戦うのはさすがにしんどいぞ……。
「かといって、どうにかする手段もないし……」
とりあえずあのチンパンジーを崩さないと話にならないから、魔力を使わせるために攻撃し続けるしかないか。
「クイックバレット」
魔弾を魚人とハーピーに向けて放ったら、魚人の前に銀色の板が出現した。
そして突然、防御壁に何かがぶつかる。
何も見えなかったけど……、もしかして反射された?
多分そうだよな……。だって、向こうからの攻撃はなかったし。
……え、そんなん出来るんだとしたら、ずるくない?だって、こっちがむやみに魔法を連発できなくなっちゃうじゃん。
流石に反射しきれる魔法の限界はあるんだろうけど、どれぐらいの魔法なら反射しきれないのかなんてことをぶっつけ本番で試すわけにもいかないからな……。
反射されても問題ないような攻め方をしても相手に負荷がかからないだろうし、かといって反射を警戒しないで攻めるわけにもいかないし、といったジレンマにはまりかけていたところ、魚人の魔力が急に高まり出す。
その魔力の高まりと同時にハーピーが仕掛けて来た。
ハーピーにかまけて魚人の魔法に対応できないということにはなりたくないため、ハーピーがひっかいてくる場所の防御壁の強度を上げて破られないようにするだけに留めた。
来たな。
予測していた通りの魚人から放たれた水圧がやばそうな魔法を避けたところ、チンパンジーからキキと相手をあざ笑うかのような鳴き声が妙に耳に残った。
悪意のある笑い声から、反射という言葉がよぎった瞬間。
「あぁぁぁぁ!!!!」
いきなり右腕の感覚がなくなり、激痛が走る。
激痛が走る場所に目を向けると、あったはずの右腕がなくただ血が噴き出していた。
痛いという言葉さえも発せずただただ叫び続けるが、大量の血が噴き出しているのが視界に入ると切断された腕を火で焼くアニメのシーンがフラッシュバックして、それに倣うように右腕の切断部分を魔法の炎で焼く。
「んぁ、あぁ……。ペイン、フル」
過去に暇つぶしでいろいろな魔法を作っていた際に出来た、痛みを和らげる魔法を本能的に唱えた。
はあ、はあ、はあ、はあ……。
視界がぼやける……。痛みはましになったはずなのに……。
血が、足りないのか……。
息切れとめまいで意識が朦朧とするが、ぼやけた視界に映る三匹の魔物のせいで倒れて楽になってしまうという選択肢はない。
そして、長くは戦えないことは明白なので、考えとして浮かんでいたが危険すぎてやりたくなかった手を取ることを決断する。
「ライトニングクラウド」
魔法を唱えたのと同時に魔力をごっそりと持っていかれると、バチバチと光っている雲が出現した。
発生させた雲は雨を降らし、雷をハーピー目掛けて落とす。
そして次々と雷はハーピーに向けて落ちるが、チンパンジーによる防御魔法で防ぎきられていた。
俺にも雷は落ちてくるため、高い強度のある防御壁を上部に、それ以外の部分は雨に濡れないようにするために薄く張った。
俺もあいつらも雷を防いではいる。
だけど、チンパンジーは飛んでいるせいで集中的に狙われているハーピーを守って、さらには自身と魚人も防がないといけないから、かなり苦しそうな鳴き声を上げさせられている。
「アースクウェイク」
俺は防ぐことに集中しているチンパンジーの足元を揺らし、集中をかき乱す。
「イグニッションバレット」
魔力を使いすぎたせいか胸で息をしながらも、残っている魔力をギリギリまで絞った魔弾をチンパンジーに向けて放つ。
チンパンジーは雷に注意がいっていたのと、地面が揺れて集中力をかき乱されていたからか、魔弾を反応できずに頭を貫かれた。
ハーピーはチンパンジーの防御魔法がなくなったため、激しい雷によって黒焦げになる。
そして魚人も雷を防ぐ方法がないのか、特に抵抗をするような様子も見せずに雷に打たれた。
あとは、防ぐだけか……。
……あぁ、でもしんどいよ。
……何でもいいから意識を保たないと。
あのチンパンジー、他の二匹を見捨てれば生き残るどころか俺に勝てていたかもしれないのに……。
他の二匹を守ったのは、自分と相性が良かった仲間を見捨てたくないだけだったのか、それとも情でやったことなのか……。
俺としては今後利用できなくなると、考えただけの方が、ありがたいけど。
だって、そんな情、みたいなものが、魔物にある、だったら、やりづら、すぎる……。
俺、だけ、じゃなく、大抵、の人、そう思、うかも、だけ、ど……。
だ、め、だ、い、し、き、が……。
「セオドア君!」
聞き覚えのある声が聞こえ、雷雲が掻き消えたのと同時に瞼が閉じた。
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