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王城での詩織パーティー

 各自が王城に戻った詩織パーティー。

 四人全員が疲労している状態だ。


 ただし詩織だけは、普段一切使っていない頭脳労働を強制的にさせられた事による精神的ダメージによるところが非常に大きいが……


「は~、なんてこの最強パーティーの俺達が無視されるような事になったんだ?軽薄そうにならないように、慎重に話したつもりだったんだけどな」

「まったく剛の言う通りだな。本当なら喜んでついてくるのが普通だと思うんだが……だけど、レベルEの雑魚共も中々良い仕事をするな。突然現れたから思わず消してやろうかと思ったけど、思いとどまってよかったぜ」

「ふふ、よく我慢したわね、昭。作戦実行まではもう少し時間がかかるけど、頑張りましょう」


 詩織を除く三人は互いに近くで行動をしていたので、今日の反省会を行っていた。

 だがその内容はてんで的外れな事ばかりで、自分達が極限まで嫌われているという事には至らない。


 こうして導き出された三人の結論は、全て沙織のせいになっていた。


 つまり、沙織に何か弱みを握られている健司パーティーの一行があのような行動に出たと言う結論に至ったのだ。


 なぜ召喚されて時間も経っていない最弱のレベルFである沙織が、異世界でのギルドで一時期最強であったレベルCのパーティーの弱みを握り、あまつさえ脅迫するような行動ができるのか、幼い子供でも不可能である事位は分かりそうなものなのだが。


 ここまでくると、詩織を含めて互いがかつての恋人であった事の意識すらなく、ひたすらに自分の欲望達成の方向に突き進もうとしているのだ。


 とは言え、愛子を始めとしたレベルEからの助言もあってか、少し前までの抑えきれない程の怒りは感じていなかった。


 そこに、詩織が疲れ切った顔のまま口を開く。


「は~、あなた達も芳しくなかったみたいね。こっちも今日は最悪だったわ。誰が好んでこの世界の状況なんて聞かなきゃならないのよ!それも休憩なしでぶっ通し。頭おかしいんじゃないの!」


 相当疲れている詩織は、怒りを隠さない。もちろん詩織は単独で動いていたので、愛子達からの接触も無かった。


「詩織、そっちもかなり大変だったみたいね。私達も最悪だったわ」

「由香里の言う通りだ。疲れたぜ」

「全て、あの女(沙織)のせいだがな。まっ、それもレベルEの作戦が決まれば万事解決だ。しかしあの女、こっちに来ても性格は変わらないみたいだな」


 ここで沙織の事が話題に出たため、詩織の表情も一変する。

 詩織としても王城で多少寛げたので、怒りつつも心に余裕ができていたのだ。


 こうして、由香里達の今日の出来事、レベルEの一行との件も含めて全て共有する事が出来た詩織。


「わかったわ。だとしたら翠さんにお願いしてみましょう」

「もちろんレベルEの作戦実行の手助けをしてもらうのよ。それにあんな女、目障りなだけでしょう?この国、クイナ王国に対しても何の益にもなっていないし、むしろギルドの輪を乱す害になっているでしょう?」

「それはもちろんその通りね」


 詩織と由香里の発言に、納得したとばかりに頷く昭と剛。


 善は急げと、疲れた体に鞭打って、翠にギルドに対する依頼を行うようにお願いしに行く詩織パーティー。


「……と言う訳で、あの異分子の(沙織)は排除する必要があります。それとレベルCのパーティーですが、リーダーの健司と言う男、余り良くない事を考えていそうですよ。そこそこの強さのパーティーですから、メンバー全員にその歪んだ思想が浸透する前に、排除した方が有益ではないですか?」


 愛子の作戦の通りに行動できる様、翠にある事ない事吹き込んでいる詩織。


「確かに私達は他国同様に城下町には殆ど干渉する事はありません。レベルCとはいえ雑魚ですからね。ですが、城下町が内部から乱されるのであれば、他国に付け入る隙を与える事になりかねません。わかりました、対処しましょう」


 翠すら思惑通りに動かして見せた詩織。


 パーティーメンバーである残りの三人のレベルCが雑魚と言い切られているのだが、自分自身はレベルBである事と、今回重要なのは作戦が上手く行く事であるため、一切の反応を示さなかった。


 部屋に戻ると、待ち構えていたパーティーメンバーに上手く行った事を報告する。


「流石は詩織だ。で、高レベルの獣も翠が用意してくれるのか?」

「もちろんよ、昭。私達ではどこに獣がいるなんて分からないのだから当然でしょ?フフフ、早く作戦が始まらないかしら」


 詩織一行は周囲への被害などは一切気にならないので、一刻も早く作戦が開始されて目的の人物の隣に立ち、唯一の存在に成れる事を待ち望んでいた。


「しかし、千尋(・・)も見る目がねーな。あんな奴のどこがいいんだか?」


 作戦の成功を願ってやまない昭が、はやる気持ちを抑えるためなのか軽い気持ちで思わず口を開くと、自分の想い人を“あんな奴”呼ばわりされた由香里が怒りの表情で詰め寄ってくる。


「はぁ?何言ってんの昭。忠明さんの良さが分からないの?ふざけないでくれる?」


 かなり地雷を踏んでしまったと理解した昭は、素直に謝罪してこの場は収まる。


「まっ、もう少しだから頑張ろうぜ。待ってろよ、理沙!」


 剛も欲望駄々洩れなのを隠そうともしないし、詩織は勝手に一人で妄想と言う世界に入り込んでいるのは丸わかりだ。


「だが、作戦成功のためには、少しだけ我慢して大人しくするんだぜ!」


 最後は、最も大人しくない昭がこの場を〆て解散となったのだ。


 数日後、沙織、詩織、レベルCパーティーは変わらぬ日常を過ごしていた。


 沙織とレベルCのパーティーは相変わらずいつもの場所で薬草を採取し、日に日に千尋と理沙の技術が上達していた。


 詩織のパーティーは日々の訓練、実地訓練を行っていたのだが、誰も気にしてもいないレベルEのパーティー一行だけは、いつの間にかこのクイナ王国の城下町で目撃される事は無くなっていた。


 周囲から嫌われている彼らは誰からも心配される事は無く、一部の冒険者からは、レベルEの召喚者パーティーは冒険者としては最低レベルであり経験もない事から、どこかで獣に襲われたのだろうと噂される程度だった。


 そしてついに作戦が動き出す。


 薬草納品に来ていた沙織と護衛のレベルCのパーティーを晋が呼び止める。


「ちょっと良いか?」


 長い付き合いのレベルCのパーティーは、晋の表情からあまり良くない話である事は直ぐに理解できた。


「あっちからの依頼が入った。千尋と理沙はいつも通りでいいが、薬草採取場は別の場所にしてくれ。それで、健司と忠明は、いつもの薬草採取場に獣が現れたらしいから、その対処を頼む」

「おいおい、お前、その依頼を信じてんのかよ?」


 当然毎日のように薬草採取場に通っている健司一行。獣が居ればすぐに気が付くし、対処も出来る。


 にもかかわらず、採取場で獣が現れて対処しろとの依頼が来ているのだ。

健司が訝しむのも当然だ。

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