第五十七話 戦いぶり
「行ったでござるか」
事前に設置していた装置が作動したのを見て、セオドア君が転送された先に向かう。
不自然に思われないように心配するふりをするなんて、拙者もたいした悪人でござるよ。
命令だとはいえ、自分の弟子をあんな厄介な魔物のいる密室に送り込んでしまうのでござるからな。
「……益体もないことを考えていないで、セオドア君を助けられるように急いで転送先に向かうべきでござるな」
襲い掛かってくる魔物たちを無視して、転送先に設定しておいた地点に向かう。目的の場所に着くと通路が岩で塞がれていた。
拙者は気配を極限まで周囲と同化させ、岩壁を手で押す。
すると、岩壁が拙者と一緒に一部分が回転して隣の部屋に移った。その先ではセオドア君と三匹の魔物たちが戦っている様子が見える。
思っていた以上に善戦しているでござるな。
時間稼ぎは出来ると思っていたのでござるが、ハーピーに傷を負わせているのは流石セオドア君でござる。
ただ、見ている限りだとチンパンジーの魔物による防御魔法が突破出来てないでござるから、厳しそうでござるな。
「あぁぁぁぁ!!」
戦いの行方を観戦していると、セオドア君が魚人による強力な水魔法を避けるのだが、その避けた水魔法がチンパンジーの魔法によって反射されてセオドア君の腕が吹き飛ばした。
「そろそろ出番でござるかな」
これ以上は助けに行かないとまずいと判断して、戦いに割って入ろうと思っていたところで、セオドア君は絶叫しながら切断された腕の断面部分を焼いた。
……あっぱれでござるな。
拙者のように実戦経験があり痛みを慣れさせている者ならともかく、セオドア君のような素人に到底できるような判断ではないでござるよ。
それだけ、生に対する執着が強いということでござろうか……。
「んぁ、あぁ……。ペイン、フル」
セオドア君は激痛で声を出すことさえもしんどそうにしながら、魔法を唱えた。
どんな効力を持つ魔法かは分からなかったが、セオドア君の顔色が良くなったところをみるに回復魔法の類だったのだろう。
「ライトニングクラウド」
セオドア君がかなりの魔力を込めて魔法を唱えたと思ったら、バチバチと光っている雲が出現した。
発生した雲は雨を降らし、雷をハーピー目掛けて落とす。
次々と雷はハーピーに向けて落ちるが、チンパンジーによる防御魔法で防ぎきられていた。
対象が無差別に狙う魔法だからなのか術者にも雷が落ちてきているため、セオドア君は上部の強度が高く、それ以外の部分はちょっとした魔法でも破られてしまいそうな防御魔法を張っていた。
本当は雷を防ぐために上部だけの防御魔法でもよかったのだろうが、濡れてしまうと雷が雨を伝って自分に当たるようなことになってしまうと考えて、雨に打たれないために他部分にも薄い防御魔法を張っているのだろう。
セオドア君、魔物三匹組、どちらとも雷を防ぐことは出来ているでござるな……。
ただ、チンパンジーが集中的に狙われているハーピーを守り、さらには自分と魚人にも防御魔法を張っているでござるから、かなり負担は掛かっていることは間違いないでござろうな。
実際、チンパンジーはかなり苦しそうな鳴き声を上げているでござるし……。
雷が落ちる雲を作る魔法を唱えることで、上空を飛んでいるハーピーを集中砲火させる、さらには三対一という不利な戦況を、ランダムに雷を落とすという状況を作りだすことで一人である方が負担の少ない有利な状況に変えたということでござるか。
……面白い。
「アースクウェイク」
セオドア君はチンパンジーの地面を揺らす。
チンパンジーは揺れる地面に気を取られながらも防御魔法を張り続けている。
防ぐことに必死になっている状態で足元が揺れる、たったそれだけのことでも集中がかき乱させる。あの時教えたことを、上手く利用したのでござるな!
「イグニッションバレット」
雷を防ぐことに必死な中、地面が揺れたことにより集中がかき乱された状態で避けれるはずもなく、放たれた魔弾はチンパンジーの頭を貫いた。
ハーピーはチンパンジーの防御魔法がなくなったため、なすすべもなく激しい雷に黒焦げになる。
そして魚人も雷を防ぐ方法がないのか、特に抵抗するような様子も見せずに雷に打たれた。
……圧巻でござったな。
正直セオドア君が一矢報いるとは思っていたでござるが……勝つとは。
何よりも、あれだけの血を流しているとなると意識が朦朧としていてまともにものを考えられない状況で、あれだけ的確な判断を下していたことには驚きを禁じ得ないでござる……。
質のいい演劇を見終えた後のような満足感を覚えていたところ、セオドア君は糸が切れた人形のように倒れこんだ。
拙者はセオドア君を地面に倒れる前に受け止める。
そして印を結ぶことで巨大な火球を放ち、雷雲を蒸発させる。
……倒れるまでセオドア君の状態をすっかり忘れていたでござるよ。
……それだけ拙者は、セオドア君の戦いぶりに魅入っていたのでござろうなぁ。
安らかな寝顔からは、さっきまでの異常とまでいえる戦闘を行っていた者にはとても見えない。
「お疲れ様でござるよ」
ここまで追い込んだ申し訳なさもあったが、それ以上に称賛する気持ちの方が大きかったため出た言葉だった。
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