高レベルパーティーの冒険者
詩織は、昭達も共に行動すると言い出したので必死になって発言を撤回させようとしていたのだが、空回りに終わる。
そもそも昭としては、冒険者として活動しようとしている詩織のために、自分も共に犠牲になると言う崇高な精神での行動を行っていると思っており、自分に酔っていたのだから意見を覆させる事など出来はしない。
由香里も、親友と思っている詩織をフォローするつもりで冒険者として共に活動する事を決意し、その由香里と交際している剛も自分一人が残されるわけには行かないので、結局は詩織の意図しない方向、なし崩し的にパーティー四人全員が冒険者として活動する事になってしまった。
「本当に、何なのあいつら!余計な事をしてくるんじゃないわよ。何を偉そうに一緒に行ってやる!みたいに言ってくるのかしら。こっちは良い迷惑だって言うのに、気が付きなさいよ!!」
怒りの収まらない詩織は、与えられている部屋に戻ってプリプリと怒っている。
この詩織の怒りは残りの三人の態度から来るものであるのだが、特に昭のセリフが大半を占めていた。
「まったく、しょうがねーな詩織は。仕方がねーから、この俺が共に行動してやるよ。これで安心だろ?」
本当に自分を犠牲にして恋人を守ると言わんばかりのこの態度に、だ。
「そもそも話し方も下品だし、あんた程度の力で私の何を助ける事が出来るのよ。何も安心できる事なんてないでしょうが!あ~、本当にムカつく!」
晋に一目惚れをしてから、今の所は恋人と言う位置にいる昭の全てが気に入らなく感じている詩織。
そもそも、詩織は王族になる為ならば昭程度はさっさと切り捨てるつもりでいた。
しょせんはその程度の付き合いなのだが、昭としては結構本気で詩織に惚れていたのだから、二人の間に意識に差が出るのは仕方がない。
昭としては、今回の自己犠牲の精神による行動によって、より詩織との仲が深まったと確信している程だったのだ。
詩織にとっては真逆の感情ではあるのだが、詩織は内心の嫌悪感を出す事はしない。
万が一にもそのような感情を表に出してしまうと、今後の王城での生活に歪が生じてしまうためで、態度に出す時は晋と行動を共に出来るようになってからにしようと決心していたのだ。
今は冒険者登録をするための準備をするべく一旦全員が部屋に戻っているので、誰の目にもつかないために怒りを抑えずに本音を晒していた。
ようやく落ち着きを取り戻した詩織は深く息を吸い込み、収納袋を手に取る。
詩織は今すぐにでも晋の所に向かって活動したかったので、他のパーティーメンバーと違って、すでに準備万端だったのだ。
収納袋に野営の道具や食料、水、武器、ポーションを入れて準備万端であった詩織は待ち合わせの場所に向かう。
他のメンバーは何の準備もしていなかったので、かなりの時間待たされる事になった。
「本当に、なんで私の足を引っ張るような事しかしないのかしら、あの連中」
一刻も早くギルドに向かい、晋に自分の事を少しでも把握してほしいと思っている詩織は呪詛を吐いている。
周囲に誰もいないからだ。
「あれ?こんな所でどうしたんですか?」
待ちぼうけを食らわされている詩織の元に、宗次と美幸のパーティーがやってきた。
恐らくではあるが、この二人は訓練が終わって戻る所なのだろうと判断した詩織は、この世界の事をもう少し詳しく知るために、暫くは冒険者として行動すると二人に告げる。
ついでに、報酬の分配についても伝えておいたのだが、この二人は詩織達にはさほど興味がなさそうな態度で、あっさりとこの場を去って行った。
「あいつらも、あの二人みたいにさっさとどっかに行ってくれれば良いのに!」
当分は叶う事の無い願いを吐きつつ、未だ現れる気配のない三人を待ち続けている詩織だった。
詩織にとってはどれ位の長い時間が経過しただろうか……待ちくたびれた詩織の視線の先には、何故か三人揃って歩いている姿があった。
「あ、あいつら、何のんびりと……」
昭を始め、既に由香里と剛のやる事なす事全てが気に入らなくなっている詩織は、少し大声で三人に叫ぶ。
「ちょっと、待ちくたびれたわよ。早く行きましょう」
「お~、悪かったな。どんな荷物を持って行けば分からなかったから、相談していたんだ」
悪びれる様子もなく、平然と言ってのける昭に殺気すら覚えたが、未だ晋のいるギルドにすら到着していないので、揉め事を起こすわけには行かずにグッと堪える詩織。
「それじゃあ、早く行きましょう」
既に王城の出口程度までは迷わず行けるようになっているので、三人の返事を待たずにさっさと門に向かう詩織。
そしてその詩織の後を会話しながら小走りで追いかける三人。
「あいつ、なんであんなに急いでいるんだ?」
「昭に分からなかったら、俺達にわかる訳がないだろう?そもそも、あんな雑魚の集まりである冒険者になろうとしたのだって、正直理由を聞いても理解できなかったからな」
「そうね、私達が態々王城以外の事、それも、レベルEのあの連中が必死で活動しているような冒険者達に紛れて行動してまでこの世界を知る必要はないと思うけど……」
その三人から聞こえてくる会話は詩織には到底看過できるような物ではなかったので、一人鬱憤を溜めながら、自らの思い人である晋が待つギルドに向かう。
詩織にとっては、出だしから大きく残りの三人に足を引っ張られた形になっているのだが、漸く目的地であるギルドに到着する事が出来た。
「なぁ詩織、お前、本当にこんな所で活動するのかよ?」
この期に及んで、少々不満顔の昭がそう伝えてきた。
「今更……そうよ。だから昭、由香里と剛も、王城に戻って貰って構わないわよ」
昭としては今まで自分に酔ってここまで行動していたのだが、ここに来るまでの詩織の態度がそっけない事から思惑が外れ、冒険者として活動する事に対するメリットが見出せなかったのだ。
最後の確認の意味で詩織に問いかけたのだが、返ってきたのは容赦のない返事。
慌てて昭は自分の発言を否定した。
「冗談だよ。わりーな、詩織の覚悟を試すような事をして。でもな、詩織の事を心配しているからだって事は分かってくれよな」
あくまでも詩織のために言った言葉であると告げてきた昭。
詩織はその言葉には何の反応も示さずに、さっさとギルドに入って行ってしまう。
昭は残りの二人、由香里と剛に対して苦笑いをするとともに、肩をすくめた。
「冒険者登録をお願いします」
先日の龍の納品の際とは打って変わって、殊勝な態度になっている詩織。
もちろん後から嫌々ギルドに入ってきた三人は、その詩織の態度に驚く。
「あいつ、どうしたんだ?」
「う~ん、どうだろう。きっと、今後の情報収集のために印象を良くしているんじゃないかしら?」
「だな」
印象を良くしていると言う部分は事実だが、目的は全く異なっている。
だが、自分達の推理が正しいと思っている三人は、悪態はつかないように気をつけるのだった。