作戦
目の前の幼馴染であるレベルCのパーティーに対して、訳の分からない依頼があったと説明する晋。
ギルドマスターと言う立場から、冒険者の安全を確保すべく本来はこのように何か裏がありますよ!と言う依頼は即刻遮断する。
その話を聞かされているレベルCのパーティーも、今回の依頼元は、晋の言う所の“あっち”と言う表現から、明らかに翠か修一からの依頼である事は把握している。
つまり、拒否権はないという事なのだ。
「あいつら、何を考えていやがる!」
「すまんな。俺にはあいつらの考えている事なんてわかる訳もない。この依頼も、魔道具による通信で一方的に受けただけだからな」
渋い顔をしている健司と、申し訳なさそうな顔をしている晋。
その横で、既に薬草の納品を終えた沙織は心配そうな顔をしている。
「えっと、お話し中に申し訳ありません。明日の薬草採取ですが、新しい場所を教えて頂ければ、私一人で対応できますよ?亀吉と鳥坊もいますし……」
晋達にとってみれば、亀吉と鳥坊は可愛らしく動くただの小さなぬいぐるみ。
最強のレベルSとは思ってもいないので、護衛としては何の役にも立っていないと認識している。
そんな中でも、詳しく事情が分からない中で健司達のパーティーの心配をしてくれている沙織に対しての好感度は当然上昇する。
一方の沙織。実は同行してくれている二つのカップルに少々あてられていた。
あからさまに沙織の前でベタベタする事は無いのだが、深く信頼しており、互いを尊敬し、深い愛情で結ばれている事が分かるのだ。
その気持ちのまま、毎日のようにギルドで自分を待ってくれている晋を見ると、何故か不思議な気持ちになっていた。
日本にいたころの沙織は、詩織のせいで家でも学校でも孤立していたので、優しく接してくれているヒスイや遊戯施設周辺の人、ギルドの人、そしてレベルCのパーティーと晋には完全に心を開いていたのだ。
レベルCのパーティーの皆が晋の事を毎日のように褒めちぎっているので、その影響かと思っていたのだ。
「フフフ、大丈夫よ沙織ちゃん、そんな心配しなくても。あいつら、何があっても問題ないから。ね?健司、忠明!」
「そうそう、心配するだけ無駄よ」
千尋と理沙は沙織の気持ちを楽にするために、わざと少しおどけて見せた。
長きに渡りこの城下町で冒険者として活動してきた二人は、王都の二人の性格をある程度ではあるが把握している事、そして、今回の依頼が真面ではない事位は嫌と言う程理解している。
つまり、かなり高い確率で危険が伴う事を理解しているのだが、それと同時に、王都からの依頼は断れない事も知っている。
万が一断ろうものなら、王都の二人、翠と修一は容赦なく城下町全てに対して理不尽な行動を行うからだ。
その理由も、自分達レベルCのパーティーと晋だという事を付け加える事も忘れない質の悪さだ。
もしそうなってしまったら理不尽な行動のレベルによるのだが、城下町の民は経済的にか、物理的にか、は分からないが、大きなダメージを負う。
民との信頼関係から、決してその原因として公表される自分達が責められる事はないとは理解できているが、そもそも訳の分からないうちに理不尽な行動をされてしまう事が許せないと思っている千尋と理沙。
しかし、千尋と理沙の心中を正確に把握した沙織は、自分の出来る手助けをする決意をした。今まで優しく接してくれて、自分の本来の仕事を行わずに護衛をしてくれていたのだから、この程度は当然と思っている。
「あの……では、健司さんと忠明さんのお二人には、亀吉を同行させて頂けませんか?」
沙織のセリフに被せるように、沙織の肩にいる亀吉は首を上下に動かした。
「ぷっ、ハハハハ、ありがとうよ、沙織ちゃん。じゃあ、せっかくだからそうさせてもらおうか。良いだろ?忠明!」
「ああ、もちろんだ。宜しくな、亀吉!」
健司のパーティー一行は沙織の優しい心遣いにほっこりとし、もちろんその姿を見ている晋も嬉しそうな顔をしていた。
沙織としては三体の力を心の底から信じているので安心できるのだが、健司のパーティーや晋はそうではない。
単純に愛玩用のぬいぐるみが一体同行するだけだと理解しているからだ。
薬草の納品を終えている沙織が帰宅すると、健司達と晋は、ギルドにある晋の執務室で想定でき得るだけの対策を練るべく話をしていた。
「最近の俺達は翠や修一からの依頼も無ければ、あいつらの神経を逆なでするような事もしていないと思うんだがな」
「健司の言う通りだ。俺にも一切心当たりがない。だが、俺達パーティーを分断させる理由はなんだ?」
「個別に対応したい案件……か。そう言えば沙織ちゃんの薬草採取に同行した初日、あの召喚者パーティーは私達に異常に絡んできたわね」
「そうそう、本当に気持ち悪かったけど……そう言えばあれ以来接触がないわね」
「……それかもしれないな」
最後の千尋と理沙の呟きに、晋が自分の思っている事を口にし始めた。
「あの召喚者達、千尋と理沙、忠明、ついでに俺もだが、なんだか毒蛇のようにグイグイきただろう?あの時はお前らが全員揃っていたから対処できたが、個別になれば対処が難しくなる可能性がある。そもそも、俺達は誰一人として翠達に何もしていない以上、あの召喚者達が裏で手を回していると考えた方が自然だ」
晋の想定に対して、健司達は誰一人として異を唱えられなかった。
既に互いの情報を交換して、更には第三者的に互いを観察していた結果も伝え合っているので、それだけ信憑性があったのだ。
「ちょっと待って、じゃあ、健司は安全って事?ズルくない?」
「おいおい、勘弁してくれよ」
何故か召喚者パーティーに絡まれていない健司にジト目を向けるパートナーの理沙。
あまりに重そうな話になりそうな時には、こうやって和やかになれるのもこのパーティーと晋の強さだ。
多少空気が和やかになったところで、改めて晋が危険性について持論を展開した。
「理沙、健司、そうとも言えないぞ。あいつらの事だ。禄でもない事をしてくることは間違いないだろう。逆に言うと、あいつらの興味の対象から外れている健司が一番危険とも言える」
正に確信を突いている晋。この持論に対しても反論する術を持たない四人のパーティーは、どのように対処するかを考え始めた。
結果的に、召喚者パーティー達の戦力は詩織を除いてレベルC。
対する健司達のレベルもCだ。
現場を良く知る一行の判断は、決して油断しなければ対処する事は可能だと判断した。
そして残るのは、レベルBの相手をする必要がある可能性が高い晋。
「俺の場合は、ギルドから出ないからな。流石にあの女がこの場所で力任せに暴れる事もないだろう」
楽観的な希望ではあるが、レベルが上の詩織に対して戦闘で勝利するなどと言う夢物語をするつもりはない晋。
「こっちは何とか出来るだろ。何はともあれ、お前らは常に警戒しておけ。千尋と理沙は、沙織の事も頼んだぞ」
「「任せて!」」
結果的に対策と言える対策は出なかったが注意喚起は出来た為に、各自今日は帰宅して、本番である明日に備える事にした。




